“スペハリ”から“モンスト”までの名曲がひとつのコンサートに!

 ノイジークロークは2017年5月6日、大田区民ホール・アプリコにてゲーム音楽イベント“東京ゲームタクト2017”(以下、東京ゲームタクト)を開催した。参加型ゲーム音楽フェスティバルというコンセプトを掲げる同イベントだけに、コンサートはもちろん、トークショーやファン参加型のパーティーなど、作曲家とファンが直に交流できるさまざまな催しが行われた。まずは、大ホールで行われた昼公演の模様を中心にリポートしていこう。

著名なゲーム音楽家が集結! 数々の曲目たちが響き渡った“東京ゲームタクト 2017”の模様をリポート_01
▲好天の中、大田区民ホール・アプリコには大勢のゲーム音楽ファンが来場。丸一日ゲーム音楽漬けになれるこのイベントを存分に楽しんだ。

 大ホールで行われた昼公演では、開演を待ちきれずにいる熱心なゲームファンへのおもてなしとしてプレトークがスタート。坂本英城氏、大久保博氏、光田康典氏が、約半年間の練習期間を経て今日の本番を迎えたこと、自身が手掛けた楽曲をオーケストラ演奏することで、より理解が深まったといったエピソードを披露していた。

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▲(右から)ゲームタクトの総合プロデューサーでもある坂本氏と、大久保氏、光田氏によるプレトーク。途中から古代祐三氏、セガ・インタラクティブのHiro氏が加わりゲーム作曲家ならではの貴重なトークに華が咲いた。

 昼公演のオープニングを飾ったのは、想定科学アドベンチャー『シュタインズ・ゲート』のメインテーマ"GATE OF STEINER"。特徴的な物憂げな出だしは、オーケストラアレンジとなってより深みを増した印象。ドラムやベースを使ったビートはないが、それでも後半の盛り上がりは原曲に引けを取らないものに。作曲を担当した阿保剛氏は「ふだんはデジタルで作っていますけど、アナログも素晴らしいですね」と演奏後にコメントを残した。

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 2曲目の演奏は、“千メモ”の愛称で知られるスマートフォン向けRPG『サウザンドメモリーズ』のテーマ曲。原曲からして、スネアドラムが駆けトランペットのソロが鳴り響くなど、じつに王道なRPGのテーマ曲。演奏では勇壮な生コーラスも加わり、その色合いを一層強めていた。

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▲(左からひとり飛ばして)千メモ作曲者のいとうけいすけ氏と阿保剛氏。高橋一生似(本人談)のいとう氏は「歴史の重みを曲にこめました」とコメントし、指揮を受け持った。

 ステージに登場した霜月はるか氏が音楽プロデュースを手掛けた『猛獣たちとお姫様』がつぎの演目。ゲーム中のBGMをメドレーにした演奏で、自身初挑戦という指揮にも挑んだ。温かみと朗らかさに溢れた曲調は、ファンタジックなゲームの世界観にピッタリ。しかも霜月氏は曲の切れ目で指揮をバトンタッチ。そのままマイクを手にしてワルツ調のエンディングテーマ“永遠の物語”を歌うというサプライズが! めったに見られない光景を、来場者は驚きの表情で楽しんでいた。

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▲指揮を終えると、オーケストレーション(アレンジ)を担当した岩垂徳行氏と交代し、やさしい歌声をホールに響かせた霜月氏。こうした作曲家どうしのコラボレーションもゲームタクトの見どころだ。

 続いては、沖縄ゲームタクトでも演奏された『スペースハリアー』のメインテーマ。80年代体感ゲームブームの金字塔的タイトルにして、いまでも愛されるこの名曲だが、明るいメロディはそのままに、フルオーケストラならではの分厚い迫力を加えた勇気の出るアレンジに。作曲を担当したHiro氏がピアノ演奏も手掛ける珍しさもあって、オールドファンは興奮の様子だった。

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▲ふだん弾くことのないグランドピアノにて演奏に加わったHiro氏。師匠と呼ばれるのがよくわかる、堂々たる演奏ぶりであった。

 立て続けに演奏されたのは、『ファイナルファンタジーXI』から“Awakening”。『FFXI』初代ラスボスとの戦闘で流れる曲だけに、それにふさわしい重厚かつ壮大なスケール感。複雑な旋律にのせて、ティンパニーやドラの迫力ある音がここぞとばかりに鳴り響く演奏は、オーディエンスの気持ちをも沸き立たせていたはず。

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▲作曲者の谷岡久美氏(右からふたり目)は、「強“かった”ラスボスの曲です」とプレイしていた人にはわかる言い回しで曲を説明。笑いを誘っていた。

 スマートフォン向けRPG『テラバトル』のテーマ曲“High Sky”をオーケストラをバックに歌い上げたのは、原曲のヴォーカリストでもある河野暁子氏。ピアノとヴォーカルだけの静かな歌い出し、そして中盤から後半にかけて一気に盛り上がりを見せる伴奏、最後には河野氏の伸びやかなハイトーンボイスが響き渡る素晴らしい演奏に。演奏後は大きな拍手が送られていた。

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▲(左からひとり飛ばして)作曲者の植松伸夫氏とヴォーカリストの河野暁子氏。迫力ある演奏のあととは真逆に、軽妙なトークで来場者を楽しませた。

 プレイヤーなら曲名を聞いただけで手に汗握る“モンスターストライクシンフォニー 第6楽章~爆絶~”は、作曲者である桑原理一郎氏の指揮によって演奏された。“セフラ エナ ス~”から始まる特徴的な謎の歌詞(ラテン語など複数の言語からなるとのこと)も、コーラス隊によって完全再現。おどろおどろしい男性コーラスから一転、安らぎを感じさせる女性コーラスへと転じていく様子が、ドラマチックさを感じさせた。最後は高らかに鳴り響くファンファーレで、クリアという名の勝利を実感できる構成となっていた。

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▲激しい曲調そのままのアグレッシブな指揮ぶりを披露した桑原氏。じつは指揮以外でもヴァイオリン奏者として加わっていたのだ。

 休憩明けを彩ったのは、『ノーラと刻の工房 霧の森の魔女』より“今あたしがつむぐ日々”。ステージには5つの弦楽器のみがあり、五重奏による美しい調べが聴ける……と思いきや、ステージ袖からは作曲者なるけみちこ氏が、ウッドブロックをカコカコならしながら登場。自由にステージを動き回るなるけ氏を、なぜか一切気にせずに演奏をスタートさせた奏者たちは、ケルティック調ののどかな調べをシックに響かせて、ほっこりとした空気を生み出していた。

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▲ゲーム音楽演奏ユニット・シュデンゲンアンサンブルによってかわいく演奏されたこの曲。自由にふるまっていたなるけ氏だが、ホントは見事にアンサンブルに溶け合っていた。

 原曲を大胆にオーケストラアレンジしたのが『エースコンバット04 シャッタードスカイ』のエンディングテーマ“Blue Skies”。「シンコペーションがあるため(ビートのない)オーケストラで歌うのは難しい」と説明した作曲家・大久保博氏の心配をヨソに、ヴォーカリストのSAK.氏は、ソウルフルに熱唱。曲名のように、まるで透き通った青空を思わせる仕上がりが感動的であった。

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▲ひと味以上に違った“Blue Skies”を見事に歌い上げたSAK.氏。原曲にもある曲終わりのカラカラ音(チャクチャという楽器の音)も再現されていた。

 岩垂氏が指揮台に登って演奏がスタートしたのは、メガCDで発売されたRPG『LUNAR2 ETERNAL BLUE』メドレー。オープニングテーマから始まり、フィールド曲やバトル曲、さらにはゾファー出現といった印象的なシーンの楽曲が演奏されていく。曲は続き、ラストバトル、別れの曲に続いて、最後は"ETERNAL BLUE ~永遠の想い~"。まるでヒイロとルーシアたちの旅路をリフレインするかのような曲構成は、オーケストラコンサートが20年来の夢だったと語った開発スタッフたちの想いが込められていたからに違いない。

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▲作曲者である岩垂氏が編曲・指揮を担当した『LUNAR2 ETERNAL BLUE』メドレー。演奏後には「メガCD当時のイメージを思い出しながら、なるべく忠実に手がけました」とコメント。

 人気ブラウザゲーム『文豪とアルケミスト』の同名テーマ曲は、坂本英城氏の指揮によって演奏された。「聴きどころは大正ロマン」と坂本氏がコメントしただけに、憂いを帯びた伴奏の上を、メロディアスなソロヴァイオリンの音が流れていく様子は、とてもレトロでロマンチックであった。

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▲坂本氏が指揮をした以外にも、沖縄ゲームタクトを主催した琉球フィルハーモニックオーケストラのコンサートマスター・金城由希子氏がソロヴァイオリンとして加わった。

 いよいよコンサートも終盤となり、ここでステージに登場したのが作曲家の古代祐三氏。氏が手掛けた『世界樹の迷宮』シリーズの多数ある楽曲から、冒頭のダンジョン“迷宮I 翠緑ノ樹海”、そして最深階層"迷宮V 遺都シンジュク"がメドレー形式で演奏された。原曲のFM音源とも、さらにはバンドアレンジとなった『新:世界樹の迷宮』とも違ったオーケストラアレンジは心地よく、ゲームを思い出すと緊張感のある調べにも感じられた。

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▲「すごく緊張しています」とコメントして指揮台に立った古代祐三氏。

 昼公演の最後を飾った曲は、『ゼノブレイド』エンディングテーマの"Beyond the Sky"。演奏前にヴォーカルを務めるサラ・オレイン氏とともにステージに立った光田康典氏は「この曲は僕とサラさんが出会った思い出の曲」と語るだけに、その表情は思い入れたっぷり。原曲は互いを想いやるような優しさを感じる仕上がりだが、この日はフルオーケストラによる迫力の伴奏、そしてそれに負けないサラ氏の堂々たるパフォーマンスで、感動的な仕上がりとなっていた。

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▲フィギュアスケーター羽生結弦氏との共演などで一躍有名アーティストとなったサラ・オレイン氏。しかし、日本での出発点がこの曲であることは、ゲームファンなら誇りに思っていいはずだ。

 万雷の拍手が鳴り止む間もなく、すぐにアンコールがスタート。選ばれた曲は、『ファイナルファンタジーXIII』の通常戦闘曲“閃光”。主人公ライトニングの名を持つ曲だけに、疾走感あふれ、かつ覚えやすいメロディーと、じつに“FF”らしいバトル曲。アンコールに相応しい一曲といえるだろう。

 そして昼の部の大トリ・アンコール2曲目を飾ったのは、『予言者育成学園 Fortune Tellers Academy』のテーマ曲“Glory”。ステージには再びサラ・オレイン氏、そして坂本英城氏が登場。坂本氏は自らの指揮で演奏をはじめると、会場のすべてを感じ取るかのようにじっくりとタクトを振る。それと呼応して、こちらも自ら作詞を手掛けたサラ氏が、可憐に、かつ伸びやかに歌い上げていくと、ホールには極上のひとときが形成されていった。

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▲全演奏終了後には、出演した作曲家・アーティスト全員がステージに登場。鳴り止まぬ拍手の中、名残惜しみつつ昼公演の舞台を後にした。

展示室では無料のトークショーを実施!

 ゲームタクトの楽しみはコンサートだけではない。会場内の展示室では、物販の販売に加えて、ゲーム音楽家たちによる、趣向を凝らした無料のトークイベントを実施。コンサートの合間に立ち寄った来場者が、もっとゲーム音楽について詳しくなれる仕掛けは、まさに参加型のフェスティバルならではと言えるだろう。

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▲“AB型作曲家座談会『AB’s』”では、血液型がAB型な坂本英城氏、上倉紀行氏、高田雅史氏、細江慎治氏の4名による、AB型至上主義トークが展開。とくに着地点はなく、最後は「AB型になろう!」という投げっぱなしのオチとなった。どっとはらい。
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▲"中條謙自の「ゲーム音楽家・一斉調査 2017」"は、出演者への事前アンケートを元に、その人がなにに影響を受け、どんな音楽家人生を歩んできたかを赤裸々にするというもの。事前に発表されていた中條謙自氏、加藤浩義氏に加えて、なんと飛び入りコメンテーターとして光田康典氏、土屋昇平氏が参加。アカデミックな雰囲気となった。
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▲"佐野電磁の『ど~してこの曲がイイの!?』"は、MCの佐野氏、そして細江慎治氏、上倉紀行氏、加藤浩義氏、小塩広和氏が参加し、自分に影響を与えた楽曲の“ここがイイ!”を肴にくり広げていく画期的トークバラエティ。ときには作曲家視点による鋭い分析が、ときにはその曲を聞いていたときの甘酸っぱい思い出が飛び出すという、硬軟自在な出し物として、来場者の笑顔を誘っていた。
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▲ヒストリア社が今春発売予定のVRリズムアクション『Airtone』の試遊コーナーも。大勢の来場者が新感覚の音楽ゲームを楽しんだ。

■昼公演セットリスト

M01:GATE OF STEINER(『シュタインズ・ゲート』より)
M02:Theme from THOUSAND MEMORIES(『サウザンドメモリーズ』より)※指揮:いとうけいすけ
M03:猛獣たちとお姫様メドレー(『猛獣たちとお姫様』より)※ヴォーカル:霜月はるか
M04:MAIN THEME - SPACE HARRIER - (『SPACE HARRIER』より)
M05:Awakening(『ファイナルファンタジーXI』より)
M06:High Sky(『テラバトル』より)※ヴォーカル:河野暁子
M07:モンスターストライクシンフォニー 第6楽章~爆絶~ ゲームタクトバージョン(『モンスターストライク』より)※指揮:桑原理一郎
M08:今あたしがつむぐ日々(弦楽五重奏)(『ノーラと刻の工房 霧の森の魔女』より)
M09:Blue Skies(『エースコンバット04 シャッタードスカイ』より)※ヴォーカル:SAK.
M10:『LUNAR2 ETERNAL BLUE』メドレー(『LUNAR2 ETERNAL BLUE』より)※指揮:岩垂徳行
M11:文豪とアルケミスト(『文豪とアルケミスト』より)※指揮:坂本英城
M12:「世界樹の迷宮」メドレー2017 ~迷宮I 翠緑ノ樹海~迷宮V 遺都シンジュク~(『世界樹の迷宮』より)※指揮:古代祐三
M13:Beyond the Sky(『ゼノブレイド』より)※ヴォーカル:サラ・オレイン
AC1:閃光(『ファイナルファンタジーXIII』より)
AC2:Glory(『予言者育成学園 Fortune Tellers Academy』より) ※ヴォーカル:サラ・オレイン / 指揮:坂本英城