2017年9月21日(木)から9月24日(日)まで、千葉の幕張メッセにて開催された東京ゲームショウ2017(21日・22日はビジネスデイ)。同イベントにて、毎年の恒例行事となっている“日本ゲーム大賞 2017アマチュア部門”発表授賞式が行われた。日本ゲーム大賞 アマチュア部門は、“新たな才能の発掘と人材の育成”を目的に、アマチュアのクリエイターから応募作を広く募集。すぐれた作品を選考・表彰することになる。

“日本ゲーム大賞 2017アマチュア部門”受賞者に聞く 「とにかくおもしろいゲームが作りたい!」【TGS2017】_01

 同部門のユニークなところは、募集テーマを設けているところ。毎年募集テーマを設定し、参加希望者はそれにもとづいたタイトルを制作することになる。2017年のテーマは“はさむ”で、このテーマが発表されたのが3月1日。応募締め切りが6月30日というから、3ヵ月のあいだにアイデアを出して、ゲームとして組み上げて……というから、けっこうなスピード感だ。そんな、なかなかにハードな制作期間でありつつも、今年は過去最多の409作品の応募があったというから(昨年は329作品というから約2割増し)、大いに盛り上がりを見せていると言えるだろう。

 そんな盛況だった“日本ゲーム大賞 2017アマチュア部門”にて、見事大賞を受賞したのがECC コンピュータ専門学校のトレース製紙工場が制作した『トレースペーパー』だ。同作は、トレーシングペーパー上に描かれた足場のラインを進み、キャラクターをゴールまで導くアクションパズルゲーム。使えるペーパーは最大4種類で、ゴールするために必要な足場の位置を考えて、ペーパーを入れ替えたりするのが考えどころの1作だ。3枚目に重ねた線は色が薄くなり、キャラクターが通り抜けられるようになる……という工夫が凝らされたトレーシングペーパーらしいギミックも、審査員から高い評価を獲得した。

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 一方で、日本ゲーム大賞 アマチュア部門には個人賞も設けられており(個人からの応募は409作品中50作品)、同賞を受賞したのは、柴田駿佑さんの『Ultimate Selfy』。こちらは、結晶化した敵(エネミー)を倒しながらゴールを目指すアクション。プレイヤーは結晶化し固まった“エネミー”に触れ、その動きを解放する。解放した“エネミー”からの攻撃をうまく避けつつ、地形と画面端とで挟んで倒していくのだ。

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 というわけで、今回大賞に輝いたトレース製紙工場の皆さんと、個人賞を受賞した柴田駿佑さんに発表授賞式直後にお話しを聞く機会を得た。以下、その模様をお届けしよう。ちなみに、トレース製紙工場も柴田駿佑さんも、大阪に校舎を構えるECCコンピュータ専門学校の学生さん。“日本ゲーム大賞 2017アマチュア部門”では、優秀賞、佳作9作品中、4作品が同校のゲーム。受賞後は、先生たちも交えてうれしそうに記念撮影をしていたのが印象的だった。

大賞 『トレースペーパー』トレース製紙工場

「大賞を取ったことに恥じないように、これからもゲーム開発に取り組みたい」

“日本ゲーム大賞 2017アマチュア部門”受賞者に聞く 「とにかくおもしろいゲームが作りたい!」【TGS2017】_03

左から……
平野立樹さん プログラマ
岩倉晃宏さん プログラマ
松川拓矢さん チームリーダー
山形裕さん プランナー
水口尚弥さん プログラマ

――大賞を受賞しての率直な感想を教えてください。

松川 まだ夢の中にいるんじゃないかなと思っています。

山形 夢みたいで、大賞を取ったという実感がないです。

平野 最終審査に残っただけでも光栄なのに、大賞までいただけて、このうえない感動です。

岩倉 信じられないです。大賞をいただけたのでうれしいです。ゲーム作りに対するモチベーションが上がりました。

水口 実感がなさすぎるので、なんとも言えない感じです

――どこが評価されたと思いますか?

松川 テーマである “はさむ”の使いかたが独特だったので、それが高い評価につながったのかなと思っています。

山形 ほかのチームとかぶらないように努力して、オリジナリティーを出そうと思ったのが大賞を取った理由だとお思います。

平野 企画段階で、ほかのチームと似たようなゲームは作らないようにしようと心掛けていました。それをゲームにできたのが評価されたポイントかなと思っています。

岩倉 過去に大賞を受賞した作品を調べてみたところ、パズル系が多かったんですね。去年もアクションパズルだったので、僕らもパズルで行こうかなと。それでいろいろと研究しつつ、ほかのチームとはかぶらないようにしました。

水口 企画はもちろんですが、チームワークの賜物です。とくに、チームリーダーが仕事を割り振ったり、仕切ってくれたおかげで、気持ちよく仕事ができました。

――皆さん仲がいいのですね?

松川 もともと仲がいい連中を全員引っ張ってきて組んだのが、このチームだったんですよ。企画の段階でも制作に入ってからも、やりたいこともちゃんと言うし、「ここはおかしいのでは?」と、気になる点があれば遠慮なく指摘してくれるんです。とてもいいチームですね。途中で、チームみんなのバイトが重なったりして、なかなか全員集まることが少なかったので、「もうちょっとバイトを減らせない?」とか言ったりもしましたけどね。

――テーマが発表されてから制作期間は3ヵ月でしたが、作業はたいへんでしたか?

松川 チームのメンバーはテーマが発表される前に決めていて、テーマがわかった段階で企画を考え始めました。何だかんだ言って、後半はかなりきつかったですね。チームのみんなでステージのアイデアを持ち寄ろうという話をしていたのですが、なかなか出てこなくて……。ギリギリまでステージのアイデアを考えていましたね。あと、バグが多くて……。バグ直しに時間が取られました。最後は、何日は徹夜することもありました。

――トレーシングペーパーで“はさむ”というアイデアを発想したきっかけは?

松川 担当の先生と雑談しているときに、トレース台の話が出たんです。そのときに、「トレーシングペーパーがおもしろいんじゃないかな?」と思ったんです。それでチームのみんなに伝えたら、「おもしろいんじゃないか!」ということで、手応えを感じまして。

山形 これはおもしろそうだと直感的に思いましたね。

松川 テーマは“はさむ”なのですが、アイデア的に“紙を重ねる”というふうに思われるのではないかと、心配になったりもしました。そのために、ぱっと見て“紙をはさむ”というふうに見えるように、かなり工夫しました。

――“3枚重ねると線が薄くなってキャラクターが通り抜けられる”というギミックも、審査員から評価が高かったですね。

松川 そうですね。ただ挟むだけでステージを作るのはおもしろくなかったので、何かを付け足すのならばどうしようと考えたときに、“線が薄くなる”という要素に気づいたんですね。だったら通り抜けることもできるんじゃないかな……ということで、通り抜けるアイデアが生まれました。

――開発をするにあたって、難しかったこところは?

松川 チームの中にはデザイナーがいないんです……。僕はもともとプログラマーなのですが、本作ではデザイナーも担当しました。で、デザイナー不足をどうやって補うかという話になって、プログラマーが多かったので、「プログラムで補おう」と。そのために、モーションブレンド(ふたつのアニメーションを同時に再生し、割合を調整すること)とか、いろいろと入れて、プログラムで補うべくがんばりました。

山形 コンセプトの紙を“はさむ”や通り抜けるといった要素を、ルートに落とし込むがのたいへんでした。あとは、ゲームの導入部分がけっこう伝わりにくかった。そのため、チュートリアルをわかりやすくして、ゲーム本編をさっくりと進めるように努力しました。

平野 僕はプレイヤーの動きを担当したのですが、ステージを作っているとバグが出たり、動きがスムーズではなかったりしたんですね。本作はアクションパズルなのて、アクション性を爽快にして、パズルに集中できるように……ということで工夫しました。

岩倉 僕は難しめのステージを担当したのですが、プレイヤーの動きに“よじ登り”という動きがあるんですね。それを前面に押し出したステージを作りたいな……ということで、取り組んでいたらバグが見つかったりしました。ステージを作るのはけっこう難しくて。紙が4枚あると、差し替えて差し替えて……ということで力技でどんどん進めてしまうんですよ。それをできないようにするのが、けっこう難しかったですね。

水口 自分はモーションブレンドなどの見た目に関わる所を担当したのですが、どうしたらキレイに反映することができるかが難しかったです。

――チームワークを保つ秘訣は?

松川 思っていることをきちんと相手に伝えることがいちばん重要だと思っています。このチームは全員仲がいいので、どんなことでも気兼ねなく言えるんですね。ちょっと相手をバカにしたり……ということも、ときにあるのですが、そこからおもしろいアイデアが生まれることも往々にしてあります。やっぱり、“ちゃんと話して伝える”ということがチームワークの秘訣だと思っています。

平野 言いたいことが言えなくて、抱えるということがなかったですね。

――最後に、今後の目標を教えてください。

松川 大賞という栄えある賞を受け取ったので、それに恥じないようにこれからがんばっていこうと思っています。就職したいゲーム会社はまだ決めてないのですが、ゲーム会社には何が何でも行きたいと思っています。

山形 ゲームを作る人間として、もっとおもしろいゲームをユーザーの皆さんにお届けできるようにしたいと思います。

平野 大賞を取る前から目標は変わっていないのですが、ゲーム会社に入ってゲームを作って、自分の作ったゲームを遊んでもらう。それだけが目標です。

岩倉 大賞を取ったことに恥じないように、技術を向上させていかないといけないかなと思っています。いまから実力を上げることに専念していきたいです。

水口 大賞を取ったことに恥じないように、これからもゲーム開発に専念していきたいです。

個人賞『Ultimate Selfy』柴田駿佑さん

「とにかく、おもしろいゲームが作りたい」

“日本ゲーム大賞 2017アマチュア部門”受賞者に聞く 「とにかくおもしろいゲームが作りたい!」【TGS2017】_02

――大賞を受賞しての率直な感想を教えてください。

柴田 率直に言うと、やっぱりうれしいです。

――受賞すると思っていましたか?

柴田 そうですね。じつはそこそこ自信がありました。かなりがんばって作ったので。ドット絵を書いたりプログラムを組んだりと、納得がいくまで取り組んで、「これで今日の作業を終わろう」と思ったら深夜だったりとかけっこうありました。プログラムやグラフィック、あとは音関係も自分で作ったのですが、並行作業をしながら飽きないようにやっていました。

――どこが評価されたと思いますか?

柴田 いちばんこだわったのは、プレイしているときの気持ちよさです。たとえば、敵を挟む瞬間ですね。そこをいちばん気持ちよく感じられるようにしました。

――今回“はさむ”というテーマだったのですが、どのように発想したのですか?

柴田 攻撃方法に挟むという要素を使うだけだと、挟む必然性があまりないように思ったので、挟む必然性のあるようなゲームを作りたいなと考えたんですね。そうすると、「何があるのかな」とちょっと迷ったのですが、自分が動くことによって挟みにいけるというアイデアを思いついたんです。

――開発をするにあたって、難しかったこところは?

柴田 ゲームの企画を考えるのに、制作期間の半分くらい使っているんですね。実作業は制作期間の半分くらいだったので、たいへんでした。焦りはありましたが、「がんばって作ったらどうにかなる」と思って。

――企画ができた段階で、行けるという手応えがあった?

柴田 そうですね。あと、先生に企画を見せにいったら、いつもはすんなりと行かないのに、そのときは「これはいい!」と太鼓判を押してもらったんですね。そこで、手応えを感じました。

――なぜひとりで作ることにしたのですか? もともと個人で作りたいという発想があった?

柴田 そうですね。自分の世界を自分で作りたいと思っていました。

――自分の世界観にこだわりがあるのですね?

柴田 それもありますし、作業自体も自分でやりたいんです。

――ちなみに、お好きなゲームは?

柴田 いろいろ遊ぶには遊ぶのですが、インディーゲームとかも好きですね。『Downwell』とか。

――将来的にはインディーの方向に進みたいのですか?

柴田 ちょっと迷っています。インディーで自分の世界観を構築してみたいような気もしますが、いわゆる商業のほうに進んで勉強してみたいという気持ちもあります。

――最後に、今後の目標を教えてください。

柴田 僕はとにかくおもしろいゲームが作りたいので、この受賞を糧にして、これからもどんどんゲームを作っていきたいです。

“日本ゲーム大賞 2017アマチュア部門”受賞者に聞く 「とにかくおもしろいゲームが作りたい!」【TGS2017】_04

 日本ゲーム大賞 アマチュア部門で大賞を受賞することで、人生の何かが変わるのかは正直わからない。希望している就職先へ確実に決まるとも限らないし……。とはいえ、応募総数409作品の中で頂点に立つことで、何かを成し遂げたことには間違いなく、それが人生の糧となることはたしか。「受賞したことでモチベーションが上がる」という声には実感がこもる。何よりも、開発の日々は得るものが多かったのでは。
 しかし、今回の取材を終えておじさん記者が実感するのは、皆さんの清々しさ。実際のところ、記者の子どもくらいといっても過言でない皆さんなわけですが、とにかく“いいゲームを作りたい”という気持ちがひしひしと伝わってくる。こういう若者がいるのであれば、日本のゲーム産業は行けるな!と気持ちよくなりながら、取材を終えたのでした。

 さて、日本ゲーム大賞 アマチュア部門に関連して、今後の新しい取り組みが発表された。日本ゲーム大賞に“U18部門”が新設されるというのだ。こちらは、18歳以下の“次世代クリエイター”を対象に、作品&プレゼンによる審査を実施するというもの。日本ゲーム大賞 アマチュア部門は専門学校以上、“U18部門”は小中学生および高校生という棲み分けになっていくようだ。CESAによる、さらなる若い世代に向けての人材育成&人材発掘の取り組みと言える。

 CESAでは、“U18部門”の新設にあわせて、11月12日に“集え!創れ!未来のゲームクリエイター~U18部門~”というシンポジウムを開催する。“U18部門”のことが気になる方は、参加してみるといいかもしれない。参加費は無料で、定員は200名(定員に達した時点で募集締切)だ。

※日本ゲーム大賞 U18部門紹介サイト