「ゲームが始まる前のレベルや、意識の高さに驚いた」

『ハースストーン』Tredsred選手、そしてTempo Storm所属Eloise選手へインタビュー【2017年春季選手権ツアー】_01
▲7月9日の会場の様子

 中国・上海にて、Blizzard Entertainment主催によるオンラインカードゲーム『ハースストーン』春季選手権大会“ハースストーン 2017年春季選手権ツアー(HCT)”が、2017年7月7日から7月9日まで開催された。
 7月7日の開幕冒頭では、新拡張パック『凍てつく王座の騎士団』が発表。今後追加される新カードや新要素“デスナイト化”が明らかになったのは既報の通りだ。
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 メインとなる大会では、南北アメリカ、ヨーロッパ、中国、アジア太平洋の各地域にて、春季プレイオフで上位4位までに入賞した選手16人名が出場。中国・上海の地に降り立ち、春シーズンの王者を決めるべくしのぎを削った。9日最終日に実施されたプレイオフトーナメントでは、会場はほぼ満員に。それこそ、中国において『ハースストーン』は絶大な人気を誇っており、有名プレイヤーどうしの対戦に熱気溢れる歓声を上げていた。

 そして本大会では、アジア太平洋地域代表として日本人選手のTredsred選手が出場。初の海外大会となったTredsred選手は、初日に行われたデュアルトーナメントによるグループDステージでRdu選手との戦いに敗れる。初日から苦しい試合を強いられてしまった。さらに、翌日に行われた敗者復活戦では、初のステージ上でのプレイに。上海という地で、中国の人気プレイヤーJasonZhou選手と対戦するというアウェーな雰囲気ではあったが、落ち着いたプレイで見事3-0で圧勝した。しかし、次の相手となったアメリカのAnt選手戦では0-3で負けてしまい、プレイオフトーナメントへの出場は叶わなかった。

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  見事優勝を勝ち取り、春シーズンの世界王者となったのはヨーロッパ代表のHoej選手(デンマーク)。そのほか、Kolento選手、Neirea選手、Ant選手が世界大会への切符を手に入れた。大会を振り返ってみると、欧米選手たちが圧倒的な力を見せつけたように思える。

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▲Tredsred選手(文中はTredsred)

 ここからは、大会を終えたばかりのTredsred選手へのインタビューをお届けする。本大会の振り返りから、eスポーツへの考えについて伺ってきた。

――Ant選手との対戦、お疲れ様でした。まずは、いまの率直な気持ちをお伺いできればと思います。

Tredsred 予想通りの結果です。

――確かに、15人の対戦相手の中で相性の悪いデッキを使うふたりのプレイヤーが同じグループDだったので、苦しい戦いになるなと思いました。

Tredsred 結局、一番落ち込んだり衝撃を受けるのは、対戦相手のデッキの発表時なんです。運がよければもっといい結果を残せたかもしれませんが、今回は対戦相手のほうが運がよかったと言えますね。『ハースストーン』ではよくあることです。

――とはいえ、JasonZhou選手とAnt選手との対戦は、楽しんでプレイしているように見えました。

Tredsred そうですね。チャンピョンシップ ツアーのような世界大会でプレイする機会はいままでなかったのと、ステージで行ったJasonZhou戦がとくに印象深いです。中国はすごく人口が多いですしその中でもJasonZhou選手は人気が高いので、アウェーの雰囲気にのまれて緊張してしまうのではないかと不安でしたが、実際ステージに上がって見ると日本大会の風景とあまり変わらないなと思いました(笑)。

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――日本での試合経験が活かされたシーンですね。

Tredsred 自分が想像していたステージ上からの景色が大きすぎたのかもしれないですね(笑)。昨年の5月にDMMシアター会場で行われた“日本春季選手権”や東京ゲームショウ 2016の日韓国別対抗戦の経験が、本当に活かされたなと実感しました。3月にバハマで行われた冬季選手権では、b787選手と対戦したFr0zen選手がステージ上で緊張からミスを連発していたので、自分もFr0zen選手のようになってしまうのではないかと不安視していましたが、意外と「なんとかなったな」という印象です。

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――この大会の経験を活かして、ぜひまた世界大会に出場していただきたいです。

Tredsred 今後の国際大会に活かしたいと僕自身とても思います。今回の大会で一番驚いたのは、プレイヤーのレベルの高さ……ゲームが始まる前のレベルや、意識の高さに驚きました。ゲームが始まったら、一定のレベルをつねに発揮するレベルの高い日本人選手はたくさんいますが、デッキ選択とBANピックは世界レベルとは比べものになりません。僕は、日本で一番デッキ選択とBANピックが上手いと思っていたんですよ。ほかのプレイヤーはBANピックがあまり上手ではないから、毎回僕が勝てていたと思っていました。今回の試合は、自分の考えがどの程度まで通用するか試したかったので、負けてもいいからいままで築いてきた自分なりの方法で挑みました。いざ「この方法(デッキ選択とBANピック)で、いままで勝ってきたんだぞ」という気持ちで臨んだら、ことごとく対戦相手に負けてしまった。ゲームが始まる前のレベルの高さを痛感しました。

――とくにRdu選手のデッキ選択とBANピックはずば抜けていたかもしれませんね。

Tredsred そうですね。

――この試合前の選択(読み)は、今後どうやって対応していこうと考えていらっしゃるのでしょうか?

Tredsred 今度実践するなら、簡単に言うと“サイコロを振って決める”ことにしようかと。これは真面目に言っています。試合前の読み合いが上手い選手と戦うときは、何も考えないでデッキ選択を行うのです。デッキの読み合いのレベルが自分より上の相手がいる場合は、何も考えない、いわゆる“サイコロを振って運に任せる”方法がありかなと考えました。本来ならば、対戦選手の各デッキの勝率を計算して、最適なデッキの出し方を考えるべきかもしれません。そういう方向での研究を重ねるか、何も考えず運に任せてみるかだと考えました。“何も考えない”というのはいい加減に選択することではなく、結構大事なことだと考えているんです。これまでの国内大会は、相手がどんなデッキを出してくるのか読めていたから勝てていたのであって、もし対戦相手が「サイコロを振って2が出たから、ウォーリアにする」なんて方法でデッキを選択されたら、読みなんて到底できないですよね。予想外の方法に翻弄されてしまうんです。この方法と同じことを、海外プレイヤーに向けてやっていくこともいいのかもしれない。それか、相手の読みのレベルより一歩先に行くしか方法はないです。読みに自信がないのであれば、“サイコロ戦法”もありなのかもしれません。

――なるほど……。では、話を変えて私生活についてお聞きしたいのですが、一日に何時間程度『ハースストーン』をプレイされますか?

Tredsred よく聞かれますが、とくに時間を気にしたことはないです。僕は『ハースストーン』をずっとプレイして勝ち続けることに快感を覚えるタイプではなく、大会で賞金を得ることや実績を作ることなど、生産的なことに魅力を感じます。賞金付き大会がしばらくないのであれば、『ハースストーン』はしばらくプレイしないでしょう。賞金といった明確な目標が見えてきてから、本腰を入れるタイプです。大会で勝つために何が必要なのか考えた結果、ただやみくもに対戦本数を重ねるのではなく、さまざまな大会を視聴してデッキの分析をすることに注力しています。Kolento選手は圧倒的なプレイングスキルを持っているから、どんなデッキでもある程度のレベルは発揮できるかもしれませんが、一般のプレイヤーはデッキ相性で勝負しなくてはいけないんです。ですから、プレイ時間よりも研究時間が圧倒的に長くなる。ほかのプレイヤーもそうだとは思いますが。

――今回の大会に臨むにあたって、どのようにほかプレイヤーの研究を行いましたか?

Tredsred 特別に取り組んだことは、海外の上位プレイヤーのTwitterを片っ端からフォローして、だいたいどんなデッキが国外で流行っているのか入念にリサーチしました。だいたい200名程度フォローさせていただきましたよ(笑)。とにかく、海外慣れというか、海外の思考に近づこうと努力しました。

――Twitchといったストリーム配信を見ることはしなかったのですが?

Tredsred 人のプレイを見るのは退屈に感じるタイプですが、今回ばかりは意識改革をして、いくつかのストリーム配信は視聴して勉強しました。

――そういえば、ご自身はストリーム配信をあまりされていませんよね?

Tredsred 何度か配信をしましたが、ストリーム配信するよりはブログの更新をしているほうが生産的ですし、いくらかお金も手に入るのでそちらがメインです。「『ハースストーン』でどの程度のお金を稼げるのか?」という目標もありますので。けど決して、お金が大好きという訳ではありませんよ(笑)。ゲーマーが社会的に認められるには、ゲームでお金を稼ぐことが大切だと考えているからです。ストリーム配信でお金を稼ぐなり、ブログ収入や大会の賞金で稼げればいいですが、ゲーム活動をしていて収入が入ってこないのであれば、それはただの遊びになりますから。

――賞金額をもっと増やして欲しいと言う気持ちはありますか? ほかにも、現状のeスポーツ業界において不満点はありますか?

Tredsred 日本では高額賞金を設けるのは、法律的に難しい点もありますし……。今回の試合に関しては、現場スタッフのみなさんの気遣いもよかったですし、とくに困ることはなかったのでとても安心しました。

――では、今後の活動目標について考えていらっしゃいますか?

Tredsred 基本は『ハースストーン』を中心に、お金を稼げる活動をしていきたいと思います。大会に出場し賞金をいただくことを目標にするのはもちろんですし、『ハースストーン』についてのライター活動なども視野に入れています。

――プロチームに加入するという考えはありますか?

Tredsred いまの日本において、プロゲーマーの定義は曖昧だと思います。企業のプロチームに所属していても、そこで支給される給料で生活ができなかったりと、不健全な部分があるのはよくないですよね。自分が良いイメージを持っている企業からスポンサードされるのはとても名誉なことではありますが、ゲーム関係の仕事だけでは生活できないプロゲーマーは、いまだに多いと感じています。僕は、そういった人たちよりはプロであると自覚を持って活動をしていますし、スポンサー契約だけでなく大会で活躍して賞金を手に入ることのほうが、よっぽどプロらしいのではないかと考えています。

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