アメリカ・サンフランシスコにて、2018年3月19日から23日まで行われる、ゲームクリエイター向けの世界最大規模のカンファレンス、“GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2018”。
会期2日目にワーナー ブラザースの新作ゲームアプリ、『ウエストワールド』のプレゼンを受ける機会があった。『ウエストワールド』というと、ご存じの方も多いかと思うが、アメリカで2016年にシーズン1が放送されたテレビドラマ。この4月からはシーズン2の放送も決定しており、まさに旬のドラマと言える。同作は、日本においても2016年にスター・チャンネルで放送されており、つい先日 Blu-ray&DVD<ファースト・シーズン>がリリースされたばかり。シーズン2も5月から放送され……と、アメリカドラマファン注目の1作となっている。
ゲームアプリは、このシーズン2に合わせる形で、日本を含む(!)ワールドワイド同時で4月に配信されることが決定しており、ゲームファンにとっても注目の大型IP(知的財産)というわけだ。しかも、基本プレイ無料タイトルとして。
『ウエストワールド』は、最先端のテクノロジーを駆使した体験型アトラクション “ウエストワールド”を舞台にした大型リミットレス・アクションサスペンスドラマ。西部劇の世界を再現した“ウエストワールド”には、人間そっくりの“ホスト”と呼ばれるアンドロイドたちが生活しており、人間は “ゲスト”としてこの街を訪れることになる。人間は1泊450万円の入場料を払って“ウエストワールド”で自由に行動することができ、アンドロイドに対して、殺人、レイプなど現実世界では法に触れるようなことをすることが可能という、概要を聞いただけでも気になる設定となっている。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の監督を務めたJ.J.エイブラムスと、『ダークナイト』、『インターステラー』の脚本を手掛けたジョナサン・ノーランが本作の製作総指揮を担当。アンソニー・ホプキンスやエド・ハリス、エヴァン・レイチェルウッドなど豪華キャストが集う。
ディレクターを務めるシェルビー・モレディナ氏によると、アプリ版のプロジェクトは、テレビドラマのシーズン1が始まる前の段階から、ドラマの制作会社と「(ドラマが)いい作品になりそうだから」ということでスタートしていたらしい。そのため、制作陣とは相当密接なやり取りをしているとのことだ。
そのためもあってか、プレゼンに先駆けてモレディナ氏が最重要ポイントとして言及したのが、「本作の開発にあたって、第一に私たちが大切にしているのは、“ドラマらしさを絶対に失わないこと”です」という。とにかくIPを大切にするというのが、本作の根底にあるようだ。
さて、そんなゲームアプリ版『ウエストワールド』は、テーマパーク運営シミュレーションにRPGの要素が加味されたタイトルだ。プレイヤーは、“ウエストワールド”の運営母体であるデロスコーポレーションの新人社員として、トレーニング施設で、テーマパークの運営に従事していくことになる。“ストーリーを語る視点をデロスコーポレーションサイドにして、ゲームプレイを運営にフォーカスする”というのは、IPとのマッチングを考えたときに、必然的に導き出された結論だと思われる。なお、時間軸的には、シーズン1からシーズン2へと至る流れが、ドラマと並行して描かれることになる。
シミュレーション要素とRPG要素をミックスした本作では、「地下が施設で、地上がテーマパークになっています。地下で“アンドロイド”を作成するなどの運営を行い、地上のテーマパークで来場者である“ゲスト”をいかに満足させるかを考えることになります」とモレディナ氏。そのために大切になるのが、いかに優秀な“ホスト”を揃えるか。訪れてくる“ゲスト”は、「ギャンブルがしたい」とか、「のんびりしたい」とか、さまざまな望みを持っている。プレイヤーは、「どの“ホスト”を割り当てれば、この“ゲスト”は満足してくれるのか」を考えて、配置を考える。“ゲスト”の好みにあわせて、アンドロイド側も属性を所持している必要があるのだ。そして、満足度が高ければ、それだけ“ホスト”も経験値を多く得られてレベルアップし、新たなスキルを獲得できたりすることになる。
これがスキルもなく、経験値が少ない“ホスト”を割り当てると、“ゲスト”の満足度も低くなり、最悪“ホスト”が射殺される……といった自体も生じかねない。ドラマといっしょで、そのへんは運営サイドは文句は言えない。ただし、射殺といってもアンドロイドなので、なくなってしまうわけではなくて、修理が可能となっている(もちろん、時間とコストがかかるけど)。
“ホスト”は経験値を貯めることで成長していくのだが、一方で、一気に強化する方法もある。合成システムだ。このへんは、いかにもアプリで主流のシステムとIPが合致しているなあと思わせる部分なのだが、本作では複数のアンドロイドを合成することで、より優秀な“ホスト”を育成することができるようになっている。
また、“ホスト”は道具を装備することもできる。装備は材料を組み合わせて作ることになり、たとえば鉄と木を組み合わせてナイフを作るといったことが可能。そして、作ったナイフを装備することで“自己防衛力”のステータスが上がり、その“自己防衛力”のステータスは“ギャンブラー”の属性と強く結びついているので、ギャンブル属性が強くなって、それだけギャンブル好きのゲストを満足させやすくなるという循環だ。
なお、“ホスト”の中には、テレビドラマでおなじみのキャラクターもいるようで、パラメーターのダイヤグラムなどは、そのままテレビドラマから持ってきているそうだ。「見覚えのある方も多いと思います」とモレディナ氏。さらにいえば、原作と同じくアンドロイドは使うほどに不具合が多くなる。そのためバグが出る前に、診察室に連れていって、ケアする……ということも必要になるようだ。ちなみに、テレビドラマで、アンドロイドたちは自分たちを“本当の人間だと思い込む”ように、そして役割が終わると記憶がリセットされるようにプログラミングされているが、“ホスト”として生活していく中で、彼らは記憶の片隅で昔の記憶を思い出し、徐々に自我に目覚め始める…。本作にもそのフィーチャーが盛り込まれているらしい。冒頭で述べた“ドラマらしさ”のためには、AIがキモとなる模様だ。
というわけで、本作のゲームプレイをおさらいすると、作った“ホスト”を成長させて、“ゲスト“を満足させて経験値などを稼ぎ、テーマパークの施設を充実させていくことになる。ロケーションはサービス開始時には5つ用意されており、シーズン2のストーリー展開に合わせて、順次追加されていくらしい。
冒頭で書いたとおり、4月にリリースされる本作は、ローンチしたらライブイベントなども積極的に行っていくとのこと。そのうちのひとつとしてモレディナ氏が明かしてくれたのが、“ハッピーアワー”と呼ばれるイベント。通常だと、素材などを入手できる建物は、曜日によって開いていたり開いていなかったりするらしいが、“ハッピーアワー”になると、全部開くという。つまりお目当ての素材が効率的に集められるというわけだ。そのほかにも、ライバルと競い合うたぐいのランキングイベントも用意されている。たとえば、“ホスト”を作った数でランキングを競うといった具合だ。
基本プレイ無料タイトルらしく、今後順次アップデートを予定しているという本作だが、そのうちのひとつとして予定されているのが、ストーリー要素の追加。「ストーリーはアップデートでどんどん追加されていく予定です。ドラマの制作陣 が監修しているので、本編を補完するようなストーリーになります。ファンの皆さんがニヤリとするような要素も入っていますよ。ゲーム専用のキャラクターも、制作陣のキモ入りで作られています」というから、このへんも、ドラマの制作陣とがっつり組んでいることの大いなる利点ということだろう。
そして、昨今のタイトルに不可欠なものとなっているソーシャル要素に関しても、本作では実装が予定されている。まずはFacebookアカウントと連動してのフレンドとのポイントのやり取りで、このソーシャルポイントが貯まると、特別な“ホスト”が作れるようになる。さらに、こちらに関しては実装が少し先になるようだが、ギルド的なものも予定しているという。本作では“チーム”と呼ばれているようで、「チームを組んで協力してイベントをするというソーシャル要素も入れようと思っています。チームのみんなでがんばって目標を達成するんです」とモレディナ氏は教えてくれた。
さて、本作がどの程度遊べるかに関しては、モレディナ氏いわく「人によってぜんぜん違ってくると思いますが、ミニゲームなども充実しており、ロケーションを全部巡って豊富なミニゲームを遊んで……などとしているうちに、1日けっこうな時間は遊べますよ」とのこと。「マネタイズはどうするのかなあ……」というのは、ゲーム編集の端くれとして気になってしまうところだが、「時短や特別なセット販売、ゲーム内通貨の販売を考えています。ときにはセールなども予定しています。基本的には無料で遊んでいる方が手に入らないものはないです」とモレディナ氏。ちなみに、なぜプラットフォームにスマートフォンを選んだかについては、「ドラマの中でもタブレットを使ってAIのコントロールをすることが重要な要素だったので、このIPをゲーム化するのだったら、タッチ操作でのプレイが世界観にマッチするだろうと考えたんです」(モレディナ氏)とのことだ。
「テレビドラマの制作陣といっしょに仕事をするのは刺激的で楽しい」というモレディナ氏。ドラマを見たファンからは、「ゲームっぽい」と言われることが多いそうだが、そのへんは制作陣もわきまえていて、ゲーム的な要素をよく理解したうえでドラマを作っているらしい。さらには、こうしたメディアミックス展開を積極的に考えているようで、それがしっかりと表現されたのが、アプリ版『ウエストワールド』だと言える。シミュレーション好きな記者にとっても、かなり気になる1本だ。