2019年12月11日、日本のeスポーツビジネスを題材にしたバンタン主催のカンファレンス“ESCONF TOKYO”が開催された。

 本稿では、ゲームやeスポーツなどのコンサルティングを手掛けるibMediaのCEO、フランク・シリフカ氏によるセッション“eスポーツと教育”のリポートをお届けする。

ibMedia(アイビーメディア) CEO / Epulze(イーポルズ) COO フランク・シリフカ

1997年よりゲーム業界及び展示会ビジネスに携わり、German Game Developer Award、European Games Award、アジアのSports Industry Awardを受賞するほか、ヨーロッパやアジアのゲーム業界におけるビジネスカンファレンス・展示会を成長させた。2000年よりeスポーツ業界にも視野を広げ、業界初の国際ビジネスカンファレンスInternational Esports Conference(ESCONF)を2004年に創設。その後German Esports Associationを創設し、会長に就任。2008年にはInternational Esports Federationの副社長に就任した。2012年にゲーム・eスポーツ・展示会業界専門のコンサルティング会社ibMediaを創設。現在はibMediaのCEOとして活躍する傍ら、Esports Holidayの創設者及びEpulzeのCOOとしても活躍中。

【おもな講演内容】

  • eスポーツもまたデジタル革命の一環
  • eスポーツ産業にはミレニアル世代への理解が不可欠
  • eスポーツは教育分野でもビジネスチャンスを生む

 フランク・シリフカ氏は、日本を含めたアジア地域を中心に、世界的に急激に発展を遂げるeスポーツでは、教育分野もさまざまな面からビジネスチャンスになりうると語った。

eスポーツもまたデジタル革命の一環

 日本だけでなくアジア、さらには世界的に見ても発展が予想されるeスポーツでは、これを仕事として従事する人の数も増える可能性を秘めている。10年から15年後には自分の子どもが「弁護士ではなく、eスポーツに従事する人になりたい」と言ってくるケースは、いまよりもっと増えるだろう。

 そう語り始めたのは、20年以上に渡ってヨーロッパやアジアにおいてゲーム業界に関わるビジネスカンファレンスや展示会に携わってきたフランク・シリフカ氏だ。同氏がCEOを務めるibMediaはシンガポールに本拠を構え、eスポーツと教育、さらにeスポーツと観光に関するビジネスを執り行っているという。

 シリフカ氏は「eスポーツ産業の特徴は“オーディエンスの中心はミレニアル世代(※)で、年齢が若く、世界中にいること”だ」と語った。だからこそeスポーツに関わる多くのブランドやステークホルダーにとって、教育や観光促進のチャンスがあると考えているという。実際に大学や専門学校など、各国の教育機関でeスポーツに関する教育プログラムの導入が始まっている。こうした取り組みは、eスポーツが社会や雇用問題に対して大いに貢献する可能性があり、しかも急激に成長を遂げている。

※ミレニアル世代:2000年代に成人を迎える平成初期生まれの世代を差す。物心ついた頃からインターネット環境が揃っていた層とも近い。

 シリフカ氏の住むシンガポールは2014年よりIT技術を積極的に活用する“スマートネイション(スマートな国家)”というポリシーを掲げ、国を挙げて政策を立案、遂行している。たとえば買いものの際も現金は使わず、支払いはモバイル端末を使ったキャッシュレス決済がほとんどなのだそうだ。デジタル化の動きは世界中のあらゆるセグメントで起こっていて、eスポーツもまた、こうしたデジタル革命の一環であるとシリフカ氏は見ている。

 5年前、6年前だったら実店舗へ行き、あるいはWebで、旅行代理店に旅行の手配を依頼していた。しかし現在ではオンラインのブッキングサービスを用い、ダイレクトに宿泊施設と連絡を取って旅行のプランを組み立てることが主流となった。また、教育でもeラーニングが存在感を増してきている。

eスポーツ産業にはミレニアル世代への理解が不可欠

 これからのeスポーツ産業を考えるうえで、重要なのはムーブメントの中心となるミレニアル世代を理解することとシリフカ氏は考えているようで、同氏は“ミレニアル世代に関する5つの真実”と題し、この世代に関する特長を述べていった。

 最初に掲げたのは、SNSやストリーミングメディアを活用し、何百万人というフォロワーを抱える「インフルエンサーが強い影響力を持つこと」。第2に、ミレニアル世代のスターは「デジタルな空間から誕生している」と指摘。シリフカ氏の世代におけるブルース・スプリングスティーンのような存在は、いまやインフルエンサーであり、YouTuberであるというのだ。そしてつぎに、「広告主もいまや、こうしたデジタルなエンターテインメントを通じてミレニアル世代とつながっている」と語り、さらに「ゲームを遊ぶことはポップカルチャーのメインストリームになっている」、そして、最後にミレニアル世代にとっては「eスポーツはフィジカルスポーツよりも身近な新しいスポーツとなっている」とまとめた。

 つまるところ、ミレニアル世代にとって「オフラインはあり得ない」という。ミレニアル世代より遙かに上の世代であるシリフカ氏当人でさえ、朝起きてからソーシャルメディアにアクセスし、仕事中もさまざまなオンラインメディアを駆使するなど、つねにオンライン状態のモバイル端末を携帯しているそうだ。生まれたときからインターネットが存在したミレニアル世代にとってはなおのこと、このような傾向はより強く、自然なものであるはず。eスポーツが若い世代のカルチャーにおけるメインストリームになることは、ある意味、必然であるわけだ。

 しかし、eスポーツという産業は必ずしも社会で正当に評価されているとは限らない。ゆえにミレニアル世代やそれよりも下の世代がどんなタイトルをプレイしているかわからない人も多く、だからeスポーツ業界にビジネスの機会があると見えてない人も少なくないとシリフカ氏は指摘した。

 eスポーツ業界で働くシリフカ氏はそうした無理解による苦労を味わっているが、同時にやりがいも感じているそうだ。eスポーツへの理解が低い人たちに、「eスポーツは楽しく、若者や社会に悪影響を与えるものではなく、すでに現実に社会的現象となっている」のだと働きかけを続けているという。

 シリフカ氏は、eスポーツ産業自体が抱える問題についても指摘した。業界内が断片化されていて統一感がなく、現時点では法整備の問題など、手つかずの領域も多い。また、適切な資格や能力を持った人材が十分にいないうえ、人材を養成する側、教育する側も同様に人材が不足しているという。さらに、プロとして活躍する選手たちの親の世代をはじめ、社会や政府の理解や知識の不足もあると語った。

eスポーツという産業はその中心となる顧客が未成年を含む若年層を中心としているところに特異性がある。デジタルネイティブなミレニアル世代、さらにその下の世代を理解することがeスポーツ産業でのビジネスには不可欠であるとシリフカ氏は語る。

eスポーツは教育分野でもビジネスチャンスを生む

 シリフカ氏には19歳と16歳の息子がいるそうだ。彼らが3~4年前の夏休みに「サッカー教室やサマーキャンプなどありきたりなことをするのはいやだ」と言い出したとのこと。このことからシリフカ氏は、子どもたちの世代では関心の対象が変わってきていることに気づいたという。夏休みに限らず教育プログラムは伝統的なものを使い続けようとしているが、デジタル化が進行した十代の子どもたちの実情にそぐわないとシリフカ氏は語る。

 彼らの世代はフットボールや野球といったフィジカルスポーツのスーパースターになりたいとは思っていないし、教育的な意味合いを持たせたキャンプやワークショップなどに対する関心は薄らいでいる。シリフカ氏は「教育にはeスポーツをきちんと取り込むべき」と指摘。同時に、それは不可能ではないと見ているそうだ。

 教育に費やされている予算は4兆ドルで、ほかの公共サービスより多いとのこと。資金面だけでなく、コミュニティのサポートや健全な政策も重要となる複雑なシステムを必要とすると、シリフカ氏は語る。しかし、eスポーツを活用した教育システムをきちんと機能させることで、新たな産業を生み、雇用機会の創出などが可能になるという。

 eスポーツを用いた教育では、子どもたちに対しても、チームのリーダー、あるいは一員として活動すること、突発的な出来事に対してどう対処するかといった判断力、PCなどの情報端末を使った仕事への取り組みについて学べるというのが、シリフカ氏の意見だ。プロゲーマーのトレーニングセッションでは、目的に向かって活動する際に、ときには休憩を挟むことがより効率を高めることも学べるとも語った。

 教育市場にサービスを提供し、それを事業とする場合には、いくつかのポイントに注力することが大事だという。そのひとつが労働市場だ。こうした新たな産業で労働市場が生まれるということは、同時に新たなマネタイズの流れを作り出すことが考えられるということでもある。

 eスポーツにおける教育分野においては、eスポーツ選手や学生、職業専門学校、大学、父兄らとカリキュラムを作成するといったことで利益を生むことが可能であるとシリフカ氏は語った。

 また、eスポーツが産業として大きく成長すれば、資格のある人材が必要となると予想される。eスポーツを教えることを事業化するにとどまらず、eスポーツ教育に関する資格取得のためのプログラムや認定制度を設け、若い人たちを教える側を育成することをも事業とし、認定を受けた人だけが教鞭を執れるようにするわけだ。

 さらに、eスポーツ産業によって生まれる雇用に対応するためのカリキュラム作成事業も想定できる。イベントの運営手法やeスポーツチームのマネージメント、コーチになるためのルートなど、多くのノウハウが必要だからだ。

来場者の前向きな姿勢

 ドイツ人のシリフカ氏はケルンに本社を置くエレクトロニック・スポーツリーグ(ESL)に4年間の勤務経験がある。また、アジア地域の若者に8ヵ月単位の職業教育プログラムを手掛けた経験を持つという。そうした同氏の経歴から来るスピーチは、いまの若い世代にとってeスポーツがいかに身近で重要なものであり、当該世代に向けたeスポーツ教育がさまざまな角度から新たなビジネスチャンスになり、労働市場を拡大する一助になるといったテーマで話が進められた。

 シリフカ氏のスピーチは、教育カリキュラムのシステムや枠組みの話が中心だった。しかし“eスポーツと教育”というタイトルから、もう少し具体的な教育の実態に期待した来場者も少なくなかったようだ。

 スピーチの合間に行われた質疑応答では、小中学生にネットリテラシーを教えるためのポイントや、学校でeスポーツを広めるにあたり、周囲の理解を得るための活動における他国での成功事例やその理由といった質問が投げかけられたが、返答はストレートなものではないと思えた。シリフカ氏が提供する以上の情報を求めるほどに、来場者は前向きだったのだろう。次回の課題につながったにつながったと言える。

 一方、このESCONF TOKYOを主催したバンタンをはじめとする専門学校が実際にeスポーツを教えるコースをすでに開設していることを考えると、氏のスピーチは非常に説得力が高いものであったとも言えるだろう。

シリフカ氏はイギリスの大学ではeスポーツリーグが開催されていたり、シンガポールのアメリカンスクールではカリキュラムにeスポーツが採用されているという事例を紹介。「学校教育におけるeスポーツのカリキュラムは、将来に向けたSTEMおよび非STEMの学習機会と、キャリアで成功するために必要な学術的、技術的なスキルを学生に提供できる」という。