2019年12月11日、日本のeスポーツビジネスに関するバンタン主催のカンファレンス“ESCONF TOKYO”が東京・表参道にて開催された。先行している海外のeスポーツビジネスの最新動向をシェアすることで、日本における課題と可能性を議論する。ふたつめの講演では、グルーブシンク代表取締役の松井悠氏が登壇した。

グルーブシンク 代表取締役 松井悠

日本どころか世界でも“eスポーツ”という言葉が浸透していなかった2002年にデザイン会社グルーブシンクを設立し、ゲームイベントの運営や配信、プロモーションなどを開始する。現在はRed Bullのゲーミングイベントや『コール オブ デューティ』シリーズの大会運営などを行う、日本におけるeスポーツのキーマンのひとり。

 松井氏が講演のテーマとして掲げたのは「日本のeスポーツ業界で“成功”を収めるには」というもの。何を持って成功とするのか、そもそも成功はあり得るのか。

 そんな自問自答に対して、松井氏はひとつの答えとして「お金をかけられること」を挙げた。ただ、その使い道はテレビ局の誘致であったり、広告を派手に展開することではないという。そういったお金があるのであれば、選手や観客に手厚くするほうがいいと考えているとのこと。

 eスポーツ事業を行ううえで、何をする(したい)のか、考える必要もある。一概にeスポーツで成功すると言っても、その意味合いは立場によってまったく違うからだ。

 eスポーツには選手(プレイヤー)もいれば、チームオーナーもいる。スポンサーやオーガナイザー、eスポーツ協会など、関わりかたはさまざまだ。そのうえで、eスポーツは、それぞれの目的の先にある“ゴールに到達するためのツール”であると考えることが順当だと、松井氏は語る。

 松井氏は「ネットに落ちていたものですが」と、冗談交じりに2018年におけるeスポーツのランドスケープを取り出した。ゲームプラットフォームからパブリッシャー、イベントやトーナメント運営、配信、スポンサー、チーム、メディア、施設など、eスポーツに対する立ち位置がまとめられている。

Japan esports landscape 2018

 9ヵ月後の2019年3月のランドスケープでは参加団体や企業の数が一気に増加。さらに8ヵ月後、2019年11月にはさらに増加。スライド4枚分にまで及び、カテゴリーとして“学校”も追加されている。「厳密に言うと、学校はその前(2019年3月版)のランドスケープから入っていいものでしたが、注目度や数的に2019年11月版からの登場となっています」(松井氏)。

Japan esports landscape March 2019
Japan esports landscape November 2019
Japan esports landscape November 2019を切りだした画像。

 この一覧を見るだけでも、eスポーツ参入のカテゴリーが多岐にわたっていることがわかる。当然、カテゴリーによって成功の形も変わる。松井氏は、そこを考えることが重要だと説いた。

 eスポーツ市場が拡大していることは確実だ。多くの企業や団体が短期間に参入してきていることも、ランドスケープから見て取れる。また、カテゴリーの混み具合も一目瞭然。空いている場所、つまりブルーオーシャンを見つけることが成功の確率を高めるのは言うまでもない。そして、そのカテゴリーにとっては何が成功なのか、見極める必要があるということだ。

 eスポーツが話題だからと言って、何でもいいから参入したいなどという考えかたでは、成功を収めるのは難しい。そもそもカテゴリーと目的がずれているようなら、最初から成功などありえないのかもしれない。

日本のeスポーツの将来に関する松井氏の見解

 こういった事例を受け、eスポーツに関する松井氏の個人的な見解も語られた。

 2020年以降の日本のeスポーツでは、地方都市による自立自存が起こると考えられる。ちょうど全国紙に対する地方新聞の折り込みほどの規模感で、人数にすると100~300人程度。この規模のeスポーツイベントが各地方で行われると考えられるという。

 2019年、松井氏は国民体育大会の文化プログラムの運営に協力している。そのとき、地方のeスポーツ関連協会に協力を仰いだそうだ。基本的にはボランティアで協力してもらったが、単純に人員供与を求めただけでなく、eスポーツイベントを自分たちだけで立ち上げられるように、ノウハウも叩き込んだ。それも地方都市の自立自存プロジェクトを見越してのことだ。

 地方都市発のeスポーツイベントに松井氏の会社が協力する場合、社員を派遣するのでは結局東京の会社の利益となり、地方に還元されなくなる。そこで、ノウハウを伝え、地元企業に依頼できる状況を作ることで、さらなる地方都市の自立自存が可能になるという。

 地方によるeスポーツの活性化、もしくはeスポーツによる地方の活性化のほかに、国際大会の日本進出が活性化していく可能性もある。すでに格闘ゲームイベント“The Evolution Championship Series(エボリューション・チャンピオンシップ・シリーズ、略称:EVO)”の日本版“EVO Japan”も開催されており、『レインボーシックス シージ』世界大会や『クラッシュ・ロワイヤル』世界一決定戦も日本で開催済みだ。フランスで生まれた“Red Bull Kumite”も2019年12月22日に開催された。

 ほかに、中高生向けのeスポーツイベントも増えそうだ。これまでにも“STAGE:0”や“全国高校eスポーツ選手権”などが開催されているが、今後は中学生などのさらなる若年層向け大会も開催されるかもしれない。

 とはいえ、ゲーム依存症問題という懸念もある。これは、積極的に対処することで問題解決につながると考えているという。松井氏はトーナメントオーガナイザー側の人間だ。トーナメントに参加するゲーマーについては状況を把握できるが、そういった場に出てこないゲーマーには対応しようがない。したがって、家族がサポートできるきっかけとして、ガイドラインは必要とのこと。

 eスポーツ市場における成功は目的によって変わるもの。松井氏は「市場以上に参入企業が多くなっている印象はある」と前置きしたうえで、「それでもまだ新規参入できる余地は十分にある」として、セッションを締めくくった。

セッション終了後の質疑応答

【Q.】eスポーツと自動車業界は親和性が高いと思いますが、いかがでしょうか。

【A.】国産タイトルとして『グランツーリスモSPORT』に注目しています。(プロデューサーの)山内さんは『グランツーリスモ』でレースを観戦するシステムを考えています。モーターショーで展示されるようなコンセプトカーを使えるようにし、プレイヤーの走行データをメーカーにフィードバックできます。ジャン・アレジがeモータースクールを開校していますし、やれることはいっぱいあると思います。とにかく楽しそうにするのがいちばん。10台でレースできなくても、1台用意してタイムアタックするだけでもいいと思います。

【Q.】eスポーツのプレイヤーにとって、練習以外にはどういったことが必要だと思いますか。

【A.】どれが練習になるのか、わからないのが現実です。ただ、強いチームは結果の振り返りをしていますね。そこはリアルスポーツといっしょ。ただし、世の中には天才がいて、そういう人にはかなわない。それと、ゲームタイトルには流行り廃りがあります。ひとつのタイトルにコミットしすぎると、そのタイトルが廃れた場合、潰しが効かなくなることもあるでしょう。

【Q.】依存症や怪我などのヘルスケアについて、どうお考えですか?

【A.】目(の疲労)や腱鞘炎、肩こりなど、ゲームには弊害もあります。椅子も(自分に)合っていないと体を悪くします。チームが選手を雇用するのであれば、チームが健康管理するのがいいでしょう。試合中はしっかりと水分補給する必要がありますし、適度に休憩を取ることも重要です。オーバーワークの問題は難しいですね。ただ、リアルスポーツに比べて体の負担は大きくはないので、再起不能になるほどのダメージを負うことは考えにくい。ガイドラインを作るのは我々の仕事ではないかと思いますが、まずは自分で管理できるようになってほしいところです。

【Q.】日本人にマッチングしやすいタイトル、ジャンルは?

【A.】これから流行るゲームがわかれば、それはすごいことですよね。ですので、これというタイトルやジャンルは明言しにくいですが、チーム制で、過度な暴力表現がないものが当たるかもしれません。また、ユーザー側がルールを決めるコンテンツが流行るかもしれないとは、何となく考えています。