鈴木裕氏の思い描く『シェンムー3』とは
E3 2015開幕前日に行われたソニー・コンピュータエンタテインメントのカンファレンスで、クラウドファンディングでの制作が発表された『シェンムー3』。発表直後から開始されたキックスターターでのクラウドファンディングキャンペーンでは、100万ドルの出資額の最速達成記録を打ち立て、ビデオゲーム部門史上最高額を達成し、キックスターター全体歴代6位となる約7.8億円もの出資額を集めた。
今回、ファミ通.comでは、大きな話題を呼んだ『シェンムー3』について、制作の指揮を執る鈴木裕氏にインタビューを実施。今回はクラウドファンディング終了後初のインタビューということで、達成したストレッチゴールによって追加される仕様などについてもうかがったので、ぜひチェックしてほしい。
鈴木 裕氏
キックスターターが終了。激動の1ヵ月を振り返る
――先日、『シェンムー3』のキックスターターキャンペーンがビデオゲーム史上最高額の出資額を集めて終了しましたが、いまの率直なお気持ちを教えてください。
鈴木裕氏(以下、鈴木) 率直に言いますと、「始まるぞ!」という気持ちです。
――キャンペーンを達成して安心するのではなく、「いよいよ始まるぞ」というお気持ちですね。
鈴木 そうですね。本当は開発期間をもっと長くしたいところですけど、「急いでスタートしないと!」という感じです。
――2017年末発売という目標は変更せずに、開発を進めていくということですか?
鈴木 はい。キックスターターの予算が確定したので、その予算の中で、企画の幅やスケールについて、“どこまでできるのか”をより具体的に落とし込んでいっている段階です。
――改めて、E3で『シェンムー3』を発表してからいままでを振り返ってみて、どんなことが印象に残っていますか?
鈴木 E3の出張中でもっとも印象的だったのは、やっぱり発表の瞬間です。発表の直前、ステージの裏手で待っていたときに、『ファイナルファンタジーVII』のリメイク作品が発表されて、ものすごいどよめきが聞こえてきて。「(前作発売から)14年も経過している『シェンムー』は大丈夫かな?」と心配していたんですが、映像を公開したら、すごい歓声が聞こえて……。
――本当に大きな歓声でしたよね。うれしさのあまり、立ち上がっている方もいましたし。
鈴木 今回のカンファレンスの中で、いちばん悲鳴に近い声が聴こえた瞬間でした。
――その瞬間のことは、忘れられないですか?
鈴木 その後もいろいろなことがあったんですけど、あの瞬間がいちばんグッときました。後で、『シェンムー3』発表に対する反応をまとめた動画も観ました。声が裏返るほど興奮している人がいたり、ずっと泣いている人がいたり。皆さんの反応を見て、感動しました。
――ずいぶん前からキックスターターを検討していた、と以前おっしゃっていましたが、実際にキャンペーンを実施してみて、苦労したことや、驚いたことなどを教えてください。
鈴木 知らないことがたくさんありました。“キックスターターは初速が大事”と聞いていたので、本当は事前に告知したかったのですが、今回はソニーさんのカンファレンスで発表させていただくことになったので、言うことができなかったのです。でも、「何かできないものか」と思って、カンファレンスの日の朝、フォークリフトの写真をTwitterにアップしたら……ソニーの方に注意されました(笑)。
E3で見つけた。 http://t.co/Ku5CH7v6kU
— Yu Suzuki (@yu_suzuki_jp)
2015-06-15 00:45:16
――フォークリフトを見ただけで、ファンの方ならわかってしまいますよ(笑)。
鈴木 でも、ただのフォークリフトですよ?
――それだけ、フォークリフトが皆さんの心に残っているということだと思います。
鈴木 そうですね。『シェンムー』ファンに、“『シェンムー3』について気になること”というアンケートを実施したら、第3位にフォークリフトが入るくらいですから(笑)。
――(笑)。ところで今回、キックスターターキャンペーンで約7.8億円が集まりましたが、今後、何かしらの方法で出資を受け付ける予定はありますか?
鈴木 PayPalで受け付けようと思っています。まだ調整中で、いまの時点では詳しいことは言えませんが、準備は進めています。
――今後の出資額次第では、今回キックスターターでは達成されなかったストレッチゴールの仕様が入る可能性もありますか?
鈴木 できれば入れたいです。キックスターターは海外のサイトということもあって、ハードルが高かったのかなと思います。住所を入力するにしても、「少しでも間違えたら、リワードが届かないんじゃないか?」と、不安になったのではないかと思います。ですので、PayPalで受け付けるときには、日本語でも申し込めるようにしたいと思っています。
――なるほど。日本語に対応していれば、日本のファンも安心ですね。『シェンムー3』の開発は、これからが本番となりますが、開発を進めるにあたり、とくに募集している職種などはありますか?
鈴木 プランナーやプログラマーで、いっしょにやりたいという方がいたらぜひお願いします。開発はアンリアルエンジンで行いますから、アンリアルエンジンの経験があって、コンシューマーゲームの開発も経験しているとうれしいです。
新キャラクター以外にも、原崎望など過去作のキャラクターも登場
――ここからは、『シェンムー3』が具体的にどんなゲームになるのかをうかがっていきたいと思います。まず、キックスターターのサイトに公開されていたストレッチゴールには、“日本語への対応”という項目がありませんでしたが、主人公の芭月涼役として松風雅也さんの出演が発表されていますので、日本語には対応するということですよね?
鈴木 そうですね。まず日本語で作らないと、僕が微妙なニュアンスを表現できないので。日本語版の後に英語版を作って、そこから各国語に対応するという形になります。
――キックスターターで公開されていたムービーでは、キャラクターが英語を話していましたが、日本語ボイス入りで制作が進んでいくということですね。
鈴木 はい。
――ファンの方は、日本語版のキャスティングが気になっていると思いますが……。
鈴木 まだキャストは決めていないです。以前のキャストの方の中には、すでに声優活動を辞められた方もいますし。
――でも、「『シェンムー3』を作るよ!」ということを伝えれば、活動を再開してくれるかもしれません!
鈴木 そうなったら、とてもうれしいです。ぜひ帰ってきてもらいたいです。
――ぜひ、このインタビューをキャストの皆さんに読んでもらいたいですね。ところでいまは、シナリオを書かれている最中でしょうか?
鈴木 まさにいま書いているところですが、メインのシナリオはほとんどできあがっています。「もう少し膨らましたいな」というところは、吉本さん(シリーズの脚本を担当している脚本家の吉本昌弘氏)に相談しています。
――マップやキャラクターモデルは、すでに作り始めているのですか?
鈴木 いえ、マップなどはまだです。シナリオの構成、各マップを訪れる順番などを調整してからになります。
――『シェンムー3』では、白鹿村、鳥舞、白沙という3つの村が登場し、村によって遊びが異なるということですが、それぞれの村の特徴を教えていただけますか?
鈴木 最初に訪れる白鹿村は、『シェンムー2』の最後で涼がたどりついた場所です。のどかな山村や、桂林の山奥を探索したりします。鳥舞は白鹿村より発展している、ちょっとした街です。街の大きさは、キックスターターで達成した額に応じた大きさになります。最初に予定していた規模よりは、もうちょっと大きくできそうです。鳥舞では買い物やクエストができます。ミニゲームも遊べますし、屋台、お土産屋さん、旅館、お寺などの施設もあります。
――白鹿村は景観を楽しむストーリーの要所で、鳥舞では、前作のようなオープンワールドの遊びを楽しめるということですね。
鈴木 そうですね。ただ、“オープンワールド”という言葉は、誤解を招くかもしれません。世の中にはいまや、たくさんの立派なオープンワールドのゲームがあるので……。僕が『シェンムー』のときに“FREE”と呼んでいた、『シェンムー』ライクな遊びができるのが鳥舞です。白鹿村は、シェンファ(莎花)とふたりで過ごす時間を楽しむような場所を考えています。そして白沙は、いままでの『シェンムー』とはぜんぜん違う遊びかたができる場所になる予定ですので、もっとも力を入れたい部分です。
――白沙について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?
鈴木 敵のアジトがいくつかあって、そのひとつに潜入して敵と戦いながら、外の攻撃から仲間を守り、籠城するというシチュエーションなどが楽しめます。ただ戦うだけでなく、“水の計”や“火の計”というような、中国の『三国志』ですごく有名な戦術を彷彿とさせる戦術を駆使しながら戦います。すごく難しそうに聞こえますけど、遊んでみると簡単になる予定ですから、心配しないでください。
――以前のインタビューで、その作戦中にプレイヤーキャラクターを変更できる……というお話をされていましたよね?
鈴木 それが、キックスターターで無事にストレッチゴールを達成した“キャラクターパースペクティブ”というシステムになります。涼だけではなく、シェンファやレン(刃)を使ってプレイできるようにして、キャラクターの特徴をしっかり描きたいと思っています。たとえば……シェンファという女の子は、いきなり人を殴ったりはしないですから。
――そんなタイプには見えないですね。
鈴木 だから、シェンファを選んだときには、殴るという選択肢がない。でも、レンだったら、いきなり殴りかかりそうです(笑)。という風に、キャラクターによってできることが異なって、その選択によって成果が変わります。それから、男女の違いを描き分けたいなとも思っています。
――男女の違い、ですか?
鈴木 キャラクターパースペクティブを行う場面では、ペアで進行するイベントもあります。そのときにレンを操作していると、レンが「俺、超カッケー」とカッコつけるのですけど、シェンファを操作してみると、シェンファはその姿を見て「バカみたい……」と思っている、みたいな(笑)。そういうことって、現実でもあるじゃないですか。喧嘩したふたりに話を聞くと、同じことを体験しているはずなのに、言っていることがぜんぜん違うという。男女で異なる価値観や、日常の“あるある”も表現できたらいいなと思っています。そのあたりを掘り下げたゲームはあまりないと思うので、ほかのゲームとも、前作までとも違う『シェンムー』の魅力が生まれると思っています。
――いろいろなキャラクターを操作してみたくなるシステムですね。ここで、キャラクターについてもお伺いしたいと思います。改めて、レンについて教えていただけますか?
鈴木 レンは『シェンムー2』に登場した、香港のストリートギャングのボスのようなキャラクターです。ずる賢くて、頭が切れて、格闘をやっても強い。最初は“お宝のにおいがする”という不純な動機で、涼といっしょに旅をすることになっていくのですが、だんだん涼に惹かれていく。レンの生い立ちについてはまだ触れられていませんが、お楽しみにしていてください。『シェンムー3』では、レンのおもしろいシーンも出てきます。
――今回のストーリーに、かなり関わってくるキャラクターのように思われますが?
鈴木 どうでしょう(笑)。
――続報を楽しみにしています(笑)。続いて、『シェンムー3』より登場する女性、鳥隼について教えていただけますか。
鈴木 南を治めている蚩尤門の四天王です。東を治めているのが蒼龍、藍帝です。鳥隼は南を治めている炎帝で、残酷なタイプの美人です。『シェンムー3』で、ようやく鳥隼のことを描けるので、とても楽しみです。(※1)
※1 鳥隼は『シェンムー』第1作発売前に公開されていた、キャラクター紹介の映像の中で紹介されていたが、『シェンムー』、『シェンムー2』では登場することはなかった。
――そして、『シェンムー3』ではついにシェンファが本格的にお話に関わりますね。
鈴木 以前、『シェンムー』のキャラクター人気投票を行ったのですが、やっぱり出番が少なかったせいか、シェンファの順位が低かったんです。キックスターターキャンペーンが発表された後も、「(原崎)望を出してほしい」とばかり言われて(笑)。だから、望には電話をかけられるようにしました。
――本作には、シェンファとの関係を表すパラメーターが入ると発表されています。『シェンムー2』に登場したクン・ファンメイ(薫芳梅)にも親密度の要素(※2)があったと思いますが、それをより深く掘り下げたというイメージですか?
※2 好感度によってクンが涼のことを呼ぶときの呼びかたが変化したり、特別なイベントが発生した。
鈴木 いえ、クンのことはあまり意識してなかったです。
――シェンファのパラメーターについて、いまの段階で、具体的にお話しいただけることはありますか?
鈴木 まだしっかりとは決めてないのですが、3つくらいのパラメーターを用意しようと思っています。信頼度とか、親密度とか、好感度……このあたりがいちばん有力な候補です。好感度が上がっているときは、シェンファとの協力がうまくいく、という感じです。ゲーム後半に出てくるキャラクターパースペクティブで、シェンファを選んでプレイしたら、シェンファの本当の気持ちがわかって、「俺はこう思われていたんだ……」なんてショックを受ける、なんてこともやりたいです(笑)。
――じつはあんまり好かれてなかったんだ、と(笑)。
鈴木 男性ユーザーのほうが多いと思うので、男性として「痛い!」と思う要素が入るとおもしろいかな、と思っています。
――パラメーターが用意されるのは、シェンファだけですか? ほかのキャラクター、たとえば望にも設定する予定は?
鈴木 ほかのキャラクターにも用意したほうが、楽しいですよね。シェンファと仲よくしていると、望がやきもちをやいたりして、「あっ、そう……」と言うだけで電話が終わったりとか。まだ詳細は決めていませんが、検討します。