2018年8月3日~6日、中国・上海にて開催された、中国最大規模のエンターテインメントの祭典ChinaJoy 2018。同イベントに合わせて、記者はふらりとTapTapのオフィスを取材させてもらった。

 TapTapは、言ってみれば中国のAndroid用アプリ配信ストア。ご存じのとおり、中国では国の規制によりGoogle Playが展開されておらず、200を超えるAndroidストアが乱立する状況となっている。TapTapは開設2年にして、上位TOP10内に入るほどの急成長を遂げているストアで、特筆すべきはゲームコンテンツに特化している点で、「上位10ストア中で、ゲームだけを提供しているのはTapTapだけです。中国のユーザーにとっては、スマホのSteamのように求められる位置づけになると思います」と語るのは、TapTapの海外ビジネスを統括するネオ・ツイ氏。

 なぜそこまでTapTapは好調であるのか……。率直にネオ氏に聞いてみると、「すぐれたコンテンツと良質なユーザーですね」とのこと。TapTapはゲーム専用ストアだけにゲーム好きが多く、レビューの信頼性も高く、さらにゲームファンが集まるという、良好なサイクルができているのだという。

 そんな急成長を遂げるTapTapは日本市場にも注目しており、今年も4月のTOKYO SANDBOX 2018と5月のBitSummit Volume 6に参加。“日本のコンテンツを中国で展開する”、“TapTapというストアを日本で訴求する”という点において積極的にアプローチしようとしている。ことにTapTapは、日本のタイトルを中国で展開することに熱心で、中国でタイトルをリリースする際に必須となる中国政府の審査(センサーシップ)の費用を全面負担したり、ローカライズのサポートなどもしてくれるという。「中国のゲームユーザーは、日本のタイトルを欲している」(ネオ氏)という状況にあるようだ。

 記者がネオ氏を始めとするTapTapのスタッフと初めてお話をさせていただいたのは、TOKYO SANDBOX 2018の会場において。そのときに、「今度中国に行ったらオフィスを訪問させてください」とお願いしたところ、快く受けていただけたことから、今回の取材へとつながった次第。

中国大手アプリ配信ストアTapTapのキーパーソンに聞く、開発者の便宜を考えて有料コンテンツは掲載料を無料にする方針に【ChinaJoy 2018】_01
TOKYO SANDBOX 2018時より。中央が海外ビジネスを統括するネオ・ツイ氏。右がジュン氏。左がマルコ氏。

日本市場で知名度を上げるべく、イベントには積極的に参加していく

――TOKYO SANDBOXとBitSummitに出展しての感触を教えてください。

ネオ 大きな手応えを感じました。ただ、率直に実感したのは、日本のマーケットに対する準備がまだまだ不十分だったということです。そこで、私たちは日本向け専門の施策を考え始めました。

――これまでは売上金のうちからいくばくかをもらっていたわけですよね?(これまでの売上金の分前はおおむねほかストアと同程度) それは大胆な方針変更ですね。どのような理由で?

ネオ すごくいいゲームがあるのに、手数料が制約になっているということだったら、それはとても残念なことだからです。開発者にもっと多く利益が得られるように……ということで、無料としました。
 もちろん、私たちもビジネスなので、さすがに収益がないとやっていられないということで、今回の方針は言ってみれば、ビジネスモデルの変更にあたります。サービスを求める方には、TapTapの広告スペースなどをご提案したりして、利益を確保するようにするつもりです。
 ただ、100%無料と言いましたが、実際のところはそうではなくて、決済の際に生じる5%の支払いSDKの手数料(TapTapとは関係ない)は、実費として存在しています。

――それしても思い切った施策ですね。開発者の方からの反響はいかがですか?

ネオ 日本の開発者の方には、まだ正式に告知はしてないので、ご存じでない方がほとんどだと思いますが、すでに実施している中国国内やほかのエリアの方からは、(いささか手前味噌ではありますが)「TapTapって良心的だなあ」とか「やっぱり支援してくれるんだ」という声をいただいています。私たちは分前の方法で収入を得ようというより、中立を貫きたいからです。お金が大きく関わると、どうしても汚れやすくなるからです。

――日本の開発者に対しても、順次アピールしていく?

ネオ はい。当社では、専属の日本人スタッフも入社しましたので、よりきめ細かい体制で、日本の開発者に向けて訴求したいと思っています。私はこれまで何度も日本を訪れたのですが、そこで耳にしたのは、独立開発だけで食べて行くのは難しい。ということでした。生活する環境の違いを感じました。その点を少しでもサポートできたらと、強く思っています。

――以前お話をうかがったときは、ローカライズも支援するとのことでしたが、それはどうなりますか?

ネオ ケース・バイ・ケースになるかと思います。文字量が多くないものに関しては、引き続き無料でお引き受けすることも可能です。ただ、RPGやシミュレーションゲームなどの文字数が多いゲームに関しては、要相談という形になるかもしれません。いずれにせよ、サポートとしてご案内させていただくことができます。

――日本市場に積極的に取り組むとのことですが、今後のプランを教えてください。

ネオ まずは、東京ゲームショウに出展します。東京ゲームショウのブースに関しては、BitSummitでのソニー・インタラクティブエンタテインメントさんとマイクロソフトさんのやりかたを参考にしています。両社ともBitSummitでは、プラットフォームを訴求するというわけではなくて、プラットフォームで展開している各タイトルを出展したんですね。適宜開発者の方をお招きして、ソフトを全面に押し出した展示内容でした。東京ゲームショウでは、それを参考にしつつ、現時点では日本や中国の6タイトルを出展する予定です。

――出展するタイトルは決まっているのですか?

ネオ 日本のタイトルですと、『ミリオンオニオンホテル』や『リバーシクエスト2』、『魔法の女子高生』などですね。私たちとしては、言葉の壁や文化の壁を超えて、TapTapの可能性を日本の皆さんにお伝えしたいと思っています。そのため、東京ゲームショウやTOKYOSANDBOX、BitSummitといった大きなイベントはもちろんのこと、小さなイベントにも積極的に参加するプランでいます。

――日本のタイトルのどのようなところを魅力に感じているのですか?

ネオ オリジナル性です。日本のタイトルはオリジナリティーに溢れていて、ぱっと見ただけでも新しいゲームだということがわかる。中国のゲームファンも、「これは斬新なゲームだ」ということで、心惹かれるんですね。それがダウンロード数の増加につながり……という良好なサイクルになっています。
 ひとつお伝えしておきたいのは、開発者の中には、「中国はパクられるから……」と心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、TapTapは心配ご無用だということです。TapTapは公式アプリしか配信しませんし、このあいだもアイコンがそっくりという苦情があったのですが、きっぱりとご対応させていただきました。

――いずれにせよ、開発者を第一に考えるということですね?

ネオ はい。たとえば、これは日本の開発者さんのケースなのですが、とあるタイトルをGoogle Playで配信しても、ぜんぜん結果が出せずにゲーム作りを諦めかけていたんですね。その方に対して「最後にTapTapに賭けてみてください!」ということで、TapTapで配信したところ、大ヒットを記録したんです。その方は、いまは次回作を作っています。TapTapに賭けていただければチャンスはあるということです。

――ちなみに、日本ゲームの成功例を紹介してください。

ネオ HIRAYA SPACEさんの『7年後で待ってる』ですね。TapTapだけで100万近いダウンロードを記録しています。

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日本でも高い人気を誇る『七年後で待ってる』。

――今後の目標を教えてください。

ネオ TapTapは、韓国や台湾の開発者には当たり前のように知られています。これから1年~2年くらいのあいだに、日本での知名度を上げて、日本のユーザーや開発者の方に、TapTapというブランドがあるんだと認識していただける存在になりたいです。私たちも積極的に日本市場でアピールしていきますので、これからどんどんTapTapのことを知っていただきたいです。

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取材に応じてくれた、ネオ・ツイ氏(中央)とマルコ氏(左)。そして、日本開発者との橋渡し役として2週間前に入社したばかりの日本営業マネージャー松澤知明氏(右)。松澤氏が着ているのは、TapTap設立2周年を記念して制作されたTシャツ。

 ちなみに……だが、TapTapの中国大陸における登録者数をうかがったところ、「6000万人以上、で、デイリーアクティブユーザー200万人以上とのこと。「すごい数字に聞こえるかもしれませんが、中国ではそこまでの数字ではないですよ」とのお返事(なにしろ中国の人口は13億7867万人!<2016年段階>)。さらに言えば、ネオ氏によると「中国はいま登録者数で比べている時代ではない」のだという。たとえばだが、スマホにプリインストールされているアプリも、ユーザーがそのスマホを購入すると、“1ユーザー”とカウントされてしまう。TapTapはそれとは違って、「ゲームを遊びたい」という質の高いユーザーが集まっているのだという。「たとえば、ひとつのゲームでダウンロード数が、ほかのサイトと半分ずつだったとしても、課金ユーザーの80%はTapTapが占めています」(ネオ氏)という。一概に登録者数だけでは決められないというわけだ。

 「開発者に対する心がけやサービスという意味では、中国トップだという自負を持っています」というネオ氏。その熱意が日本市場を動かすか……今後の動向に注目したい。

中国大手アプリ配信ストアTapTapのキーパーソンに聞く、開発者の便宜を考えて有料コンテンツは掲載料を無料にする方針に【ChinaJoy 2018】_03
中国大手アプリ配信ストアTapTapのキーパーソンに聞く、開発者の便宜を考えて有料コンテンツは掲載料を無料にする方針に【ChinaJoy 2018】_04
TapTapのオフィス。設立2年にして現在スタッフは100名を超える。手狭になり近々隣のビルに引っ越し予定だという。
中国大手アプリ配信ストアTapTapのキーパーソンに聞く、開発者の便宜を考えて有料コンテンツは掲載料を無料にする方針に【ChinaJoy 2018】_05
中国大手アプリ配信ストアTapTapのキーパーソンに聞く、開発者の便宜を考えて有料コンテンツは掲載料を無料にする方針に【ChinaJoy 2018】_06
昨年末に実施された“TapTap 2017 Game Awards”時に制作された書籍。パーティーへの来場者に配布された模様。取材時、これをプレゼントされた記者は、一瞬郵送すべきか悩んだほどの重量感。つまり何を言いたいかというと、立派な装丁の書籍に、自身の作ったタイトルのイラストなどが掲載されるというのは、開発者にとってもうれしいだろうなあ……ということ。これもTapTapならではの開発者に対するおもてなしと言えるのだろう。