SNKの人気剣戟対戦格闘ゲーム『サムライスピリッツ』(以下、『サムスピ』)。第1作が1993年にアーケードで稼動して以来、おもにネオジオの代表タイトルとして27年もの間、多くのファンに愛され続けているシリーズ作品だ。27年と言えば、当時生まれたばかりの赤ん坊も立派な大人に成長するには十分な年月が経過している。そこで編集部は、『サムスピ』に影響を受け、その後の人生を大きく左右することになったプレイヤーのドラマを取材することにした。その名も“熱狂サムライ絵巻”。

 剣戟対戦格闘ゲーム『サムライスピリッツ ネオジオコレクション』のプレイステーション4版とNintendo Switch版が2020年7月30日に発売することを記念して、全3回をお届けするこの企画。第1回となる今回は、学生時代に『サムスピ』から多大な影響を受け、現在は一流の妖怪画家・イラストレーターとして活躍する“ふくふく”さんに、『サムスピ』が人生にどのような影響を与えたのか聞いてみた。

ふくふく

 妖怪画家兼イラストレーター。1981年生まれ、広島県三原市在住。

 “筆による肉筆画”を得意とし、その和のスタンスを持った特徴的な画風は国内はもちろん、海外からも評価が高い。

 2017年には中国・上海で行われた“第二回MOVE展 in Shanghai~日本現代芸術品評会~”に参加。2018年にはオーストラリア、ドイツで展示販売を行い、上海では現在も展示販売中である。

 イラストレーターとしては『いちばんおもしろい妖怪図鑑』(笠倉出版社)でメインイラストレーターを務めたほか、ガンホーのMMORPG『エミル・クロニクル・オンライン』で多くのカードイラストを担当。

 現在は2020年6月発行の『頂上決戦!UMA未確認生物最強王決定戦』(西東社)など児童向け書籍を中心に妖怪やモンスター、UMA(未確認動物)のイラストや漫画を手がけている。

ふくふく公式サイト
ふくふくTwitter:@fukufukuzou

妖怪の造形もさることながら、特徴的な筆の質感が妖怪のおどろおどろしい雰囲気に拍車をかけている。

サムスピの漫画との出会いが自分の将来を決定づけた

――“妖怪画家”として活躍中のふくふくさんは、何より肉筆画による画風が特徴的ですよね。『サムスピ』に影響を受けたというのは本当なのでしょうか?

ふくふくさん(以下、ふくふく)はい。『サムスピ』に影響を受けているのは本当です。もともと、絵は小さいころから好きでよく描いていたんですが、高校生の時に“しろー大野”先生の漫画『真サムライスピリッツ 覇王丸地獄変』に出会って、そこに描かれている墨の線と『サムスピ』の世界観の融和がとても魅力的だったんです。その時から『サムスピ』の絵を筆ペンで描くようになり、いまに続いているのだと思います。ですから、いま思い返してみても『サムスピ』に出会ったことが自分の将来を決めてしまったんですよね。

ふくふくさんがプライベートで描いた『サムスピ』の主人公、覇王丸。
こちらもふくふくさんが描いたイラスト。左がふくふくさんがいちばん好きだという斬紅郎。右がどこか妖怪のような雰囲気のある不知火幻庵。

ゲームをやり込むよりも“世界観”や“キャラクター”に惹きつけられた

――『サムスピ』が人生のターニングポイントになったというのは、この企画にまさにうってつけな話ですね。『サムスピ』との出会いというのはその漫画からなのでしょうか?

ふくふく『サムスピ』との出会いは小学生のころです。近所のおもちゃ屋に置いてあったネオジオ筐体の初代『サムスピ』です。あの鮮烈なグラフィックを初めて見た時の印象はいまでも忘れられません。当時の他のゲームのグラフィックを“水彩画”とするなら、突如現れた『サムスピ』のあの濃い色使いは“油絵”のように感じました。ただ、当時は“ゲームセンター=怖い場所”というイメージがあり、僕はどっちかというと内気なほうだったのであまりプレイはできませんでした。
 

――たしかに、当時のゲームセンターにはそういったイメージありましたよね。実際には怖くないんですけど、新作のタイトルが出て人が集まっているところに混ざりにいくのは度胸がいることだったかもしれません。

ふくふくそうなんですよ。でも、その後にゲームボーイ版の『熱闘サムライスピリッツ』を買ってもらえたんです。当然、カラーではなかったのですが、もうひたすらに没頭して遊びましたね。あの作品にキャラクターや世界観、BGMといった“サムライスピリッツの基本”を叩き込まれたと思っています(笑)。その後、中学生になって、オタク系の友だちができたことでイラストを描き始めるようになったんです。ただ、このころはまだ『エヴァ』とか当時のアニメのイラストを描くくらいでしたね。

――いまではTwitterで頻繁に『サムスピ』のイラストを投稿していますが、これほどまでに『サムスピ』にのめり込むようになったのは、いつころからなんでしょうか?

ふくふく『サムスピ』にのめり込むようになったのは、高校生になってからです。まずWindows95版の『真サムライスピリッツ』で毎日友だちと遊んでいました。ただ、このころはまだイラストは描いていなくて自分にとっては“好きな格闘ゲーム”という程度でした。

 その後、セガサターン版『サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣』もプレイしたんですが、当時はそのゲーム機の進化に驚きました。それまでのスーパーファミコンから大きく変わったグラフィックに感動したのを覚えています。ただ、最初はエンディングのストイックな雰囲気についていけなかったんです。でも、ある時にそのセンスのよさに気づいて、タイトルでもありラスボスでもある斬紅郎をひたすら描くようになったんですよ。これが『サムスピ』にハマった瞬間でしたね。ゲームをプレイしてうまくなったり、対戦をやり込むというよりは、その“世界観”や“キャラクター”に惹きつけられました。

――サムスピの持つ独特な雰囲気がふくふくさんにとってとても魅力的だったんですね。私はどちらかというと対戦をするのが好きな部類だったので、とても新鮮に感じます。

ふくふくまた『サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣』の勝利デモを描いていたのが、先ほどお話しした“しろー大野”先生で、この時期に先生の漫画に出会ったことで自分の方向が決定づけられたんです。

 もうそこからは学校から帰ると、毎日絵を描いていました。1日6時間とか描いていたと思います(笑)。途中でセガサターン版『サムライスピリッツ 天草降臨』が出たんですけど、当時は天草を使う友人にボコられながらも毎日プレイしていたのを覚えています。デザインの方向性に、より一層影響を受けましたね。もうそこからは『サムスピ』の関連本が出るや否や即購入、それ以外にも地元の古本屋をすべて回って、攻略本や画集からアンソロジーコミックまで、見つけ次第すべて買い漁っていましたよ(笑)。

 『サムスピ』の影響で和風の作品に惹かれるようになり、水彩画を勉強しつつ専門学校に進学しました。そこの図書室で歌川国芳の画集と出会ったことが浮世絵や妖怪画など、現在の画風へとつながっていきましたね。

ふくふくさんが語る通り、いま見てもその強い色使いはほかの作品にはない魅力だ。
ふくふくさんが『サムスピ』にのめり込むきっかけになった『斬紅郎無双剣』。最新作でも人気の閑丸が初登場した作品でもある。
ラスボスの斬紅郎の迫力と強さは凄まじかった。

『サムライスピリッツ ネオジオコレクション』はギャラリーの充実度が高く、ファンにとってすごいうれしい

――古本屋を回るというのは、もういまではなかなか見られない懐かしい話ですね。絵を描くと同時に歴代の『サムスピ』を遊んできた青春時代を送っていたということですが、シリーズを通して一番好きなキャラクターは誰ですか?

ふくふく僕にとって『サムスピ』というのは、本当にもうすべてが好きなのでいちばんはなかなか決められないんですが、小学生の時に初めてプレイした時は“タムタム”を選びました。最新作の『サムライスピリッツ』でもタムタムを使って遊んでいます。ですが、いちばん好きなのは、斬紅郎です。シリーズで初めての侍らしいボスだったので、印象に残っています。ほかには、主人公の覇王丸や悪役っぽい設定の幻十郎も気に入っています。

――新作も遊ばれているんですね! タムタムって見た目や動きが独特なところがあってちょっと妖怪っぽいところがありますよね。そういったキャラクターを選んでいるっていうのは今までのお話を聞くと、とても「ふくふくさんらしい」気がします。2019年発売の『SAMURAI SPIRITS』に続き、この企画の趣旨にもなっている『サムライスピリッツ ネオジオコレクション』が発表され、先行してPC版が配信されていますが実際に遊ばれましたか?

ふくふくもちろん、さっそくダウンロードしました。ゲームの内容自体はいままでの歴代作品が纏まったものなので、当時を懐かしく思いましたが、なによりギャラリーの充実度に驚きました。スタッフインタビューや過去の設定資料のイラストなど、ボリュームが凄まじいんですよ。ゲーム本編としては収録されていない作品のイラストもあって、とにかく資料価値が高いと感じました。もったいないので、少しずつ見て長く楽しむようにしています(笑)。

――ファンとしてはイラストや設定資料、開発秘話といったギャラリーとしての充実度の高さはすごくうれしいですよね。とくにふくふくさんの場合は、古本屋を回ってまで集めた過去があるわけですから、それが現代になってこれだけ膨大なデータ量で一覧できるという喜びはひとしおじゃないですか?

ふくふく本当にそうですよ。しかも、プレイステーション4版とNintendo Switch版は豪華限定版があるじゃないですか。あちらにも豪華なアートブックやサウンドトラックがついてくるので、発売されたら購入する予定です。

ふくふくさん一推しのタムタムと幻十郎。タムタムにはどことなく妖怪感がある……。
『サムライスピリッツ ネオジオコレクション』のギャラリーモードは、コアなファンもうなるほどの充実ぶり。
設定画や開発メモなど、貴重な資料が収録されている。
当時のエピソードなどが聞けるスペシャルインタビューも。

僕にとって『サムライスピリッツ』は「画家の自分を形作った大事な作品」

――ここまでお話を伺って、ふくふくさんの『サムスピ』への熱い思いのたけが十分過ぎるほどに伝わってきました。続いて、『サムスピ』に出会ったことで、自分にとってよかったことや印象的だったことはありますか?

ふくふくひとつは、やはり画家としてのバリエーションでしょうか。和服の作りへの理解などは『サムスピ』のイラストを描くことで自然と身につきましたから、妖怪を描く上でスムーズでしたね。それ以外にも格闘ゲームのキャラクターはとても多彩なので、画家としての引き出しを増やしてくれたと思っています。

もうひとつは、『サムスピ』を通じた友人とのつながりですね。いまでも付き合いが続いている友人たちは、みんな高校時代にいっしょにサムスピをプレイしていた仲間なんですよ。そのうちのひとりはアーケードコントローラーを自作していて、僕が天板のイラストを描いたんです。その報酬としてアーケードコントローラーを譲ってもらったりと、大人になったいまでもさまざまな形で付き合いがあるんです。新作をたくさん遊んでいるのも彼とのやり取りがあったからで、『サムスピ』という共通のコンテンツがあったからこそなんですよね。

――『サムスピ』との出会いがいまのお仕事や友人とのつながりといった部分に影響を与えているというのは、素敵なお話ですね。そういった作品に出会えることは多くの人たちにとって羨ましいことな気がします。では、最後の質問になりますが「あなたにとってのサムライスピリッツ」とはなんでしょうか?

ふくふく“画家としての自分を形作った大事な作品”ですね。妖怪画家として強い影響を受けた作品や作者というのはほかにもあって、代表的なところだと『ゲゲゲの鬼太郎』で有名な“水木しげる”先生です。先生は妖怪漫画の第一人者であり、誰もが知る有名な方ですが、僕にとっての『サムスピ』はそれと同じくらい強い影響を受けた作品なんですよ。

 それ以外にも令和の『サムスピ』をきっかけに現在の格闘ゲームシーンに触れたことで、対戦にのめり込む人たちの努力や思いを知り、eスポーツに対する理解も深まりました。いまでも新しい発見やつながりができるというのは素晴らしいことだと思います。

 『サムスピ』は僕にとって“青春時代の原点”であり、“自分のいまを形作った唯一の格闘ゲーム”です。『サムスピ』に出会わなければ、いまの自分はなかったわけですから、これからも『サムスピ』がみんなから愛される作品として続いていってほしいですね。

ふくふくさん作『サムライスピリッツ』イラスト

 ふだんプライベートで描いているという『サムスピ』のイラストに加えて、今回の取材用に特別に描き下ろしていただいた覇王丸のイラストを掲載する。ふくふくさんのTwitterアカウントには、そのほかにもたくさんのイラストが掲載されているので、ぜひそちらもチェックしてほしい。

今回の取材用にふくふくさんに描き下ろしていただいた覇王丸。
妖怪タッチではなく、こんなかわいらしいイラストも。
こちらはふくふくさんお気に入りのタムタムと、最新作にも追加キャラとして登場したミナ。

『サムライスピリッツ ネオジオコレクション』のプレイステーション4版とNintendo Switch版が2020年7月30日に発売予定

 “NEOGEO”で発売されたシリーズ6タイトルに、幻の未発売作品を加えた計7タイトルを収録。さらに、全タイトル対応の“オンライン対戦機能”、イラストや楽曲が楽しめる充実の“ミュージアム”なども新たに実装した至高のコレクションだ。待望のプレイステーション4版とNintendo Switch版が2020年7月30日に発売予定。

豪華限定版も登場
アートブックやサントラなどファン必携の特典がセットになった豪華限定版。SNKオンラインショップにて予約販売中! なお、2020年7月23日まで1000円オフの6980円[税込み]で販売する。

※SNKオンラインショップ

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取材・編集:豊泉三兄弟(次男)
ライター:ベックス

熱狂サムライ絵巻