『逆転裁判』シリーズの生みの親である巧舟氏(カプコン)と、NHK『みんなで筋肉体操』で名を馳せた“筋肉弁護士”こと小林航太氏による異色の対談が実現! その理由とは……。

「僕が弁護士を志したのは、『逆転裁判』がきっかけなんですよ」(小林)

 いまをときめく“筋肉弁護士”、小林航太。NHK『みんなで筋肉体操』に出演し、筋肉のすばらしさを啓蒙する人物であり、筋骨隆々のキャラクターに扮する有名コスプレイヤーでもあり、現役バリバリの弁護士である彼が法曹界入りを目指したきっかけは、『逆転裁判』だった。

 今回、その小林弁護士と、『逆転裁判』シリーズ生みの親である巧舟氏の対談が実現。裁判のこぼれ話から巧舟氏のゲームづくりに懸ける信念、果ては“トレーニングが続かないんだけどどうすればいい?”など、さまざまな話題に及んだ対談の模様を余すところなくお届けする。

巧舟(たくみ しゅう)

『逆転裁判』シリーズの初期三部作の企画、脚本、監督を務める。ファンから“巧節”と呼ばれる独特のセリフ回しと、驚き溢れるトリックがいまもなお多くのプレイヤーを惹きつける。『ゴースト トリック』(2010年)、『レイトン教授VS逆転裁判』(2012年)などを手掛けたのち、2015年から『大逆転裁判』シリーズ企画、脚本、監督。『逆転裁判』のテレビアニメや舞台の監修も行う。Twitter→@takumi_gt(文中は巧)

小林航太(こばやし こうた)

小嶋総合法律事務所所属の弁護士。鍛え抜いた肉体美を活かし、NHK『みんなで筋肉体操』を始め、テレビ番組やイベントに出演。初の著書『東大卒筋肉弁護士のもう後がない状況でも確実に結果を出せる超効率勉強法』(主婦と生活社)が発売中。大学在学中にコスプレにハマり、コスプレイヤーとしても活躍中。Twitter→ @yomimate(文中は小林)

江城元秀(えしろ もとひで)

『逆転』シリーズプロデューサー。「今日は基本的に聞き役に徹しています」と言っていたが、途中、ガマンできずに少しだけ登場します。(文中は江城)

『逆転裁判』をきっかけに法曹の道を歩んだ弁護士 憧れは成歩堂龍一

――おふたりは、お会いするのは初めてですよね。

ええ。じつは、僕そもそも弁護士の方に直にお会いするのは初めてなんですよ

小林ええっ、弁護士が主人公のゲームを作っているのに!?

恥ずかしながら(笑)。

小林じつは、僕が「弁護士になろう」と思ったのは中学生のころにプレイした『逆転裁判』がきっかけでして、あれがなかったら弁護士・小林航太はいなかったとも言えるかもしれません。

――という方を目の前にして、巧さんはどのようなご感想をお持ちですか?

責任感に打ち震えますね(笑)。

一同 (笑)。

作り手として、本当にうれしいです。もともとは「弁護士のゲームを作ろう!」というつもりだったわけではなく、「新しいミステリーのゲームを作りたい!」というのが出発点で、そこから最終的に生まれたのが『逆転裁判』だったので、少し不思議な感じがしますね。

 作っていくうちに、やっぱり“熱い主人公の王道の物語が一番おもしろいだろう”となっていったわけですが、そうして作ったゲームが誰かの心に火をつけることができたら、それが弁護士じゃなくても、それはすばらしいことで、作り手としては最高に幸せなことじゃないかなと思います。小林さんは、『逆転裁判』とはどうやって出会ったのですか?

小林最初に知った入口が、ゲームソフトそのものではなく、公式サイトにあった1話の冒頭を遊べる体験版で。「あ、こういうゲームがあるんだ、おもしろい!」と思って、購入しました。

――すごくエポックメイキングで、「このゲームはいままでなかったな」という新鮮さがありましたよね。

小林ウソやムジュンを暴いていくあの気持ちよさは、なかったですよね。

――ゲームを紹介する“証言のムジュンを見つけて、嘘を暴く”という説明を読んでも「つまりどういうことなの?」ってなるのですが……

小林遊んでみるとすごくおもしろい。逆に、これは遊んでみないとわからないゲームですよね。

そうなんですよ。当時、企画のプレゼンはすんなり行きませんでしたね(笑)。弁護士のゲームとなると、「法律の知識が必要なんじゃないか」とか、「お堅いゲームになるんじゃないか」とか、そういう意見が多かったです。

――以前、好きなキャラクターは成歩堂龍一だとお伺いしましたが。

小林やはり、僕の人生を決めた弁護士ですからね(笑)。それに、華宮霧緒や……

成歩堂 龍一
華宮 霧緒

小林蘇る逆転』の巌徒海慈も好きですねえ。体格もいいし、キャラクターもいいし、格好いいオジサマですよね。

――前髪をくるくるしながら、口癖が「最近どう? 泳いでる?」っていう。

そんな感じでしたね。裁判長と知り合いなんですよね、「チョーさん」なんて呼んだりして。

――「泳いでる?」というのは、イメージとしては、海とかじゃなくて「ジムのプール行ってる?」という意味かなと思っていました。体格もいいですし。彼は中年太りとかしないように鍛えているんだろうなと。

巌徒さんは、なんとなくテレビ局のプロデューサーみたいなイメージだったと思います。ちょっと軽めなおじさんで、でも、怖い。個人的には、革手袋をはめた手で拍手する音がすごく好きですね。

――現実の裁判長はどんな感じの方が多いんですか? 年齢など。

小林真ん中に座る方は、やっぱりある程度キャリアを積んでいる方なので、おじさんやおばさんが多いですけど、見た目はふつうですよ(笑)。裁判官は定年退職もありますから。

――裁判官と検事は公務員なので定年がありますけど、弁護士は基本はない?

小林基本はないです。死ぬまでやってもいいですよ。

へえ。それはおもしろいですね。おじいちゃんの弁護士なんて楽しそうですね。耳が遠いフリをして、都合が悪くなると「え、なんですか?」みたいな(笑)。

小林「大丈夫かな?」というおじいちゃんもたまにいらっしゃいますけど(笑)。

『みんなで筋肉体操』を観る

――巧さんは『みんなで筋肉体操』をご覧になったことがないとのことなので、せっかくですしYoutubeで公開されているものを観てみましょうか。

※『みんなで筋肉体操』……2018年と2019年に放送されたトレーニング番組。小林弁護士を始め、俳優の武田真治氏や庭師の村雨辰次氏といった個性的な出演者、「筋肉は裏切らない」という合言葉が話題を呼んだ。1番組5分の短い時間ながら十分に筋肉を追い込める過酷なトレーニングを行う。これまで放送された8回分はすべてYoutubeで公開中。

おおすごい、颯爽としてますね!

江城きれいな腕立てのポーズだなぁ。

――番組出演の最初のオファーって、どのような経緯で?

小林Twitterでディレクターからダイレクトメッセージ(DM)が来たんですよ。イタズラかと思いますよね。

(笑)。突然「NHKですけど」ですか? すごいなあ。やっぱり、コスプレをやってて弁護士で筋肉で、その三つ巴のキャラクターがポイントになって声がかかったのかなあ。

江城(腕立て伏せ動画を観つつ)膝ついてもいいんや! 膝ついてもいいとは思わなかった。

武田真治さんとはもう、友人なんですか?

小林だいぶ仲良くなりましたよ。

ですよね。おもしろいなあ。

――出演されている皆さんも、『筋肉体操』のトレーニングをやったらキツイと感じるんですか?

小林キツイですよ

――(笑)。

ごまかしがきかないし(笑)。

小林第1シーズンのときは、NHKもこんなに話題になると思っていなくて、事前の練習もなく、収録当日集まって、4回まとめて撮ってという感じでした。

始めるときはここまで広がると思っていなかったのかな。いったいどういうコンセプトで始めたんだろう(笑)。

小林みんなの体操』の筋トレ版ですかね。もともとディレクターさんが、筋トレを広めたいという思いがあって。

※『みんなの体操』……NHKで放送されている体操番組。年齢・性別・障がいの有無を問わず、すべての人々が楽しく安心してできる体操です。1999年、国連の“国際高齢者年”にちなみ、“ユニバーサルデザイン”という考えかたのもと考案されました(NHK公式チャンネルの説明文より抜粋)。

なるほど。

――“筋肉は裏切らない”という名フレーズは、その番組のディレクターの発案で?

小林らしいですね。

――では、ディレクターさんも、ムキムキな?

小林全然そんなことないですよ(笑)

なんだ(笑)。小林さんは、これで『紅白歌合戦』も出られたんですよね。

小林出たんですよ。“天童よしみさんが歌うバックで筋トレをする”というわけのわからないことをします。

――歌っているうしろで筋トレするわ、武田真治さんはこの格好でサックス吹いてるわ、もうお祭り騒ぎで、めちゃくちゃおもしろかったです。

がんばってゲームを作っても、たぶん紅白出られませんからねぇ。

江城確かに(笑)。

――こういう番組を1シーズン4回やって、それが第2シーズンまであったという。

小林第3シーズンがあるかどうかはわからないのですが……。

――評判もよかったですし、ぜひまた見たいし、体験したいですね。

そうですよね。せっかくですから、トレーニングについてお伺いしたいんですが、おなかを引っ込めるには、やっぱり腹筋を鍛えるといいんですか?

小林おなかを引っ込めるには、むしろ食事制限とかそっちの方ですね。

ああ~、そっちか……。

この日、対談場所の喫茶店で、クリームソーダをオーダーしていた巧氏。

――『みんなで筋肉体操』をご覧になって、ご感想はいかがですか。

無理ですね(笑)。ゲームクリエイターは、世界でもっとも虚弱な種族ですから(笑)。風邪のシーズンとか、ひとりセキこむと、隣へ順番にパタパタ倒れていくリアルバイオハザードの世界が展開するという……。

――でも、けっこうゲーム業界の方で、ジムに行って鍛えている方いらっしゃいませんか?

江城僕行っていますよ。

どの業界も、歳をとってくると筋肉の必要を感じるようになるんですよ。「このままじゃワシは死ぬんじゃないか」って。

一同 (笑)。

「トレーニングを長続きさせるコツは?」(巧)

トレーニングを始めてもなかなか続かないのですけど、長続きのコツってありますか?

小林目標なく続けるのは難しいかなと思います。ちなみに、どうしてトレーニングをやろうと思ったのでしょうか。

おなかが……。

小林たとえばいまだと、これから夏まで4~5ヵ月あるじゃないですか。だから、「この時期に海に行くぞ」と、いまから決めちゃって、そこまでがんばるんですよ。

なるほど、目標ですか。

小林お盆の時期、いまから5ヵ月くらい先に海に行くつもりでいて、それまでどうやって体重を落としていくか、おなかを引っ込ませていくか……と逆算して考えて始めるというのがまず大事かなと思います。そして、徐々に始めていけば習慣化していくので。

……するかなあ(笑)

一同 (笑)。

小林目的を定めて、目的に向かっていくのが大事かなと思います。僕もやっぱり、例えばコンテストに出ようというときと、そうではないときで、トレーニングの身の入れかたもぜんぜん変わるので。

だって弁護と両立されているんですもんね。

小林そうですね、正直言ってけっこうしんどいですね(笑)。

小林弁護士が筋トレとコスプレにハマったワケ

――筋トレを始められたのは、コスプレしたいキャラクターがあったからということでしたよね。

小林大学在学中にコスプレのためににハマって、一度『ジョジョの奇妙な冒険』のカーズのコスプレをしたんですけど、ひょろかったので、情けねえなと思って。

なんと、カーズ!

――カーズのコスプレをやるために、筋肉を相当仕上げていきたかったと。

小林そのときやったカーズと、司法試験受かったあとにやったカーズとで、全然体の太さが違うんです。同じキャラクターのはずなのに、ふた回りくらい違います(笑)。

――先日はTwitterで“『逆転裁判』合わせ”(同じ作品で統一して多人数でコスプレをすること)のお写真も上げてらっしゃいましたよね。

小林ええ、このあいだ、法廷とかがある撮影スタジオで、20人くらいいろいろなキャラクターを集めて撮りました。

それはみなさん『逆転裁判』関係ですか?

小林『逆転裁判』です。

へえー、見たかったなあ。

――真宵ちゃんから千尋さんから、いろいろなコスプレの方が集まっていましたよね。

真宵ちゃんが5人くらいいたりするのかな。それとも、みんなばらばら?

小林ひとり1キャラで。

なんと、それはすごいですね。

小林それくらい人数集めないと、スタジオ代が馬鹿にならないというのもあって(笑)。

――なるほど。『逆転裁判』で20人以上集まるというと、中にはけっこうマニアックなキャラクターもいたんじゃないですか。

小林小中大(こなかまさる)とかもいましたよ(笑)。

小中……(笑)

小林トノサマンもいましたからね。

おお、すごい!

※“トノサマン”については以下の関連記事もチェック!

小林そういう着ぐるみみたいなコスプレを作れる人がいて、トノサマンとヒメサマンのペアとか。着ぐるみになってくると、作るところがメインみたいなところはありますね。

へえ、おもしろいですね(笑)。

――脱いだら、荷星三郎(にぼしさぶろう/トノサマンの中に入るスーツアクター)のコスプレしていたかもしれないですよね。

小林本当にそれでやっていました。

一同 へえー!

キャラクターが作り手から巣立っていった感じがしますね。

『逆転裁判』みんなガタイがいい伝説

小林ところで、『逆転裁判』に出てくるキャラクターって、みんなガタイがいいですよね? とくになるほどくんと御剣がすごいじゃないですか。

とくに、御剣の胸板が。

――あえてそうしたんですか?

当時のデザイナーさんの大好物が筋肉だったのかな。

小林そうなんですね。

とくにデザインの指定はなく、自然とそうなっていましたね(笑)。筋肉の話になりましたが、小林さんは弁護士試験の勉強しながら、筋トレもしていたんですか?

小林そうです。息抜きにちょうどよかったのと、弁護士になるための勉強って、大学を卒業した後にさらに3年かけてロースクールというのを卒業して、そうして司法試験を受かって初めて結果として意味があるわけじゃないですか。

 そんな先が見えないような生活の中に比べると、筋トレってわりと短期間で結果が出るんです。たとえば3ヵ月もやれば、体ってぜんぜん見違えたりするので、短いスパンでの成功体験が、先の見えない勉強生活の中でいい刺激になっていたというか。

小林さんの記事を見て、“筋肉とコスプレと法曹の三足の草鞋を履く”って書いてあって、法曹がみっつ目に来てる! って思いました(笑)。

小林お前の本業はなんなんだ」とよく言われますね。

時間がいくらあっても足りませんね(笑)。

小林無理やり捻出する感じですね。

1回のトレーニングは、どれくらいやるものですか?

小林僕は、1時間半くらいやりますね。いま、ゴールドジムに通っているのですが、職場を選ぶときも、近くにジムがあるところにしようと思って決めました。だから、仕事が終わったあと、歩いてゴールドジムに行けるんですよ。

弁護が終わってから行くんですか?

小林平日は弁護が終わって、大体20~21時ごろには事務所を出て、トレーニングをして、帰ってご飯を食べて寝る……みたいな生活ですね。

『逆転裁判』を遊べないじゃないですか!

小林そうなんですよ(笑)。

けっこうゲームを遊ばれるとお聞きしました。

小林はい、ゲームはするんですけど、最近は時間がなくて……。けっこうPCでゲームをやるので、時間をがっつり使って、FPSをやったりとか、そういうタイプです。だから、最近の新しいゲームを触れていないんですよ。『Apex Legends』とか『Anthem(アンセム)』とかもやりたいんですけど。

「現実の裁判所でおもしろかったところは?」(小林)

小林『逆転裁判』制作にあたって、裁判所にも通われたと聞きましたが、実際の裁判でおもしろいと思った点と、逆につまらないと思ったところはありますか? というか、現実の裁判は「つまらない」と感じたと思うんですよ。

「つまらない」というのはあれですけど、弁護士が「異議あり!」と言わなかったり、ドラマや映画の“法廷モノ”とは違うじゃないですか。

小林だいぶ違いますよね。

法廷の作りもシンプルで、裁判長の木槌も「静粛に!」もないのは、ちょっとガッカリしました(笑)。

小林なるほど。

チームのみんなで裁判を見に行ったとき、最初は軽めのものから始めようということで、たまたまのぞいたのが“わいせつ物陳列罪”の判決だったんですよね。これはかなりインパクトがありました。

一同 (笑)。

「被告人は、被害者の左背後から接近して、右手をさしのべてどうのこうの……」みたいな感じで、ものすごく詳しく大真面目に述べ立てるんですよ。被告人はうなだれて聞いてるんですけど、その背中を見て「はあ、この人が……」みたいな。

江城確かに、ちょっと恥ずかしいな(笑)。

それを、なんの関わりもない我々が並んで見ているという。

――裁判は公開の原則があって誰でも傍聴できるものですが、初めての経験ですから、ちょっと戸惑いますよね(笑)。

デザイナーが、参考資料にするために、法廷画のようにスケッチをしてみたり。チームの結束が固まりましたね。そういう思い出はありますね。

小林数は少ないのですが“裁判員裁判”だと、裁判員にわかりやすく事件を伝えるために、どちらもパワーポイントを使ったり、いろいろな図とか写真とか動画とか使ったりして、それこそ『逆転裁判』のような雰囲気もありますよ。

――裁判員裁判の場合、法曹関係者ではない、一般の方である裁判員にわかりやすくするために、いろいろ工夫を凝らされていると。

なるほどなあ。

――小林さんは、裁判員裁判の事件を扱うことは?

小林まだまったくないです。

――もしそういうお鉢が回ってきたときは。

小林もうがんばるしかないですね。

パワーポイントの資料に成歩堂龍一が顔を出してたりして

小林……いいのかな?(笑)

物議は醸すと思いますよ。

――裁判員にわかりやすく説明するためにも、ひとつの手段としてありかもしれませんね(笑)。

小林けっこうみんなしゃべりかたの勉強をしたりとか、そういうこともしています。

弁護士さんって、師匠はいるんですか?

綾里 千尋

江城千尋さんみたいな(笑)

小林刑事弁護で有名な人たちは、師匠じゃないですけど、その人についていくみたいな感じでやっている方が多いですね。僕は民事が主なのですが。