初代高校生日本一の座を手にするのは?
高校生が躍動するスポーツ大会といえば“夏の甲子園”が有名だ。
高校球児たちは野球を通して挑戦することの意義やチームワークの大切さを学ぶ。真剣に取り組むのなら、ゲームからも同様のことが学べるはず。
2019年8月14日~15日、“eスポーツ甲子園”とも言うべき大会が開催された。その名も“Coca-Cola STAGE:0 eSPORTS High-School Championship 2019”(以下、STAGE:0)。
コカ・コーラがメインスポンサーで、主催はテレビ東京と電通、会場は舞浜アンフィシアター。ゲームに青春を燃やす高校生のために、大人が本気で大舞台を用意したのである。
種目は『フォートナイト』、『クラッシュ・ロワイヤル』(以下、クラロワ)、『リーグ・オブ・レジェンド』(以下、LoL)の3部門。どれも世界的な人気タイトルだ。
『フォートナイト』はコンソール・PC・スマホといった全プラットフォームでプレイ可能なシューター、『クラロワ』はカジュアルに始めやすいリアルタイム対戦ゲーム(ストラテジー)、『LoL』はeスポーツとしては王道のMOBA。ジャンルのバランスがいい。
本大会はどの部門もチーム戦だ。同じ高校で2人1組(『フォートナイト』)、3人1組(『クラロワ』)、5人1組(『LoL』)でチームを結成。2019年5月から始まった全国7ブロックでの予選を勝ち抜き、3部門合計で58チームがオフライン決勝大会に駒を進めた。
エントリー総数は全1475校、1780チーム、4716名に及んだそうだ。高校の数は4800校ほどなので、全体のおよそ30%が大会に参加したことになる。
司会進行はテレビ東京のアナウンサー陣が務めた。ステージには鷲見玲奈氏、田口尚平氏、角谷暁子氏が登壇。鷲見玲奈氏と田口尚平氏はスポーツ番組“追跡LIVE!SPORTSウォッチャー”を担当しており、あくまでも“スポーツ”として見せたい意図が感じ取れる。
STAGE:0決勝大会の開幕を飾るタイトルは『フォートナイト』。巨大スクリーンにオープニング映像が流れた後、舞台に目を映すと、そこには白い学ランに身を包んだ応援団がいた。
彼らはダンサーだった。一糸乱れぬ踊りを披露したかと思ったら、突然BGMの曲調が変わる。高校野球の応援歌の定番、ピンクレディーの『サウスポー』だ。アップテンポなリズムにあわせて、つぎつぎと選手たちが呼び込まれていく。
夏・高校生・青春の組み合わせから、高校野球をイメージする人は多いだろう。選手たちの親やそれより上の世代はとくに。「STAGE:0を高校野球と同じような感覚で見てほしい」というメッセージなのかもしれない。
ちなみに、『フォートナイト』部門は42チームが決勝大会に出場した。1チームずつ紹介するとそれだけで20~30分はかかってしまうので、時間短縮の意味もあったと思われる。問題点を演出と結びつけて解消するあたり、コンテンツ制作能力の高さはさすがテレビ局である。
プロも驚くプレイが連発した『フォートナイト』部門
『フォートナイト』は世界中で大ヒットを記録しているバトルロイヤルシューターだ。
最大100人が同時に戦い、最後のひとり、もしくは1チームになるまで生き残るのが目的。本大会では基本ルールはそのままに3ラウンドを行い、ラウンドごとの順位や敵を倒した数をもとに順位が決定される。
実況は元朝日放送アナウンサーの平岩康佑氏、解説はプロゲーミングチーム・Crazy Raccoonオーナーのリテイルローのおじさん氏と同チーム所属のねこくん!氏が担当。プロの目に、高校生の活躍はどう映るのか。
さらに、スペシャルゲストとして三代目 J SOUL BROTHERSのELLY氏が登場した。ELLY氏は2019年7月開催の世界大会“フォートナイトワールドカップ”のプロアマ部門にねこくん!氏とコンビを組んで出場。世界の強豪たちを相手に27位という成績を収めている。
ELLY氏は「緊張していると思いますけど、全力で実力を出して勝利を勝ち取って、(この舞台に上がった参加者が)ゲーム界を盛り上げていくのを楽しみにしています。楽しんでいきましょう」と、選手たちにエールを送った。
競技性のシューターに本気で取り組むプレイヤーは20代くらいが多いのだが、『フォートナイト』の場合は年齢層が若めだ。中高生ほどの強豪プレイヤーも多く、本大会にもその強さを知られる選手が出場していた。
その強豪とは千葉県立下総高等学校のチームとうもろこし畑。プロのねこくん!氏が見入るほどハイレベルな戦いなのに、第1ラウンド、第2ラウンドと連続でビクトリーロイヤル(1位)をもぎ取ったのである。
『フォートナイト』は試合経過が運にも左右されるゲームだ。にも関わらず、3連続ビクトリーロイヤルを期待させるほど、第3ラウンドでも終盤まで生き残っていた。見事と言うほかない。
エリミネーションポイント(敵を倒して得るポイント)も安定して稼いでおり、『フォートナイト』部門の初代日本一は千葉県立下総高等学校に決定した。
トップレベルの頭脳戦『クラッシュ・ロワイヤル』部門
スマホ用のオンライン対戦ゲームとして高い人気を誇る『クラロワ』。
2017年に国際的なプロリーグ“クラロワリーグ”が発足し、日本のプロチームもアジアリーグに参加。2019年アジアリーグのシーズン1では日本のPONOSが優勝している。日本が世界と対等以上に戦えているタイトルと言っていいだろう。
STAGE:0の『クラロワ』部門は8チームによるトーナメント戦だ。1対1、2対2、1対1の順で3試合を行い、2勝で勝ち抜けとなる(決勝戦のみ各試合自体が2本先取の3セットマッチ)。
8枚のカードでデッキを組み、ユニットを送り出して敵陣のタワーを破壊するのが『クラロワ』の基本ルール。将棋のようにひりひりする頭脳戦をくぐり抜けて決勝戦でぶつかったのは、関西代表の関西大倉高等学校(以下、関西大倉)と関東代表の渋谷教育学園渋谷高等学校(以下、渋渋)だった。
全国7ヵ所の予選は関西から始まり関東で終わった。始まりのチームと結びのチームが決勝で激突。ドラマを感じるマッチアップだ。
注目の第1試合・第1セット。両者ともにカウンターが得意なデッキを組んでいたため、序盤はほとんど動きがなかった。我慢比べのような状況が続いたが、相手の行動を見てから攻めかたを変える巧みな戦いかたで渋渋のxShunTy選手が勝利。第2セットもxShunTy選手が安定した立ち回りを見せ、初戦の1対1を制した。
なお、xShunTy選手は決勝トーナメントで一度も負けていない。緊張をものともしない冷静さには驚かされる。
第2試合は2対2のチーム戦だ。実況の岸氏によると、『クラロワ』の協力バトルではどちらかが指揮官となって試合をコントロールするのが一般的。頭脳戦にコミュニケーションの要素が加わるため、練習量が実力に直結する。
第1セットの序盤は関西大倉がリード。守れば勝ちの状況を作り出したが、渋渋は連携プレイひとつでひっくり返す。優勝に王手をかけた。
続く第2セットはお互いに慎重になっているのか、静かな立ち上がり。関西大倉は守り重視のデッキで挑むが、それを上回るのが渋渋の攻撃だ。徐々に焦りが見え始めた関西大倉を押し切り、結果として4連勝で栄冠をもぎ取った。
ちなみに、関東ブロックの決勝出場枠はふたつ用意されており、渋渋は2位通過のチームだ。試合後には「敗北を知っているから、勝つことができた」と、慢心に気を付けたからこその勝利であると分析していた。
敗北を糧に成長する。サイヤ人みたいな優勝劇に、観客からは惜しみない拍手が贈られた。
8月14日に決着したのは以上の2部門。この記事は前後編になっていて、後編は8月15日に実施された『LoL』部門の模様をお届けする。『フォートナイト』や『クラロワ』に負けず劣らず、『LoL』部門も熱かった。
野球は筋書きのないドラマだと言われる。同様に、eスポーツも筋書きのないドラマである。そう感じさせてくれる熱戦がくり広げられた。後編もお楽しみに。