世界最速のeモータースポーツドライバーを決する大会が伝統のモナコで開催

 インディ500、ル・マン24時間と並び、世界3大レースのひとつでもあるフォーミュラ1・モナコGPが開催されるモナコ公国。

 モナコと言えば、世界中のセレブが集まるリゾート地、カジノ、グレース・ケリー公妃など、さまざまなイメージが思い浮かぶだろうが、モータースポーツの聖地のひとつとしても知られている。

F1の名物コースとして知られるモナコだが、市内のそこかしこにF1コースの名残が見てとれるのは、市街地コースならでは。クルマやバイク、自転車はもちろん、徒歩でもF1コースを回ることができる。

 そんな伝統と格式あるモナコで、2019年11月22日〜24日(現地時間)の期間、『グランツーリスモSPORT』(以下、『GT SPORT』)を用いた世界大会“FIA GTチャンピオンシップ 2019 ワールドファイナル”が行われた。

 本稿では、今回のイベントで発表された内容や各レースの詳報、ウィナーインタビューなどを紹介。おもなトピックは以下の通り。

  • 有料追加コンテンツ、“ルイス・ハミルトン タイムトライアルチャレンジ”発表
  • マツダのパートナーシップ発表&“RX-Vision GT3 Concept”デザイン公開
  • マニュファクチャラーシリーズ・レース詳報&優勝チームインタビュー
  • “ランボルギーニV12 ビジョングランツーリスモ”アンヴェイル&コンセプト解説
  • ネイションズカップ・レース詳報&トップ3ドライバーインタビュー
本大会は、昨年より開幕した世界自動車連盟(FIA)公認世界選手権の2シーズン目となるもので、アジア地区、オセアニア地区、欧州・中東・アフリカ地区、北米地区、中南米地区の各国・地域の代表ドライバーたちがモナコの地に集結。FIAが公認するレースということは、世界最高峰のモータースポーツと称されるフォーミュラ1世界選手権(F1)や、世界らラリー選手権(WRC)と同等の格式が与えられているということになる。
イベント会場は、地中海に面する位置に構える巨大リゾートホテル、モンテカルロ・ベイに隣接した複合施設、SALLE DES ETOILES(サル・デ・ゼトワール)。
会場前には『GT SPORT』のイベントらしく、スーパースポーツカーが勢揃い。会場だけでなく、街中の至る所に高級車が当たり前のように走っているのもモナコならでは。
ステージ前には、チャンピオンに手渡されるトロフィーが鎮座。『GT SPORT』のオープニングでもおなじみの、ウンベルト・ボッチョーニ氏が手掛けた歴史的彫刻“空間における連続性の唯一の形態”を再現したトロフィーとなっている。

 モータースポーツとは、エンジンやモーターといった動力源を持つ乗り物を人間が操り、速さを争う競技となっており、自動車の誕生とともに進化・発展を続けてきた伝統ある“スポーツ”である。

 その種類は使用する車種やレギュレーション、走行フィールドなどによってさまざまなカテゴリーが存在しているが、昨年(2018年)よりレーシングシミュレーターを用いた“eモータースポーツ”が、新たにその仲間に加わった。

 一部の人の中には、「モータースポーツって、スポーツなの?」という疑問を持つ人もいるだろう。そういった人は「ただクルマに乗って走っているだけで、結果はクルマの性能次第でしょ」といったイメージを持っている人がいるかもしれない。

 しかし、クルマ(あるいはバイクなど)といった道具を使うとはいえ、そういった要素はあくまでも副産物でしかなく、本質は人間どうしの極限の戦いそのもの=スポーツなのである。

レース中のeモータースポーツドライバーの心拍値は、時には160を超える状態まで上昇する。また、比較的涼しい会場内にも関わらずレース後は汗だくになるなど、見ているだけでその激しさが伝わってくる。これをスポーツと言わずして何と言えばいいのだろうか。

 これは、ここ数年で徐々に関心度が高まっているeスポーツ全般に共通しているテーマとも言えるが、ことモータースポーツに関して言えば、近年はマシン開発に高度なレーシングシミュレーターが導入されており、ドライバーの実践的なトレーニングにも用いられている。

 (ステアリングコントローラを使うという前提が必要だが)操作法やテクニック、レース戦略なども本物のレースとバーチャルレースはまったく同じであることから、モータースポーツはバーチャルなゲーマーとリアルなドライバーの存在がもっとも近いと捉えることもできるだろう。

F1の6TIMEチャンピオンにして、現役最強のトップドライバー、ルイス・ハミルトンが会場に降臨

 イベント初日にはモータースポーツの最高峰、F1で6度目のワールドチャンピオンを獲得したばかりのルイス・ハミルトン選手がゲストとして登場。『GT SPORT』の新たな追加コンテンツ、“ルイス・ハミルトン タイムトライアルチャレンジ”が発表された。

数多くあるF1の記録を塗り替える勢いと活躍を見せ、史上最強のドライバーとの呼び声も高い英国人ドライバー、ルイス・ハミルトン選手。

 ステージ上ではルイス・ハミルトンと昨年の“FIA GTチャンピオンシップ”ネイションズカップチャンピオンのイゴール・フラガ選手がチームを組み、各国のメディア代表+『GT SPORT』ドライバー勢によるエキシビションレースも実施。

 レースのコースはルイス選手も走り慣れているスパ・フランコルシャンサーキット。いきなりのレースだったためかオープニングラップこそ多少のミスが見られたものの、2周目以降はスムーズなラップを披露。

 ちなみにレースの周回数は5周で、ルイス・ハミルトンとメディア勢がスターターを務める。2周ないし3周でドライバーを交代し、『GT SPORT』ドライバーがフィニッシュするというルールが採用されていた。

 当然、メディア勢は2周でピットインし、残る3周を『GT SPORT』ドライバーに託すという戦略を採用していたが、ルイス選手は3周を走りきったタイミングでイゴール選手に交代。1周は『GT SPORT』ドライバーを相手にするという状況に身を置きながらも、3位フィニッシュという好成績を収めた。

リアルモータースポーツのトップカテゴリーの世界チャンピオンと、eモータースポーツの世界チャンピオンがタッグを組むという夢の競演が実現。憧れの存在を前にしたせいか、イゴールもどこかうれしそうに見えるが、走行中はふたりとも真剣な表情に切り替わるのはさすが。

 ルイス選手のセッションのあとは、ネイションズカップの決勝レースに出場する選手を決める準決勝戦を開催。36人のドライバーが3つのグループに分かれてレースを行い、それぞれのグループの上位3人が決勝戦に進出。また、各レースの4位〜7位の3人(×3グループ)が敗者復活戦に回り、上位3名に決勝戦参加資格が与えられた。

 準決勝戦には、ワールドツアー第5戦の東京でチャンピオンとなった國分諒汰選手と、ワールドツアー第4戦のレッドブル・ハンガー7で2位表彰台を獲得した宮園拓真選手、昨年のマニュファクチャラーシリーズで5位の成績を収めた菅原達也選手ら、3人の日本人ドライバーが挑戦。

 國分選手と菅原選手は残念ながら決勝進出はならなかったが、宮園選手は堂々の走りを披露して決勝のチケットを獲得。日本人初の戴冠に期待が高まることに。

ネイションズカップ決勝進出を果たした12人のドライバーたち。宮園選手(右から3番目)のライバル勢には、昨年のヨーロッパチャンピオン、ミカイル・ヒザル選手(右端)、これまで無冠ながらつねに上位争いに食い込んでくるコディ・ニコラ・ラトコフスキー選手(右から2番目)など、経験も実績もある強敵が勢揃い。

マツダが“FIA GTチャンピオンシップ”の次期シーズンに向けたパートナーシップを発表

 続けてステージ上では、マツダがパートナー参戦を表明し、“RX-Vision GT3 Concept”のデザインが公開された。

 こちらのマシンは、次期チャンピオンシップに向けて登場するとのこと。スペックなどの詳細に関しては明かされることはなかったが、RXの名を冠するマシンだけに、新たなロータリーエンジンの搭載を期待したいところだ。

サイドフェンダー部には、マツダが2010年より提唱しているデザイン哲学、塊動(こどう)の文字が見られる。塊動デザインは、“クルマに命を与える”ことを目的に、日本の美意識を礎に“新たなエレガンス”の表現を追求したもの。

世界最速の自動車メーカーはどこになるのか? マニュファクチャラーシリーズ決勝戦

 イベント2日目には、自動車メーカーを代表して最速を競い合うマニュファクチャラーシリーズ決勝戦を開催。同レースには山中智瑛選手(TOYOTAチーム)、滝田歩夢選手(ASTON MARTINチーム)、吉田匠吾選手(Alfa Romeoチーム)、加藤達彦選手(Audiチーム)、水野航希選手(Chevroletチーム)と、5名の日本人選手が出場。

 国内トップドライバーとして活躍する山中選手が所属するTOYOTAチームには、昨年のネイションズカップワールドチャンピオン、イゴール・フラガ選手(ブラジル)と、2019年のワールドツアー第2戦・ニュルブルクリンクで3位表彰台を獲得しているライアン・デルッシュ選手(フランス)という実力者が勢揃い。

 結果、TOYOTAチームが堅実なレース運びを見せ、2019年のマニュファクチャラーシリーズワールドタイトルを獲得した。

 優勝をしたTOYOTAチームへのインタビューは、次ページにて紹介している。

最終日はランボルギーニVGTの発表とネイションズカップ決勝戦を開催

 イベント最終日は、国・地域別の代表選手が個人タイトルを賭けて競い合うネイションズカップ・決勝戦を開催。しかし、その前にイタリアの名門マニュファクチャラー、ランボルギーニによる新たなビジョン・グランツーリスモの発表が行われた。

 ビジョングランツーリスモとは、『GT』と自動車メーカーによるコラボレーション企画で、各メーカーが独自に考えるコンセプトデザインカーを、『GT』内に登場させるプロジェクトとして、2013年よりスタート。

 以降、数多くの“ビジョングランツーリスモ”マシンが登場してきたが、今回のモナコではイタリアのスーパーカーメーカー、ランボルギーニの手によるニューマシン、ランボルギーニV12 ビジョングランツーリスモが公開された。

“FIA GT チャンピオンシップ2019”の会場内に、初日からベールに包まれた状態で置かれていたマシン。ベール越しでも、そのシルエットと佇まいから只者ではないオーラがひしひしと伝わってくる。
ネイションズカップのイベント開始前に、ランボルギーニV12 ビジョングランツーリスモがアンヴェイルされた。

 今回のランボルギーニV12 ビジョングランツーリスモの発表を前に、ランボルギーニのデザインセンターでデザイン長を務めるMitja Borkert氏にお話を聞く機会が得られた。

 出会ってすぐ、Mitja氏は「私もデザインチームのスタッフも皆、『GT』の大ファンでして、この世界に私たちのクルマが登場するというのは、すごくエキサイティングなことです」と、今回コラボレーションができたよろこびをアピール。

 さらに、1971年にマルチェロ・ガンディーニ(※)が手掛けたカウンタックがランボルギーニのDNAとして現在まで根付いており、今回のビジョングランツーリスモにおいても、このDNAを継続することが重要だったと説明してくれた。

※マルチェロ・ガンディーニ……カーデザインだけでなく、家具やヘリコプターなど、多岐に渡るデザインで名を馳せたイタリアの伝説的デザイナー。ランチャ・ストラトスやランボルギーニ・カウンタック、ランボルギーニ・ディアブロなど、世界的な名車をデザイン。ウェッジシェイプデザイン=くさび形や、ホイールアーチの形状で独特のデザインセンスを発揮し、それらの意匠はいまもランボルギーニのDNAとして受け継がれている。

 ここで、Mitja氏はおもむろにペンを取りだし、手元にあったラフ用紙にスケッチをし始める。以下に、スケッチをしながらMitja氏が解説を行ってくれたランボルギーニのデザイン・アイデンティティや、今回発表されたランボルギーニV12 ビジョングランツーリスモのコンセプトなどを紹介していこう。

取材中、突然目の前にあった白紙に殴り書きのようにスケッチを始めるMitja氏。

Mitja氏
「ランボルギーニのDNAというのはすごくシンプルです。まずは、僕らが“ガンディーニライン”と呼んでいるシルエットラインがあります。これは、誰が見ても「ランボルギーニでしかあり得ない」と感じ取ってもらえるものです」

「また、フロントビューのアングル、リアへと広がっていくラインなど、簡単なものに見えるかもしれませんが、簡単であるが故、自動車業界でいちばん強いDNAとして存在していると私は思っています」

スケッチをもとに、ランボルギーニの魅力を伝えてくれるMitja氏。ちなみに、このあとに海外メディアの取材が控えていたのだが、当初予定されていた時間を押してまで熱心に説明してくれていた。

「今回のデザインは、そのDNAを受け継ぎながら、限界を超えるようなものを目指しました。ランボルギーニV12 ビジョングランツーリスモは『GT SPORT』でレースをするためのクルマなので、シートはひとりが集中して走れるようにシングルシーターになっています」

「クルマのセンターは未来的なモノコック形状で、ジェット機のようなキャノピーになっています。インストルメントパネル(ダッシュボード&メーター表示部)も従来のようなものではなく、目の前にホログラフィックが浮かび上がるようなプロジェクションパネルを用意しました」

「これは今後5年、10年先を見据え、もっとインタラクティブに、ユーザーとクルマが対話できるようなものを目指して考えたものになります。このパネル上に、ドライバーに最適な走行ラインを表示したり、音声ガイダンスでブレーキングポイントを教えるなど、ユーザーインターフェースの面でもつぎのビジョンを実現しています」

「パワートレインは、フランクフルトモーターショー2019で発表したSian(シアン)のもの(V型12気筒エンジン+48V eモーターハイブリッド)を使っています」

「さらに詳細なディティールについて説明すると、これまでにマルチェロ・ガンディーニが作った名車に含まれていた、ヘキサゴン(六角形)の形と、Y型をデザインの中に取り込んでいます」

「リアセクションも、フォーミュラEにインスピレーションを受けた、クレイジーなウィングが付いています。それらが、Y時型のシェイプにまとめられているので、後ろからみたらすぐに「このクルマだ」ってわかってもらえるでしょう」

こちらがMitja氏が取材中に描いてくれたデザインスケッチと、実際に公開されたランボルギーニV12 ビジョングランツーリスモのサイドシルエット。こうやって説明を受けたうえであらためて見てみると、カウンタックから連綿と受け継がれているランボルギーニのDNA=ガンディーニラインが共通していることがよくわかはずだ。
こちらは実際に会場でアンヴェイルされたランボルギーニV12 ビジョングランツーリスモの勇姿。Mitja氏の言うように、未来的なデザインを採用しながらもひと目見てランボルギーニとわかるスタイルにまとめられているのは流石。
シルエットスタイルこそランボルギーニであるものの、外側から見た限りではフォーミュラカーのコックピット&エンジンを収めたメインシャーシ部とタイヤが独立してるかのような構造で、それぞれをランボルギーニデザインでフルカバードしたかのようなスタイルとなっている。
Mitja氏が語るように、リアセクションは独特のデザインを備えつつ、迫力満点。実際に走る姿を見るまでもなく、とてつもない速さを内に秘めている感がひしひしと伝わってくる。

 時間も押している中、最後まで丁寧に対応してくれたMitja氏は「ランボルギーニは昔、マルチェロ・ガンディーニが作ったデザインをいまでも継承し続けられているという、すごく幸運なブランドです。私たちはそのデザインがあるからこそ、いまでもクールで、ラグジュリアスで、若い人たちにインスピレーションを与えるようなものを提供し続けられています」と締めくくってくれた。

世界一のeモータースポーツドライバーを決めるネイションズカップ決勝戦

 イベント最終日は、世界最速のeモータースポーツドライバーを決めるといっても過言ではないネイションズカップ、決勝レースを開催。日本人ドライバーは前述の通り、宮園拓真選手が決勝進出を果たしており、レース開始前に行われた予選タイムトライアルでは3位のタイムを記録。

 ドイツのミカイル・ヒザル選手がポールポジション、2番手にはオーストラリアのコディ・ニコラ・ラトコフスキー選手がつける中で、宮園選手のセカンドグリッドのポジションを獲得。さまざまな思いが交錯する中、全4戦で競うファイナルレースがスタートした。

 1レース目、2レース目はハイレベルな攻防が展開。ミカイル選手が連勝する中で宮園選手はいずれも2位でフィニッシュし、好位置をキープ。続く3レース目、混戦の最中に宮園選手に痛恨のペナルティが与えられ順位が後退。ライバルのミカイル選手はこのレースも1位フィニッシュを決めており、宮園選手は7位フィニッシュと厳しい状況に追い込まれることに。

 最終の第4レースでは、宮園選手は7番手スタートから猛烈な走りを披露し、最終的なポジションを4位まで挽回。総合ポイントで3位表彰台を獲得することとなった。

 レースは、全4レースともミカイル選手が堂々の1位フィニッシュを決め、ワールドタイトルを獲得。コディ選手は第1レース、第2レースこそ4位と実力が出し切れなかったものの、第3レースと第4レースは2位フィニッシュを決め、総合2位の座を獲得した。

見事なレース運びでワールドタイトルを獲得したミカイル・ヒザル選手(写真中央)と、総合2位のコディ・ニコラ・ラトコフスキー選手(写真左)、総合3位の宮園拓真選手(写真右)。

 なお、最終のレースフィニッシュ時には、普段はクールな印象を与えているミカイル選手も、さすがに雄叫びをあげる一面を披露。念願のタイトル獲得のよろこびを爆発させていた。

 表彰台に上がった3選手へのインタビューは、次ページにて紹介している。