アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて幕を開けた、ゲームクリエイターの技術交流を目的とする世界最大規模のカンファレンス、“GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2018”。本記事では、開催初日となる2018年3月19日に行われたセッション“Productive Dissension: How a Diverse Writers' Room Created 'Life is Strange: Before the Storm'”の模様をお届けする。

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 日本では2018年6月7日に発売予定となっている『Life is Strange: Before the Storm(ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム)』(対応機種:プレイステーション4、Xbox One、PC)。前作『ライフ イズ ストレンジ』の3年前が舞台で、16歳のクロエを主人公に物語が展開する。

 セッションでは、同作の開発を手掛けるDeck Nine Gamesのザック・ガリス氏が登壇。『ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム』ではリードライターを務めた。

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以前はテレビドラマ『クリミナル・マインド 国際捜査班』シリーズのシナリオを手掛けたこともあるガリス氏。ドラマとゲームのシナリオの違いは、“ドラマは視聴者が見るものを書く。ゲームはプレイヤーの決断を書く”ところだという。

 ライティングという作業は本来は個人的なものであるが、『ビフォア ザ ストーム』には4人のライターが参加し、ライタールーム(Writers' room)で議論を重ね、制作を進めた(4人で書き上げた原稿は1500ページにも及んだとか!)。リードライターは、このライタールームをまとめる存在だ。

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本講演における“ライタールーム”は、複数のライターが参加する環境を意味する。構成要素は、リードライター、ライター、ホワイトボード(全員の共通認識を構築するために使用)。

 ライタールームで作られるものはさまざま。ストーリーのひとまとまりを表す“Break”を作るうえでは、誰が何を行い、何を感じるのか、どんなカタルシスが得られるのかを話し合っていく。また、キャラクターにとっての悲しみとは何か、このゲームにおけるアルカディア・ベイとはどういった存在か、ということも議論される。シナリオの大枠をチームで作って、マインドとビジョンを共有し、その後、各メンバーが細かくシナリオを書き上げていくという流れだ。

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 さまざまな声が集まるために、いさかいを生む可能性もあるが、適切な批評が行える環境としてライタールームがしっかり機能すれば、特別なコンテンツが生み出せる、とガリス氏。ライタールームを作るメリットとして、下記のポイントを挙げた。

・複数の意見が得られることで、スクリプトに盲点が生まれることを防ぐ
・ハイクオリティーなコンテンツを、開発チームの作業に合わせて短い期間で作れる
・健全なライタールームならば、複数のライターを合体させ、ひとりのスーパーライターを生み出せる(Garriss氏はここで“Voltron”という言葉を使っていた。ボルトロンは、アメリカの合体ロボットアニメ)。

 そして、このライタールームをしっかり機能させるためのポイントは3つ。意見交換のルールを決めること、透明性のある文化を作ること、意思決定のメカニズムを確かなものにしておくことだ。

1.意見交換のルールを決める

 同じ用語を用いて、誰もが意見を述べられ、誰もが耳を傾ける場を作る。これが、2番目に挙げた“透明性のある文化”を生むことにつながる、とガリス氏は語る。

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全員がバラバラのことを考えていては進まない。ストーリーのことを考えなくては!

 とは言え、人が集まれば、考えることは別々になる。それは人間であるのだから避けられないことだ。たとえば、ボルトロンについて話し合っていたとする。「かっこいいよね!」、「なんでライオン型ロボットが合体すると人型になるの?」などの意見が飛び交う中、ひとりが「ケアベアが好きだな」と言い出してしまったら……。それまでは共通の話題について議論が行われていたのに、別の話題が出てきてしまった。

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 これを防ぐためにリードライターがすべきことは、あらかじめ“解決すべき問題”を提示しておくこと。ケアベアのような、関係のない話題を持ち出してしまうスタッフは、経験が浅い人に多く、それは何かチームに貢献したいという思いがから回ってしまうから。リードライターはこれに気づいたら、「私たちはいま、ボルトロンについて話しているのだけど、なぜいまケアベアの話をするのか説明してくれないか」ときちんと伝えることが大事。そうすれば、相手は状況を把握してくれる。

 ルーム内のライターは皆、すばらしいアイデアを出してくれる可能性を持っている。リードライターの仕事は、スタッフの試行錯誤が正しく行われ、すぐれたストーリーが紡がれるように集中すること。必要ならば、断固とした態度で軌道修正を行うべきだ……とガリス氏は語った。

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『クリミナル・マインド』のチームでは、製作総指揮のエリカ・メッサー氏が、シナリオについてあらゆるスタッフを決める上で決めているひとつのルールがあったという。それは“No Assholes(クソ野郎お断り)”。笑い話に聞こえるかもしれないけど、これは本当に大事だ、とガリス氏。健全なライタールームを作り、健全な議論を行うには欠かせないとのこと。
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『ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム』の参加ライターのプロフィール。この3人は皆、ゲーム制作に携わるのは初めてだったという。インディー映画のシナリオを書いていたり、教鞭をとっていたことがあったり、映像学科の学生だったり……。ちなみにガリス氏は、ライターチームの面接をする際は、ストーリーに対する姿勢などの話を聞いて、「刺激的だな、この人から新しいことを学べそうだな」と思えるかを重視するとのこと。

2.透明性のある文化を作る

 誰もが意見を述べられ、誰もが耳を傾ける場は、自然にできるものではない。経験の浅いメンバーが原因で、破綻することが多いのだ、とガリス氏。だからこそリードライターは、チーム内で批評的な態度をしっかり取らなければならない。問題があると思ったら、独裁者的な方法ではないやりかたで、注意する必要がある。

 一方で、間違いに対して極めて寛容であることも大事。知らないことを咎めても仕方ない。リードライター自身が、他者からの批評をきちんと受け止めるモデルとなるように振る舞うべきとのこと。

 そして、“代替案を出す”ことが大切だとガリス氏は語る。意見が衝突したならば、「では、どうすればいいと思う?」と代替案を提出させ、きちんと批評的に聞く。その結果、リードライターが判断を下す。これをグループ内で徹底したという。“透明性のある文化”とは、こうした民主的な環境のことなのだ。

3.意思決定のメカニズムを確かなものにしておく

 リードライターは、チームの創造性を最大化しながら、スケジュールを守って制作を進められるようにしなければならない。そのために、リードライターがどのように意思を決定するか、そのメカニズムを明確にしておくべきとガリス氏は述べた。

 と、ここまで、ライタールームを健全に機能させるためのポイント、リードライターの果たすべき役割が語られてきたが、それでも「自分が間違えることもある」とガリス氏。85%の正解率が出せれば、ロックスターみたいなものだ、という。そもそもシナリオ制作というのはとてもたいへんな作業で、それを複数人で行うのは、もっとたいへんなのだから。それでも、ストーリーテリングが好きなら、自分を信じ、メンバーを信じ、楽しさを信じろ……とガリス氏は来場者にメッセージを送り、セッションを締めくくった。

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取材協力/矢澤竜太