鈴木裕 氏(すずき ゆう)
YS NET代表取締役。1980年代~1990年代にかけて『ハングオン』や『スペースハリアー』、『アウトラン』などのヒット作をつぎつぎと世に送り出し、『バーチャファイター』シリーズは社会現象ともなった。1999年にドリームキャスト用ソフト『シェンムー 一章 横須賀』、2001年に『シェンムーⅡ』をセガ(現・セガゲームス)から発売。現在、18年ぶりとなる続編『シェンムーⅢ』を開発中。
インタビューは未公開映像とともに始まった
2019年3月10日(日本時間)、モナコで行われたゲームイベント“MAGIC(※)”にて、YS NETの鈴木裕氏が登壇し、トレーラーを含む『シェンムーIII』の最新情報が公開された。今回、鈴木裕氏に取材を申し込んだところ、そのトレーラーのほか、未公開実機プレイ映像を観て、ゲームの解説をしてもらうという機会を得た。
未公開映像には、美しい白鹿村の様子や戦闘シーンがふんだんに描かれている。本記事では既出の画面写真の中から近しいものを用い、その様子を再現する。本作のシステムや独特のムードの一端を感じてほしい。
MAGIC……ゲーム、アニメイベント“MONACO ANIME GAME INTERNATIONAL CONFERENCE”の略。MAGICで公開になったトレーナーについて詳しくは以下の関連記事をチェック!
――本日は、『シェンムーIII』について、開発の現状などをおうかがいできればと思います。
鈴木(前のめりになる記者の機先を制しつつ)まあ、まずはトレーラーからいっしょに見ましょう。それと、モナコで海外メディアの方にはすべてお見せできなかった、実機プレイの映像を見てからのほうが、きっとわかりやすいし、話しやすいんじゃないかな。
――今回、動画の最初から、また強烈なキャラクターが登場していますね。
鈴木このキャラクターも、2パターン考えていたんですよ。そして、とりあえず、インパクトの強いほうを出しておこうと(笑)。
―― なるほど(笑)。主人公の芭月涼が、若い女性や男性と戦う戦闘シーンも入っています。
鈴木パブリッシャーのDeep Silverさんと「バトルシーンを出させてくれ」とかなり交渉しまして、公開することができました。これでも映像は当初よりだいぶ絞ったんですよ。
―― そうだったのですね。
鈴木それではいよいよ未公開映像をお観せしましょう。これはゲーム序盤のプレイ映像そのものになります。
●テレビ画面に、洞窟が映し出される。壁には、巨大な鳳凰鏡が刻まれている。
―― これは、『シェンムーII』(以下、『II』)のエンディングのあの場所ですか?
鈴木ええ、『シェンムーIII』の物語は『II』のエンディングの直後からストーリーが始まりますので。これがオープニングです。
―― ああ、すごく見たいような、製品版を遊ぶときまで楽しみに取っておきたいような……。
鈴木じゃあ、スキップしちゃいましょう(笑)。
―― ええっ、そんな!
鈴木その後、白鹿村から始まります(笑)。このあたりは、白鹿村の入り口あたりです。朝の7時15分過ぎだけど、天候は雨を降らせた後という状況にしています。
――本当だ、ぬかるみとかがかなり表現されていますね。ちなみに、今回は、歩くモーションとかは松風雅也さんがモーションキャプチャーで収録されたのですか?
鈴木いえ、違う方ですね。
――では、今回、松風さんは声のご出演ということで。
―― とても美しい場所ですね。
鈴木白鹿村の入り口のあたりです。朝の7時15分過ぎで、雨を降らせた後の天候描写にしています。
●雨上がりの白鹿村を涼が歩いていく。村には小さな商店があり、店の前には“アルバイト募集”という旗や、ガチャガチャの筐体も設置されている。村では子どもたちが拳法の練習をしていたり、賑やかな様子を見せる。
鈴木今回、行動するとお腹が減るので、お店で食べ物を買うことができます。
――すごい、ニンニクの塊が出てきましたね。
鈴木本作では体力…… いわゆるHPみたいなものがあるので。さまざまな食べものを食べることで、その体力を回復できるんです。
―― あ、ガチャガチャも置いてあります。
鈴木ガチャをコンプリートすると、セットで高く売れたり、“技書”と交換できたり、いろいろな要素のつながりがあります。ちなみにいまは“顔に傷のある男を探す”というクエストで、村人に話し掛けてストーリーを進めているところですね。
●クエストを進めていくと、村の男性と戦闘が始まった。
鈴木戦闘では、強い技が自動的に設定されていて、簡単な操作ですぐに出せます。初心者の人が遊ぶときでも、ガチャ押しでもなんとかなるよう、短縮形で技がくり出せます。初心者の方にとっては複雑なコマンドで大技をくり出すのはハードルが高いと思いますので、シンプルな操作で遊べるようにと。
―― いままでと変わらない方法で戦闘することもできるのですか?
鈴木もちろんできます。あ、いま、涼がトルネードキックを出していますね。
―― おお、『シェンムー 一章 横須賀』(以下、『一章』)でホットドッグ屋のトムから教わった。
鈴木ただし、今回投げ技がなくなっていて、すべて立技、打撃技の中で強弱の関係や読み合いがあるようになっています。
――先ほど、画面に“やめておけモード”というヤバい名前のモードが出ていましたね。
鈴木今回、難易度が選べます。バトルなどを面倒くさく感じてしまう人もいると思うので、バトルも簡単に進む、鍛錬をあまりしなくてもいいような“簡単モード”というのもあります。とはいえ、『シェンムー』なので、ある程度修行みたいなことをして進んでほしいので、オススメモードがノーマルです。また、『バーチャファイター』を好きな人が『シェンムー』を買っていただいている場合もあるので、そういうバトルマニアの方向けに、すこしきびしめのものも用意しています。
――今回、投げ技がなくなったということですが、それはどういった経緯でしょうか。
鈴木前作までは『バーチャファイター』のエンジンも活用して作っていたのですが、『シェンムーIII』ではゼロからエンジン作っているんです。だから、投げ技まで作って広げるよりも、打撃技でまとめて、その中で完成度を高める方向に振りました。
新ギャンブル“亀レース”とは
●村のはずれのような場所に遊技場があり、“落とし玉”やさまざまなギャンブルが遊べるようになっている。
鈴木ここでは、お金を木札に換えて遊びます。木札を増やして、景品交換所に持って行って、景品と交換します。その景品は、質屋でお金に換えられるんです。
――『II』では現金でギャンブルが楽しめましたが、『III』で変更した理由というのは?
鈴木これは中国市場でも本作を販売するための配慮でもあるんです。当局がギャンブルに非常にきびしいので。だからギャンブル場ではなく、“遊技場”です、あくまで(笑)。
●遊技場の一角に、亀が5匹ほど並び、小さな川やトンネルがしつえられた特製のコースのようなものが置いてある。
―― これが新要素の“亀レース”ですね。
鈴木亀が走り出したら、表示されるボタンを正しく押すと応援できて亀がピカピカ光ってちょっと加速するんです。でも、ボタンを押し間違えると減るんですよ。
●画面では亀が横並びに一生懸命走っている。
―― あ、抜かれちゃう抜かれちゃう。
鈴木なので、一生懸命応援してくれると、少し勝率が上がりますね。いくら応援してもダメなときはダメですけど。
――“亀レース”はどうやって考えたのですか? 現地に実際にあるものなのでしょうか。
鈴木レースのギャンブルを考えるときに、遅いもののほうがおもしろいかなと思ったんです。早いものは一瞬で終わっちゃうので。亀やかたつむり、ナメクジ、青虫がいいかなと思っていました。
●“遊技場”には、そのほかにも様々なミニゲームがあるようだ。
鈴木こっちは、お金かけてやるギャンブルじゃないんですよね。1回5元。
――木札が増えるのではなく、アイテムが当たるという。
鈴木クルマや人形、こっちはバナナですね。バナナは食べ物なので、体力が回復します。1回3元。そして、お金を稼ぐ方法はほかにもありまして……。
――『シェンムー』といえば、アルバイトですね!
鈴木いまお見せできる映像はここで終わりですが、今回、“アルバイト”についてファミ通読者のために、特別な画像をご用意しました。どうぞ!
公開されたのは、芭月涼がフォークリフトを運転するスクリーンショット! 2015年のインタビューで鈴木氏は「フォークリフトの人気はすごいですね(笑)。まだ、検討中なんです」と回答していたが、どうやらゲームに実装される模様だ。
※鈴木裕氏がフォークリフトについて語っていた2015年のインタビューは以下の関連記事をチェック!
『シェンムーIII』の経済システム
―― おお、フォークリフト! 本作でも、やはりお金は重要な要素で、稼がないといけないようですね?
鈴木『シェンムーIII』はとくに経済バランス、経済サイクルいう点に注力しています。経済というのはお金の流れというようなことで、お金は重要です。いろいろなところで、お金が絡んできます。様々な要素がお金でつながっているんですよね。すでに元手があって増やすのであれば、先ほどお見せした……
―― “遊技場”でも増やすことができると。
鈴木減っちゃう人もいるけど(笑)。
――『一章』、『II』のころは、3Dで精緻なキャラクターの表情を作るという作業の中で、粘土でキャラクターの表情とかを作って「こういう感じだよ」というやりかたもされていましたが、今回はモデリングに関してはいかがでしたか? 公式サイトが更新されるたび、格段によくなっていったように見受けられました。
鈴木私も自分でモデリング作業をするわけではないので、それをする人にどう伝えたらいいのかということを苦労しましたね。で、現物を見せるのがいちばんじゃないですか。それで、原寸のものを作って、ほんの1ミリ削っただけで、ぜんぜん違う顔になってしまうのでね。正確に伝えたくて、そういうことをやっていましたね。本作では、Unreal Engine4を使うということで、物理レンダというものを使って基本のレンダリングを行っています。
物理レンダで良質な絵をどう作り込むのか。自分の目的の絵というか、3Dモデルの発色、光をどうやって出すかというところにはけっこう苦労しました。本当は、莎花と涼は、1~2ヵ月で作りたかったんですけど、年単位の時間が掛かっていますね。時間を掛けた甲斐もあり、モデルは、まあまあよくなってきたかなと思います。表情とかは、もっとよくしていきたいですね。発売まで、まだ少し時間があるから、いまよりもよくしていきたいです。
『シェンムー』と功夫
――先ほど、PVで出てきたインパクトの強い顔の男性が、「その程度の功夫で、俺様に勝てるとでも思ったのか」と言っていましたが、本作はとくに、“功夫”、鍛錬を積むということが、作品のテーマに関わってくるのでしょうか。
鈴木うん、やっぱり、戦うと、負けたりするじゃないですか。拳法をベースにした冒険の物語なので、功夫を積んで困難を打ち破っていく、自分を越えていくというのはストーリーの軸になります。
――『バーチャファイター』では、パイ・チェンの「あなたには功夫が足りないわ」という決めゼリフもありますし、ひょっとすると、裕さんの中で、“功夫”という単語がひとつのキーワードなのではないでしょうか。
鈴木うーん、どうでしょうねえ(笑)。でも、“功夫”という言葉はいいですよね。修練というよりも、鍛錬というよりも。いろいろな意味でね、引っかかる感じのいいシーン、微妙にやっぱりニュアンスが違うのでね。功夫という言葉は好きですよ。
――“経済システム”やキャラクターのモデリングに時間を使われたとのことですが、発売日は、現状の2019年8月27日に間に合いそうでしょうか。
鈴木もちろん、その予定で進めています。
――いま、微調整を加えている段階ということですね。では、ドリームキャストでの開発と本作の開発、どちらの方がやりやすかったですか。
鈴木どうでしょうね……どっちもどっちです。
――(笑)。
鈴木ドリームキャストのときは、開発の規模もいまよりずいぶん大きかったんですよね。そうすると、人員をマネジメントしなければならないという作業もありますから。今回は、ドリームキャストのときよりも、小規模で、まったく新しいエンジンということもあり、バトルでは『バーチャファイター』のエンジンを使えないし……ということもあって。
どっちも、楽しいことあり、どっちもたいへんなことがあって。ドリームキャストのときは、ドリームキャストというハードの開発自体にも関わりましたので、「その性能を最大限引き出すキラータイトルを作るんだ」という思いもあって、そういう希望に燃えて作っていて。だから、たいへんでしたけど、「こんなゲーム見たことがない、世の中にないもの出してやろう」という、心躍る感じもあって。
『シェンムーIII』は『シェンムーIII』で、最先端のエンジン使っていますし、僕はけっこう技術志向のところがありますから。そして現在のハードというのは、ドリームキャストよりはるかに高い計算能力を持っているので、表現力も上がり、それで可能性がもっと広がっていって……。
だから、どっちも楽しいは楽しい。苦労と楽しさの質が両方とも違いますから、どちらがどうとも言えないですよね。
――どちらも、非常にいろいろな思い出があるのかなと思われます。思い出という話では、2015年のE3での発表と「キックスターターをやります」という発表はすごく大きな反響を呼びました。キックスターターでは“もっとも短時間で100万ドルを集めたビデオゲーム”ということで、ギネス記録にも登録されましたけど、ああいった反響というのは、どのように感じられていますか?
鈴木キックスターターの発表、そして『シェンムーIII』の発表は、あの場での雰囲気、反響はすごく強く印象に残っています。その後Webに、世界中の皆さんがいろいろなものをアップされていて、発表を見て泣いている方もいるし、本当に大喜びしている方もいるし。
――現地はどのような反応でしたか?
鈴木あの場での雰囲気、反響はすごく強く印象に残っています。私が出ていく前に、『人喰いの大鷲トリコ』とか、『ファイナルファンタジーVII リメイク』とかの発表がありまして。それらの発表では、皆さんの声がすごく、ぐわーっと轟音みたいに鳴り響いて。「すごいな」と、「『シェンムーIII』は大丈夫かな」と不安に思っていました。でも、『シェンムー』の音楽が鳴った途端に、もう“叫び”でした。それまでの歓声とは音程が違っていて、“叫び”ですよね。「ごおーっ」という音から、「ギャーッ」という音に変わって、黄色い声というんですかね、あの声を聞いて鳥肌が立ちましたね。
――それはすごいですね。『シェンムー』は海外にもファンの多いタイトルだと思いますが、日本のファンと海外のファンで違うなというところはありますか?
鈴木『シェンムー』のファンが海外と日本でどう違うのかと言うと……なかなか難しい質問ですが、『シェンムー』のファンは、みんな特徴的ですね(笑)。
――そうですか(笑)。
鈴木同じタイプがいないというか。日本だから、アメリカだからというのではなくて、アメリカの中でもみんな違うし。ただ、アメリカに行くと元気が出ますね。チャレンジに対して非常に応援してくれる国だなというの感じがありますね。結果ではなくて、新しいことにチャレンジする姿勢に対して、みんなが応援してくれるので、クリエイターに対しては、非常に健全な国だと思うなあ。ああいう風土や習慣がクリエイティブを育てるんだろうなという感じます。もうすこし日本もそうなればいいと思うけど。
――まさに、本シリーズは『一章』のころから非常に新しいチャレンジですからね。僕は、『シェンムー』というのは、唯一無二の“ユニークさ”を持っている作品だなと強く思っています。その“ユニークさ”を生み出すために、もちろん『シェンムーIII』でも、あるいは、前作までの思い出でも構わないですけど、“ユニークさ”を出すためにもっとも意識されていることというのはありますか?
鈴木何も考えないですね。
――本当ですか!? こんなに独特の味わいがあるのに!
鈴木うーん、何も考えないで作るとユニークになるんですよ。とくにユニークということを考えたことはないですね。
――そうですか……。
鈴木自分は、ほかのゲームをよくも悪くもあまりプレイしませんから、ほかのゲームのことを知らないんですよ。だから、作りたいモノを作るというか、ほかのゲームから影響を受けていないですよね。だから、似ようがないんだと思います。自動的に“ユニーク”になるという。
――自然と、独自なものができていくと。
鈴木独自のものを作ろうという意識はまったくなくて、何も考えないで作ると“ユニーク”になっちゃう。デフォルトこそがじつは、“ユニーク”なんですよ、きっと。
――なるほど……。本日はありがとうございました!
……と、『シェンムーIII』の現状や新システム、ゲームづくりの哲学まで語ってくれた。鈴木裕氏のインタビューは、本稿に含まれていない部分も含め、週刊ファミ通2019年4月25日号(4月11日発売)にも掲載中! 誌面ではさらに“釣り”のことや成長システム、本作で実現したかった理想についてなど、多くのスクリーンショットとともに掲載している。