「MMO王に俺はなる!」

 ドンッ!!

 ちょっと違うし、MMO王は語呂が悪いな。

 「我が社は、世界最高のMMOゲームを作ることを目指しています」

 そんなスローガンを掲げるメーカーがある。PC版・コンソール版・モバイル版と、多数のプラットフォームで展開するMMORPG『黒い砂漠』の開発を手掛けているパールアビスだ。

 パールアビスはいま勢いに乗っている開発会社として注目を集めており、先日開催された韓国のゲームショウ“G-STAR 2019”において、同社の次期フラグシップMMORPGとなる『紅の砂漠』を始めとする新作4タイトルを一挙に発表。他の並み居る強豪メーカーを差し置き、G-STAR 2019に最大規模のブースを構えていたことからもその勢いを感じることができる。

『黒い砂漠』のパールアビスはMMOゲームの世界最高峰を目指す。そんな野望を持つプロデューサー陣にインタビュー_01
G-STAR 2019は、韓国・プサンのBEXCOにて開催。
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パールアビスはG-STAR 2019で最大のブースを構えた。新作『シャドウアリーナ』の闘技場をイメージし、ステージと試遊台を円形に設置。
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試遊や物販に長蛇の列ができるほど大盛況!

 発表内容や、新作についてのインタビューは下記の記事を参照されたい。

パールアビスの礎を築いた『黒い砂漠』

 独自の自社開発エンジンによる、開発スピードの速さこそが、パールアビス最大の強みだ。そのエンジンを最大限生かして生み出されたPC版『黒い砂漠』が2012年にサービスを開始。その後にコンソール版やモバイル版をグローバルで展開するに至る。

 『黒い砂漠』は中世ファンタジー世界を舞台にした“王道MMORPG”。高品質なグラフィックやバトルアクションの爽快さが魅力で、生活系コンテンツも豊富に用意されている。近年、MMORPGはモバイルでタイトルが多発して復興の兆しを見せる状況だが、下火になっていた時期にも『黒い砂漠』は多数のコンテンツを高水準で提供することでユーザーを獲得。カジュアルなタイトルに手を出さず、MMORPG1本で屋台骨を支えてきたというのは、無骨ながら(スマートではないが)実直さを感じる。自分、不器用っすから……的な。

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 そんなパールアビスとは、いったいどんな会社なのか? 『黒い砂漠』の各プラットフォームのプロデューサー陣に話を聞くことで、MMORPGに対する同社の考えや熱意が見えてきた。

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PC版『黒い砂漠』プロデューサー キム・ジェイ(J)氏(左)、次期プロデューサー チャン・ジェソク氏(右)

 『黒い砂漠』PC版は韓国を始め、日本を含むアジア、欧米などグローバルで展開。トータルで見るとサービスは“ド安定“しており、一定の接続数を保っている。「開発者が楽しめないものはユーザーが楽しめない」とし、つねに「どう飽きのこないものにするかを論議している」ことが、安定につながっている理由のひとつだという。そして、毎週のようにアップデートを重ね、新鮮なプレイ体験を提供していきたいとのこと。また、サービスを展開する各地域に合わせて仕様に変化を持たせるため、パブリッシャー(日本ではゲームオンが運営)との密なやり取りを行っている。

 日本はとりわけ特殊で難しい市場だとしながらも、そのぶんコンテンツがウケたときにはよろこびも大きい。「いつも勇気や元気をいただいています」と両氏は感謝を述べた。新クラス“ガーディアン”の準備も整いつつあり、早くお披露できるよう開発に努めたいとのことだ。

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コンソール版『黒い砂漠』事業総括 ジョン・クァンべ氏

 コンソール版は、プレイステーション4とXbox Oneでグローバル配信されている。コンソール版でも各地域のプレイヤーの嗜好に合わせたイベントの提供に力を入れているという。日本ではPS4版でローンチ後2週間、タイトルランキングトップを記録し、とくに重要視している市場だと語る。日本を含むアジア地域のプレイヤーはイベントひとつひとつに対する反響が大きく、「熱心にプレイしてくれることによろこびを感じています」とのこと。また、とくにGM(ゲームマスター)イベントが人気で、GMとチャットできるという点におもしろさを感じたプレイヤーが多かったようだ。

 PCがメインである韓国のゲーム市場において、コンソール版を開発することの理由については、「『黒い砂漠』のIPの力なら、コンソールやモバイルでもグローバル展開できると信じていた」と強気に語っていたのが印象的だ。今回、G-STARで発表された新作についてもコンソール版が予定されているものが含まれている。これまでの経験を生かして、コンソール展開できるものについては、随時対応したいと展望を語った。

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『黒い砂漠 MOBILE』プロデューサー チョ・ヨンミン氏

 モバイル版は、韓国で先行してサービスが開始され、2019年2月より日本で配信開始。西野七瀬さんが出演するTVCMでも話題になった。12月サービス予定のグローバル版では、すでに300万人以上の事前登録を達成している。

 モバイル版では、他のプラットフォームと同じく各地域に合わせたアレンジを重要視。日本では独自バージョンでのサービスが行われており、日本で好評だったコンテンツを韓国版に逆輸入するといったことも試行されている。また、モバイル版はスマートフォンというデバイスに合わせた調整も重要だという。ユーザーのプレイ傾向は変化しており、ユーザーの生活の中にスマホゲームがどんどん浸透しているとの分析から、とりわけプレイ時間が長くなりがちなMMORPGであることを鑑みて、長時間のプレイを強いない形でのコンテンツの提供を目指している。

 現在は、新コンテンツの“大砂漠”にもっとも注力しており、韓国で先行して実装して最適化を図り、その後に日本で配信される予定だ。個人的には、若年層が多いモバイル版のプロデューサーを、若く才気あふれる人物(ヨンミン氏)が担当しているのも興味深かった。

MMORPGへの並々ならぬこだわり

 さて、ここまで各プラットフォームでの展開や施策について聞いたが、それぞれのプロデューサーが口を揃えて強調していたのは、“開発スピードの速さ”が『黒い砂漠』、ひいてはパールアビスの“強み”であるという点だ。前述のとおり、これは自社開発エンジンを用いており、それを各プラットフォームのバージョンに最適化して開発を行っているからだ。

 このエンジンはプログラマ以外の、たとえば企画担当の人間でも触ることもでき、朝に会議で企画した内容が、夜にはデモ版として出来上がるようなスピード感で開発が可能とのことだから驚き。企画書などもなく、その工程をすっ飛ばして開発を行っているという。この例えが適当かはわからないが、いわゆるツクールのようにスコスコッとスクリプトを組めるエンジンなのかもしれない……(合ってる?)。

 そして開発スピードの速さは、フィードバックの速さに直結する。各プラットフォームでコミュニティーの声を大事にしており、フィードバックを迅速に行うことで、ユーザーとの信頼関係を強化していきたいとプロデューサー陣は語っていた。短期スパンで行われるアップデートもその一環だ。

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2019年7月にPC版で実装された新クラス“シャイ”。

 MMORPGへのこだわりについて聞くと、MOタイプのRPGやカジュアルゲームが流行っている中、「時代を追いかけるのではなく、時代を作っていく立場でありたい」。また「しっかりとしたMMORPGを作れる会社として成長したので、MMOというジャンルで時代を牽引していきたい」との答えがかえってきた。

「世界最高のMMOゲームを作る」

 『黒い砂漠』を基盤として、MMORPGをで成長してきたパールアビス。近年とくにモバイルで盛り上がりを見せているMMORPGというジャンル。ここに来て、再びMMORPG界隈が俄然おもしろくなって来た。発表された新作『紅の砂漠』は、パールアビスの代表作として新世代のMMORPGの形を見せてくれるだろうし、同じく新作の『ドケビ』は他タイトルとは一線を画する若年層をターゲットにしたモンスター収集型MMORPGとしての展開が楽しみだ。

 ついでに言えば、アクションバトロワ『シャドウアリーナ』も『黒い砂漠』から生まれたタイトルだし、『プランエイト』はMMOシューターとして『黒い砂漠』のナレッジが存分に生かされているという(個人的にはもっとも期待しているタイトル!)。

 さらについでに言えば、広大(すぎる)な宇宙を舞台にした『EVE Online』のCCP Gamesをパールアビス傘下に加えたことも記憶に新しく、両社のあいだでどんな融合が見られるのか、日本での再リリースはあるのか(2017年3月までネクソンがサービス)も期待したいところ。

 なんだかんだ難しいことを言わずとも、けっきょくは「みんなでワイワイ盛り上がれる」のがMMOタイトルのいちばんの楽しみ。パールアビスには、そのための“世界最高の”場所を提供してくれることに期待したい。

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パールアビス本社にも行ってきた!

 韓国のソウル近郊、アンヤンに拠点を構えるパールアビス。その本社におジャマしてきた。

 本社ビルは1棟まるまるパールアビスフロアとなっており、社員数の増加にともなって手狭になってきたことから、周辺のふたつのビルにもオフィスが入っている。そして現在は、1000億ウォン規模で新社屋を建設中とのこと。ワオ!

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ビル入り口では、『黒い砂漠』のマスコット的キャラクター“闇の精霊”がお出迎え。精霊ちゃん、秋仕様やん。

 パールアビスは自社エンジンや開発スピードがすごいというのはさんざん言ったが、もうひとつ、福利厚生にも力を入れている。入れすぎなくらい入れている。というのも、「社員に悩みがなければ、仕事に集中できる」という創業者のモットーがあるからだとか。

 福利厚生のいくつかの例を挙げると……、

・住宅手当、各種保険
・ビル内にあるカフェや食堂(3食つき)の利用は無料
・シャワー室、仮眠室、美容室まで用意
・歯科の医療費は年25万円まで支給(歯が痛いと仕事に集中できないから)
・子ども手当、学費補助、結婚手当、不妊治療補助など(一部、配偶者の家族まで適用!)
・独身者へのマッチングサービス補助(そこまでする!?)

 ビビる。正直ちょっと引くレベルで。韓国企業でここまで徹底しているところはない、らしい。

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おしゃれカフェ。コーヒー、紅茶などのほか、スイーツ系や季節のメニューなど豊富に取り揃える。社員のコミュニケーションの場でもあり、取材時にはCEOもフラっと現れて社員と会話をしていた。
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食堂では韓国メニューとインターナショナルメニューが選べる。この日の韓国メニューは参鶏湯(サムゲタン)でした。ウマーーッ!

 ビル内には3Dスキャンスタジオや、モーションキャプチャースタジオなどもあるのだが、この日は新作発表前ということで、ガッチガチのセキュリティーが施されていたので見学できず残念……。またの機会に訪れたい!

 とまあ、社員ファーストが過ぎるパールアビスだが、ここまで徹底するからこそ、社員が一丸となって“世界最高のMMOゲーム”を目指せるのかもしれない……と思ったり。

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おまけの休憩室写真。『鉄拳7』などのアーケード筐体があり、カップの中にプレイ用のコインが入っています。みんな大好き『NARUTO -ナルト-』や『ONE PIECE』も完備。

 ※見学はかなわなかったものの、スタジオのオフィシャル写真を掲載しておきます!

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3Dスキャンスタジオ
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オーディオルーム
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モーションキャプチャースタジオ