2018年4月28日、29日の2日間、千葉県・幕張メッセにて行われた“ニコニコ超会議2018”。本記事では、同イベントの目玉のひとつであった“超歌舞伎”をリポートする。

 今回で3回目の開催となる超歌舞伎は、古典芸能と現代技術を融合させたエンターテインメント。第1回は、歌舞伎の代表的な演目のひとつ『義経千本桜』と、ボーカロイド楽曲『千本桜』をもとに作ったオリジナル演目『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』を上演。第2回では、ボーカロイド楽曲『吉原ラメント』を劇中曲として使用し、町人社会を題材にして展開する“世話物”のオリジナル演目『花街詞合鏡(くるわことばあわせかがみ)』が披露された。

 そして第3回では、歌舞伎ファンには有名な作品『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』と、鏡音リンの楽曲『天樂』をモチーフにしたオリジナル演目『積思花顔競(つもるおもいはなのかおみせ)』を上演。前々回、前回に続き、今回も中村獅童と初音ミクが主演を務めた。

今回の超歌舞伎は、中村獅童と初音ミクが2役に挑戦! 『天樂』の調べが生んだ感動のフィナーレ【ニコニコ超会議2018】_08

 見どころはなんといっても、主演ふたりが二役を演じたこと。中村獅童は、悪役である惟喬親王(これたかしんのう)と、親王に敵対する良岑安貞(よしみねやすさだ)に挑戦。初音ミクは、安貞の許嫁である小野初音(おののはつね)姫と、白鷺(しらさぎ)の精霊に扮した。

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小野初音姫と良岑安貞。
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惟喬親王と白鷺の精霊。
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『楼門五三桐』をもとにした羅生門のシーンで対峙する、惟喬親王と小野初音姫。

 この複数の人物が絡み合うストーリーが本公演の醍醐味だが、それゆえに前回よりも複雑になっており、また以前はスクリーンに映し出されていた字幕がなくなったこともあって、歌舞伎に慣れていない人は理解しづらかったかもしれない。しかしそれを補うように、ニコニコ動画のコメントで場面を解説する人が現れ、視聴者のコミュニケーションが生まれていたのは“超歌舞伎”ならではの光景だった。

 ほっこりするコメントのやり取りを見ると、記者は超歌舞伎『今昔饗宴千本桜』の初演を思い出す。歌舞伎では、すばらしい演技をした役者の屋号を呼ぶ“大向こう”という習慣があるが、超歌舞伎初回では、「初心者に知識を詰め込みすぎないように」という配慮からか、中村獅童の“萬屋”、初音ミクの“初音屋”という屋号しか紹介されなかった。

 青龍の精役だった澤村國矢の屋号は“紀伊国屋”なのだが、それはパンフレットにも書かれておらず、来場者は屋号を呼びたくても呼べない。そんなとき、歌舞伎ファンがニコニコ生放送で「紀伊国屋!」とコメントしたため、屋号が判明し、「紀伊国屋!」と呼ぶ人も増えていった。そして、その後の公演では、口上(役者による冒頭のあいさつ)でも澤村國矢の屋号が紹介されるようになった。超歌舞伎らしい、柔軟な対応に感服したことを、いまでも覚えている。

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超歌舞伎ファンにすっかり浸透した、澤村國矢の屋号。

 ちなみに、今回の『積思花顔競』の口上では、主演のふたりはもちろん、磐萩の局役の中村蝶紫、秦大膳武虎役の澤村國矢、八咫の鏡の精役の鏡音リンの屋号が、最初から紹介された(なお、超特別協賛のNTTの屋号は電話屋)。屋号をかける人の数も、2年前と比べると圧倒的に多く、超歌舞伎が積み重ねてきた歴史を感じる。歌舞伎ファンとボーカロイドファン、両方の「楽しもう」という気持ちや、「歌舞伎は大衆向けの娯楽だから、気軽に楽しんでほしい」と伝え続けてきたスタッフたちの思いが実を結んだ形だと言える。

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口上にて、病気を乗り越えて、超歌舞伎の舞台に帰ってきた中村獅童に、「おかえり」と声をかけるニコニコユーザー。
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澤村國矢(左)は超歌舞伎皆勤賞。中村蝶紫(右)は、前回に続き、2回目の出演となる。

 さて、ここまでは来場者側の変化について語ってきたが、もちろん超歌舞伎そのものも、変化を重ねてきている。とくに記者が驚いたのは、初音ミクの舞のクオリティー。以前よりも大きくパワーアップしており、その艶やかさに見とれた。

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ツインテールや着物の動きを、つい目で追ってしまう。

 また、ニコニコ生放送でのAR演出や、NTTのイマーシブテレプレゼンス技術“Kirari!”も進化。Kirari!は、舞台にいる役者の姿を抜き出し、別のスクリーンに映し出すという技術で、大詰のシーンでたっぷりと味わうことができる。

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口上で、山車に乗って登場した初音ミク。この後、車内のスクリーンから、ステージ上のスクリーンに姿を移し、滑らかに“車を降りる”という動きを表現していた。このシーンの技術もすごい。
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惟喬親王の分身が、白鷺の精霊と激しく戦う。
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スクリーンに映し出された、邪悪なる惟喬親王の姿。ニコニコ生放送で見ると、AR技術により、スクリーンから大きく飛び出しているように見える。

 そして、最新技術と伝統芸能の融合をたっぷり味わった後に待っているのは、ライブ会場かのような盛り上がりのフィナーレ。『天樂』のアレンジ楽曲が流れる中、中村獅童が皆をあおり、来場者はペンライトを振ってそれに応える。この光景も、超歌舞伎ならではのものだ。

今回の超歌舞伎は、中村獅童と初音ミクが2役に挑戦! 『天樂』の調べが生んだ感動のフィナーレ【ニコニコ超会議2018】_15
今回の超歌舞伎は、中村獅童と初音ミクが2役に挑戦! 『天樂』の調べが生んだ感動のフィナーレ【ニコニコ超会議2018】_11

 3回目ということもあって、来場者側に楽しむ心構えが身につき、会場もコメントも大いに盛り上がった『積思花顔競』。一方で、来場者が“慣れて”きてしまったところもある。贅沢な望みだというのは重々承知だが、最初に超歌舞伎を見たときの、「なんだこれ!?」という驚きを、もう一度味わいたい……。もし次回も超歌舞伎が行われるなら、さらに新しい一面を見せてほしいと思う。

今回の超歌舞伎は、中村獅童と初音ミクが2役に挑戦! 『天樂』の調べが生んだ感動のフィナーレ【ニコニコ超会議2018】_04
クライマックスシーンで現れる鏡音リン。ちなみに、4月29日の公演ではなんと鏡音レンも登場。気になる人は、ぜひタイムシフト視聴でチェックを!