2020年10月16日、KADOKAWA デジタルエンタテインメント担当 シニアアドバイザーの浜村弘一氏による講演“ゲーム産業の現状と展望 2020年秋季 分断と融合が交錯する次世代プラットフォーム”が催された。これは、浜村氏によるゲーム業界の現状分析を、アナリストや報道関係者向けにスピーチするもの。毎年、春と秋の年2回のペースで開かれている。
2020年下半期でとくに気になるのは、いよいよ発売を迎えるプレイステーション5とXbox Series Xの存在。次世代ゲーム機が業界に与える影響のほか、eスポーツ、クラウドゲーム、サブスクリプション、ウィズコロナ時代のゲームビジネスなど、国内・海外における最新のトピックスを、豊富なデータとともに解説していく内容となった。その概要をリポートする。
2020年上半期のゲームコンテンツ市場
まずは、世界におけるゲームコンテンツの市場規模を概覧。ゲームコンテンツ全体の2019年の市場規模は約15兆7000億円となった。
エリア別に見てみると、
- 北米:4兆4400億円
- 欧州:3兆1600億円
- 日本を含む東アジア:6兆9000億円
となる。どのエリアでも、パッケージ版よりもデジタル配信が圧倒的な売上を誇る結果となった。
また、2020年上半期は新型コロナウイルス感染症の影響による巣ごもり需要で、室内で楽しめるエンターテインメントに人気が集中。とくに家庭用ゲーム機の売上は大きく伸び、2020年4月~6月にかけては、ハード、ソフトともに、いずれのメーカーも業績は絶好調。任天堂の売上高に至っては、前年同期比の208.1パーセントという驚異的な数値を記録している。
国内のみに絞ってもこの傾向は変わらず、2019年度上半期の市場規模が約1531億円であったのに対し、2020年度上半期は約2128億円と39パーセントも市場規模が拡大。ハード及びソフトの2020年度上半期の販売数は、前年比140.2パーセントと上昇しており、Nintendo Switchは累計販売台数が1500万台を突破した。
これに対し浜村氏は、「急激な需要によりハードの売り切れが続出した。もしこれをカバーし、供給が間に合っていたならば、販売台数はさらに伸びていただろう」と語った。
新型コロナウイルス感染症にともなうメディアの変化
続いて、“新型コロナウイルス感染症がゲーム業界にもたらした影響”として、以下の2点が挙げられた。
- パッケージではなく、データ(デジタル配信版)でソフトを購入するユーザーの増加
- ゲーム関連動画の視聴率の増加
とくに後者は、Twitch、YouTube、Facebook Gamingといった主要プラットフォームにて、ゲーム実況などのライブ動画配信がより多くの層に見られるようになり、それらの視聴がきっかけでソフト購入につながる流れが、この半年でより顕著になったという。
また、そうした個々のユーザーによる配信だけでなく、E3、CEDEC、東京ゲームショウといったゲームイベントが総じてオンライン開催にシフトした点も、2020年のゲーム業界を語るうえで欠かせないトピックとなった。
Amazonでは今回、東京ゲームショウ2020オンラインと連動した特設サイトを設け、そちらから番組を視聴できる仕様に。気になったゲームがあれば、1ステップで購入できるスキームを作るなど、オンラインの特性を最大限に活かした展開も実施している。
これら新型コロナウイルス感染症が蔓延した状況下において起きた現象について浜村氏は、「かつて任天堂が、WiiやニンテンドーDSの発売時に徹底した“一度ゲームを卒業した人たちを、もう一度ゲーム市場に呼び戻す”施策に通じるものがある」と話す。その規模をより拡大し、社会現象のレベルにしたことが、2020年上半期の好調につながった……と分析。この流れを受け、話題は“プラットフォームごとの現状と展望”へと移る。
分断と融合が交錯する次世代プラットフォーム
任天堂
前述のとおり、Nintendo Switchの累計販売台数が1500万台を突破。さらに、パッケージ版の販売本数500万本超えを記録した『あつまれ どうぶつの森』をはじめ、多数のタイトルが100万本以上の売り上げを達成し、大幅増収となった任天堂。
同社は、低年齢層でも遊びやすいタイトルが多く揃っていることから、これまでソフトの売上はパッケージ版の方が多かったが、2020年は外出自粛も相まって、ダウンロード版の割合が増加。ファミリー層にもデータの形式でゲームを購入するスタイルが定着したことが、今後の売上にも大きく影響してくることが予想される。
また浜村氏は、この驚異的な記録が実現できたのは、ひとえに任天堂が誇る強力なIP(知的財産)群の存在が大きいと語る。もはや同社を代表するIPといっても過言ではない『どうぶつの森』シリーズは、さまざまな企業とのコラボ企画も展開しており、ゲームファン以外の層にも波及し始めている。
そして、2020年下半期から2021年にかけては、35周年を迎えた『スーパーマリオ』シリーズのキャンペーンも続々と展開していくことが発表されている。このように、自社IPの魅力を最大限に活かすことを念頭に置き、玩具、映画、アトラクションなどを展開していける点が、任天堂の最大の強みであるとまとめた。
マイクロソフト
ハイエンド機のXbox Series Xが2020年11月10日に発売予定。光学ドライブの有無だけでなく性能と価格、およびサイズの異なる2バージョンを発売するなど、同ハードを中心とした展開が想定されるマイクロソフトだが、浜村氏はハードそのものよりも、“Xbox Game Pass”によるゲームサービスにこそ、同社のこだわりが感じられると語る。
300タイトル以上のゲームソフトが遊び放題の“Xbox Game Pass”のほか、オンラインマルチプレイやクラウドゲームサービスにも対応した“Xbox Game Pass Ultimate”など、複数の価格帯のサブスクリプションを用意し、Xbox Game Pass for PC(体験版)を同梱したゲーミングPCもリリース。スマートフォン、タブレットなどでも同様のコンテンツが楽しめるようになるという。
また、より多くのオリジナルコンテンツを展開できるよう、傘下のスタジオを増やしたり、ベセスダ・ソフトワークスなどを傘下に持つゼニマックス・メディアを買収したりと、積極的な姿勢も見せている点にも期待が高まる。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)
2020年11月12日に発売を予定している次世代機プレイステーション5。特徴的なコントローラーや高性能SSDによるロード時間の短縮、グラフィックの大幅な向上、さらにはプレイステーション4との互換性など、情報が公開されるたびに話題を集め、予約も完売という圧倒的な注目度の高さだが、浜村氏によると、プレイステーション5のいちばんの利点は新しいゲーム体験があること、その上で、ハードとしての性能だけでなく、ネットにおけるサービスの充実も見逃せないポイントだという。
PlayStation Plusでは、PS4で築いた資産をそのままPS5にも持ち込めるため、スマートフォンの機種変更に近い形で、スムーズに次世代機に移行できるという点は、同プラットフォームならではの特徴といえる。
また、ソニーグループならではの世界的な販売網および、映画IPを用いたゲーム開発ができるという点もPS5の強みで、年末商戦に向けての精力的な展開は必至。どれほどの販売台数を記録するか、非常に気になるところだ。
IT大手企業の動向
Apple
“Apple Music”や“Apple TV+”など、同社が展開している4つのサービスをひとつにまとめたサブスクリプション“Apple One”が2020年秋より開始予定。これまでバラバラだった音楽、映像、ゲームといったコンテンツが一括して利用できるようになるという。
ライブ配信に加え、VRコンテンツにも注力。中でもオールインワン型VRヘッドセット“Oculus Quest2”の注目度は高く、こちらに適したVRタイトルも今後続々とリリースの予定。さらに、アバターを作成して、VR空間でのコミュニケーションが楽しめる新サービス“Facebook Horizon”のβテストも始まり、今後はゲームだけでなく、テレワークなどにも利用可能な“もうひとつの社会インフラ”の創造を目指すという。
Amazon
新規MMORPG『New World』の開発、韓国のSmilegate RPG社との提携、Twitchで楽しめる新機能“Watch Party”の導入など、さまざまな情報が発表される中、とくに注目されているのが、2020年9月に情報が公開されたばかりのクラウドゲーミングサービス“Luna”。今後はLunaを中心に据えつつ、Twitchではゲーム関連動画の配信、Amazonではゲーム機&ソフトの供給といった形で、サービスを展開していくことになる。
2019年11月にリリースされたクラウドゲームサービス“Stadia”だが、コロナ禍も影響して、本領を発揮できていない状態が続いている。こちらに加え、Google PlayやGameSnacksも展開し、それぞれがうまく連動すれば、ハイエンドからカジュアルなタイトルまで、多彩なゲームがどこででも気軽に楽しめるようになると言われている。
Netflix
ゲームファンも視野に入れて、ゲームIPの映画化、ドラマ化、アニメ化作品を多数制作。『ウィッチャー』、『ドラゴンズドグマ』といったタイトルも展開し、ファン層の拡大を目指している。現状では、ゲーム性を加味したインタラクティブドラマや、ゲーム関連のアニメなどの配信に留まっているが、浜村氏によると「この流れを受けて、クラウドゲームサービスに着手する可能性もあるのでは」とのこと。
eスポーツ
市場規模は増え続けていて、順調にいけば、2023年には15億9820万ドルにまで伸びると予測。現状では収益の大半がスポンサーシップであるため、eスポーツビジネスがまだ発展途上であるといえる。その一方、パブリッシャーの提供資金(販促費)が減少に転じたほか、デジタルグッズ販売やストリーミング配信といった収益が増えはじめ、産業化が進みつつあるという。
また話題は、eスポーツチームの話におよび、大会に出て賞金を稼ぐだけでなく、選手やチームのグッズ販売やプロモーション企画への起用など、多方面でのビジネス展開が行われていると紹介。eスポーツチームや選手がビジネスとして軌道に乗りはじめているという見解が語られた。
2020年3月にJeSUと経済産業省が作成した報告書によると、国内におけるeスポーツおよび、その周辺領域市場にもたらされるであろう経済効果は、2025年には2850~3250億円規模になるとのこと。また、2020年上半期に発表された新たな動向として、以下の3点も挙げられた。
- 賞金付きのeスポーツ大会(参加料徴収型)について法的な整理がついた
- 学校でのeスポーツ部活などを推進する取り組み“超eスポーツ学校”の形成
- 企業チームどうしで競うeスポーツ大会“AFTER 6 LEAGUE”の開催
法的障害がクリアーになり、賞金を得られる大会が定期的に開催できるようになることで、競技人口はさらに拡大。学生はもちろん社会人でも気軽に参加できる環境づくりにも注力することが発表され、eスポーツ産業の規模拡大は、より現実味を帯びてきたといえるだろう。
さらに、2021年にタイで実施されるAIMAG(アジアインドア&マーシャルアーツゲームズ)では、eスポーツが正式競技として採用されることに。その後も国内外でのさまざまなスポーツ大会、イベントで採用されることが検討されているため、このまま社会的認知度が高まっていけば、参加する選手たちの地位向上にもつながることが予測される。
提起される問題点
ここまで、ゲーム産業の発展にともなうプラスの側面にクローズアップしてきたが、その一方で2020年上半期には、今後の展開が気になる問題も数多く見受けられた。
- 『フォートナイト』がApple、Googleストアで配信停止に
- インドで『PUBG MOBILE』など、118種類のモバイルアプリが配信禁止に
こうした不安事項もあるものの、『フォートナイト』のゲーム内でバーチャルライブ“米津玄師 スペシャルイベント”が開催されたり、映画『インセプション』の上映イベントを実施したりといった、ゲームならではの環境を活かした新たなプロモーション施策なども、つぎつぎに打ち出されてきている。
まだまだ課題は山積みだが、これらの取り組みをとおして、ゲームの新たな可能性が見出されていくことにも期待したい……とまとめ、講演の結びとした。