2019年12月11日、日本のeスポーツビジネスを題材にしたバンタン主催のカンファレンス“ESCONF TOKYO”が開催された。

 本稿では、アジアのゲーム市場を専門とした調査兼コンサルティング会社ニコ・パートナーズ創業者、リサ・コスマス・ハンセン氏によるセッション“アジアのeスポーツと世界におけるその意義”のリポートをお届けする。

Niko Partners(ニコ・パートナーズ) 創設者/マネージングパートナー リサ・コスマス・ハンセン

丸三証券にて株式アナリストとしてキャリアを始め、専門調査会社IDCなどを経て、2002年にアジアのゲーム市場を専門とした調査兼コンサルティング会社ニコ・パートナーズを創設。拠点を米国に置きながらアジアを定期的に訪問し、おもに中国と東南アジア市場の数字や傾向をリサーチ及び分析を行っている。顧客関係の構築や提携、ビジネス開発なども担当。ニューヨークタイムズ紙やフォーブス誌などで取り上げられるほか、eスポーツ関連のカンファレンスなどにも登壇している。

【おもな講演内容】

  • 中国ではeスポーツ人口が急増
  • モバイルを中心にアジアではeスポーツが急成長
  • eスポーツの持つ特質とアジアにおける傾向
  • 日本におけるeスポーツ市場について
  • 今後は世界的にモバイルeスポーツが人気に

 18年前に創業したというニコ・パートナーズは、アジア地域におけるマーケティング・インテリジェンスに特化したリサーチ会社で、今年からはインドと日本がその調査対象に加わったそうだ。ハンセン氏のセッションでは、中国を中心としたアジアのゲームマーケットがどのような状況にあるか、その数字の解説がなされた。

中国ではeスポーツ人口が急増

 ハンセン氏が最初に掲げたのは、“2018 Honor of Kings Champion Cup”で記録した736万6674人というストリームメディアにおける同時接続者数だ。これはテンセントが中国でモバイル向けに配信中のMOBA『Honor of Kings』の年間チャンピオンを決める大会の模様を中継したときのもの。中国ではPCとモバイルを含めたゲームの市場規模が155億ドル以上もの市場規模に達し、ゲーマー人口は3億2000万人もいるという。

 eスポーツに限っても60億ドル以上もの収入を各企業にもたらし、2023年には100億ドル近くにのぼると予想されていると、ハンセン氏。eスポーツはゲーム産業の中でも成長が著しく、PCゲームにおいてはいちばんの収入源になっているという。同社が調査対象としたPCゲーマーのうち、中国では49.6%がアマチュアないしはプロのeスポーツ大会に参加した経験を持つとのこと。つまり、半数以上がeスポーツに興味を持っているということになるわけだ(詳細は後述)。

 しかし、それほどの好調を誇りながらも、規制の多い中国でゲームをリリースする際には、いくつものステップを踏まないと政府のライセンスを受けられないという。2018年において9ヵ月間に渡って規制をクリアしたタイトルはゼロという状態が続き、2019年も同様だそうだ。

 その一方で、国外からの輸入タイトルも盛んに遊ばれている。2018年においてはPCゲームにおける収入のうち、60%は海外タイトルであったそうだ。中国が輸入しているゲームタイトルでは、アメリカや韓国を遙かに超えて日本のタイトルがもっとも遊ばれているとのこと。こうしたゲームに関する中国と日本の“強い繋がり”をハンセン氏は「調査すべき」と語った。

 ニコ・パートナーズは中国におけるゲーム産業は大きなビジネスチャンスを迎えていると見る。モバイルゲームはPCゲームを上回る成長速度を見せ、前述のように2018年では156億ドル近い金額だった収入は、2023年には255億ドルになる見込みだ。予想よりも多少成長率が鈍ったとはいえ、この市場規模の絶対的な大きさは無視できるものではない。

 モバイルゲームだけに視点を絞ってみても、2023年には中国ではプレーヤー数が7億2800万人に達する見込み。モバイルゲームを使ったeスポーツ市場は2018年に56億ドル、2022年までにはその倍にあたる106億ドルになるそうだ。

モバイルを中心にアジアではeスポーツが急成長

 インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、台湾と、同社は中国以外にこれら7ヵ国も調査対象としている。この7ヵ国の市場を合計すると、PCゲーマーは1億8700万人に上り、その市場は30億ドル以上。PCゲーマーのうち、eスポーツタイトルをプレーしたり大会に参加する人の割合は、95%にも上るという。

 現在はこれらの地域におけるインターネット普及率は77%だが、間もなく100%近くに達する見込み。そうなった場合、いまよりさらにゲームを楽しむ人の層は広がると見られている。これらの地域でもやはりPCゲームよりモバイルゲームのほうが成長率が高く、より大きなビジネスチャンスになるだろうとハンセン氏は語った。

 ハンセン氏によれば、これらの地域においてはPCゲームよりもモバイルゲームのほうがユーザー数が多いということになるようだ。モバイルゲームのユーザー数は、2019年は2億2700万人、それが2023年には2億9000万人と約3割の増加。収入ベースで見ると、2019年が28億9000万ドル、2023年には約52億ドルへと成長することが見込まれている。これらの地域ではモバイル用のeスポーツタイトルを遊んだり大会に参加した人の割合が90%と非常に高いことも大きな特長だ。ちなみに、スマートフォンユーザーの数は、2019年が5億2700万、これが2023年には6億7900万人にもなると言われている。

 ハンセン氏は2019年4月にタイのバンコクで開催されたeスポーツ大会の会場写真をスライドで紹介。そこには広い会場に詰めかけた多くの観客が写っていた。この大会にはタイ国内だけでなく他国からの来場者も非常に多かったという。eスポーツの大きな大会は観光業と結びつくことで、多くの人たちが国境を越えた交流を生むきっかけになることがひとつの大きな特長であるという。

 eスポーツは世界的にゲーム産業の大きな駆動力になっていて、アジアではとくにその傾向が強い。ハンセン氏はアジアがeスポーツにおける世界の中心であり、インターネットカフェや大会運営、ストリーミングメディアの活用方法など、あらゆる側面で世界はアジアからさまざまなノウハウを学んでいると語った。そのうえで、日本を含めたアジア諸国が海外へとゲームを輸出する場合には、大きな視点を持つことが大事であり、“サービス”として、その専門知識も含めて輸出するべきであるというのが、ハンセン氏の持論だ。

eスポーツの持つ特質とアジアにおける傾向

 ハンセン氏の話はビジネスから見たeスポーツの特質についても及んだ。

 eスポーツの競技種目として扱われることで、ゲームタイトルの寿命は格段に伸びる。これはパブリッシャーとしても歓迎するべきことで、投資した金額の回収率が高くなるだけでなく、人気が出れば国境を越えてプレーされるようになり、さらに大事な収入の源泉となり得るというメリットは無視できない。

 現在は政治的な分断など世界は不安定な状況にあるが、こうした状況の中、国境を越えてユーザーが交流を結ぶeスポーツは、世界の平和につながる存在であることも喜ぶべきことだとハンセン氏は語った。

 また、ゲームタイトルのパブリッシャーだけでなく、大会運営者やインターネットカフェの経営者、インフラ設備会社、ストリーミングメディア、チームや大会のスポンサー、アパレル業者なども含んだ広範なエコシステムを構築するという点もハンセン氏は指摘。こうした各セグメントが今後、eスポーツという産業を支えることになるだろうと述べた。

 市場規模の広がりは、大会の賞金額にも表れている。ペンシルバニアで開かれた『フォートナイト』のトーナメントで支給された優勝賞金は、テニスのウィンブルドン選手権のそれよりも高かったことをその一例として挙げた。

 こうしたeスポーツの価値や社会への波及効果を定量化することは難しいとしつつも、ハンセン氏はこれらのデータや動向、具体例についても触れる。

 中国だけでもeスポーツチームは5000、プロレベルの選手の数は10万人もいるそうだ。そのファンに至っては2018年の時点で3億人以上、2020年には3億5千万人に達するとのこと。東南アジアでは観光業と結びつくことでeスポーツが大きな産業と化している状況を受け、中国では各都市がeスポーツの大会開催地になるべく動き出しているという。とくに成都、杭州、上海をはじめ、中国の各都市の政府ではeスポーツを職業として認可する方向で、eスポーツのハブ都市化を目指しているそうだ。

 中国や東南アジアに数多く見られるインターネットカフェは、当初は家庭にブロードバンド回線やPCがない人たちが集う場所だった。しかし、どちらの普及率も向上したいまでは、同好の士が集い、eスポーツ大会が開かれるような場として、また違った発展を遂げつつあるのも近年の傾向とのこと。

 eスポーツを巡る出来事として、ハンセン氏は政府や大学がeスポーツのサポートを開始したことも挙げた。これはアジア地域だけに限ったことではなく、アメリカでも大学がリアルスポーツと同様に“スポーツ”として認可し、奨学金を提供するような動きが始まっているという。

 eスポーツという産業においてはストリーミングも重要な要素。これによって何百万人もの人々が大会をライブで鑑賞でき、さらに多くの人々がeスポーツを実践する流れを生み出している。また、ストリーミングの映像からプロ選手の技術を直接的に学べる点もeスポーツならではの特長であるとハンセン氏は述べた。

 eスポーツの隆盛によってインフラ整備も進んでいる。アメリカではシネコンを転用してeスポーツ用のスタジアムを整備し、複数のeスポーツ大会を併催したりといったことも起きているという。

 また、マレーシアの航空会社エアアジアはeスポーツのサポートだけでなく、自らチームを運営したり、アメリカのショッピングセンターや機内でeスポーツ大会を開催したりといったサービスも実施しているそうだ。eスポーツへのこうした取り組みは若年層に対するブランディングとして機能し、人材発掘にもつながっている。「エアアジアで働きたい」という有能な人材が指数関数的に増えているとのこと。

日本におけるeスポーツ市場について

 ニコ・パートナーズは2020年から本格的に日本でのeスポーツ市場の調査を開始する。いままでは日本から海外へ進出する企業の手助けをしてきたが、調査が進めば海外から日本へ進出する企業への協力も可能になるという。

 日本ではPCゲームよりも家庭用ゲーム機の市場のほうが強い。いままではこの状況がeスポーツにおける制約として働いていた面があるとハンセン氏は語った。しかし、これからはeスポーツにおいて家庭用ゲーム機の重要性が増していき、同時に日本でのeスポーツビジネスには大きな期待が持てるという。

 2017年の時点で日本のeスポーツ市場は340万ドルという規模。これが2022年には9080万ドルに達すると言われているそうだ。ハンセン氏によれば、これは他社の調査による数字だそうだが、日本のeスポーツ市場が爆発的に成長するひとつの証拠と言える。

 日本のeスポーツの特長としては、対戦格闘やパズルゲームの支持が高いこと。そして、パブリッシャーのeスポーツへのサポートがマーケティングの経費として計上されている点が挙げられる。eスポーツの熱心なオーディエンスがいるうえ、すでに7000万台ものスマートフォンが普及していることからも、日本でのチャンスは大きい。しかも、各都道府県の単位でeスポーツの協会や連合支部などがある点も普及に拍車をかけるだろうとハンセン氏は予想している。

 ハンセン氏はさらに「“ESCONF TOKYO”の主催者であるバンタンも日本のeスポーツの発展に大きな投資をしている企業のひとつ」と言葉を続けた。ほかの企業を見ても、eスポーツ産業への投資に加え、eスポーツに関係するビジネスであったり、eスポーツタイトルのクリエイターをはじめとする人材育成にも投資が進んでいるのが現状だという。

 パブリッシャーに目を向ければ、カプコンが東京ゲームショウの中で“CAPCOM Pro Tour”を、バンダイナムコゲームスは“鉄拳ワールドツアー”を、そしてKONAMIも『ウイニングイレブン』でサッカーゲームのeスポーツリーグを開催。ほかにも大小の大会が開催されていて、『荒野行動』では50万人以上のプレーヤーがトーナメントに登録している。

 これからの日本のeスポーツ市場を考えるうえにおいては海外からの投資も重要だそうだ。NetEaseは人々がゲームに熱中する理由を日本から学び、その結果として『荒野行動』を日本で展開。成功に結びついた。また、アメリカの著明なeスポーツ大会“The Evolution Championship Series(エボリューション・チャンピオンシップ・シリーズ、略称:EVO)”は、アメリカ以外では初となる日本での大会“EVO Japan”を2018年から開催している。

 eスポーツを巡るさまざまな動きが日本では加速している。現時点では中国や東南アジアのeスポーツ市場はたしかに日本よりも大きい。しかし、日本のeスポーツ市場は、短期間で世界に肩を並べ、世界を主導していくことになるだろうというのがハンセン氏の意見だ。

今後は世界的にモバイルeスポーツが人気に

 ここまでアジアを中心にモバイルゲームでのeスポーツが高い伸び率を示していると語ってきたハンセン氏だが、その傾向は実はアジアに限ったことではない。

 世界を見るとeスポーツにおけるモバイルゲーマーは25億人以上いるのに対し、PCゲーマーは10億人、コンソール(家庭用ゲーム機)ゲーマーは500万人が存在。やはりモバイルゲーマーが世界単位で見てもeスポーツ発展の駆動力になっているという。

 モバイルeスポーツではコアなゲームだけではなく、カジュアルなゲームも盛んで、多彩なコミュニティを形成。ソーシャルメディアやライブストリーミングでの視聴者数、さらにはリーグやトーナメントといった大会も増え、メジャーなeスポーツチームでもモバイルゲームのチームを結成する動きが増えているとのこと。インターネットカフェにもその影響は出ていて、一角にモバイルeスポーツのコーナーを設けるようなケースも増えているそうだ。

 また、ハンセン氏は多くのゲーム関係者同様、5Gの登場はモバイルeスポーツに大きな影響があると見ている。ビジネスサイド、つまりゲーム以外のジャンルにおいても5Gは大きな力を示す可能性は高いが、ゲームにおいてはさらにその影響は大きく、モバイルゲームは5G普及におけるキラーアプリとなり得るという。さらに、「自分は技術畑の人ではない」と断ったうえで、5Gの時代になれば、これを利用するモバイルeスポーツ向けのゲーミング専用スマートフォンも開発されるだろうとハンセン氏は予測する。

 モバイルeスポーツは現在ブームと言っていい状況にあり、eスポーツというニッチな産業をマスなものへと押し上げる役割を担っている。開発側から見れば、コストや参入障壁が低いというメリットがあるうえ、インストールされる率も高く、どこでも遊んでもらえる。オープンな大会も数多く開かれ、ハンセン氏によればアップルストアの一角でモバイルeスポーツのトーナメントが開催されたりといった実例も出てきているという。ほかにもカーディーラーが集客のためにモバイルeスポーツ大会を開催したりといったこともある。

 モバイルeスポーツではアプリ上で広告収入を得ることも可能なモバイルゲームならではの収益構造も手伝い、新たなビジネスモデルを生み出しつつある。大会を観戦するだけでなく、参加も容易なモバイルゲームでは、eスポーツの観戦人口だけでなく、参加者数も引き上げる長所もあるとハンセン氏は語った。

 ハンセン氏はまとめとして、ゲーム市場としては世界的に見てアジアが最大規模であることや、モバイルゲームがその市場を開拓する役割を担っていること、eスポーツにおいてはPC用eスポーツゲームのトップ5のうち3つが、モバイル用ではトップ5のうち4つがアジア発のタイトルであること、そして急成長が望める日本のeスポーツ市場の重要度は今後大きく高まるだろうといったことを述べ、講演を締めくくった。