日本マイクロソフトより2Dアクションゲーム『Ori and the Will of the Wisps』が2020年3月11日にXbox One、PC向けに配信された。『オリとくらやみの森(Ori and the Blind Forest)』の成功を経て、5年ぶりにリリースされた続編となる『Ori and the Will of the Wisps』はどのように進化したのか? ここでは、開発元であるMoon Studiosの共同創業者にして、本作のディレクターを担当するトーマス・マーラー氏のメールインタビューをお届けしよう。

Thomas Mahler氏(トーマス・マーラー)

Moon Studios 共同創立者。『Ori And The Will Of The Wisps』ディレクター

本作では、成長の過程の、“つぎの部分”が強調されている

――改めてのご質問となりますが、Moon Studiosの共同創業者として、スタジオ設立の経緯をお教えください。

トーマススタジオ設立への考えは、私が Blizzard Entertainmentで働いていたころからありました。当時、私は映像部門(cinematics)で働いており、『StarCraft II』での仕事を終えたあたりで、インディーゲームというジャンルに大きな波が来ていました。私たちが『StarCraft II: Wings of Liberty』の制作を終えるころには、『Castle Crashers(キャッスルクラッシャーズ)』がリリースされ、『Super Meat Boy』や『LIMBO』もリリースが予定されていました。「再び小規模なゲームをつくり、実際にビジネスケースにつながる」とは、このときまでは、長らく感じていませんでした。

 その後、私はコーディングを開始し、いくつかのプロトタイプを開発しました。プログラマーの友人のひとりにこれを見せると、「これはとても楽しそう」だと共感してくれました。作成したプロトタイプのひとつをオンライン動画として公開し、どのような反応があるかを確認すると、 一晩で15万再生されました。その後、突然マイクロソフトやエレクトロニック・アーツなどのパブリッシャーから契約の話を持ち掛けられました。このような背景がスタジオ設立の際はありました。

 スタジオの理念として、必ずしもガイドラインのようなものはありませんが、私がつねに人々に知ってもらいたい点として、Moon Studiosはほかの独立した開発スタジオとは大きく違うということがあります。私たちの目標は、才能に溢れた、エリートなチームを作ることです。私たちは、日本、オーストラリア、米国、ヨーロッパ、南アフリカなどを含む世界中で43を超えるさまざまな国に人員がいます。私たちの目標は、当初から、「見つけられる限り最高の才能の持ち主を雇おう。ただし、基本的に彼らは転居する必要はなく、子どもたちを学校から退かせる必要もなく、ほかの場所に移動させることも必要ない」というものでした。これが、ものすごくうまくいった戦略のひとつです。Moon Studiosに在籍する才能の総量はすさまじいと思っています。

『Ori and the Will of the Wisps』のディレクターに聞く。日本語ローカライズにも深いこだわりが_01

――『Ori and the Will of the Wisps』で初めて『Ori』の世界観に触れるというユーザーに向けて、楽しみどころをお教えください。前作の知識がなくても楽しめるとのことですが……。

トーマス興味深い質問です。アップデートされたアートや素晴らしい音楽などは、もちろん、非常に出来がよいと言えます。一方、私はつねにゲームプレイについて考えています。たとえば、『Ori and the Will of the Wisps』の戦闘を『オリとくらやみの森』と同等以上にしようと考えました。そこで、戦闘 (combat gameplay)に新しい要素を追加しました。『オリとくらやみの森』では、キャラクターコントロールの調整に1年半かけました。2、3分間だけオリをプレイし、ただジャンプしたり、壁ジャンプしたりバッシングしたりするだけでも、プレイヤーがとても楽しめるようにすることを心がけました 。

 今作では、同じことを戦闘で行っています。まず、すべての要素がプラットフォームと非常にうまく噛み合っていること、そして、『オリとくらやみの森』にあったすべてのプラットフォームが存在し、改善されているようにしました。その上で、戦闘やほかのゲームプレイ要素が追加されています。これはとても大きなことだと思います。というのも、このメカニックを正しく機能させるためにはエネミーも変更する必要があり、その変更した要素をゲームのほかの要素に持ち込む必要があるからです。エネミーの設計が、ほかのすべての新しい要素と嚙み合っているかについて、緻密に検証しました。つまり、戦闘ゲームプレイと密接に相互接続されたプラットフォームを作っているため、コアゲームプレイこそ、ユーザーにとって最大の新要素だと思います。

『Ori and the Will of the Wisps』のディレクターに聞く。日本語ローカライズにも深いこだわりが_02

――ディレクターとして、もっともこだわったポイントを教えてください。

トーマス個人的に、つねにスタートの場面にこだわっています。人々がゲームで費やす最初の1時間こそが、どのゲームにおいてももっとも重要で複雑な時間だと考えています。開発側の努力や複雑さの観点から見ても、チームがあらゆるレベルで何百回・何千回と作業をくり返すので、よりトリッキーな場面です。スタートの流れ全体を現在と同じくらいコンパクトに、そしてペースがうまい具合で機能することを確認するまで、私たちは長い時間をかけました。これだけで1年半ほど開発時間を設けました。すべてのコンポーネントが、高いレベルで表現する際に、大規模な取り組みになる可能性があります。そしていま、私はそれを本当に誇りに思っています。ペーシングやタイミングなどに関しては完璧です。私たちはそこで熱意を失うことはありません。最初のエリアである“Inkwater Marsh”を、正しく表現するまでにかなりの時間がかかりました。

――『Ori and the Will of the Wisps』に込められたメッセージをお教えください。

トーマス『オリとくらやみの森』は成長の過程を描く物語でした。生きていく中で自分の居場所を見つけること、そして、自分の行動でほかの人にどのようにインスピレーションを与えることができるかについて強調していました。『Ori and the Will of the Wisps』では、成長の過程の、“つぎの部分”が強調されていると思います、つまり、よい人生を送るとはどういったことか、ということです。多くのことが台無しになるため、あまり言及はしません。プレイヤーが実際にクレジットを見ると理解できる、非常によいメッセージが含まれています。人生を振り返ることの意味について描かれています。

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――『Ori and the Will of the Wisps』は日本語ローカライズもされているとのことで、日本のゲームファンはとても喜ぶと思います。日本語化に際して、お語りいただけることがあったらお教えください。

トーマスこれは、本当に興味深い質問です。私たちは、『Ori and the Will of the Wisps』の制作にあたり、アレックス・スミスを雇いました。Alexは、過去20年間にわたり、スクウェア・エニックスのメインローカライザーでした。彼は『ベイグラントストーリー』や『ファイナルファンタジーXII』などのゲームを翻訳しています。今回はその逆で、アレックスの流暢な日本語に頼って、変なところがない、一流の日本語翻訳になるよう努力しました。アレックスを雇うことで、日本語と日本文化に関する専門的な知識を取り入れ、日本のユーザーが高く評価するような形でゲームが翻訳されるようにしました。

――今後のMoon Studiosの目標をお教えください。まったくもって気の早い話ですがせっかくの機会なのでお教えください。『Ori and the Will of the Wisps』の他プラットフォームへの展開は予定していますか? また、『Ori』シリーズの今後はどうなるのでしょうか?

トーマスこれについては、まだコメントできません。 『Ori and the Will of the Wisps』の反応を見る必要があります。 このゲームは、過去30年ほど日本のゲームスタジオが行ってきたことから多くのインスピレーションを得ているため、日本での成功に大きな期待を寄せています。私自身、日本のゲームの影響を受けながら育ってきました。そういった意味でも、このタイトルには成功してほしいと思っています。

 今後について、私たちはすでに、私たちにとって初のAAAゲームとなる別のプロジェクトに取り組んでいます。ターゲットにしたいジャンルを鑑み、ARPGとなります。そのため、間違いなく『Ori』とはかなり異なるものになります。 『Ori』については、今後の動向を確認する必要があります。

――最後に、『Ori and the Will of the Wisps』を楽しみにしている、日本のゲームファンにメッセージをお願いします。

トーマス日本のユーザーが新しい『Ori』のゲームを気に入ってくれることを本当に願っています。西洋のゲーム開発者であれ、そのほかのゲーム開発者であれ、日本が30年間やってきたことに影響を受けているはずです。日本の開発者、たとえば宮本さんのような人の影響を受けていない開発者はひとりもいません。私たち全員にとって日本での成功は、多くの点で、学生が成長したことを証明する機会でもあります。

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