国内最大規模のPCゲームプラットフォームなどを展開するDMM GAMESが、ここ数年海外ゲームの家庭用ゲーム機向けタイトルに積極的に取り組んでいる。その狙いとはいったい? DMM GAMESを運営するEXNOA(エクスノア)のグローバルパートナーシップ&セールス部 稲垣順太氏と志田千晶氏に話を聞いてみた。

DMM GAMESの海外ゲーム戦略を聞く。おもしろいゲームを伝えたいという想いに突き動かされて

稲垣順太氏( いながき じゅんた)

EXNOA
グローバルパートナーシップ&セールス部 部長

志田千晶氏(しだ ちあき)

EXNOA
グローバルパートナーシップ&セールス部

海外メーカーからの要望に突き動かされて……

――DMM GAMESというと、DMM GAMES ストアのPCゲームだったり、『艦隊これくしょん-艦これ-』の印象が強いのですが、オンラインゲームも積極的に手がけているのですね。

稲垣そうですね。僕が入社したのが2014年ころだったのですが、『艦隊これくしょん-艦これ-』がヒットし始めたころで、さらにゲームに力を入れていこうという時期でした。それまで僕はオンラインゲームを運営する会社に所属していたので、自分の知識を活かせるプロジェクトを……ということで、韓国のオンラインゲーム『HOUNDS』を提供することにしたんです。そして、2016年から『エルダー・スクロールズ・オンライン』を運営させていただいて、そこからが海外ゲームを本格的に展開しだしたスタートなのかなと思っています。それまでは、欧米におけるDMMの認知度はまるでなかったのですが、当社の営業担当がベセスダ・ソフトワークスの方と仲よくなって、『エルダー・スクロールズ・オンライン』をリリースできたんですよ。そこからですね、DMMがどんな会社かということを海外の関係者が少しずつ認識し始めてくれて、営業がしやすくなったのは。

――『エルダー・スクロールズ・オンライン』が道を切り拓いたのですね。

稲垣そうですね。そこで、『War Thunder』をリリースしました。『War Thunder』はしばらくPCで展開していたのですが、海外のパブリッシャーであるGaijin Entertainmentが、プレイステーション4版も出すことにしたんですね。それで、DMMでもいい機会だということで、プレイステーション4版を日本でもリリースすることにしたんです。それが2017年ですね。それまでPCのみで展開していたのですが、プレイステーション4で初めて他社様のプラットフォームで展開したんですよ。どうなるかな……と思ったら、たくさんの方が集まってくれたんです。それでプレイステーション4というプラットフォームに手応えを感じたんですね。

DMM GAMESの海外ゲーム戦略を聞く。おもしろいゲームを伝えたいという想いに突き動かされて
航空機や戦車、艦艇を駆使して戦うMMOコンバットゲーム。2012年にPC向けに基本プレイ無料で配信。2016年からはDMM GAMESより配信され、2017年にはPCとプレイステーション4向けにパッケージ版がリリースされた。

――『War Thunder』も転機になったタイトルということですね。

稲垣はい。それで、プレイステーション4でもいくつかオンラインゲームを出させていただいたんです。『Trove(トローブ)』とか『Skyforge(スカイフォージ)』など、そんなに有名なタイトルではないのですが、ちゃんと成績を残せたんですね。一方で、PCのオンラインゲームのほうでも、『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS(PUBG)』などを手掛け始めてチームとしても余力が出てきたこともあり、プレイステーション4版でパッケージもやってみたいと思い始めたんです。

――ああ、パッケージですか。

稲垣市場的に見て、ダウンロード版の需要が伸びているというのは、当然知っていました。ただ、海外の関係者と話をしていておもしろかったのが、パッケージを出すのが夢だという人がけっこう多かったんです。「AAAタイトルじゃないとパッケージを出せないから……」という人がけっこういまして。「だったら、うちがやりましょうか」と。

志田「自分の好きなゲームが日本でリリースされて、しかもそれがパッケージになったら最高だよね」ということは話しましたね。

――プレイステーション4版やパッケージ版での展開は、海外からの要望に応えて……という側面が強いようですね。

稲垣そうですね。4年くらいずっと海外の人たちとやり取りをしていて、信頼関係が出てくると、相談してくれることも多くなってきまして(笑)。

――『キングダムカム・デリバランス』を、DMMで出すと聞いたときは、ちょっぴり意外でした。

稲垣『キングダムカム・デリバランス』は日本語音声も入れることにしたんですよ。最初僕は反対したのですが、プロデューサーの松本(松本卓也氏)が、「これは絶対に入れたほうがいい!」と主張しまして(笑)。

――日本語音声とは、相当突っ込みましたね。

稲垣ジャンルというのもありますよね。あのゲーム自体が、音声が入って初めて楽しいのかなと思います。音声がないとおもしろさが半減するのではないかと、最終的には判断しました。

DMM GAMESの海外ゲーム戦略を聞く。おもしろいゲームを伝えたいという想いに突き動かされて
神聖ローマ帝国が圧倒的な影響力をおよぼす中世ボヘミアを舞台に、主人公ヘンリーが、不当に命を落とした両親の仇を討つべく、強大な力に復讐していくオープンワールドRPG。プレイステーション4とPC向けに2019年7月18日に発売された。

――お話を聞く限りでは、DMMというのは、ゲームを出すことに対する風通しはよさそうですね。

稲垣そうですね。何にせよ、自由にやらせてもらえる社風ではあります。ゲームをリリースすることに対しても、前向きであることは間違いなくて、プロデューサーが「やってみたい」となったら、「やってみろ!」という社風です。

志田会社の方針があって、それに反れるからダメというわけではなくて、まずはやりたいことありきではありますね。そういう意味ではいい会社です。そのぶん、売れなかったら全責任が乗ってきますけども。

――あら。

稲垣それで『キングダムカム・デリバランス』などのヒットを受けて、会社のほうも海外ゲーム展開を事業として認めてくれまして、正式なチームができたんです。で、今年(2020年)に入ってから本格展開することになったんです。グローバルパートナーシップ&セールス部というのは今年できた部署なんですよ。

DMM GAMESの海外ゲーム戦略を聞く。おもしろいゲームを伝えたいという想いに突き動かされて

パッケージ版はマーケティング戦略で考えている

――海外タイトルを日本に紹介することが、グローバルパートナーシップ&セールス部のミッションだとして、どのようなタイトルを持ってくるのですか?

稲垣とにかくおもしろいタイトルを引っ張ってくるということに尽きます。うちの部署には35人在籍しているのですが、みんなゲームが好きで、それぞれがおもしろそうなゲームを探しているんですよ。各自得意分野があって、FPSやシミュレーションゲームが好きだったり、インディーゲームに詳しかったりとそれぞれなんですね。で、みんながおもしろそうなゲームを持ち寄ってくるんです。最終的な判断は僕がしますが、基本は自由にピックアップしてもらっています。あと、これは声を大にしてお伝えしておきたいことなのですが、DMMは営業チームが優秀というのもありますね。営業チームが足繁く海外イベントなどに足を運んで、直接話をまとめてきてくれるということも多いですね。いまはオンラインイベントになっていますが……。

志田おもしろいか、おもしろくないかはもちろん大事ですが、日本のゲームファンに遊んでもらいたいタイトルかというのも重要視します。

稲垣最近は、勘は大切かな……としみじみ思っています。インスピレーションじゃないですけど、最初に見た瞬間に「いい!」と感じられるかどうかが分かれ目というか。インスピレーションがひらめくゲームは、ヒットする可能性が高いような気がします。

――ラインアップを見ていると、インディーゲームにも積極的に取り組んでいるとの印象も受けるのですが……。

稲垣“おもしろいゲーム”には注力していて、結果としてインディーゲームが多いということはあるかもしれませんが、インディーゲームに取り組んでいる、というこだわりは正直ないです。さらに言えば、相手先の会社の規模とかも気にしていないです。

志田逆に言えば、「有名タイトルの続編だからやろう」とかいうことではなくて、ゲーム自体がおもしろければ、AAAタイトルでもインディーゲームでも構わないというスタンスです。DMMで取り扱うタイトルは、ゲームによってプロモーションの差をつけることはなくて、すべてフラットに力を入れています。

――タイトルによってプロモーションに強弱をつけることはしない? なぜです?

稲垣もともとめちゃくちゃ売れている海外ゲームとかだったら力を入れたりしますけど、未知数だと同じくらいやってしまう感じですかねえ……。もちろん限界はありますが、「ここまでやってあげることはできるだろうなあ」というラインがあって、そこまではやります。ただ、プレスリリースを出すだけで終わりみたいなことはしないです。

志田インディーゲームだから……ということで気を抜くことは一切ないです。

稲垣一方で、海外では人気なのに日本ではなぜかリリースされていないというタイトルを手掛けることも多いです。8月27日に発売された『Stellaris』がまさにその例です。海外では2016年にリリースされたのですが、日本では出されなかったんですね。「これ、おもしろいから知ってほしい」というところからスタートしています。

――ちなみに、『Stellaris』は、なぜいままで日本でリリースされていなかったのでしょうかね。

稲垣PC版がSteamで遊べたということも大きかったのかもしれません。今回僕たちがリリースするのはプレイステーション4向けで、「日本ではコンソールのほうが一般的なので、そんな一般のゲームファンに向けて『Stellaris』を出しませんか?」と提案しました。彼らからは、日本で出すのにはCEROの審査があるし、パッケージを作るにしてもどうやって売ればいいかわからないという相談があったので、「だったら、僕らに任せてほしい。そうしたら日本のユーザーに届けることができるから」といったところから始まっているんです。彼らもやりたくないわけではなくて、ただやりかたがわからないだけなんです。それを僕らが手伝うというのが大きかったかもしれないです。

――インディーゲームから大作まで幅広く扱っているのは、根底に“とにかくおもしろいゲームを伝えたい”という思いがあるからなのですね。

稲垣その通りです! 世界にはおもしろいゲームがいっぱいあるのに、知られていないケースも多いんですよ。僕は、昔から「英語だから遊べない」というゲームユーザーの話を聞くたびに、もったいないと思っていました、なぜ出せないのか……ということを聞いてみると、「やりかたがわからない」とか、そんな単純な理由なんです。僕としては、海外のおもしろいゲームを日本のゲームユーザーにも知ってもらいたいというのが、モチベーションとしてはいちばん大きいです。それまでプレイできなかったのが遊べるようになったら、うれしいじゃないですか。『キングダムカム・デリバランス』なんかはまさにそれで、「日本語版が出た!」と喜んでくれている方を見ると、本当にやってよかったと思います。

DMM GAMESの海外ゲーム戦略を聞く。おもしろいゲームを伝えたいという想いに突き動かされて
『Stellaris』はほかの宇宙文明との外交し、ときに戦争をしていくシミュレーションゲーム。海外でのパブリッシャーはParadox Interactive。2020年8月27日にプレイステーション4向けに発売。

――「これおもしろいな」と思って、実際に日本市場で展開してみてうまくいったものだと、最近だと何があります?

志田デイメア:1998』というゲームを今年の2月にプレイステーション4のパッケージ版とダウンロード版、そしてDMMのPCダウンロード版で配信させていただいたのですが、とても印象的でした。本作は、日本のホラーゲームを好きなイタリアの3人組が、非公式でとあるゲームの続編を作ってしまったところから始まっているのですが、その記事を見て個人的に「おもしろいな」と思って、仕事を離れたところでゲームのことは追いかけていたんですね。

 作っている人たちの想いや情熱がすごくて、表現したいものに明確なビジョンがあったんです。そこでお声かけさせていただいたところ、彼らも日本でパッケージ版を出すのが夢だったとのことで、お手伝いすることになりました。結果として、パッケージ版で言うと、日本での反響がずば抜けて高かったようです。

――あら、それはすばらしいですね!

志田彼らの夢を叶えるお手伝いもできましたし、セールス的なところでも悪くなかったんですね。「こんなゲームが遊びたかった」という熱いユーザーさんからの声もいただきました。開発者の想いがゲームの中に目一杯詰め込まれていて、それをリリースできてしまうのが、インディーゲームのいいところであり、国内外問わず共感していただけるところなのかな……と改めて実感したタイトルですね。

DMM GAMESの海外ゲーム戦略を聞く。おもしろいゲームを伝えたいという想いに突き動かされて
2020年2月20日にプレイステーション4とPC向けに発売された『デイメア:1998』は、白昼の悪夢の中での凍り付くような恐怖が展開されるサバイバルホラーアクション。

――ちなみに、パッケージ版をやるかやらないかは、デベロッパーさんの要望に負うところが大きいのですか?

稲垣ヒアリングはしますが、最終的な判断はこちらでします。パッケージでリリースするのはマーケティング的な戦略としても考えていたりします。

志田ダウンロード版が人気あるとは言え、いまでもパッケージが嬉しいというお客様も多いですし。

稲垣店頭でパッと見たときに、パッケージが置いてあること自体が宣伝になるということもありますので、ひとつのマーケティング戦略としても考えています。

2020年度は15タイトル近くを予定。さらに良質なゲームを届けたい!

――今後のDMMの展開に期待というところですが、今後のリリースのペースはどうなりそうですか?

稲垣2019年が5本で、今期(※)は未発表タイトルも含めると15本くらいを予定しています。

※EXNOAの会計年度は3月から2012年2月末まで。

――15本もですか!? 単純に2019年の3倍ですね。

稲垣これは営業の努力の賜物で、がんばりが一気に花開いてしまったんですよ。3~4年地道に海外ゲームメーカーと連絡を取ってきて、信用を勝ち得たのが、たぶん昨年なんです。昨年いろいろなところに話をしにいったときに、「こういうのもあるよ」ということで任せてもらったタイトルが一気に来たのが今年なんです。とはいえ、タイトルの数が増えても人は増やせないので、いまてんやわんやの状態です(笑)。

志田家庭用ゲーム機用ソフトも始めました、というときに、けっこういろいろなデベロッパーさんやパブリッシャーさんからお話が来ましたね。

――15本のうち家庭用ゲーム機向けタイトルは何本くらいですか?

稲垣全部家庭用ゲーム機向けです。逆にPCオンリーというタイトルはないです。ちなみにそのうちの半分は、パッケージでの展開も予定していますよ。

――2020年の15本が営業さんの努力の賜物だとして、2021年度以降はどうなる見込みなのですか?

稲垣同じ数いくか、おもしろいゲームがあればそれ以上出したいですけど、正直な話は開発会社さん次第ですね(笑)。実際のところ、けっきょくは、僕らなんて大したことはしてないんですよ。開発会社さんがおもしろいゲームを作ってくれるからいまがあるだけで……。

――なるほど。では、2017年に『War Thunder』で家庭用ゲーム機を手掛けて、2019年に『キングダムカム・デリバランス』でパッケージを出してと、着実に展開してきたわけですが、つぎなる目標を教えてください。

稲垣これまでは、海外タイトルを日本に紹介してきましたが、日本だけではなくて、世界に向けてパブリッシングしていけるようになったらうれしいですね。ひと足飛びに世界というのは、すぐにはできないですけど、まずはアジアから始めたいです。

志田デジタル版はもちろんですが、パッケージもやりたいと思っています。

――世界で、パッケージビジネスもやるのですか?

稲垣はい。最終的なゴールは、僕らがパブリッシングの権利を取ったタイトルを、全世界でリリースすることですね。

――そのための準備は着々と?

稲垣やっていこうということで、いま動いているところです。

――そう言えば、肝心なことをうかがいそびれていたのですが、家庭用ゲーム機向けということで言うと、プレイステーション5やXbox Series Xといった次世代機での展開も気になりますね。

稲垣もちろん、考えています。

志田やらないという選択肢はないですね。

――おお、心強い。では最後に、DMM GAMESの今後に向けての抱負をお願いします。

稲垣いままでリリースした作品は、僕らが自信を持ってお届けしたタイトルですし、楽しんでいただけたのではないかなと思っています。これからはそういった良質なタイトルをある程度数を揃えて出していかないといけないということを日々感じています。流通会社さんとかには、「こんなに出して大丈夫ですか?」と心配されたりもするのですが(笑)、雑にならずに、1本1本のタイトルを皆さんにしっかりとお届けできるようにがんばります。これからどんどんタイトルを発表していくので、ご期待ください。

志田DMM入社前からインディータイトルやクリエイターの皆さんと関わる機会が多かったのですが、本当にたくさんの刺激を受けました。個人的には、インディーゲームの魅力を、なるべく元のいい形を最大限に活かした丁寧なローカライズで、日本の皆さんにお届けできるように努めていきたいです。11bitさん、Raw Furyさん、1C Entertainmentさんなど、海外大手インディーゲームパブリッシャーの作品も複数進行中です。まだお伝えできないタイトルもありますが、ご期待ください!

DMM GAMESの海外ゲーム戦略を聞く。おもしろいゲームを伝えたいという想いに突き動かされて
2020年10月29日にPS4向けにパッケージ版とダウンロード版が発売予定の『セインツロウ ザ・サード:リマスタード』。ぶっ飛んだ世界観が魅力のオープンワールドアクション。

 ここ数年、ファンも歓喜すること間違いなしの複数の海外ゲームをリリースしているDMM GAMESブランド。ここでは、コンソール用ゲームを中心とした、これまでのDMM GAMESのラインアップをお届けしよう。それにしても、今後もたくさんにタイトルが控えております!

特別付録DMM GAMES 海外タイトルリスト