シオカラーズが語る収録、ライブ、『2』までの葛藤
『スプラトゥーン』シリーズの人気を支え続けてきた、イカ世界の超人気アイドル・シオカラーズ。その歌声とパフォーマンス、強烈な個性でアオリとホタルは、多くの人々を魅了してきた。そんな彼女たちに命を吹き込んだのは、keity.popと菊間まりという、シオカラーズの面影を宿したふたりのアーティスト。『スプラトゥーン』、そして『スプラトゥーン2』の4年間で生まれた、数々の制作秘話をじっくりと訊いた。
・『スプラトゥーン』シリーズインタビュー記事まとめ
keity.pop
シオカラーズ、アオリを担当。歌手として活動するかたわら、作詞、作曲家として西野カナやNMB48などに楽曲の提供。さらに、モデルとしても活躍を続けている。
菊間まり
シオカラーズ、ホタルを担当。シンガーやバックコーラス、ダンスインストラクターとして幅広く活躍。さらに、雑貨、アクセサリー作家としても知られている。
・keity.popさんTwitter(@keitypop)
・菊間まりさんTwitter(@mkikuma)
難航したイカ語のボイス収録
――『スプラトゥーン』1作目の発売前ですが、まずはシオカラーズ役がどのように決まったのかをお聞きできますか。
菊間もう4年前の話ですね。私もkeityさんもオーディションで選んでいただいたので、お互いのことを知らなくて。だから、レコーディングのときに初めて会ったんだよね?
keityそうそう。シオカラーズのボイスのレコーディングの日に初めて会って。オーディションは違う時間帯でしたし、そもそもふたり組っていうことも知らなかったんです。何人受かるとか、どういうゲームかも。
――ゲームに関するオーディションとは聞いていたんですか?
keityはい。ただ、そのときは任天堂さんのゲームということすら明かされていませんでしたね。オーディションに行くときに「場所は任天堂です」って聞かされて、驚いたことを覚えています。
菊間オーディションは、謎の呪文が書いてある紙が渡されたんですよ。驚きながらもしばらく読んでたんですけど、理解できない。音符も書いてあって「これを歌ってください」と言われたんですが、これは頭で理解しようとしちゃダメなんだろうと思って、最後はオーディションということを忘れて楽しく歌ってました。ファミコンのときから任天堂さんのゲームをたくさん遊んできていて、その任天堂さんのスタジオで歌っている、っていうのはスゴいことだし「楽しんだもの勝ちだな」なんて思いながら歌ったのを覚えています。
――オーディションの時点で、イカ語のセリフや歌詞が渡されていたんですね。
keityそうなんです。見たことない言葉で、スタッフの方に「わからないと思いますが、やってみてください」と、言われるがままにしゃべったり歌ったりしてました。
菊間感じるがまま、みたいな感じだったよね。わかる。
keityそれが楽しいというか、緊張しなかったというか。「洋楽を歌ってくれ」とか言われると身構えますけど、イカ語だったから構えようがなかったんです。で、そのあとに「オーディション通りました」と言われたときには、「あっ、あれでよかったんだ」って思いました。
菊間私も「よっしゃー!」みたいな感じじゃなくて、「あ、そうなんだ」っていう驚きの部分が大きかったです(笑)。
keityその後、改めて収録に行ったら、先にまりさんがいらっしゃって。それが初めて会ったときですね。しかも、『スプラトゥーン』の開発陣がずらーっと座っていらっしゃったので、とても緊張しました。そのときに、初めてシオカラーズのビジュアルや世界観を知ったんです。スタッフの方からゲームの説明を受けているときに、「『マリオ』と肩を並べるゲームにしたいんです」って言われたときは、ものすごい気合を感じて、「私はいまものすごいムーブメントの中にいるのかもしれない」と思いました。
菊間ワクワクしたよね!
keityそれで、いざ収録ってときに、またわけのわからない言葉が書かれた紙を渡されたんです(笑)。初日は歌じゃなくて、ボイスの収録でした。
菊間ボイス収録は、本当に難しかったです。
keityスーパー難しかったです(笑)。
菊間使ったことない脳の部分を使う感じで、汗だくでした。
keityだから、まりさんとははじめましてだったけど、ふたりで結託して収録に臨んでいました。収録していないほうが隣りで見守ってたり。
菊間その収録自体がおもしろくて、手を叩いて笑ったりもしていました。
keity「いまのよかったね!」とか言って、いま考えると何がいいか悪いかなんてあんまりないと思うんですけど(笑)。みんなで大真面目にやってました。その日は、心地いい疲れで帰っていきましたね。でも、収録の日は毎度ものすごい天候だったんですよ……。記録的大雨とか大雪とか、風で電車止まっちゃうとか。なんか天候に妨げられるんですよね。
菊間何か試練が立ちはだかるようなイメージで(笑)。その後、歌の収録は、ボイス収録の1〜2週間後くらいにあって。歌は、あらかじめ譜面を渡されて、練習しておいてくださいと言われていたんですが、歌詞はやっぱり謎の呪文で……。理解できないから、ひたすら暗記するしかありませんでしたね。
――仮歌(別の人が歌ったデモ音源)などはあったのでしょうか?
keityありました。藤井さん(藤井志帆氏。『スプラトゥーン』のシオカラーズなどの曲を担当)が歌っている仮歌で、「ああ、こういうふうに歌うのか」と。
菊間すばらしいアイドルボイスで。仮歌以外にもたくさん資料をいただきましたが、曲を覚えるのはかなり難しかったです。
――言葉を意味として、とらえるのが難しいですもんね。では、収録は難航を?
keityいえ、それが歌はほぼ一発オーケーでした。「最高の歌を歌ってやるぜ!」って気合を入れて臨んだら、あっさり「オッケーです」って言われて(笑)。
菊間keityさんの気合がすごくて。スタッフさんから、アオリちゃんは、ある洋楽の超有名歌手のイメージでお願いします……って言われてたみたいで、当日やってきたkeityさんががっつりその歌手まんまのメイクだったんですよ。
keity形から入るタイプなんで!
菊間ピンクのミニスカートでカッコよかったです。
keityブーツもピンクのマーチンにして。もともとピンクが好きだったんですけど、私の姿を見たまりさんが驚いてたのを覚えています(笑)。
菊間かなり圧倒されました。見た瞬間に「やるなー!」って思いましたよ。
――菊間さんも収録は順調だったんですか?
菊間そうですね。でも、ホタルちゃんは、演歌のような歌いかたで、“こぶし”を入れてくださいと最初に言われて。そういった曲は、歌ったことがなかったので、その日から民謡を聴きまくって、皿洗いの最中までずっと歌う、みたいな生活をして(笑)、とにかく“こぶし”の入れかたを練習しましたね。
keityすごかったですよ。レコーディング当日までまりさんの歌を聞いたことがなかったんですが、「民謡ひとすじでやってきました!」みたいな貫禄がありました。どうやってそこまで仕上げられたのかなって、すごくびっくりしましたね。
菊間必死でしたね。有名な演歌歌手の曲をめっちゃ聴きまくってました。
――なるほど。でも、歌詞の意味がわからないと、歌の中で感情を込めるのが難しいような気がしますが……。
keityそうなんです。だから、歌詞の意味とかは考えずに、前作の『スプラトゥーン』のときは、ありのままに歌ってました。
菊間私は“こぶし”を回せ回せ! ってなってました。
――(笑)。YouTubeで見られる収録風景では、楽しそうな様子が印象的でした。
keity歌は、一気にたくさん録りましたね。
菊間4〜5曲かな?
keity最後、私めっちゃハイになってました。
菊間ひっかかることもなく、とにかく楽しかったです。
――最初のイカ語のハードルを乗り越えてからは、スムーズだったわけですね。
菊間そうですね。ボイス収録でちょっと免疫が付いたのかもしれません。そこで、なんとなくニュアンスがわかって。
keityレコーディングがかなり順調に進んで、ものすごく早く終わって、そのあとふたりでファミレス行って、めっちゃ話し込みました(笑)。
――ちなみに、じつはシオカラーズだけでなく、おふたりがタコゾネスの声を担当されていたとお聞きしました。
keityそうなんです! じつは私たちなんです。
――いつ録られたんですか?
keity最初のボイス収録のときですね。私たちがまだ猫かぶりあってるとき(笑)。スタッフさんから「イカは終わりましたが、じつはこういうキャラクターもいるので、ちょっとだけやってもらってもいいですか」と言われて。そこで、アオリちゃんたちとは違う「うおー!」みたいな声を出したりして。そこから恥ずかしいという気持ちはなくなりました。
菊間その日最後の収録だったので、ノドが潰れるほど声を出してましたね。ふつうのタコゾネスがkeityさんで、デラタコゾネスが私なんです。デラタコゾネスはけっこう野太い声で。笑いかたも「うふふ」じゃなくて、「うっふっふ」みたいな。いまさらですが、改めて聞いて違いを感じてみていただけるとうれしいです。