植松氏らしさ全開のBRABRAについて、『FF』のキーマンたちが語る

 作曲家・植松伸夫氏が制作総指揮を務める、『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズのコンサートツアー“BRA★BRA FINAL FANTASY BRASS de BRAVO 2017 with Siena Wind Orchestra”(以下、BRA★BRA)。3年目の開催となる同ツアーは、2017年4月の東京・オペラシティ公演で幕を開け、現在、全国各地を行脚中だ。
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 2017年6月25日には、奈良県文化会館にて開催。同公演には、『ファイナルファンタジー』の生みの親である坂口博信氏と、数々の『FF』作品のグラフィックを手掛けてきた渋谷員子氏も参加し(アンコールでは登壇!)、コンサートを盛り上げた。

坂口博信氏・植松伸夫氏・渋谷員子氏が集結! 『FF』のメインテーマ生演奏に思わずホロリ?! 『FF』コンサート奈良公演記念インタビュー_01
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 ファミ通.comでは、奈良公演終了後に、坂口氏、植松氏、渋谷氏にインタビュー実施。コンサートの感想や、『FF』30周年への思いなどをうかがった。

――まず、坂口さんと渋谷さんが奈良公演に参加することになった経緯をお聞かせいただけますか?

坂口 以前から植松さんに「おいでよおいでよ」と言われていて。でも、なかなかタイミングが合わなかったんですよね。

植松 忙しい人ですから。

坂口 いやいや(笑)。とにかく、以前から「ぜったい(アンコールで)壇上に上がりたい!」と、虎視眈眈と機会を狙っていて、ようやく来れたんです。

――坂口さんは、BRA★BRAに参加するのは初めて?

坂口 初めてです。ずっと来たいと思っていたんですけどね。もう、(アンコールで使用するための)楽器を何種類調べたことか。植松さんに「これ、どうかな?」って、何度もメールしましたよね。「この楽器はどう?」って言うと、「それ、オクターブ出ないから」とか却下されて。「ハーモニカは?」、「ぜんぜんダメだよ」って4回くらいダメ出しを食らって、結果、カスタネットに(笑)。植松さんは「いっしょにサックスやろう」とか言うんですけど、できるわけないじゃん、って(笑)。

植松 あの曲(マンボ de チョコボ)、妙に音域があるので、ふつうのハーモニカだと出ないんですよ。

――渋谷さんは、これまでも何度かBRA★BRAをご覧になっていますよね。

渋谷 私はBRA★BRAの1年目のころから、参加しています。今年も、オペラシティでの公演も、上野の東京文化会館での公演も行っていて。どちらも、アンコールでしれ~っと舞台に上がりました(笑)。東京以外は今回が初めてですね。

――奈良公演はいかがでしたか?

渋谷 何回も来ているけど、やっぱり今回もすごく楽しくって。毎回、少しずつ違いますよね? お客さんのノリも違いますし。

植松 奈良のお客さんは、初めはちょっとおとなしくて。2曲目と3曲目のあいだで拍手がなかったときは、ちょっと焦ったね。

坂口 「2曲続けて(お聴きください)」と言われたので、拍手しちゃいけないのかな? って思ったんだよ。

植松 クラシックだとそういうルールがあるけど、関係ないんだよ、ウチは。やっぱり、初めての人が多かったから戸惑ったのかな。

――でも、「ブラボー!」と叫ぶ声は、他の公演にも負けず、とても大きかったですよ。

植松 火がついてからは大きかったですね。

――坂口さんは、BRA★BRAが初ということで、お客さんの盛り上がりっぷりに驚いたのでは?

坂口 盛り上がりもそうですが、もう、来場者も参加された『FF』のメインテーマのリコーダー演奏を聴いて、泣いちゃいましたから。ああ、泣いちゃって恥ずかしいな~と思ってたら、渋谷さんも泣いてました(笑)。「リコーダーの音が沁みる~」って。もう、止まらなくなっちゃいました。

植松 やっぱり、いろいろな思いがあったからじゃないですかね。僕もね、ステージでウルっときてましたよ、今日。坂口さんと渋谷さんがいっしょにいるのかぁ~、と思うと。

坂口 その後の『FFIX』の「いつか帰るところ」も、「『IX』だったら大丈夫だろう」と思ったら、リコーダーの音に弱くって、泣いちゃって。

――そのほかに、印象に残った曲はありますか?

渋谷 私はやっぱり、出だしの『FFV』のメインテーマがたまらなかったです。『V』、すごく好きなんですよ。いまでもエンディングの映像が全部、頭の中で流れるくらい。「あっ、クルルが空飛んでる!」とか。「バッツたちが、草原をチョコボに乗って走ってる!」とか。

坂口 ああ~、あったねえ。

渋谷 鳥がワーッと飛んだりするじゃないですか。頭の中に絵が浮かんで、ウルっとくるんですよ。

植松 でも『V』って、なかなか脚光を浴びなかったりするよね。

坂口 そうそう、『IV』と『VI』のほうが、なんだか印象が強いんだよね。

渋谷 でもみんな「ビッグブリッヂの死闘」は大好きですよね。やっぱり、ギルガメッシュのせい?

坂口 あのコメディっぽさが、メロディーにもちょっと表れているしね。曲を聴くと、シーンが思い浮かぶし。

――「ビッグブリッヂの死闘」と言えば、奈良公演のアンコールを決める際に使われたサイコロ(※)、最初の東京公演ではなかった気がするんですが……?
※奈良公演では、アンコールの楽曲をサイコロで決めるという企画が実施された。用意されていた楽曲は「ビッグブリッヂの死闘」、「The Man with the Machine Gun」、「ハンターチャンス」、「シーモアバトル」の4種類。なお、“BRA★BRA”と書かれた面が出た場合、観客の拍手の大きさによって演目を決める。

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▲アンコールでサイコロを投げる、指揮の栗田博文氏。

植松 あれは5月の東京文化会館公演からですね。

渋谷 上野公演の3日前くらいに、「渋谷さん、サイコロを作るので、ドット絵を使っていいですか?」って言われたんです。そう言われて見たら、サイコロがすごく大きくてびっくりしました(笑)。

――「Vamo'alla Flamenco」も、薔薇をくわえたりはしていなかったと思いますし。

植松 あれはね、あそこに立つ人が自由に決めてるんですよ。どういう振りをするかとか、薔薇をどのタイミングでくわえるかとか。「オーレイ!」って叫ぶのなんか、誰も指示していないですから(笑)。制作総指揮なのに知らないことも多くて、僕も楽しんでます。

坂口 ああ、そうなんだ(笑)。楽しかったですよ、「Vamo'alla Flamenco」。カスタネットって、うまい人が演奏すると、あんな風に聴こえるんだって。自分がカスタネットを1個しか持ってこなかったことを後悔しましたもん。2個持ってカカカッて演奏できるように、練習してくればよかった(笑)。

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――「モーグリのテーマ」の振り付けも、進化してましたよ!

渋谷 だんだん芸が細かくなっていますよね。

植松 シエナさんね、突然変えてくるのよ。ボディーパーカッションも、僕らに連絡なしで本番で変えてきたりして、こっちは「マジかー!」ってなります(笑)。でも、そういう風におもしろいことを企んでやってくれるので、すごく助かってますね。

坂口 楽団の人も楽しんでいるよね。それはすごい。

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――では、植松さんのサックスの腕前も、公演を重ねるごとに変わっていったり……?

植松 いや僕ね、初めのころのほうが(サックスが)うまかったね。サックスは去年の夏に買ったんだけど、ぜんぜん触ってなくて。3月に、「BRA★BRAまであと1ヵ月しかない!」と思って、本当に毎日練習したら、ある程度吹けるようになって。そこで慢心しちゃったね。

坂口 ああ~。やっぱり吹かないとダメなんだ。

――今年の公演の最初、お話をうかがったときには、「これからうまくなっていく」とおっしゃっていたのに(笑)。

植松 今日、坂口さんたち、のぞきに来たでしょう? 僕が練習で吹いているところ。

坂口 本当に吹いてるのかな~って、ついチェックしちゃった(笑)。

――ところで、BRA★BRAのBlu-rayが出ることが決まったそうですね?
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植松 そうなんですよ、出るんですよ。東京文化会館の夜公演をノーカットで収録します。

坂口 これはすぐに予約しないとですね。Blu-rayの音って、すごくいいんですよね。

――さらに、ステージでおっしゃっていましたが、来年のBRA★BRAの開催も決定したとか!?

渋谷 じゃあ私は、また新しいドット絵を考えないといけないですね。毎回、「来年の絵はどうしよう」って思いながらコンサートを聴いているんですよ(笑)。趣向を凝らしていきたいですね。

――そして今年は『FF』30周年ということで、オーケストラコンサート“Distant Worlds”も控えていますね。

植松 Distant Worldsのツアーは7月からシドニーで始まります。日本では12月に開催予定です。
※大阪公演は12月8日(金)、東京公演は2017年12月9日(土)、12月10日(日)に開催予定。詳細はDistant Worlds公式サイトにて
http://www.square-enix.co.jp/music/sem/page/distant_worlds/jiritsu/

渋谷 ちょうど『FF』の30歳の誕生日のころですよね。

――坂口さんも、Distant Worldsにぜひいらしてください!

坂口 カスタネットを持っていきます(笑)。

――楽しみにしています(笑)。では最後に、BRA★BRAの演奏を聴いて、改めて『FF』30周年をどう感じたかをお聞かせいただけますでしょうか。

渋谷 今回は、とくにファミコンとスーパーファミコンのころの曲が多かったので、30年がいろいろと思い出されましたね。ずいぶん遠くまで来ちゃったな~と(笑)。

坂口 遠くまで来ちゃった?(笑)。

植松 遠くまで来たよね~(笑)。

坂口 世代を感じますよね。あのころ小学生だった人が、もう30~40代になっていて、「『FF』で育ちました」と言ってくれて。お子さんも、初期の作品のリメイクを遊んでいたりと、親子二世代で楽しんでいる状況があるなんて、まったく想像していなかったです。そこまで愛されるシリーズになったというのはすごくうれしいですよね。いい意味で、大誤算というか。

渋谷 まさか『FF』がずっと続くと思っていなかったし。こんな風に、コンサートで皆さんに喜んでもらえるなんて、夢にも思わなかった。今日はとくに、3人いっしょだから、いつもよりもジーンとしちゃった。『FF』のメインテーマは、もう聴くたびに泣いちゃうんですよ。『FFI』で、橋を渡ったときの絵を自分で描いたりしていたんですけど、その絵が浮かんで、いろいろなことが思い出されて。コンサート、楽しかったです。

植松 ありがとうございます。僕もね、『FFI』の橋渡ったときに流れるメインテーマが、自分の中での『FF』の象徴の曲なんですよ。だから演奏しながら、毎回いろいろなことが頭を巡るのね。あのころは何も将来のことを考えないで、ものを作るのが楽しくてしょうがなくて、ずっとやってただけなのに、30年経ったらこんなことになっちゃっているっていうのは……わかんないよなぁ、人生って。だって、想像もしてなかったでしょう? 坂口さん、40歳になったら引退するって言ってたのに(笑)。

坂口 あぁ、そんなこと言ってたね(笑)。「こんな徹夜生活は無理だ」って言ってた。でも楽しかったですよね。

植松 ああいうイズムが引き継がれているといいなと思いますね。上の言うことを聞くだけじゃなくて、昔の坂口さんみたいに血気盛んに立ち上がる若いやつらがいないと、もの作りは先に進んでいかないので。

――まだまだ、『FF』にもBRA★BRAにも続いていただきたいです。

坂口 BRA★BRAって、とても植松さんらしい、植松さんの人格を感じるコンサートだよね。

植松 いちばん自分を出せてると思うので、続けさせてもらえるなら、もっとやってみたいですね。

坂口 BRA★BRAは、100%植松伸夫でできている。

渋谷 いいキャッチコピーができましたね(笑)。

坂口 使うときは、ちゃんと確認とってくださいね(笑)。

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Photo by Hiroki Ogawa(Dog Ear Records)