『ソードアート・オンライン』作者の川原礫氏やBNE原田氏が、小説内と現実の最新技術について語る! 未来のVRやAIはどうなる?【CEDEC 2017】

CEDEC 2017の始まりを飾る基調講演として行われた“『ソードアート・オンライン』 仮想から現実へ。 小説とゲーム技術のお話。 ~ソードアート・オンラインが現実になる日まで。~”をリポート。

●オーバーテクノロジーを描く小説に、日々進化する現実の技術は追いつくのか

 2017年8月30日~9月1日の期間、パシフィコ横浜で開催されている、日本最大級のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2017”。開催初日、CEDECの始まりを飾る基調講演として、“『ソードアート・オンライン』 仮想から現実へ。 小説とゲーム技術のお話。 ~ソードアート・オンラインが現実になる日まで。~”が行われた。登壇者は下記の通り。

・作家 川原礫氏
・バンダイナムコエンターテインメント 原田勝弘氏
・バンダイナムコエンターテインメント 二見鷹介氏

▲川原礫氏。『ソードアート・オンライン』の作者として知られる。

▲『鉄拳』シリーズや『サマーレッスン』プロジェクトを手掛ける原田勝弘氏。

▲『SAO』のゲームシリーズプロジェクトでプロデューサーを務めている二見鷹介氏。基調講演の進行役も担当した。

 そもそも『ソードアート・オンライン』(以下、『SAO』)とは何か。多くの方がご存じだと思うが、改めて解説すると、同作は2001年にWebにて連載がスタートし、その後、電撃文庫にて刊行が始まった小説だ。そしてテレビアニメや劇場版アニメ、ゲームなどさまざまなメディアで展開され、いまでは日本のみならず海外でも支持される人気コンテンツとなっている。

▲小説の世界累計部数は2000万部、ゲームの販売本数はワールドワイドで300万本、劇場版の興行収入は25億。

 同作はMMORPGをテーマにしており、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、AI(人工知能)といった技術がストーリーに絡んでくる。基調講演では、小説の中で登場する技術と、現代の最新技術に関するトークがくり広げられた。では、お題に沿って、どのような内容が語られたのかをリポートしていこう。

●『SAO』小説内のゲームの表現について

 前述の通り、『SAO』の物語の舞台は、MMORPG。プレイヤーたちは頭に専用の機械を装着し、その世界に入り込んだかのような体験をする。つまり、VRでMMORPGを遊んでいる。

 とはいえ、自分の肉体がアバターであること……というのは、想像してもしきれないところがある、と川原氏。ポリゴンでできていると言われても、触るとつるつるしているのか硬いのかもわからない。髪の毛だって、1本1本を作っているわけでもない。“将来的にはVRの世界で、髪の毛はどんな表現になるのか?”という川原氏の質問に、原田氏は“より情報密度が上がっていく。その上げかたも、単なる解像度の話ではなく、髪の毛に目を向けて、自分の手なのか、もしくはデバイスなのかはわからないが、それが触れたときのみに、ミクロな処理が行われるようになるだろう”と回答。川原氏も、それに近いイメージを持っていたようで、『SAO』においては、ものを近くで見たときだけ解像度が増す(ディテールフォーカシングシステム)という設定を作ったのだと述べた。

 また『SAO』の主人公たちは、MMORPGの世界をもうひとつの現実として受け入れているが、原田氏はこのことについて、“現実とゲームの世界の区別がつかなくなると、もはやそれはエンタメではないのではないか”、“自分は現実(安全なところにいる)にいる、という立ち位置を残さないと”と持論を展開。一方、二見氏は、『SAO』では仮想現実内で宿題をするという描写があることに触れ、生活の隣りに仮想現実があるという世界が描かれているのが興味深いと述べた。

 これを受けて川原氏は、そういった表現は「こういった技術があったら、どういう世界だろうか」と考えて描写したものであり、“ゲーム業界の皆さんには、それを実現して、さらに上回ってほしい”と来場者に向けて語った。

●『SAO』をゲーム化する際、“ゲーム内ゲーム”を表現した理由

 『SAO』を題材にしたゲームが出る……と聞いた川原氏は、「キリトが女の子と交流するアドベンチャーゲームだろう」と思ったらしい。しかし、企画書を見ると、だいぶガチな内容だったので驚いたとか。これについて、「勝算はどこにあったのか」と尋ねられた二見氏は、同じくオンラインゲームを舞台にした作品である『.hack(ドットハック)』が大好きで、ゆえに“ゲーム内ゲーム”はもっと受け入れられると思っていた、と回答した。

 川原氏は開発中のゲーム画面を見て、“ネットゲームをプレイしているキリトたち”を主人公にしたオフラインRPGとはどういうことか……と、考えれば考えるほど不思議な気持ちになっていったという。だが、ゲームを遊んだ中高生のプレイヤーは、そのことをふつうに受け入れており、二見氏は「そういった状況がすんなり受け入れられる時代なのでは」と語った。

 「いつか終着点として、ゲーム内ゲームではない『SAO』を二見さんに作ってほしい」と希望を伝える川原氏。自分が名もなきプレイヤーとなり、アインクラッドの100層をクリアーしていくVR対応のネットワークRPGのような……。川原氏の願いが叶う日は来るのか、バンダイナムコエンターテインメントの挑戦に期待したい!

▲なお、基調講演の会場は、パシフィコ横浜のメインホール。立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。

●『SAO』を書き始めた理由と、今後のVRの課題

 そもそも、川原氏はなぜ『SAO』を書こうと思ったのか。これについて、川原氏はまず、電脳世界を舞台にした小説はずっと前からあったと説明する。ジェイムズ・P・ホーガンの著作『仮想空間計画』では、主人公がVR世界に閉じ込められて、最初はそこが仮想生活なのかどうか気づかない……という物語が展開。いまいる場所が現実かどうか確かめるため、いきなりグラスをたたき割ると、システムの処理が追い付かなくて解像度が下がる……という描写があるそうで、“そこをすごくおもしろいと思った”という。

 ほかにも、岡嶋二人『クラインの壺』、高畑京一郎『クリス・クロス 混沌の魔王』などの作品があり、そういう先陣たちの小説に刺激を受けたというが、『SAO』を書き始めた最大の理由は、“オンラインRPGに費やした膨大な時間の元を取りたかったから”。せめて経験を小説にして読んでもらうしかない……と思って書き始めたのが『SAO』だという。川原氏は、『SAO』がこうして受け入れられたことで、MMORPGに時間を費やして廃人だった自分を肯定できるようになったのがすごくうれしい、と語った。

 また、VRMMORPGという、いまの技術では実現されていないものが題材になっているが、それはオーバーテクノロジーを考えたというより、“ゲームの中で死んだら、現実世界でも死んでしまう”というデスゲームを成立させるための設定を考えたらそうなった、と川原氏。デスゲームを成り立たせるため、“破壊できないし、外すこともできないヘッドギア”という設定を生み出したのだ(なお、無理やりヘッドギアを外そうと外部から試みると、ほかのプレイヤーが殺されてしまう)。魂がゲーム世界に移動するという設定にした場合、SF小説になりすぎるという懸念もあり、このような形になったのだという。

 さて、『SAO』に登場する機械ほど高性能ではないにしろ、現代の世界でもVRが普及してきた。原田氏は現代のVRについて、ヘッドギアを装着するということのハードルがまだまだ高いことや、ある程度慣れてしまうと、どんなVR体験ができるのか推測できるようになってしまうことなどを今後の課題として挙げる。

 では、20年後、30年後のVRはどうなるのか。川原氏はコンタクトレンズを装着して楽しむ形を、原田氏はメガネくらいのデバイスを装着して網膜投射する形などを案として挙げた。また川原氏は、VR体験をしていると、体も動いてしまう問題をなんとかしなければならない(たとえばVR空間で広大な草原が広がっていて、そこで走り出したら、現実の自分の体も動いてしまう)ともコメント。この問題があるゆえに、『SAO』では、延髄部分で神経をマヒさせるという設定が取り入れられている。ならば、本気でVR世界を楽しみたいならば、人間は体を手術しなければならないのでは? それこそ『マトリックス』や『攻殻機動隊』の世界だ――と、議論は大いに盛り上がった。

●劇場版『SAO』ではARが題材に

 『劇場版 SAO -オーディナル・スケール-』では、VRではなく、ARのMMORPGが題材になっている。これについて川原氏は、もともと“ゲームの中に再現された現実の街”というものが好きで(たとえば『女神転生』シリーズに出てくるような)、それゆえに、最初はVRで表現された東京を舞台にしようと考えていたという。しかし、VRの東京で戦っていながら、じつは自宅の(たとえば埼玉の)ベッドにいるということについて、「本当は、どこにいるんだよ?」と思うようになってしまったのだとか。

 これまでの『SAO』は、ゲームの世界からログアウトできない設定になっていたが、『オーディナル・スケール』では現実とゲームの世界を行き来するので、それならばVRではなく、ARでゲームをプレイするほうが違和感がなくなると感じ、ARを採用。また、『イングレス』はシナリオのヒントになったそうだ。しかしその後、『ポケモンGO』が生まれ、ここまでヒットすることは想像もしていなかったので、驚いたとのこと。最近は『ポケモンGO』のレイドバトルに関するCMを目にすることが多いが、あのレイドバトルこそ、まさにやりたかったことだった、と川原氏。

 原田氏は、『オーディナル・スケール』に登場するAR技術について、あれは実質MR(複合現実)であると述べ、それほどの技術であれば、ゲームに活かすより、世の中の役に立つ方向性に持っていくべきでは? と提言。たとえば、タクシーを見たとき、空車のランプを確認するまでもなく空き状況が表示されたり、そこにあるマンションの空き部屋の家賃がわかったり……と、ゲーム外での技術の活用法について語った。

●『SAO』に登場する高度AIは、もはや夢物語ではない?

 『SAO』の世界では、AIもかなり発展している。『オーディナル・スケール』に登場するユナは、高度AIキャラクターだ。詳細はネタバレになるのだが、ユナに近い形で、“人間がデジタルメディアに残している情報から、その人間をAIとして再生する”……という研究は現実でも行われている。それがセラピーなり、人生相談なりに活用されればいいし、たとえば格闘ゲームでも、ライバルのように振舞ってくれるAIがいて、それが人間のようだと思えれば楽しくなるかも、と原田氏は語る。

 また、『SAO』のアリシゼーション編では、“脳を再現し、そこに知性を発生させる”というボトムアップ型のAIが登場する。こういったAIの形は、以前は「SFだ」と言われたが、最近は夢物語ではなくなってきた、と川原氏。

▲トップダウン型とボトムアップ型の違い。世にある人工知能は、だいたいトップダウン型。

 自分たちが生きているあいだは無理かもしれないけど、いっしょにAIと暮らす時代はいつか来る(ぜったい来ます! と原田氏)。そしてAIは、「自分を生んだのは人間だ、では人間を生んだのは?」と思考し、けっきょくわからず、AIにも宗教が生まれる……原田氏らはそんな未来について語り合った。AIどうしで戦争が起こったりと、SF小説で描かれていた未来も訪れてしまうのかも?

 と、未来に関する想像は止むことがないが、基調講演の時間もいよいよ終わり。最後に原田氏は、VRは研究テーマとしてとてもおもしろく、研究すればするほど、現実を再定義しなければならなくなり、そこからわかることがたくさんある、とコメント。いまは技術のスタート地点であり、今後も足を踏み入れていきたいと語った。川原氏は、“小説で書いたことが、現実に追い抜かれていることがある”と述べ、現実と想像力のせめぎ合いになる中で、「現実に追いつかれないように、ひと足先、ふた足先の未来をお見せできる作家になれれば」と展望を示した。

 小説の中で描かれる技術と、これから実現されていく技術は今後も進化し続けていくだろう。それがゲームや身近な生活にどのように活かされていくのか? また、自分ならばどう活かすか? ゲーム開発者にとっても、今回の講演は刺激になったに違いない。