勝負を分けるのは実力
2017年8月22日~26日(現地時間)、ドイツ・ケルンメッセにて、ヨーロッパ最大のゲームイベントgamescom 2017が開催。会期中に、CD PROJEKT REDによるカードゲーム『グウェント ウィッチャーカードゲーム』のプレゼンテーションが行われた。
少しおさらいをしておくと、『グウェント ウィッチャーカードゲーム』は、2015年にリリースされ世界的に高い評価を得た、RPG『ウィッチャー3 ワイルドハント』のスピンオフ作品。本編に収録されていたミニゲーム“グウェント”が、あまりに好評だったことから独立したゲームになった。記者は、2016年のgamescom 2016でも『グウェント ウィッチャーカードゲーム』のプレゼンを取材させていだいているのだが、2016年のE3での正式発表から、2017年5月のパブリックベータ開始まで、CD PROJEKT REDは『グウェント ウィッチャーカードゲーム』を本当に丁寧に育てているという印象がある。そして、このgamescom 2017の会期に合わせて、ストーリーキャンペーン『奪われし玉座』と、eスポーツ“GWENT Masters”の詳細が発表。いよいよ『グウェント ウィッチャーカードゲーム』が本格始動する。
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プレゼンは、「このゲームはとくにアートワークがすぐれています。アートワークは、イラストレーターやアニメーター、ビジュアルエフェクト、アーティストなど約50人で製作しています。もちろん、サウンドや音声も含まれています。ベストクオリティーのカードゲームになるように努力しています」と、カードゲームとして、リッチなコンテンツであることをアピール。そのうえで、『グウェント ウィッチャーカードゲーム』でもっとも重要なのは、ゲームメカニズムだとした。
『グウェント ウィッチャーカードゲーム』の進めかたは比較的シンプルで、より多くのポイントを取って、3つのうち2ラウンドを取れば勝利となる。使用できるのは、ゲームの始めに入手できるカードのみで、1ラウンドで何枚カードを使うかをよく考えてプレイする必要がある。最初にカードを使い過ぎると、あとで手が足りなくなるからだ。
カードを並べるところは3列あり、戦略的にユニットを置いていくことになる。カードの特殊効果次第では、すべての列に影響を及ぼすこともあるし、ユニットにダメージを与えられるものもある。勝利のためには、いろいろな効果を駆使する必要がある。
強調されたのは、「このゲームはスキルベースであり、運試しではありません」ということ。「自分のミスから学んでスキルを上げていくのです」というから、なかなかに潔いゲームと言えるのかもしれない。「腕試しの機会がほしい!」というユーザーからの要望が持ち上がるのは当然のことで、CD PROJEKT REDではeスポーツトーナメントの“GWENT Masters”を開催。相当大掛かりなリークとなっており、CD PROJEKT REDの注力ぶりがうかがえる。
CD PROJEKT REDでは、gamescomの後、最初の大きなベータアップデートを行うという。30枚以上の新しいカードが追加されるほか、大規模なバランスの変更やゲームプレイについての発表、さらにはソーシャルフィーチャーのアナウンスもあるという。プレイヤープロファイルへのアクセスや統計数字の提供、インゲームチャット、フレンズリストなどの実装により、ゲーム内のプレイヤーコミュニケーション強化が図られるようだ。CD PROJEKT RED側からは、インゲームでの通知システムなども実装されるというから、正式サービス開始に向けての、さらなるコンテンツの充実化と言えそうだ。
そして、ストーリーキャンペーン『奪われし玉座』の追加がある。これは、『ウィッチャー3 ワイルドハント』を開発したチームの手によるもので、描かれるのは、『ウィッチャー3 ワイルドハント』の前の時代のこと。ライリアとリヴィアを統括する女王メーヴを主人公にした、ダークストーリーとなるという。『奪われし玉座』では、5つのそれぞれ特徴の異なるマップをプレイできるようで、シングルプレイ用に多数の新しいカードを導入。「AIとの戦いになるので、マルチプレイでは出会わないような、いろいろなチャレンジを提供する」という。「マルチでは強過ぎるパワーを持ったカードやバトルの中で新しいオブジェクティブもある」とのことなので、オンラインとはまたひと味違ったゲーム性が楽しめそうだ。
プレゼンでは、『奪われし玉座』のプレイデモ映像を使って、ゲーム概要が解説。ワールドを探索してメインミッションをこなしつつ、アイテムを探したり、サイドクエストをこなすといったゲームの進めかたが紹介された。ストーリーを進める過程では、「ちょっとしたものから、ストーリーに大きく影響を与えるものまで、いろいろな選択肢が用意されている」という。たとえば、マップ上には農民などもいるようだが、農民から情報をもらうためにやさしい態度を取るか、厳格な統治者となるかで、展開も変わってくるようだ。
マップ内ではシングルプレイ用のほかに、マルチプレイ用のパーツも見つかるようだ(ちなみに、『奪われし王座』を購入するとマルチプレイ用の20枚の新規カードが入手できるとのこと)。音声は、現在10ヵ国語でレコーディングされているとのことで、日本語音声も大いに期待したいところだ。
なお、『グウェント 奪われし玉座』は2017年内配信予定。気になる『グウェント ウィッチャーカードゲーム』の正式配信日を聞いてみたところ、「未定です」とのこと。『奪われし玉座』が配信されるまでには、『グウェント ウィッチャーカードゲーム』の正式サービスもスタートしているのでは……と思われるのだが、「必ずしもそういうわけではないです」という。どうやら、CD PROJEKT REDでは、今後のアップデート後のユーザーからの反響なども考慮して正式サービス時期を考えているようにも見受けられ、とにかくきっちりと納得のいくものを作っていきたいという姿勢がうかがえる。
「ゲームプレイにマッチしたストーリーを」
プレゼンのあとは、『グウェント 奪われし玉座』にてシナリオを担当する、プリンシパル ライター ヤクブ・スザマレク氏にインタビューをする機会があった。ヤクブ氏は、2012年にCD PROJEKT REDに入社して以降、『ウィッチャー』シリーズの世界観の構築を担当しており、『ウィッチャー3 ワイルドハント』でもシナリオを担当。『奪われし玉座』でも、もうひとりの担当とともに、シナリオを手掛けているという。
――『グウェント ウィッチャーカードゲーム』のストーリーを構築するうえでの方針を教えてください。
ヤクブ もちろん、おもしろくしないといけないということが前提としてありますが、ゲームのメカニズムにきちんとあっていないといけないですね。“ゲームプレイを通してストーリーを語る"ということをつねに目指しています。そのうえで、野心的なゲームじゃないといけないですし、ゲームのクオリティーにちゃんとマッチしたものを作るように心掛けています。プレイヤーの方が、椅子に座ってわくわくできるようなものを目指しています。そのためにも、ある程度難しくなければいけないですし、考えていただけるようなストーリーでないといけないですね。
――ゲームメカニズムに合ったストーリーというのは?
ヤクブ たとえば、モンスターと戦って勝利するとリワード(報酬)をもらえるわけですが、どういうリワードを貰えるかの交渉をカードでするようにしています。プレイヤーにとっては、「稼がないといけない」ということを実感できるようなシステムにしています。
――ヤクブさんは、『ウィッチャー3 ワイルドハント』のシナリオなども担当されているとのことですが、RPGとカードゲームとでは、当然シナリオの作法も異なりますよね?
ヤクブ もちろんです。本編の場合は、シネマティックなシーンがありますので、顔の表情やジェスチャーなどで、その人が何を考えているかがはっきりとわかります。でも、『グウェント ウィッチャーカードゲーム』の場合はそういう表現方法を採用していないので、違った方法で補完する必要があります。今後追加されるストーリーキャンペーンの『奪われし玉座』では、主人公メーヴの心情などは、ナレーションを使った語りとなりますね。
――今回、『奪われし玉座』のストーリーを考えるにあたって、いちばん注力したポイントを教えてください。
ヤクブ 『ウィッチャー3 ワイルドハント』では、プレイヤーはアウトサイダーとして、自身のスキルだけを頼りに生きていくことになるわけですが、今回の『奪われし玉座』では、主人公は女王で、まわりに公人もたくさんいる状況となります。プレイヤーは部隊を率いることになります。ですので、兵士をどう扱うかとか、農民たちとのやりとりの中でのモラルのジレンマなど、いろいろと選択をしていかないといけないんです。裏切りもあります。将来のことを考えながら、リーダーとしてどう振る舞って、部隊を率いていくかという物語が描かれます。
――部隊を率いるという設定にした理由を教えてください。
ヤクブ ゲームのメカニズムを考えたときに、最初から“部隊を指揮する”という要素がほしいと思っていました。『ウィッチャー』の世界観を精査しているときに、女王という存在がそれにいちばんふさわしいということになったんです。
――今後、ストーリーキャンペーンは追加されていくことになると思うのですが、展開するうえでの方針などはあったりしますか?
ヤクブ 今回初めてストーリーキャンペーンをリリースさせていただくわけですが、この『奪われし玉座』では北方諸国がフィーチャーされます。来年以降の新しいストーリーキャンペーンでは、別の勢力にフォーカスを当てる予定です。各エピソードはナレーターによる回想風に物語が進んでいくのですが、全キャンペーンを通じて、ナレーター自身のストーリーも語られるという趣向になっています
――今後、『ウィッチャー3 ワイルドハント』の世界観がどんどん広がっていくということですね?
ヤクブ そうですね。アンドレイ・サプコフスキ原作による小説『ウィッチャー』が、さらに構築されていくことになります。
――いま、『グウェント ウィッチャーカードゲーム』は世界的な広がりを見せていますが、それに対してはどのようなご感想をお持ちですか?
ヤクブ とてもうれしいです。ご存じのとおり、『グウェント』は、最初は『ウィッチャー3 ワイルドハント』の中のミニゲームとして始まりました。とても小さいところから始まったんですね。“グウェント”を入れたときは、うまくいけばいいなとは期待してはいたのですが、プレイヤーの皆さんが想像以上に夢中になってくれました。「これを独立したゲームにしてください」というご意見が出たので、単独のゲームとして作り始めたんです。でも、ゲームとして独立したものにするには、いろいろなところを変えないといけませんでした。そのへんも試行錯誤して取り組んでいるところでして、いまはいい状況になってきているかと思います。
――今後さらに『ウィッチャー』の世界は広がっていくと思うのですが、世界観を構築するうえで大切にしていることはなんですか?
ヤクブ そうですね……。もともとサブコフスキの原作がありますので、そのエッセンスはしっかりと伝えなければいけないとは思っています。原作の特徴というのは、ユーモアがあって、豊饒な世界観が構築されていて、登場キャラクターの関係性が成熟していること。原作に触れれば理解していただけるような“フィーリング”の再現を大切にしています。そして、ゲームを進めてプレイヤーが選択をするときに、しっかりと考える必要があって、すぐには決断できないようなシナリオとなることを、提供するようにしています。
――『グウェント ウィッチャーカードゲーム』での言い回しは、古めかしい英語の表現が使われているようですが、そのへんもいろいろな文献を参考にしていたりするのですか?
ヤクブ 中世のファンタジーなので、かなりスタイルを気にして書いています。宮廷の言葉なども出てくるのですが、そのへんはよく調べて参考にしています。おおもととなるシナリオは私がポーランド語で書いて、優秀な方に各国語にローカライズしていただいています。実際のところ、私たちのローカライズに対する注文は、すごく細かいかもしれません。知識の深い人や文化について詳しい人じゃないとできないかもしれませんね。
――日本語化も相当大変そうですね。
ヤクブ ローカライズにはとても注力しています。各国のローカライズにあたっては、数ヵ月間テストをして、ちゃんとやってくれるかどいうかを見極めてから決めているんですよ。『ウィッチャー3 ワイルドハント』の日本語版のローカライズはとてもよかった! そのとき日本語化を担当してくれた覚さん(本間覚氏)が、『グウェント ウィッチャーカードゲーム』でもローカライズを見てくれるので、安心してお任せしています。
――『グウェント ウィッチャーカードゲーム』を楽しみにしているファンに向けてひと言お願いします。
ヤクブ 『グウェント ウィッチャーカードゲーム』はカードを通して、独特のストーリーを語っているので、『ウィッチャー3 ワイルドハント』を気に入ってくださった方は、本作によって新しいストーリーを楽しんでください。
――『グウェント ウィッチャーカードゲーム』は、ストーリーを楽しむのと、eスポーツ的な楽しみがあるということですね?
ヤクブ そうですね。マルチプレイでは競技的な楽しみがありますし、シングルではストーリーが楽しめます。