声優、歌手として活躍する今井麻美さんが2020年8月26日にファンクラブ会員限定シングル『君の声の数だけ~Can be strong~』を発売。それを記念して、ファミ通.comではインタビューを実施。収録される楽曲についてはもちろんのこと、ファンクラブ会員限定販売となるCDということで、ファンクラブではどのような活動を行っているのか、さらに先日発表された6thアルバムや10月17日開催予定のライブなどについてもお話をうかがった。
今井 麻美(いまい あさみ)
5月16日生まれ。山口県出身。『アイドルマスター』シリーズ(如月千早役)を始め、『シュタインズ・ゲート』シリーズ(牧瀬紅莉栖役)、『グランブルーファンタジー』(ヴィーラ・リーリエ/フライデー役)など多数の作品に出演。2019年には歌手活動10周年に加えて、声優活動20周年を迎えた。
2020年の上半期を振り返る
――まず、本題に入る前に近況について教えてください。2020年は新型コロナウイルスの影響により、思うように活動できないこともあったかと思いますが、いかがでしたか?
今井昨年は歌手活動10周年ということで、さまざまな活動をさせていただいたので、今年はファンクラブを中心に活動していく予定でした。今回のファンクラブ限定CDも当初は春先くらいに発売して、そこから活発的に活動していく予定だったのですが、自粛という勧告が出てしまい、いろいろと企画していたものを中止せざるを得なくなりました。ただ、そのぶんと言ったら変ですが、いまファンクラブのスタッフさんたちが「(現在のような状況でも)こういうことならできるんじゃないか?」と、私の想像を超えるような企画をいろいろと提案してくださっているので、あまり意気消沈せずに活動していきたいなと思っていたところでした。
――今井さんがアーティスト活動として、ファンの皆さんの前に出られたのは、2020年1月に行われた『Flow of time』の発売記念イベントが最後ですよね。これまでも『rinacsita』の発売後に1年以上CDが発売されないということはあったかと思います。ただ、その期間もイベントやライブなどには出演されていて、ここまで長期間アーティストとしての活動を行われないのは初めてだと思いますが、心境を教えてください。
今井今回のCDのレコーディングは全国的な大規模な自粛が終わった後に行いました。過去にも同じような期間、レコーディングをしなかったことはあったのですが、自粛期間中は1ヵ月半くらい、ほとんど人に会わなかったりしていたので、心がなまっていた部分があったようで、全部忘れてしまっていました(苦笑)。レコーディングのときに持っていく道具や当たり前のように行っていたルーティンがわからなくなってしまって、プチパニックでしたが、いざレコーディングが始まると「そういえばこうだった」と感覚を取り戻せました。
――体が覚えていたのですね。ちなみに最初にレコーディングしたのはどの曲だったのでしょうか?
今井『パノラマ』です。感覚を取り戻したとお話しましたが、徐々に取り戻していった感じだったので、心に余裕ができたのはメインの部分を録り終えて、ハモリを録り始めたころからでした。そのときに持っていたスマートフォンで動画を撮影したのですが、途中から見てもよくわからないと思ったので、つぎの曲のレコーディングのときには最初から動画を撮影して、その模様を自分のYouTubeチャンネルで公開しました。
――『君の声の数だけ ~Can be strong~』の動画ですね。そういえば、この期間中にYouTube活動を始められましたが、何かきっかけがあったのでしょうか?
今井本来なら、私はみずから進んで、自分のことを売り込もうとするタイプの人間ではないのですが、こういった状況の中で、「いままで常識だったことが通らなくなる時代が来るかもしれない」という恐怖感みたいなものを感じたんです。たとえば、私たちがいままで活動してきた、声優やアーティストにしても、スタッフさんとも会えないので、何もできないんですよね。もちろん、リモートで会議などはできますが、物作りとなるとそうはいかなくて。そんなときに「これからはみずからが発信していく時代が来るんだろうな」と強く思ったんです。私はTwitterもけっこう早くに始めているのですが、当時は「Twitterをやるなんて」みたいな風潮がまだありました。
――確かに声優さんでやられていた方は少なかった印象です。
今井そうですよね。ただ、メーカーさんがTwitterで私たちの情報を見て、「この人はこんな活動をしているんだ。じゃあ、この人にこんなオファーをしよう」というようなことが少なからずあったと思うんですよ。とくに私はそういう恩恵を受けたほうだと感じていて、これからは文字(Twitter)だけじゃなく、映像(YouTube)で自分を売り込む時代が来るなという危機感を感じました。それに加えて、自粛期間が、どれだけ過酷なものになるのか軽く想像してみたら、絶望してしまって……。とくに私は猫とふたり暮らしなので。私のことを応援してくれている人の中にも、いろいろな職業の方がいます。まったく影響がなかった方もいましたし、看護師さんやお医者さんもいて、さまざまな職業の方がいる中で、私のことを好きな人が他愛のないものでも「今日はどんな動画があがっているかな?」と見に来られたら1日にメリハリが出るかなと思って、急に「やるしかない!」と思い立って、気付いたら始めていたので、自分でもびっくりしました(笑)。
――その行動に救われたという人もいると思います。
今井ちょっとした使命感に近かったのかもしれないです。実際は声優さんの中でもすでに何人か始められている方もいらっしゃって、そういう流れも来ていたので、敷居を下げたかったというのも少しありました。私は楽しい声優人生をこの20~30代のあいだに過ごさせてもらっていて、大好きな後輩もたくさんいるので、それが主流になるのかはわからなかったのですが、始めることで何かが見えたりしないかなと。
――なるほど。そんな急に思い立って始められたのに、毎日更新をされていたのはすごいですね。
今井「自粛期間中はがんばろう」と思っていたのですが、自粛期間が延びてしまったので、「1ヵ月は続けよう」というそういう漠然とした感覚でした。
――ちなみにYouTubeではさまざまな企画を行われていましたが、とくに印象に残っていることはありますか?
今井やっぱりメイクですね。私はこの年になるまで、メイクに興味を持ったことがなかったんですよ。いちおう20歳を過ぎたあたりから、仕方がなく自分でメイクをしていたりもしていたのですが、あまり好きじゃなくて。こういうお仕事をするようになってからは、メイクさんが綺麗にしてくださるので、より自分でしなくなってしまって。だから、お仕事以外ではいつもスッピンだったのですが、さすがに動画となると、自分のことが好きな方だけではなく、いろいろな方が見られる場所なので、スッピンだと応援してくれている方も恥ずかしい気持ちになるのかなと思って、仕方がなくメイクを始めました(笑)。でも、毎日メイクをしていたときは上手になって、人間はやればできるんだなと思いました。
――なるほど(笑)。アーティスト活動というわけではないですが、YouTubeでは歌ってみた動画として、カバー曲を歌われていましたね。今井さんはライブなどでも、カバー曲をあまり歌われないので、ファンの方はうれしかったのではないかなと思います。
今井そうなんですかね? そうだったとしたらうれしいです。
――あとは、グーちゃん(今井さんの愛猫)がかわいくて癒されていました。
今井グーちゃんをあんなに外に出さないようにしていたのにいまは野放しという。飼っていることを隠していた時代が懐かしいです。生放送中に名前を言ってしまって「あっ……」となったこともありました。でも、あの子は本当によく出来た子で、撮影を始めると横で待機してくれたりするんですよ。
――そんなこともありましたね。最近はYouTube活動を休止されているようですが、たとえば毎日更新ではなくとも、週1回更新とかでYouTube活動を再開する予定はないのでしょうか?
今井需要ありますかね? 週一……。週一か……。
――あると思いますよ。では、隔週で配信している『今井麻美のニコニコSSG』がない週に更新するとかはいかがですか?
今井なるほど。確かに私が毎日更新の目標を達成できたのは、毎日やらなければいけない締め切りがあったからなんですよね。でも、いまは気が向いたらあげるにしてしまっていて、気が向いたらあげるは、私の性格上あげないんだなということが、いまわかりました。ただ、YouTubeを始めたのにはもうひとつ理由がありまして。私は地方とかに旅行をすることも多いので、思い出として撮ったものが残せる場所があったらいいなという気持ちもあったのですが、想像していた以上にこうした状況が長引いてしまって、まだ実現できていないんです。
――そうだったのですね。確かに家だけでできることだと限界もありますよね。
今井そうなんですよ。毎日更新だと、他愛のないものでもおもしろいと思ってもらえますが、たまにあげたものが他愛なさすぎたら、それはそれで「この人、何なんだろう?」となりますよね。
――それこそいまの状況が落ち着いて、旅行とかができるようになったら、本格的に再始動という感じですかね。
今井そうですね。やる気満々です! イメージでは、私のことを見かけても「あっ、野生のミンゴス(※今井さんの愛称)だ」くらいの感覚の人が多くなってきているので、旅行先の人と仲よくなったり、なんならファンの方が近くでお店をやっていたら、こっそり行ってみたりしようかなと考えていたんです。単純に私の興味本位という理由もありますが、その方々が「いつ動画が上がるんだろう?」とワクワクしてくれていると思うと、私もその期待に応えるために早く編集して動画をアップするはずなので。
――確かにそれはあるかもしれませんね。ただ、今井さんがいきなり来たらさすがにビックリすると思いますよ(笑)。
今井そうですかね(笑)。お店のオーナーさんからの募集も受けたいと思っています。ただ、いつ行くのかはわかりませんよ。その人がたまたま非番でいなかったら恥ずかしいだけですからね。
――「動画を撮りたいと言っているけど、この人は誰なんだろう?」とほかの店員さんが困惑するみたいこともあるかもしれませんね。
今井私はこう見えて人見知りの日があるんです。人見知りの日とそうじゃない日の差が激しくて、人見知りの日だと店員さんに声を掛けることもできないので、「動画を撮っていいですか?」と聞けないかもしれないです。そうなったら、動画を撮らずにしょんぼり帰る可能性もあるので、人見知りの日にならないことを祈ります。
今井さんのファンクラブは個性的?
――話がだいぶ逸れてしまいましたが、先ほど現在の状況的に物作りをするのは難しいというお話がありました。そんな状況の中でなぜファンクラブ限定CDを作ることになったのでしょうか?
今井じつはこの企画はかなり前から進んでいて、本来だったら今年の5月に発売する予定でした。今回収録されている3曲は、ファンクラブイベントのミニライブのときによく演奏してくれているバンドメンバーの中村天佑さん、平松圭太さん、大津惇さんがそれぞれ作曲を担当しています。
――2018年のファンクラブイベントで、楽曲コンペをやったときの楽曲ですよね?
今井そうなんです。もともと、この楽曲コンペは私のいたずら心から始まっていて。2017年にファンクラブでクリスマスイベントをしたときに、3人が来てくれて、その中で天ちゃん(※中村天佑さんの愛称)が作曲してくれた『カンパネラ』の話題から、ヒラ(※平松圭太さんの愛称)が「僕も曲を書けます」という話が出たんです。そこで私が「じゃあ3人とも曲を書けるから、コンペでもする?」と思いつきで言ったら、スタッフもノリノリで「いいじゃん」と(笑)。その後、2018年のファンクラブイベントで、それぞれが作ってきた曲を当日会場に来てくださったファンの方に聞いてもらって、よかったと思う曲に投票していただきました。そのときは、まこっちゃん(※大津惇さんの愛称)が作曲した『アメノアトニ~Brighter Days Ahead~』が選ばれて、私の19thシングル『World-Line』に収録されました。ただ、コンペを行った時点では『World-Line』に収録されるかは決まっていなかったんでしたよね?
今井さんのアーティスト活動のプロデューサーの濱田智之さん(以下、濱田) 何らかの形で発表はするという感じで、どういう形で発表するのかは決まっていなかったです。
今井ちょうどそのときが『World-Line』の制作が始まったタイミングで、1曲はアニメ『シュタインズ・ゲート ゼロ』の後期エンディングテーマ、もう1曲がタイアップ曲として決まっていたので、もう1曲は自由に作れるという状況でした。そこにいつも通りに新しく作るということも可能だったのですが、私が思いつきで「まこっちゃんのあの曲、ここに入れればいいんじゃない?」と提案しました。
濱田 そのときには、ファンクラブ限定で『アメノアトニ~Brighter Days Ahead~』の1曲だけを収録したCDを作ろうかなと考えていたのですが、それもありかなと思って収録することにしました。
今井本当にそれも思いつきだったのですが、結果的によかったです。思い返してみると、やっぱり物作りは楽しいエピソードばっかりですね。話は戻りますが、そのコンペで、天ちゃんとヒラが作ってくれた曲も私はすごくすごく好きだったので、いつかどこかで発表できるといいなと思っていました。
――『World-Line』のインタビューをさせていただいたときにも、そのように話されていましたが、それがついに叶ったんですね。
今井選ばれるかどうかは、そのときに集まった方たちの好みだったり、いままでの曲調の流れとかもあったりするはずなので、どれが優れているとかではないと思うんです。
――直前に発売された楽曲や聞く順番などによっても変わりそうですよね。
今井もし、これまでに疾走感あふれる爽やかな楽曲があまり発売されていなかったら『パノラマ』だったかもしれないですし、私の独特の世界観みたいなものがなかったら、『君の声の数だけ ~Can be strong~』が選ばれていたかもしれないですよね。だから、そのときから「どこかで発表できるといいですよ“ね!”」と強く濱田さんに念を押していました。
――現在の状況を受けて何かできないかと考えたのではなく、前々から企画されていたのですね。
今井そうですね。最初にお話しした通り、2019年はアーティスト活動10周年の記念の年ということで、メジャー的な形で動くことが多かったのですが、やっぱりファンクラブに入ってくださっている方々へ、改めて感謝の気持ちを伝えたいと思いました。コンペ以降にファンクラブに入ってくださった方からすると、「そんなことがあったんだ」という話になってしまうかもしれませんが、長く応援してくださっている方には「あのときの曲がようやく形になるんだ」と思っていただけるのではないかと。また、私的にも10周年を終えて、11年目のリニューアルの最初のCDとして、この楽曲たちがピッタリだなという想いがあったので、2020年はこのような形でスタートを切ろうと以前から企画していました。
――なるほど。今回はファンクラブ限定のCDということで、これを機会にファンクラブの入会を検討している方もいらっしゃると思いますが、その方々にどういう活動を行っているのかアピールをお願いできますか?
今井ほかの方がどのような活動を行っているのかあまり知らないので間違っているかもしれませんが、けっこう変わっていると思います。もちろん、チケットの優先販売や会報、壁紙の配信など、一般的にイメージするファンクラブの活動は行っていますが、ファンクラブ限定イベントが変わっていて(苦笑)。ファンの方が私とスタッフにファンクラブで今後やってほしいことなどをプレゼンする“大会議”というイベントをやっています。私が採用、不採用を決めるので、もちろん内容次第では却下することがあったり、採用したものでもすぐには形にならないものもあったりしますが、ファンの方とコミュニケーションが取れてすごく楽しいんですよね。先ほどの楽曲コンペもその中のひとつで、意見を出したりするのが苦手という方でも楽しんでいただけるのではないかと。でも、冷静に考えてみると、ファンの方に曲を選ばせるファンクラブって珍しいですよね。そういう、ほかでは経験しがたいようなことができるのではないかなと思います。
――みんなで作り上げている感がしますね。
今井そうかもしれないです。個人的には自分のことがあまり好きではないので、私の写真の壁紙をもらったところで「どうなんだろう?」と思うこともありますが(苦笑)。でも、たまにTwitterなどで、「今月のミンゴス、かわいい」というようなツイートを見かけると、やっぱりちょっとうれしい気持ちになったりはします。
――ちなみに、こういった状況の中でうかがいにくいのですが、第2回の大会議で採用された、アンセムと衣装図鑑を作るという企画の進捗はいかがでしょうか?
濱田 たいへんお待たせしてしまいましたが、アンセムは完成して、現在はどういう形で披露するかを検討中です。衣装図鑑も進めていますので、ご期待いただければと。
――それは楽しみです。
今井私はアンセムという文化に馴染みがないので、毎回「アンセムってなんでしたっけ?」と聞いてしまいます。
濱田 テーマソングみたいなものですね。
今井そうですよね? それにしては曲がけっこう暗めですよね(笑)。
一同 (笑)。
今井だから、「これテーマソングなの?」と思いながら録りました。しかも、「誰が作ったんだろう?」と思ったら濱田さんだったんです。私のことをどう思っているんですかね?
――『Flow of time』のときにも、いちばん勢いに乗っていた時期の今井さんをイメージにお願いした楽曲のイメージカラーが黒で、タイトルが“孤独”だったというエピソードもあったので、もしかすると皆さんそういうイメージなのかもしれないですよ。
今井やっぱり私のせいなんですかね(笑)。アンセムには、みんなで合唱できるパートがあるので、いつか皆さんといっしょに歌えるといいなと思っています。
作家陣の個性がいままで以上に出たCD
――ここからは楽曲について伺えればと思います。まずはそれぞれの楽曲を初めて聞いたときの印象を教えてください。収録順に『君の声の数だけ~Can be strong~』からお願いできますか?
今井コンペで聞いたときから天ちゃんらしくて、すごく不思議な楽曲だなという印象でした。今回のCDに収録されている3曲の歌詞はすべてコンペで選んだのですが、どれも難航しました。その中でも『君の声の数だけ~Can be strong~』は、世界観がかなりしっかりしていて、それを歌詞でどう表現すればいいのか、私も正解がわからなくて。そんな状況で、濱田さんから歌詞が送られてきたのですが、その中にひとつだけ異彩を放っているものがあって、それがYouTube仲間の中山豪次郎(※今井さんの大学時代からの親友でフリーアナウンサーの池田めぐみさんの旦那さん)先生だったんです。いつもは作家さんの名前も確認できるようになっているのですが、今回は中山先生が入っていたこともあって、作家さんの名前は伏せた状態で送られてきました。
――それだけ惹かれるようなものがあったのですね。
今井じつは、今回は作曲家の方の意向を強く出そうということで、作曲家の方にテーマを決めてもらっていました。これは歌詞が決まった後、中山先生のお宅に遊びに行ったときに聞いたのですが、中山先生もテーマを見て「これは難しいぞ」とかなりパニックになったみたいです。「濱田さんって、こんな指定をするんですね」と聞かれたので、「おそらく、作曲家さんの指定だと思います」と答えておきました。その模様は中山先生の“猫ラジめいくうちゃんねる”にアップされているので、ぜひチェックしてみてください。
――ちなみにどんなテーマだったのでしょうか?
濱田 ゲーム音源のような音を使っているので、ゲームのような要素を入れるということと、ゲーム機のスイッチを入れてゲームの世界に入っていくような雰囲気を表現してほしいという感じでした。
今井皆さんの歌詞を見ていると、「スイッチを入れて」という部分の現実世界とゲームの世界のバランスに苦労されていたのがわかりました。多くの方がゲームは自分にとってすごく大事なものなんだというよう歌詞を書かれていましたし、ゲームの中の世界観を描きながらもスイッチを押したという部分は曲外に入れ込めている方もいらっしゃいました。もし、私がこの曲を聴いて歌詞を書くとしたら、ゲームの世界をそのまま書いていたかなと思います。そんな中で中山先生の歌詞は、なんだかわからないけれど、すごく寂しいのに、温かい気持ちになったんです。ほかのものとはちょっと視点が違っていて。作詞家さん的な書きかたではなく、アーティスティックだなと感じたのですが、選んだ後、名前を確認して納得しました。すごく中山先生らしさが出ているんですよね。
――確かに不思議な歌詞ですよね。
今井あと収録前のエピソードとして、「これから収録に行ってきますね」と連絡したときに「麻美ちゃんの仕事はいろいろな人を勇気づけて、いろいろな人の力になっていて、もっと自信を持ってほしいんだよね。がんばってね」と言われたんです。私はけっこう中山家では弱音も含めて全部さらけ出しているので、自分に自信がないこともよく知ってくださっていて。だからこそ、作曲家さんが指定したゲームというテーマに加えて、「麻美ちゃんのやっているゲームに声を吹き込む仕事は、それだけすごいんだよ。もっと誇りを持って、もっと胸を張って大丈夫だよ」という私へのメッセージや人生も含めて歌詞にしてくれていたんです。その応援が届いていたから、なんだか寂しいけど温かいと感じたんだなと気付いて、すごい歌詞だなと改めて思いました。
――今井さんのことをよく知っているからこそ書ける歌詞だったんですね。
今井そうなんですよね。ありがたいなと思いましたし、職業作詞家さんではないが故の自由さを感じて、この楽曲が持っていたポテンシャルが、天才どうしのぶつかり合いでさらに増した気がします。
――中山さんは『Made in You!』の作曲として今井さんの楽曲に参加されていますが、作詞は今回が初めてですね。
今井初参加でした。それこそ“猫ラジめいくうちゃんねる”で中山先生の歌を奥様の池田めぐみさんが歌っているのですが、私はその中でも第7回の『もう春なんだな』の歌詞がすごく好きで。そういう意味では中山先生の作詞のファンでもあります。
――そうだったのですね。では『パノラマ』はいかがでしょうか?
今井ヒラが若いということもあって、いまどきの音楽の作りかたというか、若さとエネルギッシュさみたいなものが入っている曲だなと思いました。私がコンペで歌詞を選ぶときは第一印象で決めるので早いことが多いのですが、先ほどお話したようにコンペが久し振りだったこともあり、感覚が鈍っていたのか、どれもよく見えてしまって、けっこう時間が掛かりました。そんな中で決め手になったのがサビの「そこで待ってて そこで待ってて 今すぐに行くから」という言葉の乗りかたが、この曲がそう言っているようにしか聞こえなくなったんです。そのときはべつのタイトルがついていて、そこだけ気になったので、「タイトルはもう少しわかりやすほうがいいかもしれません」とお返ししたら、『パノラマ』になっていて、ピッタリだと思いました。
――すごく疾走感溢れる曲ですね。
今井ただ、息継ぎするところがないんですよね。それこそ、先日ヒラに会ったときに「ありがとうございます。歌ってもらえてうれしいです」と言ってもらえたのですが、「息継ぎするところがないんだよね」と伝えたら「あっ……」と。だから、「CDはなんとかなったけど、ライブだとめちゃくちゃキツイから、もうひとり誰かほしいんだけど」と提案したら「それいいっすね!」と言われて「ノリ軽いな!」とツッコミました。なので、もしかしたら、そのうちデュエットしてくれる人を募集するかもしれないです(笑)。
――過去に『spRINGtime』でも息継ぎができないと話されていましたよね。
今井20代の作家さんは息継ぎをしないのかもしれないですね。それこそ、最近、お会いしたべつの若い作家さんにも、「息継ぎがなくて、すみません」と謝られたのですが、「謝るけど、(息継ぎを)入れないんだな」と思いました(苦笑)。やっぱり、そのくらいの年齢の方たちは皆さんボーカロイド世代なんですよね。私はそういう流れにもうまく乗りつつ、本当は私もボカロになりたかったです。
――それも何度か話されていますよね。
今井もし本当に私のボカロが実現したら、『パノラマ』で私と私のデュエットみたいなことになるかもしれないですよね。クオリティーが高くて、どっちが本当の今井さんなのかわからないみたいな。あっ、それは困りますね(笑)。
――(笑)。本当はどっちも歌っていないのではないかと思われかねないですからね。
今井でも、そういうのってすごくロマンがありますよね。私は新しい技術にすごく憧れるので素敵だなと思います。
――最後に『DISTANT ECHOES』はいかがですか?
今井これも作詞コンペが大パニックでした(笑)。じつは曲をいただいていた段階ですでにタイトルが仮で付いていたのですが、まこっちゃんからのオーダーで『DISTANT ECHOES』というタイトルは残してほしいということでした。そうすると、皆さんプロの方たちなので『DISTANT ECHOES』という言葉から派生する素晴らしい歌詞がたくさん届いたのですが、どこを歌ったらいいのかわらかなかったんです。
――初めて聴いたとき、かなり独特な曲調だなと感じました。
今井そうですよね。いまでこそ、「I wanna be... So I wanna be... この歌声を 届けたいよ」というところは、完全にコーラスとして扱っていますが、作詞コンペの段階では、主メロとして歌っていていわゆる掛け合いというか、交差するように歌うように歌詞を書かれている方もいらっしゃって、すごく悩みました。ふだんだったら、『パノラマ』のときのように歌ったりするのですが、どこをどう歌ったらいいのかわからなくて。最終的には世界観で選ぶという、過去になかなかない方法で決めることにしました。それで3つに絞って濱田さんに「この中でBメロがいちばんカッコいいのはどれだと思いますか?」と聞いたところ、現在のMahiroさんの歌詞になりました。そういえば、いちばん最初は私と濱田さんでお互いがいいと思ったものをいくつか選んで決めようとしたのですが、同じものがひとつもなかったんですよね。
――それだけ難航したんですね。
今井ひとつでも被れば、それに決定だったのですが、そうではなかったので、「考えかたを変えないダメだ」と思って、私がある程度まで絞ることにしたんでした。ただ、いつもだったら最終的に決めるときにも歌ってみるのですが、今回はどう歌っていいのかわからなかったので、「きっと合うと思われます」と濱田さんに返信しました。だから、仮歌がなかったら歌えなかったと思います。
濱田 ただ、僕がうっかりしていて、全パートを歌っている仮歌しか送っていなかったんです……。
今井そうでした。だから、Bメロが「どこをどう歌ったらいいんだ……」と大パニックで途方に暮れていました(苦笑)。テーマが宇宙なのですが、そのくらい一筋縄ではいかなくて不思議な楽曲で、本当に宇宙だなと思いました。今回の収録曲の曲調は、『パノラマ』だけがシンプルで、『君の声の数だけ ~Can be strong~』と『DISTANT ECHOES』はちょっとクセがあったので歌えるか心配でしたが、なんとか歌いきりました。
――先ほどもお話されていましたが、『君の声の数だけ~Can be strong~』はYouTubeにレコーディングの様子がアップされていますね。
今井『パノラマ』は先ほどお話した通り、ハモリしか撮っていなくて、『DISTANT ECHOES』はBメロに翻弄された結果、撮るのを忘れていました。
――なるほど。では、各楽曲でここに注目してほしいというポイントはありますか?
今井『君の声の数だけ ~Can be strong~』はDメロがすごく好きですね。「たとえ僕が消えても 吹き込んだ灯火ずっと 消えることなく残るんだ スタートボタンを押して」というのが、私の仕事について書かれて、毎回「はっ!」とします。「たとえ私がこの世から消えても、私がいままで残してきたゲームの声は、スタートボタンを押してもらったら、残っていくんだ」と思ってすごくジーンとするんですよね。もちろん、ハードがなくなってしまって、ゲーム自体がプレイできなくなる時代がいずれ来ると思いますが、少なくとも私が活動してきた約20年間のものの多くはまだプレイできるはずなので。しかも、この部分はプレイする人の気持ちにも捉えることができるんですよね。大好きなキャラクターがいたとして、そのプレイした人がゲームをしなくなったり、何十年も経って亡くなったりした後でも、そのゲームは残っていくんだと思うと、すごく印象的ですし、8bitの音にも合っていますよね。その懐かしい感じを味わって、いっしょにシーンとしたい曲です。
――本当にこの曲は歌詞と曲の親和性がすごいですよね。続いて、『パノラマ』は何かありますか?
今井やっぱり『パノラマ』はいっしょに掛け声をしてほしいですね。
――それこそ、ファンの方に2回目の「そこで待ってて」を言ってもらうのもおもしろいかもしれないですね。
今井あっ、確かにそれはありですね。私が「そこで待ってて」と言って、皆さんに「そこで待ってて」と言ってもらったら、そのあいだに私が休めますし、盛り上がるかもしれないです。それすごくいい! ただ、つぎが「いつの日にか」、「この景色を」になっていて、くり返すわけではないので、難しいかもしれませんが、そこは私ががんばるべきですかね?
――『Carve out』でもそういうようなことがありましたから、大丈夫だと思いますよ。
今井徐々に練度を高めていけるといいですね。
――では、『DISTANT ECHOES』はいかがでしょうか?
今井私が「I sing for you La la la la」と歌うので、皆さんにはコーラスの部分を……。
濱田 それは難度が高い(笑)。
今井では、私がコーラスを歌って、皆さんには「I sing for you La la la la」を歌ってもらうのは……いや、無理ですね。やめましょう(笑)。
――(笑)。それだけ掛け合いの部分が印象的ということですね。
今井そうですね。すごく印象的です。悩みに悩んだ結果だったので、ここが肝心な歌だと思います。
――個人的にはコーラスの歌いかたがDG-10(※作曲家の佐野電磁さんがプロデュースを担当した、今井さん、長谷川明子さん、又吉愛さんの3人によるヴォーカルユニット)みたいで懐かしいなと思いながら聴いていました。
今井確かに。まこっちゃんは若いけど懐かしい曲を書くんですよね。
濱田 音楽は時代が回っているので、僕らが懐かしいと思うような曲が、いまの若者たちには新しいなんですよね。
今井時の流れを感じますね。
――そんな3曲が集まって今回のCDが完成しましたが、CD全体の印象はいかがですか?
今井これまでも3曲入りのCDをたくさん発売させていただいていますが、そのときと大きく違うのは作家さんの顔がより見えているところだと思います。ふだんは私の顔が前にあって、その後ろでいろいろな方が私のことを支えてくださっているイメージが強いのですが、今回は作家さんに焦点を当てて作っているところもあって、そう感じました。私は自分の個性をあまり感じられていない部分が強い人でもあるので、「みんなが私をどう料理したいの?」ということに対して、よりパワーを持って作ってくれたものというのが、聴いただけで伝わってきて、すごくおもしろかったです。聴いているだけでも、より曲が活きているような感覚がして、私もまたひとつ成長できたのかなと思うので、こういう作りかたも好きですね。
――ノビノビしているというか、先ほどお話しいただいたイベントでファンの方にファンクラブの今後について決めてもらったりする、そういったファンクラブのいい意味で自由な感じも出ているような気がします。
今井確かに私のファンクラブを象徴しているような雰囲気がありますね。ジャンルもめちゃくちゃで、「なんでも来い!」という感じも嫌いじゃないです。
――ジャケット写真についてもお話を聞かせてください。ファンクラブ会員向けの動画で今回のテーマは「色違い」と話されていましたが、曲を聴いた瞬間にそうしようと決めたのでしょうか?
今井いや、そうではなかったです。過去にも何回かあったように、今回のお洋服は私が選んでいるのですが、濱田さんからは普段着っぽいものを用意してほしいと言われました。この2着はいつもライブなどの衣装を作ってくれている、織衣ちゃんのものなのですが、このために作ってもらったものではなく、普段着として販売しているものを私が気に入って「これにしよう!」と。ただ、黄色と水色のどちらがいいか悩んでいて、濱田さんに聞いてみたところこれも意見が分かれてしまったんです。濱田さんは水色がいいと言って、私は黄色がいいと思っていたので悩んでいたら、水色が売り切れてしまって。それで黄色だけで進めようとしていたのですが、たまたま織衣ちゃんに会う機会があって経緯を話したところ、「まだ生地が余っているから、水色が欲しいなら作れるよ」といってくださったので、そのことを濱田さんに伝えたら「じゃあ、両方にすれば」と(笑)。今回はそこまでカッチリしたCD制作ではなく、すごくラフな感じだったので、そういうことができました。しかも今回は両A面シングルということで、色違いがピッタリだったのかなと思います。
――対照的でおもしろいですね。
今井まったく同じ形で、本当にただの色違いなのですが、こんなに雰囲気が変わるんだなと。
――ちなみにこの洋服はどちらかの曲のイメージだったのですか?
今井そこまで考えていなかったです。
――「この服、いいな」という感じですかね?
今井そうですね。すごく気に入ったのですが、今回は普段着ということだったので、「織衣ちゃんのお洋服なんだけど、衣装用に作られたものじゃないからいいかな?」と濱田さんに相談した感じでした。もともと今回の楽曲を作るきっかけとなっている大会議も思いつきの集合体みたいなものなので、結果的にそれを体現する形になったのかなと(笑)。だから、どちらかの曲をイメージしたというわけではなかったです。
――思いつきの集合体という意味では、表題曲を作家さんのジャンケンで決めたというのもすごいですよね。
今井これも『パノラマ』のレコーディングが終わった後、濱田さんから「表題曲はどの曲にする?」と相談があって、思いつきで決めました。今回はファンクラブ限定のCDということで、一般流通で販売されるわけではないので、表題曲によって売り上げが大きく変わることはないですが、やっぱりCDの顔となる曲なのですごく悩みました。一般的には『君の声の数だけ ~Can be strong~』、『パノラマ』、『DISTANT ECHOES』の3曲だとしたら、おそらく曲調的に『パノラマ』が選ばれると思いますが、今回は曲調だけで選ぶのはアンフェアな気がしました。そこで、私がジャンケンやあみだくじが好きということもあって、ジャンケンで決めることにしたのですが、そのころはみんなで集まれるような状況ではなかったので、どうしようかなと。リモートでやるにしてもタイムラグが出てしまうので。そこで、私が帰り際に「お互い10パターンくらい出す手を書いて送ってもらえば」と冗談半分で提案したら、後日、本当にやっていてビックリしました。
――中村天佑さんはTwitterでファンの方に出す手を募集されていましたね。
今井なんなら、中山先生の奥様の池田めぐみさんも、そのツイートに返信していたのですが、負けていて爆笑しました(笑)。ちなみに天ちゃんだけが募集したのは、収録の順番の関係です。私はヒラに表題曲をジャンケンで決めることを伝えた場にはいなかったのですが、濱田さんからは「俺はジャンケン強いですよ!」とかなりドヤ顔だったと聞いています。
濱田 めちゃくちゃ自信満々で「絶対に負けないですから!」と言って、すぐに10戦分の手を伝えてきました(笑)。
今井その後、天ちゃんに連絡したところ、「Twitterで募集していいですか? ダメならやめておきます」と質問が来たのですが、うちのスタッフは止める人がいないので、「おもしろそうだからいいんじゃない」と。すぐに出す手を決めたヒラに対して、天ちゃんはTwitterでファンの方に力を借りながら悩みに悩んで決めていて、このふたりの想いの差もおもしろかったです。
――それで中村天佑さんが勝利したというわけですね。
今井その結果もめちゃくちゃおもしろくて。ヒラは最初から最後まで全部パーにしていたのですが、パーだけが負けるパターンだったんです(笑)。
――チョキかグーで全部揃えていたら勝っていたと。
今井そうなんです。3分の1で負けるというドラマチックだなと。曲調だけでいうと、『君の声の数だけ ~Can be strong~』は、この3曲の中ではいちばん表題曲に選ばれにくいはずなんです。『君の声の数だけ ~Can be strong~』にはそこを這い上がっていくパワーも感じましたし、『パノラマ』の“パー”で負けるヒラが最高におもしろくて、愛おしかったです。
濱田 ちなみにまこっちゃんがジャンケンに参加していないのは、すでにコンペ楽曲が世に出ているからというのが理由です。
今井ジャンケンに参加してもらうべきなのか悩みましたが、まこっちゃんの性格も考えて、これがいちばん美しいのではないかという結論に至りました。どうしても、CDなのでジャケットに使えるのは表と裏のふたつまでになってしまうんですよね。
――ジャンケンでいちばん負けた人だけ、ジャケットにならないというのも違う気がしますしね。
今井そうですね。でも『パノラマ』が黄色で、『君の声の数だけ ~Can be strong~』が水色で、『DISTANT ECHOES』は宇宙がテーマなので“無”だったと考えると、結果的に全部きれいにハマったのかなと思います。
――完璧ですね。8月25日に配信された『今井麻美のニコニコSSG』第118回の本編の最後に「このCDに関してはまだまだ続報がありそうなので期待していてください」と話されていましたが、こちらについてお話できることはありますか?
今井じつは……ライブ風のPVを撮影しました! 言いかたが少し変ですが今回のCDはファンクラブ限定の販売で、仲間内で盛り上がっていた企画だと思うんです。これまでに、天ちゃんは『カンパネラ』、まこっちゃんは『アメノアトニ~Brighter Days Ahead~』を作ってくださっていましたが、ヒラに至ってはどんな曲を作るのかも知らない状態なのにコンペを開催して、それがファンクラブ限定の販売という形ではありますがCDになって、さらにPVまで撮影できるなんて。おそらく、今回のCDに関わった誰か持っているんだと思います。
――それはビックリですね。
今井しかも、規模がとにかくすごくて……。
濱田 とある倉庫に本物のライブセットを組んで撮影を行ったのですが、僕も想像していた以上のもので驚きました。
今井私は撮影の1~2週間くらい前までライブ配信を行うと勘違いしていたんです。
――いま流行りの無観客ライブだと思っていたと。
今井そうです。だから、ライブ風PVと言われて「どういうこと?」みたいな感じでした。撮影も少人数の見知ったスタッフでYouTube用の動画を撮るように「あっ、間違えちゃった。もう1回!」とか言いながらラフな感じでやるのかなと思っていたら、まったくそんなことはなくて。軽い気持ちで行ってドン引きました(苦笑)。
濱田 カメラを5台入れて、ドローンも飛ばしています。
今井おそらく想像されている以上の規模なので、マネージャーが資料用に撮影してくれた映像を少し見ますか?
――ぜひ! (視聴終了)……本当にライブのような規模ですね。
濱田 ステージの背面は全面LEDパネルです。LEDに映す映像も全部作りました。
今井いままで私のソロライブでもこれだけの規模はなかったと思います。しかも、スタッフさんもいつも私のことをサポートしてくださっている方たちなんです。今回はPVなので、歌は実際に歌っているわけではなく、出来上がった音声に合わせる形だったのですが、私のライブでミキサーをやってくださっている方が、ポン出し(※番組や舞台の演出にあわせて、効果音などの音源を手動で再生させること)のためだけに来てくれました。
濱田 もうひとつ重大な役目が彼にはありましたよ。
今井あっ、マイクを私に渡してくれました(笑)。そのほかにも、私のまわりを大きなカメラを持ったカメラマンさんが凄まじい早さでぐるぐる回りながら撮影するシーンもあって、私も完成するのが楽しみです。
――その完成した映像がどこかで公開されるんですよね?
濱田 そうですね。いまその方法を検討しているところです(※)。
※インタビュー後、2020年内に発売予定の“今井麻美Winter LIVE「Flow of time」TOKYO”DVD&Blu-rayのFC限定仕様に収録が決定したことが発表されました。なお、FC会員向けにダイジェスト映像も公開中。“今井麻美Winter LIVE「Flow of time」TOKYO”のリポートは以下の記事をチェック!
6thアルバムや10月開催予定のライブなど、今後の活動についても聞いた
――今後の活動についても聞かせてください。先日、6thアルバム『Gene of the earth』が発表されましたが、率直なお気持ちを聞かせください。
今井おそらくファンの皆さんはビックリされたと思いますが、私も「出るんだ!」と驚きました(笑)。というのも、確かにまだアルバムに収録されていない楽曲もありましたが、現状は6曲なので、もう少し曲が溜まってからなのかなと思っていたんです。この6曲は、もともと3曲入りの19thシングル『World-Line』と20thシングル『Believe in Sky』として発売されたものなので、ミニアルバムという形は違うかなと。ベストアルバムという方法もありますが、2017年にそれまでの楽曲をほぼすべて収録したコンプリートアルバム『rinascita』を発売しているので、これも違うような気がしていたので。おそらく、現在のご時世やさまざまなことが噛み合った結果、こういう形になったのかなと思います。
――なるほど。
今井じつは私が6thアルバムの発売を聞いたのもわりと最近なんですよね。今回のファクラブ用のCDを録り終わったころに、しれっとアンセムのレコーディングがスケジュールに入っていて、ポカーンとしました。
濱田 アンセムは歌わないと思っていたんでしょ?
今井そうなんです。そもそもアンセムがどういうものなのかわかっていなかったので、テーマ曲だから歌わないものだと思っていました。それでスケジュールを改めてよく見たら、アンセム以外にもレコーディングのスケジュールがわりと先まで入っていたので、「なんだこれ?」と思って濱田さんに確認したら、「6thアルバム決定したよ」と言われて、「えっ!?」と。しかも、その流れで「表題曲の作詞できる?」と聞かれました。
――これまでもアルバムの表題曲の作詞もすべて今井さんが担当されていますからね。ちなみに、まだ制作されている段階だと思いますが、どういう雰囲気になりそうですか?
今井じつは表題曲の『Gene of the earth』はすでに完成していて、テーマは私の1stアルバムの表題曲である『COLOR SANCTUARY』のアンサーソングのつもりで、作詞をしました。
――やっぱりそうだったんですね。同じ“地球”がテーマなので「もしかしたら?」と思っていました。
今井そうなんです! 作詞をしたという意味も含めて、私のアーティスト活動の原点というと『COLOR SANCTUARY』になるのかなと。『COLOR SANCTUARY』の歌詞は、大きな地球の中にいる、ちっぽけな私という存在が、さまざまなものを感じ取りながら、生きているということをテーマに作詞しました。そして、今回は視点を地球側に持って行って、私という個人からもっと大きな存在感で作詞をしてみたいなという想いで書いたのが、『Gene of the earth』です。
――なるほど。本当はもっと詳しくうかがいたいところですが、それは『Gene of the earth』発売のタイミングで改めて聞かせてください。ちなみに現在の髪の色について、番組などで「地球色」と話されていましたが、この曲のイメージだったから青ではなく、地球色と答えられていたのでしょうか?
今井そうです。『Gene of the earth』のPV撮影のためにいまの色に変えました。私はブリーチ歴が半年に満たない新参者なのですが、マネージャーがカラーリングの王なので、「今度は何色がいいと思う?」と相談したんです。今回は3回目のブリーチだったのですが、1回目は鬱々とした気持ちを吹き飛ばすためにピンク。2回目はそのピンクが抜けて品のない黄色になりつつあって、今回のファンクラブ限定CDのふたつの服に合わなかったので、美容師さんにふたつの服を見せて「このどちらにも似合う色にしてください」とお願いしました(笑)。
――けっこうな無茶振りですね(笑)。
今井しかも、ふだんはその美容師さんとまったく会話をしないんです。いつもイヤホンをしてゲームを遊んでいたりするので、これまでも「変わった人だな」と思われていたと思いますが、急にそんなことを言い出すので、相当変な顔をされていました。
――「この人は何をされている方なんだろう?」みたいな。
今井そうです。もちろんアンケートの職業欄は書いていないので、「なんだこいつは?」と思われていたんじゃないのかなと(笑)。ただ、服の写真を見せたら「ちょっと暗めが合うと思います」とスイッチが入って、アッシュグレーみたいな色にしてくれました。それで今回はマネージャーに相談したら、「この色が合うと思います。地球色って言うんですよ。私が決めたんですけど!」とドヤ顔で写真を見せてくれて。私もピッタリだと思ったので、またその美容室に行って、写真を見せながら「地球色にしてください」と言ったら、この色になりました(笑)。
――すごくお似合いです。でも、まさかマネージャーさんの命名だったとは(笑)。
今井地球色が流行るといいな。ただ、もう毛先が死んじゃっているみたいで、これ以上はブリーチできなくて、切るしかないみたいなんですよ。だから、おそらく私の楽しい七変化はこれにて打ち止めです。
――それは残念ですね。そして、話は変わりますが10月17日(土)には神奈川県某所でのライブも発表されました。こういった状況の中で決断するのは難しかったと思いますが。
今井正直にお話しすると、まだライブの詳細については揺れているという状況です(※)。本来であれば、2020年にべつの会場や日程でライブを開催する予定だったのですが、こういったご時世もあって発表の前にキャンセルすることになってしまいまして。私もすごく残念に思っていたのですが、いろいろな対策ができそうな会場が見つかったので、ひとつの活動の一助にできたらなという想いもあって、今回のライブを企画させていただきました。ただ、現在も状況は刻一刻と変化しているので、お客さんを入れるのかどうかという判断はまだ正式にはできていません。
※インタビュー後、会場が横浜ランドマークホールで、観客を入れてのライブとして開催となることが発表されました。なお、チケット一般先行が9月29日(火)19時00分~10月4日(日)23時59分に実施されます。さらに、11月14日(土)、12月6日(日)に都内某所にて追加公演の開催も決定。追加公演の詳細は後日発表予定とのこと。
濱田 皆さんにはご迷惑をお掛けしますが、最終的な決定はギリギリまで引っ張らせていただくことになると思います。
――こればかりはどうしようもないことだと思います。
今井本当はもっと早く発表できるといいのですが、たとえば2~3週間前になって、急に状況が変わる可能性もありますから。もちろん遠くから来てくださる方がいることも理解していますが、活動を再開するキッカケとして、ある程度決めてやっていくしかないと思います。可能性としては無観客ということもあり得ますが、少なくとも私が倒れない限りライブは開催されるはずなので、ベストな方法を模索します。
――お客さんを入れられるかの最終判断を待っていると発表が遅くなってしまうので、どういう形になるかはわからないけれど、ライブを行うので興味がある人は予定を空けておいてほしいということですね。
今井そうですね。もし、無観客の生配信という形になったとしても、同じ時間を共有できればと思っています。あと、もうひとつお客さんを入れての開催となった場合は、感染予防対策としてマスクはもちろんですが、できれば伊達メガネもご協力いただければと。私も1月からずっとやっていて、効果がある可能性もあるので、100円ショップとかで買って来てくれるとうれしいです。
濱田 補足情報として、楽曲についてはバラード中心になります。
――着席してじっくり楽しむという形ですね。では、こういうご時世ですがファンクラブでの活動に限らず、今後やってみたいことなどはありますか? 逆にこういう状況でしかできないこともあると思いますが。
今井それこそ、最近リモートハイタッチ会やオンラインサイン会とかが行われていますよね。ちょっと意味がわからなかったのですが、興味はあります。でも、書いたサインはどうするんですかね? スキャンしてメールでデータを送ったりするんですか?
――いや、サインしたポストカードなどをそのまま送るんだと思いますよ。
今井あっ……なるほど。オンラインなので、データを送るのかなと思っていました(苦笑)。
濱田 そのオンラインじゃない(笑)。
――ファンの人からすると、自分のサインを書いてもらっているところを見られるのがうれしいのかなと。
今井でも、その場合はサインを書いているところが見えたほうがいいはずなので、後ろから撮るべきですよね?
濱田 カメラを何台か入れておいて書いているときは、手元を映すとかがいいかな。
今井映してなかったら本当は書いてないと思われるかもしれないですから。私は書いている振りだけをして、本当はべつの人が書いているみたいな。……と、自分で言っておきながら、どれだけ信用されていないんだ、私(笑)。
――いやいや(笑)。そんなことしなくても皆さんは信じていると思いますよ。それにオンラインサイン会ではないですが、YouTubeでサインをされている映像を流しながら、質問コーナーをやっている動画もアップされていましたよね。
今井あれはめちゃくちゃたいへんでした。家中がサインまみれになって、グーちゃんがたまに踏んでいましたから。おそらく、何枚かはグーちゃんの足跡が付いたものが送られているはずです。
――それはそれで貴重ですね。
今井油性ペンで書いていたので、グーちゃんに付いたインクがぜんぜん落ちなくて、洗うのがたいへんでした。
――かなり長時間お話をうかがわせていただきましたが、最後にファンの方にメッセージをお願いします。
今井たいへんな状況が続いて、これから先もどうなっていくのかわからず模索している中で、少しでも私が活動することによって、日々の変化に気付いていただけたり、そういったものを感じ取れる一助になってくれたらいいなという想いで、いろいろな活動をさせていただいています。現在、個人だけでやっているSNSやYouTubeなどは滞りがちではありますが、その分、公式で動ける部分が増えてきているので、よかったらこれからも注目して、手に取っていただけるとうれしいなと思います。そして、今回は3曲とも本当にいい曲が仕上がったので、一般販売の流通で取り扱っていただけるような日が来ることを私は諦めていません。それがいつどういう形になるのかはわかりませんが、この曲たちが内輪だけで留まることなく、どんどん広がって皆さんに好きになっていただけるとうれしいです。
[2020年9月28日20時00分 記事訂正]
記事初出時、中村天佑様の漢字表記に誤りがありました。お詫びするとともに、ここに訂正させていただきます。