アーティスト色の強いテンタクルズ収録の裏側

 『スプラトゥーン2』の顔として、華々しいデビューを果たしたテンタクルズ。みんなのアイドル・シオカラーズとは対象的に、ヒメとイイダは独自の路線を走り続ける。ラッパーとDJという難しい役を演じきったのは、テンタクルズの生き写しと呼ぶにふさわしい、いとうりなとAliceのふたり。彼女たちが語る、テンタクルズの裏話とは……!?

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いとうりなさん
Aliceさん

いとうりな

テンタクルズ、ヒメを担当。バンド“ライターイチキューゼロイー”のボーカル、兼ギター。作詞、作曲家として楽曲提供も行うほか、アクセサリー作家としても活動中。

Alice

テンタクルズ、イイダを担当。シンガーソングライター。2010年に開催された、約15000人が参加するオーディションでグランプリを獲得し、デビューを果たした。

・いとうりなさんTwitter(@itourina)

・AliceさんTwitter(@AliceCharot)

「本物が出てきた!」お互いの第一印象

――まずは、テンタクルズ役が決まるまでの経緯をお聞かせください。

いとうオーディションですね。でもそのときは、タイトルは伏せられていたので、何のゲームかはわかっていませんでした。

Alice私もわからなかったです。

――オーディションでは、イカ語の歌などがあったのでしょうか?

Aliceありました。課題曲が用意されていて、現場でキャラクターのイラストや性格を教えてもらって、「それを踏まえたうえで歌ってみてください」っていう感じでしたね。

テンタクルズのヒメとイイダ。

――では「『スプラトゥーン』の続編かも」とうっすら思ったりしましたか?

いとうそうですね。私は『スプラトゥーン』を知ってたんで、イラストを見たときに「もしかして?」とは思っていました。

Alice私は知らなくて、「何このキャラクター。超かわいい」って言ってました(笑)。

――(笑)。課題曲は、テンタクルズの楽曲だったのでしょうか?

Aliceはい。『ウルトラ・カラーパルス』だったよね?

いとううん。ただ、どちらのキャラクターに決まるかわからないので、ヒメとイイダ、両方のパートを歌ったんですよ。イイダのパートのときは、「落ちたかも」って思いましたが、ヒメのほうはすごくやりやすかったから、めっちゃノリノリで歌ってました。

Alice私は逆で、ふだん歌っているジャンルがR&Bが多いので、ラップって聞いた瞬間にいかつくなっちゃうんですよ。任天堂の方からも「ちょっと強そうですね」みたいな感じで言われて(笑)。それでイイダのほうは、緊張していたのもありますが、かなりフラットに大人しく歌ってみたんです。そうしたら、「もっとブラックミュージックっぽく歌えますか?」ってリクエストが来て。「いつもの私でいいんじゃん!」って思って、今度は100%自分の歌いかたを出してみたら合格できたんです。

――本来の持ち味で合格したわけですね。おふたりは、オーディションでお会いしていたんですか?

いとういえ、オーディションでは会ってなくて、レコーディングで初めて顔を合わせました。

――初めて会ったときの第一印象は?

いとうレコーディングが始まるのを待っていたら、毛皮のコートを着たギャルがいて。「かわいいなぁ」とは思っていたんですが、まさか相方とは(笑)。でも、まさにイイダだなって思いました。

Alice私も、オーディションのときにキャラクターのイラストを見ていたんで、会った瞬間に「本物のヒメが出てきた!」って(笑)。

――お互い「本物だ」って印象だったんですね(笑)。イカ語の収録はたいへんだったと思うのですが、いかがでしたか?

JOYSOUNDで配信中の『スプラトゥーン2』楽曲のカラオケより。ヒメが歌うイカ語はひらがな、イイダが歌うタコ語はカタカナになっている。

Aliceホントにたいへんでした。当たり前だけど、そもそもイカ語しゃべったことないし(笑)。

いとう歌よりも、セリフのほうが難しかったですね。歌は、曲の仕上がりがすごかったので、感情の乗せかたさえわかれば、乗り切りやすかったです。

Alice声優としての仕事が初めてっていうのもありますし、ふだんしゃべっている言葉でもないので、」慣れるのにすごい時間がかかって。最初のセリフ取りは、りなちん(いとうりなさんのこと)といっしょにやったんですけど、1日仕事でした。

――いとうさんは、イカ語でのラップへの挑戦になったわけですよね。

いとうはい。そもそも、それまで私はラップの経験がなかったんですよ。これが初めてのラップだったので、イカ語のラップに苦しむということがなくて。逆にやりやすかった部分があります。ただ、「テンションをいちばん大事にしてほしい」と言われたので、テンションの入れかたにはすごく気を遣いました。

Aliceヒメちゃん、いっつもテンション高いもんね。

いとう収録中も「もっと上げましょう!」っていうオーダーが多くて、これでもかっていうくらいテンションを上げて臨んでました(笑)。

――収録の前に、前作の曲を聞いたりはしましたか?

いとう聴きましたね。

Aliceどのくらい声がケロケロするか(編注:声にエフェクトをかけること)、という参考で。

いとうあとはオーディションで録った歌に、エフェクトをかけたものを聴かせてもらったりもしたので、完成形のイメージはしやすかったですね。

――レコーディングはいっしょにブースに入っていましたか?

Aliceいえ、レコーディングはいつも入れ替わりでした。基本的に私がイイダちゃんのパートを先に録って、つぎにりなちん、という流れでした。

――テンタクルズの歌はテクニカルな印象なんですが、実際のレコーディングはスムーズでしたか?

Alice『ウルトラ・カラーパルス』などの、最初のほうに収録した曲は、比較的歌いやすかったです。でも、『オクト・エキスパンション』のときには、任天堂さんが“もっとできる”と思ってくれたのか、私自身あまりやったことがないテクニックが出てきたりして。具体的には、『ナスティ・マジェスティ』のがなり声のパートとかですね。収録のとき、譜面の指示に従いつつ、声出しを兼ねて2回ほど歌ったらノドがつぶれちゃって。なんとか録り終えたんですけど、これはいままでと違うなと。『ミッドナイト・ボルテージ』では「UK(イギリス)のEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージックの略称)っぽい、細いアーティストのような歌声でお願いします」みたいなオーダーもあったりして、すごく研究しました。

いとう私のほうは、“子どもが甘えるように”とか、“わがままを言っている感じ”とか、抽象的なオーダーが多かったなー。いまのアリちゃん(編注:Aliceさんのこと)の話を聞いてると、指示にもすごい違いがあったんだなって思いました。

Aliceへえー、そうだったんだ。

いとういつもアリちゃんが先に録ってくれてるから、そんなたいへんなことしてるって知らなかったよ。

Aliceまっさらなところに、テンション感も含めて全部を吹き込むから、けっこうハードルが高かったですね。でも、自分が思ったものを表現したら、すぐにオーケーをもらえることが多かったので、やりやすくはありました。

――曲が増えるにつれて、どんどんハードルが上がっていったわけですね。

Alice上がっていきましたね。『オクト・エキスパンション』より前の『フルスロットル・テンタクル』でスキャットするパートがあるんですが、あれはタコ語の歌詞が用意されていなくて、「Aliceさん、自由にやってみてもらえますか?」っていう私のオリジナルだったんです。そこがハマったときに、スタッフさんに「わーすごい!」って言ってもらえて。私の憶測ですけど、そこからハードルが上がったんじゃないかなって思ってます。

――なるほど。求められたものを超えたからハードルも上がったと。

Aliceうれしかったし、とても勉強にもなりました。いろいろな歌いかたをさせていただいたので。

――ヒメのラップは歌詞が用意されているんですか?

いとうはい。どのへんの音域で歌うかっていうのも、ある程度決まっています。ただ、どこでテンションを上げるかっていうのは、私の歌いかたで決まっていますね。

Alice語尾とかニュアンスとかね。

いとうそうそう。『フレンド・フロム・ファラウェイ』では、ニュアンスを大事にしすぎるあまり、リズムを間違えちゃったときもあって。ラップのところで三連符のようなところがあるんですが、譜面は違ったんですよね。でも、「譜面とは違うけど、そっちのほうがいいんじゃないか」という感じでオーケーをもらえて。『スプラトゥーン2』のときからいろいろと収録をして、だんだんと信頼関係が強まっているのを感じて、とても充実感がありました。

――ああ、それはうれしいですね。『オクト・エキスパンション』の収録は、『スプラトゥーン2』発売後だったと思いますが、ユーザーさんの反応や人気は認識されていましたか?

Aliceそうですね。感謝しかなかったです。

いとう大人気の作品とは知っていましたが、私にまでメッセージやイラストで想いを伝えてくださった方もいて、すごくうれしかったです。

Alice私も、いろいろな国の方からいろいろな言語でメッセージをいただいて、『スプラトゥーン2』やテンタクルズが世界中から愛されていることを実感しました。声をやっている私たちのところまでたどり着くなんて、すごい愛の深さですよね。

いとうたしかにイカとタコでもわかり合えるみたいなのを、そういうところで感じちゃうよね。日本語を知らない方が、一生懸命に日本語でメッセージをくれたりして。すごく感動しました。

――レコーディングの映像が公開されたときの反響はどうでしたか?

Aliceすごかったです。中の人を見てがっかりされたらどうしようっていうプレッシャーはあったんですけど、「ヒメとイイダそのまんまだ!」っていう声が多くてびっくりしました。

いとうホント、すごい反応で。びっくりしたよね。

多くの感動が生まれた『オクト・エキスパンション』

――おふたりの中で、とくに思い入れのある曲を教えてください。

Aliceどれも思い入れ深くて、選ぶのは難しいですね……。ひとつ挙げるとしたら、『オクト・エキスパンション』のラストバトルで流れる曲です。まず流れてくる『フライ・オクト・フライ』は、超ノリノリの個人的に大好きな曲。その後、『フルスロットル・テンタクル』が入ってくるんですが、このバージョンでは、歌詞に“スプラトゥーン”と響きのよく似たワードが入っているんですよ。「うわーっ!」って思って。作り手さんのテンタクルズに込めた愛情や、最初のレコーディングのころからいままでの思い出などが頭をよぎって、レコーディングのときから泣きそうになりました。実際にゲームで聴いたときもヤバかったです。

いとう私は『フレンド・フロム・ファラウェイ』ですね。曲の中に、自分たちが最初に歌った『ウルトラ・カラーパルス』の一部が使われているっていうのにもグッと来ますし、先ほど言ったようにリズムを間違えたけどそのまま使われている部分もある曲で、単純に曲調が好きっていうのもあります。ラップなのに泣きそうになる、っていう経験も初めてでした。

Aliceイカ語だし、ラップだし、ふつうだったら感情が見えないじゃないですか。でも、りなちんの歌いかたにすごく感情が乗ってた。『フレンド・フロム・ファラウェイ』のラップパートを聴くと、すごく訴えかけてくるものがありましたね。

いとう仮歌を聞いた段階から、すぐに「こうやって歌いたいな」って思えたんです。すごく自然に自分の中に入り込めた曲だったんで、いちばん思い入れが強いです。

Aliceこの曲も、レコーディングのときに泣いたなぁ。

いとう私が録るとき、すでにイイダのパートが入っていて、それを聴いただけで「うっ」て泣きそうになって。「この後歌えるかな……」って感じになっちゃいましたね(笑)。

――収録時に『オクト・エキスパンション』のストーリーはご存知だったんですか?

Aliceいえ、どういう場面でかかるかっていうのは、なんとなく聞いていたんですけど、ストーリーは知りませんでした。だから実際にプレイしてみて、「まだ流れてこない」、「まだ来ない」みたいに思ってたら、すごいドラマチックなところで流れて(笑)。

――『オクト・エキスパンション』は、スキップもできますが、けっこう難しいですし。

Aliceラストバトルは、何度もチャレンジしましたね。実況プレイを見まくって、攻略方法を研究したりして。たまにファンの人といっしょにマルチプレイをすることがあるんですが、イイダちゃんで私のことを知ってくれて、私といっしょに遊んでくれるわけですから、私が下手じゃダメだなっていう責任も感じてます。

いとうああ、テンタクルズのファンにがっかりされないようにしなきゃいけないっていうのは、ありますね。

Aliceさらにイイダちゃんはテクノロジーオタクっていう側面もあるから、そういう意味でもファンの方をがっかりさせないために、寝る前とかに上手な人のプレイを見る習慣をつけてました。

――いろいろと見えない努力が……。ちなみに、『オクト・エキスパンション』ではボイスも追加収録をされましたか?

いとうはい。歌と合わせて、ボイスも新しく収録しました。

――シオカラーズのおふたりは、『スプラトゥーン2』のボイス収録はハードルがとても上がって苦労したとおっしゃっておたんですが、テンタクルズのおふたりは?

Aliceシオカラーズはそうだったんだ! 私たちは、やりやすかったです。1回やったぶんの慣れがあって。

いとうそうそう。すらすら言えるようになってました。

Alice『スプラトゥーン2』のときは1日かかってたのが、『オクト・エキスパンション』は2〜3時間くらいしかかかってないんじゃないかな。

いとうふたりで「慣れるもんだねぇ」って言ってました。

Aliceストーリーのセリフは、感情を分けて何パターンか録ることが多かったですね。うれしいとか、悲しいとか、テンション高めとか。

――セリフとは違いますが、『オクト・エキスパンション』はヒメのラストの叫びがとても印象的でした。

いとうあの「マ゛ーーーーーッ!」は何回も録りましたね。最終的に、どれを使ったのかはわかりませんが……(笑)。

『オクト・エキスパンション』クライマックスのシーン。