決勝戦は因縁の対決

 2019年8月14日~15日、“eスポーツ甲子園”とも言うべき大会が開催された。その名も“Coca-Cola STAGE:0 eSPORTS High-School Championship 2019”(以下、STAGE:0)。

 種目は『フォートナイト』、『クラッシュ・ロワイヤル』、『リーグ・オブ・レジェンド』(以下、LoL)の3部門。本稿では『LoL』部門のリポートをお届けする。

『LoL』因縁の対決を制したN高が初代日本一に! 大逆転にわいたeスポーツ甲子園“STAGE:0”リポート。激闘の末の涙にもらい泣き_01
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 なお、STAGE:0リポートは前後編になっていて、この記事は後編に当たる。大会概要や『フォートナイト』、『クラッシュ・ロワイヤル』についてまとめた前編もあわせてどうぞ。

劇的な決着を見せた『リーグ・オブ・レジェンド』部門

 『LoL』は何年にも渡って世界のeスポーツシーンをリードしているタイトルだ。日本にも“League of Legends Japan League”(通称、LJL。2014年に発足)というプロリーグがある。

 本作のジャンルはMOBA。ひと言で表すと“リアルタイムストラテジーとチーム戦の融合”だろうか。プレイヤーは140体以上いるチャンピオン(キャラクター)からひとりを選び、5人で協力して敵陣を攻め落とせば勝利となる。

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アルコ&ピース(中央)のふたりが大会を盛り上げる。“それほど詳しくない人目線”で実況・解説者に質問など、視聴者にわかりやすく伝えることに貢献。
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実況はeyes氏(左端)、解説はrevol氏(右端)。プロリーグと同じコンビが試合を盛り上げる。このふたりに実況・解説してもらえること自体が名誉である。

 決勝大会の形式は8チームによるトーナメント戦だ。準々決勝と準決勝は1本先取、決勝のみ2本先取。

 激戦をくぐり抜けて、角川ドワンゴ学園N高等学校(沖縄県代表。以下、N高)と岡山県共生高等学校(岡山県代表。以下、岡山共生)が決勝戦で会いまみえた。

 じつはこの2校には因縁がある。2019年3月に開催された“全国高校eスポーツ選手権”の準決勝で一度ぶつかっているのだ。そのときは岡山共生が勝利を収めている。

 全国高校eスポーツ選手権では、岡山共生は惜しくも優勝を逃した。彼らが悲願の優勝トロフィーを手にするのか。それともN高が雪辱を果たすのか。ドラマのある一戦となった。

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ステージ中央から選手が登場するかっこいい演出。

 勝負はチャンピオン選択の時点で始まっている。第1ゲームでは、攻撃的な編成のN高に対して、岡山共生はカウンター狙いの様相。試合はN高の狙い通りに運び、まずは一歩リード。

 そして、''運命の第2ゲーム。この試合が熱かった。

 僕はそれなりに『LoL』の競技シーンを見てきたが、その中でもベストゲームだったかもしれない。この1ゲームについては詳細リポートを書かせてほしい。

 2ゲーム目は岡山共生も仕掛けるチャンピオン構成を選んだ。N高も攻撃重視だが、得意な状況が異なっている。解説のrevol氏によると、岡山共生は大人数での集団戦、N高は2対2くらいの少数戦で力を発揮するという。この違いがどう試合に影響するか。

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 序盤はN高優勢で進んだ。細かいファインプレーの積み重ねでじわじわと差を広げていく。実況のeyes氏も思わず「N高、強い!」と感嘆するほど。

 それでも岡山共生は強気な姿勢を崩さなかった。エースプレイヤーの赤バフ選手が集団戦で3キルを獲得するなど、攻める攻める。

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ちなみに、岡山共生の赤バフ選手はプロチーム・Burning Coreに所属している。観客席には自作グッズを身に着けて応援するファンの姿も。

 解説のrevol氏は「岡山共生は5対5の集団戦に活路を見出すしかない」と分析する。『LoL』において、大規模な集団戦が発生するのは一般的に2パターン。バロン前とタワー(建造物)前だ。

 バロンとは試合開始20:00で出現する中立モンスターで、倒すと味方全体が強化される。試合をひっくり返す可能性を秘めているため、敵に倒される前に、みんなで集まって一気に仕留めることが多い。

 タワー付近もプレイヤーが集まりやすいポイント。タワーを破壊するために集合すると、それに対抗するために敵方も集まってくる。

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 バロンが出現する少し前、アルコ&ピースの平子氏が実況・解説のふたりに質問した。「いまは野球で言うと何回で、何対何ですか?」

 この試合は選手の親族たちが見ているかもしれない。中には『LoL』を知らない人もいるだろう。詳しくない人でも状況を理解できるように、ルールが広く知られている野球を引き合いに出す。すばらしい質問だと思う。

 実況・解説のふたりによると「6回裏が終わって、点は2対1くらい」。僕にはもっとN高有利に見えたが、実況・解説の目には僅差に映っていたようだ。

 試合は終盤に差し掛かろうというところ。N高が押しているものの、まだどう転ぶかわからない。

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 その後もN高の優勢は続き、得点を重ねて(タワーを破壊して)いったが、ここで岡山共生が仕掛ける。バロン付近で得意の集団戦に持ち込んで一気に4キルを獲得。そのままバロンを狙った。

 「バロンを取れたら逆転ホームランですね」(revol氏)という状況で、岡山共生はバロン撃破に成功。耐えに耐えて突入した7回、ついに岡山共生が逆転を果たした。

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 岡山共生の勢いは止まらない。キルを重ね、タワーを破壊し、N高の本陣にまで攻め入った。だが、決定力が足りない。岡山共生としてはもう一度バロンを倒して(6分ごとに復活する)自軍を強化し、盤石の態勢で最後のラッシュをかけたいところ。

 2度目のバロンの体力を順調に削り、誰もが岡山共生の勝利を確信したそのとき、試合が再度動いた。N高がスティールに成功したのだ。

 スティールとは、バロンなどに最後の一撃を決めて強化効果を横取りすること。試合が終わろうという8回、N高は絶妙なタイミングでスキルを放ち、勝利の可能性を手繰り寄せた。逆転につぐ逆転。もう誰にも勝敗を予想できない。

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 ここからは力と力のぶつかり合いだ。一進一退の攻防をくり広げたが、勢いで勝ったのは岡山共生。第2ゲームを取り返し、決着は第3ゲームに持ち越されることになった。

 野球には「いちばんおもしろいスコアは8対7」という考えかたがある。第32代アメリカ合衆国大統領フランクリン・ルーズベルトの発言に由来し、要は点取り合戦の末に決着するゲームは最高に白熱するというもの。

 野球で言うと、2ゲーム目のスコアはまさに8対7。興奮せずにはいられない。

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奇跡的な逆転劇に、観客席が沸いた。

 岡山共生の勝因は“エースプレイヤーである赤バフ選手のチャンピオン(ザヤ)が育つまで我慢できたこと”だという。

 『LoL』は試合ごとにチャンピオンを育成していくゲームだ。レベルを上げ、お金を貯めて強力なアイテムを買う。赤バフ選手は時間をかけて3つのキーアイテムを準備。岡山共生は試合開始から20分を越えた頃から徐々に盛り返していった。

 第3ゲームのチャンピオン選択を見た実況・解説のふたりは、ここでも似た展開になると予想。前半から試合をリードできるN高と、30分過ぎから爆発する岡山共生。N高が押しきれるかどうかが焦点だ。

 最後に勝ったのはN高のスピードと圧力だった。岡山共生の守りが崩れた瞬間を見逃さずに本陣を強襲。3ゲーム目を勝利で飾り、見事に岡山共生越えを果たした。

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感極まって涙を流す選手の姿もあった。ぎりぎりの状態で戦った彼らの安堵を思うと、僕も泣けてきた。
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優勝したN高に、岡山共生の応援団も惜しみない拍手を贈る。
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優勝した角川ドワンゴ学園N高等学校 KDG N1の面々。まりも選手、44O選手、vandolp選手、White And Pink選手、ぷりも選手、shoogun選手。
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優勝校には協賛各社から多くの賞品が贈られた。『LoL』大好きなアクション俳優ケイン・コスギ氏がプレゼンターとして登場したのは『LoL』部門ならでは。

若い世代のプレイヤーを盛り上げる

 STAGE:0は高校生を対象にした“eスポーツの甲子園”だという。

 高校生のeスポーツ大会というと、2019年3月にサードウェーブが“全国高校eスポーツ選手権”を開催している。ライバルなのかと思ったが、サードウェーブは本大会に機材を提供。友好関係を築き、みんなで若い世代を盛り上げようということだろう。プレイヤーが増えなければ、いま以上にeスポーツが流行ることはないからである。

 STAGE:0はテレビ東京の開局55周年記念企画だ。オープニングでテレビ東京 代表取締役社長の小孫茂氏は「ここからの主役は、選手の方々です」と述べた。「未来に向けてeスポーツを引っ張るのはあなた(高校生)たちです」という意味も込められていたのではないか。

 エンディングで第2回の開催も発表されたSTAGE:0。月並みではあるが、これ以上にふさわしい締めが思い浮かばないので、王道のひと言で終わろうと思う。

 これからも高校生ゲーマーたちの躍動に期待したい。

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