アメリカ・サンフランシスコで行われた、世界最大規模のゲーム開発者向けのカンファレンス“GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2018”。同イベントはクリエイターのための技術交流の場であると同時に、業界人のための交流の場という一面も持っている。デベロッパーどうしがコネクションを作ったり、パブリッシャーがいいタイトルを探したり、デベロッパーが就職活動をしたりする機会としても機能している。なかにはもちろん、スタジオが自社タイトルを取材陣に向けてPRする機会を作ったりするわけだが、今回紹介するJandisoftのMMORPG『Mad World』も、「取材いかがですか?」とお誘いがあったタイトルの1本だ。メールを送ってくれたのは、同社のビジネスマネージャー、マイク・リー氏。かつて韓国の実力派デベロッパーBLUESIDEに在籍していた方だ。

『Mad World』はその高いHTML5の技術に世界が放ってはおかない、ダークな世界観が魅力のMMORPG【GDC 2018】_05

 Jandisoftというのは、韓国にオフィスを構える開発スタジオで、ヨーロッパなどで大いに人気を博したWebzen開発によるMMORPG『Metin』のアートディレクターとプログラマーが独立して作った会社。設立は2013年で、今回紹介してもらう『Mad World』が第1弾タイトルとなる。「設立して4年間、何のタイトルもリリースせずによく存続していたなあ……」というのが、まず頭に浮かんだ疑問だったのだが、「受注などをこなして収入を得ていました」(リー氏)とのこと。

 とはいえ、会社設立時から『Mad World』のプロジェクトはスタートしていたわけで、ここまで時間がかかっているのにはれっきとした理由がある。同作はHTML5向けのMMORPGで、HTML5の基礎研究に、とにかく時間を費やしていたのだようなのだ。『Mad World』最大の特徴は、HTML5対応であることに尽きる。その点に関してリー氏は、「HTML5にした理由は、そのアクションのよさ。本作はMMORPGなので、人がたくさん来ていただけるということがとても重要なんです。モバイルとPCのクロスプラットフォームで遊べるのも利便性が高いですし」とのこと。

 少し話を整理すると、“ナンバーワンのMMORPGを作りたい!”と志した開発陣が、“人が集まりやすい”ということで選んだプラットフォームがHTML5だったというわけだ。HTML5が発表されたのは2014年で、当時あまり開発事例もなかったために、基礎研究に時間を要したものと思われる。という話を聞きつつ、ブースで流されている『Mad World』の映像を見ると、映像はとてもキレイで、なおかつ「こんなにたくさんキャラクターを表示できるのか!?」というくらい画面の密度が高い。素人目に見ても、「これはすごい」と唸らされるクオリティーだ。

 “ナンバーワンのMMORPGを!”ということで、『Mad World』でこだわっているのは世界観。“記憶をなくし主人公が取り戻すための冒険に出る”というストーリーラインのもとに構築された世界観は、見た目から容易に想像できる通りかなりダークな雰囲気。そんな世界観を構築すべくアートスタイルにも相当こだわっており、「見た目は西洋のゲームっぽいですが、しっかりと見たらそうではないとわかる。ちょっと見ただけですぐに『Mad World』だとわかるアートにしたいと思っています」とリー氏。ちなみに本作は、チェプターベースで順次メインストーリーが配信される形式のようだが、「別にストーリーを追いかける必要はなくて、プレイヤーはやりたいことを自由にできるようになっています。レベルアップをしたければ、レベルアップしていればいいし……ということで、自由度の高いMMORPGなんです」(リー氏)とのこと。HTML5対応ということで、間口の広いタイトルにしているようだ。

 もうひとつのこだわりがアクションで、「なかなかに説明が難しいんですよ。とくに手の使いかたが独特です。実際にお見せしたかったのですが、会場のネット環境があまりよくなくて……」(リー氏)とのことで、残念ながら具体的にお話をうかがうことはできなかった。

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 『Mad World』では、ひとつのサーバーで5000人~7000人まで接続可能にする予定で、PvPのバトルアリーナモードも搭載される予定だという。ひとつのパーティーは「企画書のうえでは8人」(リー氏)とのことで、仕様などについては絶賛調整中のようだ。開発状況を聞いてみると、リー氏が隣にいたスタッフの方に質問。聞けばなんと、JandisoftのCEO(!)だという。いままで黙々とパソコンでプレゼンの作業をしていたので、てっきりスタッフのひとりかと思っていた。CEOのユン・セミン氏によると開発は70%程度といったところらしい。せっかくの機会なので、セミン氏に話を聞いてみると、「ナンバーワンのHTML5を!との意気込みで開発しています。最高のMMORPGを目指しています」とのこと。

 そして気になる日本展開に関しては、すでにいくつかのパブリッシャーから話がきているらしい。さらには、「『Mad world』のゲームエンジンを使って(“JANDI ENGINE”というらしい)、有名IPのタイトルを載せられないかといった話もいただいています」とのことで、このHTML5に対する技術力を、日本のメーカーも放ってはいないようだ。

 さて、『Mad World』は、基本プレイ無料タイトルとして、2018年にアーリーアクセス版を配信、2019年Q1(1月~3月)には、リリースを予定しているという。日本のパブリッシャーからいくつか話がきているようなので、いずれ私たちにも接する機会があるはず! いまから楽しみな1作だ。

『Mad World』はその高いHTML5の技術に世界が放ってはおかない、ダークな世界観が魅力のMMORPG【GDC 2018】_01
左がCEOのユン・セミン氏で右がビジネスマネージャーのマイク・リー氏。画面は2017年10月に行ったハロウインのスペシャルイベントでの映像。ワラワラ感がすごい。

■取材協力/矢澤竜太