マイクロソフトのID@Xboxプログラムのリリースタイトルが、この10月で通算1000本を達成した。
インディペンデント系スタジオのセルフパブリッシングをサポートする取り組みとして、2013年にスタートしてから今年で5年目。これまでクリエイターの便宜を最優先に着実にサービスが洗練されてきたが、この1000タイトル達成は、ID@Xboxプログラムに対するクリエイターとユーザーの評価の高さを示すものであると言えるかもしれない。
この5年間で、インディーゲームの発展にも相当寄与したのではないかと記者は思っているのだが、これまでに『Cuphead』や『INSIDE』、『Stardew Valley(スタデューバレー)』、『Celeste』、『Overcooked 2-オーバークック2』など、そうそうたるタイトルがリリースされている(もちろん、マルチプラットフォームタイトルも多数あります)。
ファミ通ドットコムでは、ID@Xboxプログラムの1000タイトルを記念して、ID@Xboxのシニアディレクターであるクリス・チャーラ氏に電話インタビューを実施。1000タイトルを達成しての感想や今後の展開について聞いてみた。
つぎは2000本を目指したい!
――ID@Xboxプログラムが1000タイトルを達成したそうですね。率直なご感想をお聞かせください。
クリスうれしいです! 開発者に何ができるかを日々考えてきたなかで、達成できたことを光栄に思います。最初にID@Xboxプログラムを始めたばかりのころは、開発者とのやりとりも、4~5日かけていたのですが、徐々にその期間も短縮化していて、いまでは「さらに数時間を縮めるにはどうすればいいのか」という効率化を考えています。また、「どういった市場に向けてゲームを出せるのか?」という点でも開発者を支援したいと思っていて、より広い市場でインディーゲーム開発者のゲームが出るようにしていけるかに注力しています。さらに、ディスカバラビリティー、つまり埋もれてしまってタイトルが見つからないという問題をどうするかにも取り組んでいます。いま世界中の67の国や地域で開発者さんが参加されていて、そういったところから集まったゲームを、今度は世界の市場に出していくということにも注力しています。
――それはすごい。ここまで1000タイトルを達成できたのも、開発者の便宜を第一に考えてきたことの成果と言えそうですね。
クリスそうですね。ID@Xboxを展開するにあたっては、まずはプレイヤーの皆さんに幅広いタイトルをご提供するにはどうすればいいのかを考えたのですが、そのためにはインディーゲームデベロッパーの皆さんの助力が絶対に必要だと思ったんです。そこでインディーゲームデベロッパーの皆さんにちゃんとゲームを持ってきていただけるようにするには、“出しやすさ”が必須だと判断しました。プラットフォーム固有の決まりごとを実装するのにやたらと時間がかかるような手間はできるだけ削っていきたかったんです。おかげさまで、多様なゲームをご提供することができて、商業的にも彼らのクリエイティビティー的にも成功を収めたゲームが出てきたと思います。
――ちなみに、節目の1000タイトル目のタイトルというのはあるのですか?
クリスKlei Entertainmentの『Mark of the Ninja』リマスター版、Dark Star Game Studiosの『SINNER: Sacrifice for Redemption』、およびCrazy Monkey Studiosの『Guns, Gore and Cannoli 2』のリリースをもって、ID@Xboxプログラムは1000タイトルがリリースされたという節目を迎えました。
――この5年間の道のりは一様ではなかったと思いますが、とくに印象に残っている転機みたいなものはありますか?
クリスいくつかありました。まずはプログラムのローンチ前に50チームのデベロッパーに話を聞きに行って、どういったニーズがあるのか、どうしたらリリースしやすいのかということを詳細に聞いてそれを参考にしてプログラムを作れたというのが大きかったです。開発者のフィードバックが得られた。それから、最初にE3でID@Xboxを発表したときに、6秒くらいの映像しかでていなかったのですが、あのときはコミュニティからのリアクションがすごかったんです。それが大きかったことで、開発者の皆さんが、「よし、本気でやろう!」というさらなるモチベーションアップにつながった。こういった、プログラムとコミュニティと開発者のループというものは、以降も何回も起きているのですが、ID@Xboxでは継続して力になったと思っています。
それから、思い出の瞬間という意味では、初めてコンソールを手掛けるデベロッパーさんや、トリプルAタイトルを開発しているスタジオを辞めて独立して最初のゲームをリリースするデベロッパーさんなどの、“初めて”のタイトルがID@Xboxであるということは幸せなことだと思います。
――おお。ところで、1000タイトルいずれも印象的だと思うのですが、とくに思い出に残るタイトルは?
クリス私たちはずっとデベロッパーさんたちを助けてきているので、ゲームを楽しまれるプレイヤーさんとはまた別の視点になるかと思います。どういう労力を費やしてそのゲームを作ってきたかをずっと見てきてしまっているので……。お答えするのはなかなか難しいですね。もちろん、これから出てくるタイトルであれば、個人的にすごく楽しみにしているタイトルはいくつかありますよ。たとえば、『Below』。待ち望まれていたタイトルですが、もうすぐリリースされます。『Astroneer』は1.0がすぐに配信されます。MMORPGの『Black Desert(黒い砂漠)』にも期待しています。それからニュージ-ランドのAurora44が開発したMMORPGの『Ashen』ですね。この4本は、遊ぶのをとても楽しみにしています。思い出に残るタイトルというのは、お答えできないです。
――ちなみに、この5年間において、デベロッパーさんとのやり取りで印象的なエピソードなんてあります?
クリス名前は伏せさせていただくのですが、ある開発者さんからメールをいただいたんですね。彼は生活のために大学を辞めて3年くらい働いていたんです。結婚もしていました。それがある日奥さんから、「夢を追うのをやめないようにしたら?」と言われたらしいんですね。彼はそこで一念発起して独学でゲームを作り始めてID@Xboxでリリースしたんです。そのあと続編も出して、それもID@Xboxでした。そこから「こういうゲームを作れる人なんだ」と認められてキャリアが大きく変わったんです。これは、10年前や20年前だったら、絶対に起きないことでした。Unityやアンリアルエンジン、Game Makerといったゲームエンジンにより開発の敷居がさがり、ID@Xboxのようなプラットフォームが出てきて、“開発の民主化”が果たされたことで、デベロッパーさんが物語を形にすることができるようになったんです。これは私にとって、感動的なことです。
――とても、いい話ですね。これからのことを少し教えてください。今後、「こんなことをしていきたい」といったことは?
クリス引き続きインディーゲームデベロッパーの支援をしていきます。そのためには、今後Xboxプラットフォームで何か新しいサービスがでてきたとしても、即座にすべてインディーゲームデベロッパーさんにも利用していただけるようにしていきたいです。一方で、いま私はオーストラリアで開催されている開発者のカンファレンスに参加していまして、現地のデベロッパーと積極的に交流しています。何が言いたいのかといいますと、世界中のインディーゲームデベロッパーにID@Xboxに参加していただいて、2000本を目指したいですね!
――インタビューの冒頭で、クリエイターとのやりとりに4~5日かかっていたのが短縮されたとお話していましたが、そういう実務的な部分では、もはやこれ以上はないくらいに洗練されている感じですか?
クリスそうですね。その点に関していえば、相当短くなっていますが、まだ改善の余地はあると思っています。たとえばいまでも、初めてコンソールでゲームをリリースするとなると、まだまだストレスがかかる部分がでてきてしまいます。そういった部分の負荷をできるだけ減らして、相続力をゲームに費やされるように、最大限の努力をしていきたいです。
クリス・チャーラ氏によると、現段階で1600本以上(!)のID@Xboxタイトルが動いているという。今後どんなタイトルが出てくるのか、期待したい。
[2018年10月31日 午後3時35分]当初今後予定しているタイトルを150本と記載していましたが、1600本とのこと(!)。1000タイトル達成した段階で1600本以上が動いているというのは、いかにID@Xboxが加速度的に普及しているかの証と言えそう。今後の展開に期待!