ゲーム音楽制作会社・ノイジークロークが主催するゲーム音楽イベント“東京ゲームタクト 2018”が2018年5月4、5日に東京の大田区民ホール・アプリコにて開催される。ゲーム音楽コンサートは数あれど、ゲームタクトは坂本英城氏を始めとする、著名なゲーム音楽家が直接運営に携わっているのが最大の特徴。作曲家が奏者とコミュニケーションを直に取りながら楽曲を仕上げているだけに、「これぞ決定版!」という演奏を聞くことができる。また、会場のあちこちには“あの曲の作者”の姿があり、そこで直接交流ができるのも大きな魅力だ。
そこで開催を前に、総合プロデューサーである坂本英城氏を始めとする、運営を担うプロデューサーたちに、当日のプログラムはもちろん、イベントの成り立ちやそこかける想い、そして目指すところをたっぷりと語っていただいた。ゲーム音楽ファン以外の人にも、ぜひ目を通して欲しい。
東京ゲームタクト 2018のプロデューサー陣
左から岩垂徳行氏、なるけみちこ氏、坂本英城氏、中條謙自氏
ゲーム音楽をいろんな形で楽しめるお祭り!
――初めてこのイベントを知る人に、“東京ゲームタクト 2018”とはどのようなものかをご説明願います。
坂本 ひとことで言うと、“ゲーム音楽総合イベント”です。大田区民ホール・アプリコというコンサートホールで2日間に渡って、フルオーケストラのコンサートから、小編成でのミニコンサート、無料のワークショップや座談会などさまざまなプログラムを開催します。遊びに来ていただければ、あらゆる時代のゲーム音楽に触れることができます。何より、その楽曲を作った人と会って交流ができるのが特徴です。
――作曲家の方々が、指導や演奏、イベント運営までされているとか。
坂本 はい。イベントの運営・制作はノイジークロークが中心になって行っています。ふだんは作曲や効果音作りをしているスタッフが、裏方としてイベントを作っているんです。また、今回からは岩垂さん、なるけさん、中條さんには顧問として参加いただいています。もともとお三方は、これまでも積極的にイベント作りに参加してくださっていたのですが、今回からは、より“中の人”として関わっていただいています。お客さん目線を失わないためのご意見番な役割ですね。
中條 僕らが無責任にワイワイと言ったことを、ノイジークロークさん側で取りまとめて形にしてもらっています。
坂本 (笑)。マジメな話をすると、社内だけで揉んでいると、客観性を見失ってお客さん不在になってしまうんです。なにしろ、社員のみんながゲーム音楽が大好きすぎるので、どうしても企画の方向性がマニアックになってしまう。ですので、顧問の皆さんにお客さん目線でのご意見を聴かせていただいています。
なるけ 文字や写真だけで伝えるには限界がありますから、「ゲームタクトってこんなイベントだよ」ということを伝える、ちゃんとした動画が必要だという提案があって、何本か制作を進めてもらったりなどしています。
中條 公式サイトのトップページが、練習風景の動画になっているのも、その一貫ですね。
坂本 岩垂さんからは、奏者さんの意見を代弁してもらっています。有志で集まってくれたゲームタクト・オーケストラは80人を超える人数のため、全員の意見を聞き切れないことがあります。そこを、指揮者として奏者とコミュニケーションを取っている岩垂さんがあいだに立って「こういう意見があります」という集約をしていただいています。
――演奏をするメンバーはどのような方々なのでしょう?
坂本 大ホールはプロの奏者による室内楽が2公演、プロ楽団と有志が合同で演奏する吹奏楽、有志で構成されたフルオーケストラの全4公演となります。有志の方々は、このイベントのために応募してきてくれています。メンバーは、毎年公式サイトから募っているのですが、今年はとくにこちらが希望する人数よりも多くの応募があり、不公平がないよう、厳正に選ばせていただきました。
岩垂 沖縄のコンサートを聴いて「この曲を演奏するんだったら自分も参加したい!」と、メンバーに応募してくれた人もいるんです。
――熱い話ですね!
坂本 下は18歳から上は40代後半までと、年齢や性別はバラバラですが、皆さんゲーム音楽が好きで、自分でも演奏をしてみたいという方々ばかりです。
岩垂 僕の昔の曲を聴かせても「知らない」っていう年代の子もいる(苦笑)。でもゲームは好きなので、「プレイしてみてね」と言っています。逆にそのゲームが好きすぎて「演奏するなら、このアレンジバージョンのこのフレーズを取り入れましょう」といったマニアックな提案をしてくれる人もいるので、作曲家にとってもすごく刺激的ですよ。
坂本 岩垂さんは練習中、指揮台の上から「この曲はこういう思いを込めて作っていた」というエピソードを披露してくださるんですが、それってすごく貴重だし、曲を作った方じゃないとできないことですからね。
岩垂 僕からは「ここのフレーズは、どういう風にしたらいい?」と聞くこともあるんですけど、奏者からはいろんな解釈があって、熱い議論が生まれて、ものすごくおもしろいことになっています。曲を知っている奏者がリーダーのようにみんなを取りまとめてくれるなど、いい関係性が築けています。
――どのような方に見に来ていただきたいですか?
坂本 ゲームファン、音楽ファンの両方を満足させるのが、ゲームタクトの理想ですね。ゲーム音楽だから聞きに行くというお客さんに向けて、作った僕らが責任をもって良質な音楽をお届けするのはもちろんです。加えて、「ゲームは知らないけど、聴いてみたらよかった」という方々にも、その曲を好きになってもらいたいです。
なるけ 練習に半年以上の期間をかけているので時間や労力の苦労はありますけれど、コンサートではその分の熱量を感じてもらえると思います。
――イチオシのプログラムをお聞かせください。
坂本 どれもイチオシなんですよね。でも今回は公演ごとのテーマを明確にしたせいか、気がついたら自分の会社で作った曲がほとんどない状態になっていました(苦笑)。
――昨年はひとつのコンサートでさまざまな曲を演奏するオムニバス形式でした。
坂本 これまでは一度のコンサートでいろんな楽曲に触れてほしくてオムニバス形式で演奏していたのですが、今年からはコンサートごとに“バトル曲”や“名作RPG”、“女性向けゲーム”といったテーマを設けています。そのジャンルが好きな層の方々が満足していただけるものになると思います。
――ゲームというジャンルの多彩さを、テーマごとにうまく配置したのですね。
坂本 はい。しかもフルオーケストラ、室内楽、吹奏楽と、演奏形態もそれぞれに異なります。小ホールでは、和楽器オンリーやケルト音楽といったように、カラーをはっきりさせているのが特徴です。
――なぜオムニバス形式をやめたのでしょうか。
坂本 前回のイベントに参加してくださった方々にアンケートをお願いしたところ、「自分の好きな曲以外が楽しめなかった」という声がいくつかありました。演奏する全曲を知っているのは難しいでしょうけど、とはいえ単一タイトルのコンサートでは、ゲームタクトらしくない。そこで、ゲームのジャンルというしばりを設けることにし、お客様が自らの嗜好に合わせてチケットを買えるようにしたんです。
岩垂 これで反応がどうなるかはわからないけど、スッキリしたし、よい試みだと思う。
――たしかに商業コンサートではひとつのゲームタイトルや、シリーズというものが多く、こうした試みはほとんど見かけません。
中條 そもそもからして複数公演があるゲーム音楽イベントがなかなかないですしね。
坂本 作曲家の方も“バトル曲と言えばこの人!”という方もいるわけで、そういったところを押さえていきたいです。
――どんなゲームの楽曲が演奏されるのでしょう?
坂本 最新情報は公式サイトでご確認いただきたいのですが、決まっているものだと……。
中條 沖縄で演奏した『ワイルドアームズ』メドレーを再演します。僕がアコースティックギターを弾いて、タニクミ(谷岡久美氏)が口笛を受け持って演奏に加わります。
坂本 この人たち、なぜか一般の参加者に混じってふつうに(演奏者として)応募してくるんです(笑)。
岩垂 沖縄の再演なら『グランディア』メドレーもそうですし、『ラジアントヒストリア』はアレンジを変えての演奏となります。いろんなアレンジャーさんにお願いしているので、その人ごとの特色が出ていますね。こちらから注文を出して、個別に直してもらったりもしています。
なるけ 見どころ……自分が参加するオケの合奏で譜面を読むので精一杯なんですよね(笑)。自分の曲に関しては、スコアに少し手を入れているのですが、再演ということもあって、楽しみながら練習を進めてもらっています。ほかの公演だとリハーサル期間が短かったりするなど納得いかなかったりすることもあるのですが、ゲームタクトでは余裕をもって仕上げていける。そういった意味では、ちょっと部活動みたいですね。
――コンサート以外のプログラムについてもお伺いします。昨年は有料の特濃トークショーと、ゆるっとした無料のプログラムがありました。
坂本 今回も同様ですね。チケットがなくても入れる展示室では無料のプログラムが代わる代わる行われます。展示室は中條さんに担当していただいて……。
中條 今回のテーマは“言葉でゲーム音楽を伝える”です。まずは、ゲームタクトに出演される作家さんを、もっとざっくばらんに知ってもらいたい。そこで“がくや”というプログラムを用意しました。“がくや”が行われている時間帯は、本来の楽屋ではなく展示室に移動してもらいます。企画の発端は、昨年の楽屋がものすごくおもしろかったからなんですよ。だったら皆さんにもその一端を見ていただこうということになりました。
――ステージ以外での、素に近い作曲家さんの姿が見られるのは貴重でしょうね。
中條 ええ。ほかにも、お客さんとインタラクティブに遊んでみようという企画も予定しています。展示室全体のテーマとしては、「ゲームは好きだけど、音楽のことはあまりよく知らない」という人向けです。これがきっかけで音楽にもっと興味を持つ人が増えていけばいいな、と思っています。
ゲームファン、作曲家、メーカーが喜ぶイベントに
――最後に、このインタビューの読者へのメッセージをお願いします。
中條 ゲームタクトって、僕の中ではゲーム音楽をテーマとした“フェス”だと思っているんです。目的の公演だけに絞って聴きに来てくださってもいいですけど、当日フラッと会場に来ていただいて、有料・無料さまざまなプログラムの中から好きなものを選んで楽しんでもらえるようにしているので、気軽な気持ちで来てもらえたらと思っています。ゲームが好きで来てみたら、その音楽にまつわる深い話が聞けるかもしれません。
岩垂 昨年は1日、今年は2日間に渡って開催をしますが、僕のイメージだと将来的には一週間を通しての規模のイベントにしていきたい。この1週間には世界中からゲーム音楽ファンが集まって、古今東西のゲーム音楽をどっぷり浸る。そんな意気込みでやっていますので、皆さんにはまずは足を運んでもらって、僕らといっしょに盛り上げてほしいと思っています。
なるけ ゲームタクトは、個人的には楽しんで学ぶ場だと強く感じています。半年以上の練習期間をかけて、当日演奏するゲームの楽曲を磨き上げていく。それは奏者自身が考えるのも、奏者間で活発な議論がかわされもいるし、それを見て私も自身の楽曲について学ぶ。それを聞くだけではなくて、お客さん同士どうしが語る場所もあります。ぜひ遊びに来ていただいて、できたら来年参加してください。
坂本 見に来てくださる方に楽しんでいただきたいのは大前提なのですが、僕たち作曲家からすると、自分たちの作った楽曲をオーケストラなどの生演奏で披露できる場所って意外とないんです。こうした形で発表の場所が増えれば、作曲家は自身の楽曲の貴重なお披露目の場となり、メーカーにとっては著作権収入や作品のプロモーションにつながり、ゲームファンは作曲家の監修が入った演奏を聴いたり作曲家と直接交流が持てたりする。ひいてはゲーム音楽市場の規模拡大につながり、ゲーム音楽に関わる誰もに、より嬉しいつながりができると思っています。よりゲーム音楽というものに注目を集めさせたいので、そのために魅力的なイベントになるようにがんばります!