2018年10月1日に『リーグ・オブ・レジェンド』世界大会“League of Legends World Championship”(通称、Worlds)が開幕。日本リーグを勝ち抜いたDetonation Focus Me(DFM)は、この大会で歴史に残る活躍を見せてくれました。
1週間のあいだ韓国に滞在し、躍動するDFMの姿を見てきた私が、今回の取材で思ったこと、感じたことを改めて振り返ろうと思います。
私が『リーグ・オブ・レジェンド』を始めたのは、2012年の冬頃。運よく、20人以上にもなるコミュニティの人たちと同タイミングでスタートすることができ、手探りながら、みんなで楽しみつつプレイできました。
MOBAという未知のジャンル、ボイスチャットしながらの5人でのチーム対戦、奥の深いゲーム性など、ハマった要因を挙げだしたらキリはないですが、無我夢中で遊びまくり、プレイ開始から6年が経ったいまでも生活の一部と言っても過言ではないほどです。
もともと、ゲーム大会の動画や配信を見るのが好きだった私ですが、『LoL』観戦への関心が強くなったのは、2013年のIEM(Intel Extreme Masters)という大会でのFnatic対SK Gamingの試合を見たことがきっかけ。試合内容は、簡単に言うと「FnaticのxPeke選手が、ひとりで敵本拠地に奇襲を仕掛けて大逆転勝利を収める」というものでした。
その頃は、まだ『LoL』を始めたばかりでそれがどういった大会で、もちろんチームも選手も知りません。一進一退が続く試合内容はもちろん、会場や実況の異常なまでの盛り上がり、勝利が決まり抱き合って喜ぶFnaticの選手たち、負けて泣き崩れるOcelote選手(SK Gamingの選手)。
『LoL』を始めばかり、まだド素人の私でも、この試合はヤバいと肌で感じられる説得力がありました。そして、この試合を通して『LoL』への思い入れのようなものは一段と強くなり、それまで以上にゲームプレイや観戦に熱中するようになりました。
fnatic vs SK Gaming - Group B - IEM Katowice League of Legends
この試合は『LoL』の長い歴史の中でも伝説のひとつに数えられ、以降、敵本拠地を奇襲する行為(『LoL』用語ではバックドアと言います)自体が“xPeke”と呼ばれるようになるほど、世界中の人々に衝撃を与えました。私がこの試合をリアルタイムを見たのはただの偶然で、「プロの試合ってスゲェ!」といういい意味での先入観を植え付けてくれました。
今回、WorldsでDFMが見せてくれた活躍は、私にとっては“Fnatic対SK Gaming戦”以上のインパクトでした。その理由はいろいろありますが、ひとつは“『LoL』後進国”とも言える日本の競技シーンにあると言えます。
ここで一旦話を2013年頃に戻します。幸い『LoL』は、オフシーズンの数ヵ月を除き、国内外で毎週のようにリーグ戦がくり広げられていて、探せばいくらでもプロたちの試合が出てきます。
とくに理由があったわけではありませんが、私は北米やヨーロッパのプロリーグばかり観戦していました。一方で、日本人の試合を見ることはほとんどなかったように思います。というのも、海外の試合に比べると、試合内容にしても、配信のスタイルにしても、クオリティが劣っているように見えたからです。
ライアットゲームズの力なしで、しっかりしたアマチュアリーグが運営されていたのは驚くべきことですし、我ながらすごく失礼なことを書いているなと思います。しかし、当時の私は「日本はまだまだ弱いなあ」なんて言いながら、海外リーグの試合を見ていました。当時リーグを運営していたのは、JCG(Japan Competitive Gaming)。この頃からDFM、およびRampage(現PENTAGRAM)など、日本を代表するチームは活躍を続けていました。
2014年、日本にもついに、LJL(League of Legends Japan League)というプロリーグが発足。国際戦への参加も活発になり、2016年には待望の『LoL』の日本サーバーが設立。それと同時に、LJLはライアットゲームズが運営する公式の大会となりました。
この頃になると、大会の配信も海外のスタイルに近くなり、選手をクローズアップしたVTRの作成やインタビューなども積極的に行われるようになります。私も、LJLへの関心も強まっていき、決勝の会場に足を運ぶほどにまでなっていました。
それでも、国際戦になるとあまりいい結果を残せない状況は続きます。国内では無類の強さを誇るチームが、為す術もなくやられる姿を見ると、「今度こそやってくれるはず!」と口では言いつつも、半ば諦めに近い感情が自分の中に根を張っていきました。そんな自分の不安を、勝ち気な試合運びで払拭してくれたのがWorldsでのDFMでした。
初戦でのKaBuM! e-sports戦の逆転勝利もそうでしたが、とくに感情が昂ぶったのは2試合目の対Cloud9戦。Cloud9といえば、約5年のあいだ北米リーグで活躍を続けているWorldsの常連。そのCloud9に対して、序盤から互角以上の戦いをくり広げているDFMの姿を見ていたら、不思議と涙が溢れてきました。
自分は選手ではありませんが、いまならマンガ『スラムダンク』の山王戦の途中で涙を流した赤木の気持ちがよくわかる気がします。
2014年からWorlds決勝の観戦リポートは書かせていただいていましたが、あくまでも自分から持ち込んだ記事。最初から記事がアップされることが予定されている取材として『LoL』の試合を見に行くのは、今回が初めてでした。しかも、明確に応援したいチーム(DFM)がいる状態での観戦、というのも初めて。
私は、Copenhagen Wolvesで華々しいデビューをしたBjergsen選手の大ファンで、彼がTeam SoloMidに移籍してからは、チームを含めて応援しています。ほかに思い入れのあるチームはとくになかったので、これまでのWorldsやLJL FINALなどの現地観戦は、「いい試合が見られればいいな」くらいの気持ちで臨んでいました。
ただ、今回の取材は話が違います。ときには「DFM ファイティン!」と声を出し、ときにはファインダー越しに「がんばれがんばれ」と念を送りながら、DFMの勇姿を見守り続けました。日本代表だから応援しよう、という義務感のような気持ちはすぐに消え失せ、最初のKaBuM! e-sports戦が終わるころには、ただのDFMファンボーイのできあがりです。彼らのプレイには、それだけ人を惹きつけるものがありました。
自分と同じように、本大会でのDFMの試合を見てファンになったという観客、他国のメディアの方々にもたくさん出会えました。会場に流れる韓国の実況も、日を追うごとに「エビエビエビ!」、「セロスゥー!」とDFMの選手を呼ぶ機会が増えているようにも感じます。
彼らが熱心にDFMを応援している姿を見ると、うれしさとともに「これが日本でがんばってきたDFMの力だぞ!」と誇らしい気持ちにもなりました。にわかのファンですが……。
ちなみに、DFMが最後に戦った中国の強豪・Edward Gaming(EDG)は、選手やコーチもすごければファンもすごい。プレイインステージでは、1日にたくさんのチームが出場します。しかし、EDGが出場する日は、見渡した感じ会場の半数以上がEDG目的で観戦にきているように見えました。
そして、試合開始直後には「EDG、加油! EDG、加油!」というコール(加油は中国語でがんばれ、という意味)が会場全体を包み込み、選手のプレイひとつひとつに大きな声援で応えます。
そんな状況を目の当たりにすると、すっかりDFMのとりこになっている私は「なにくそ!」と思うわけです。同行していたほかの日本メディアの方々も同じ気持ちだったようにも見えました。自他ともに認めるLJLファンガールのスイニャンさん(LJLでは韓国選手の通訳を担当。今回は記者のひとりとして来韓)を筆頭に、私たちは声が枯れるまで「DFM」コールを続けました。
こうした会場内でのやり取りは、さらに選手やチームへの思い入れを強くし、もっと応援したい、また会場に見にきたい、という好循環を生み出します。
画面を通さなくても選手の表情が見え、ときには声まで聞こえてしまうLoL Park(今回のプレイインステージの会場)のアリーナ。大音響で響く実況は、韓国語を理解していなくてもなんとなく言っていることがわかり、試合への没入度を高めてくれます。こんな会場でずっと『LoL』が楽しめるというのは、ほんとうにうらやましいです。
Evi選手は、EDG戦後のインタビューで「世界の壁は高かった」とおっしゃっていましたし、ほかの選手もその意見に同意していました。実際、そのとおりなのでしょう。
ただ、DFMは、LJLの代表として、世界レベルとも渡り合えることを見事に証明してくれました。そういった意味では、ひとつの大きな壁をDFMは乗り越えたと言えます。5年前から私の中に巣食っていた、日本の『LoL』レベルに対する不信感という壁も消え去り、いまは彼らのつぎの活躍が楽しみで仕方ありません。