2年ぶりに開催される、その意義とは?
東京発のインディーゲームのイベントとして、2015年に行われて話題を集めた“東京インディーゲームフェス2015”。ファミ通ドットコムでもリポートしていることもあり、ご存じの方も多いとは思うのだが、同イベントが2年ぶりに開催されることになった……と書くと、すんなりしているのだが、聞くとこのイベントは“東京サンドボックス2017”の一環として実施されるというから少し話がややこしい。「そもそも東京サンドボックスって何?」と、記者も頭に“?”が浮かんでしまったわけであるが、この度、東京サンドボックスを主催する、Kulabo CEO ケヴィン・リム氏にお話をうかがう機会があった。Kulaboは、ゲームメーカーのサポートなどもおもな業務とする企業で、東京インディーゲームフェス2015を主催したのも同団体だ。
インタビューのための予備知識としてあらかじめご紹介しておくと、東京サンドボックス2017は、2017年5月10日~14日の5日間に実施されるゲーム開発者支援のための催し。“プッシュ”と呼ばれる開発者向けサミットやVRコンテンツがお披露目される“VRラウンジ”など、4つのイベントで構成されている。その目玉となる催しが、東京インディーゲームフェス2017となる。
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――なぜ東京インディーゲームフェスを東京サンドボックスの一環として開催することにしたのですか?
ケヴィン 2015年に東京インディーゲームフェスを開催したのは、イベントのコンセプトをデベロッパーの方だったり、出資者の方に理解していただきたかったからです。もともと私たちとしては、業界関係者の方が参加できるイベントとして、東京サンドボックスを考えていて、そのための取っ掛かりとして、東京インディーゲームフェスを開催したんですね。そこで、東京インディーゲームフェスに安心感を抱いてもらったうえで、さらにイベントを拡大しようと考えていました。
――つまり、東京サンドボックスが、本来やりたかったことということですね?
ケヴィン そのとおりです。本来なら2016年に開催したかったのですが、準備期間をしっかりと取るために、1年おいて2017年の開催としました。2016年に開催しなかったら、「なぜやらないのか?」と、たくさんのクレームが来たので、「2017年は絶対にやらなければならない!」という気持ちでしました(笑)。
――それは、東京インディーゲームフェス2015の反響が大きかったということでもあったわけですね?
ケヴィン そうですね。
――今回、HanajiGamesと提携していますね。
ケヴィン 最高経営責任者のアルヴィンとは昔からの知り合いでして、東京インディーゲームフェス2015も手伝っていただいたんですね。東京インディーゲームフェスを2016年に開催しなかったときにクレームを入れてきたのも彼なのですが(笑)、「2017年はボランティアとして参加したい」ということで、いっしょにやることになりました。東京インディーゲームフェスは、私のイベントではなくて、デベロッパーのためのイベントです。HanajiGamesに参加してもらうことで、デベロッパーのための意見を取り入れることができれば……と期待しています。
――では、東京サンドボックスのコンセプトを教えてください。東京サンドボックスは、「インディーゲームのためのイベント」に留まらない、もっと広いコンセプトをもったイベントとの認識でよろしいでしょうか?
ケヴィン そうです。東京サンドボックスは、“インディーゲームのため”というよりは、“ゲームのため”のイベントです。開発者はもちろんのこと、出資者なども対象としたイベントなんです。そういった意味では、“開発者支援のためのイベント”とも言えるかもしれません。
――東京サンドボックス自体は“開発者支援のためのイベント”だとして、東京インディーゲームフェスは、インディーゲームの出展にフォーカスしたものに?
ケヴィン 会場の兼ね合いなどもありまして……。将来的には出展スペース自体も拡大していきたいと思っています。2015年は、中規模の開発スタジオにも参加していただいていましたし、今年もぜひとも参加していただいたいと思っています。
――東京サンドボックスでは、4つのパート(プッシュ、東京インディーゲームフェス、VRラウンジ、コーディング・フォー・ライフ)で実施されますが、その4つのおおまかな内容をお教えください。なぜ、この4つをセレクトしたのですか?
ケヴィン この4つは参加される方がなんらかの興味を持っていただけるようにピックアップさせていただきました。「出展はするけど、投資には興味はない」という方もいらっしゃるので、なるべく何かしらフックするように……ということで、この4つにしています。4つにわけたほうが参加しやすいですからね。
――“プッシュ”というものが気になったのですが、これはどのような意味が?
ケヴィン “プッシュ”は、スマートフォンなどの“通知”みたいなものですね。あれをイメージしています。デベロッパーの方に、“このイベントを実施しているよ!”という、通知を出す感じですね。
――“プッシュ”では具体的にどのようなことを? 講演でもワークショップでもないとのことですが……。
ケヴィン もっとも近いのはパネル(パネルディスカッション)かもしれません。ワークショップや講演だと、どうしても一方通行の会話になってしまいがちです。出来る限り聞いている方とパネラーの方が会話できるように……との思いから企画しました。聞いている方も積極的に質問していただければと思っています。とくに、日本人の方は講演などを聞き入ってしまって、何も発言されないことが多いので……。ゲーム関係者の方には、「自分たちでガンガン聞いていく」というガッツを持っていただけたらなあと。そのために“プッシュ”はパネル形式にしています。
――VRラウンジというのは? どこかの会場でゲームを試遊できる?
ケヴィン そうです。VRを試遊するにあたっては、“試遊のために環境”が必須になります。ある程度のスペースと静かな環境。イベントでまわりの人に見られながら試遊するというのが恥ずかしいという方も多いと思います。気兼ねなく楽しめるVRの試遊スペースを……ということで企画しています。それで“ラウンジ”ですね。
――出展タイトル数はどれくらいに?
ケヴィン 出展タイトルに関しては、ただいま調整中です。VRラウンジでは、ハイクオリティーで、日本では未発売の完成されたVRタイトルの出展を前提にしています。ちなみにですが、現在東京ゲームインディーフェスの出展に応募してくださっているタイトルの半数がVRの企画なんですよ。そういった意味からも、VRの盛り上がりを実感しています。
――残るひとつのコーディング・フォー・ライフとはどのようなものなのでしょうか? イベント名から判断するだけでは、なかなかに想像しづらいのですが……。
ケヴィン コーディング・フォー・ライフのもともとのアイデアは、“ゲームには大きな影響力がある”ということを理解してほしいという発想からスタートしたものです。具体的には、高校生による10~11程度のチームにアーケードゲームを開発していただいて、出展するという企画になります。若者にプログラミングとゲームデザインを学ぶことを奨励する新たな取組ですね。出展タイトルは、来場者の得票(トークン)によって競うことになります。トークンは、来場者が購入するのですが、そこで得た収益はチャリティーとして募金することにしています。
――東京インディーゲームフェス2015を開催してみての成果や課題を教えてください。その課題を受けて、東京インディーゲームフェス2017はどのように展開していくご予定ですか?
ケヴィン 東京インディーゲームフェス2015は、“ゲーム開発者のためのイベント”というコンセプトで展開していて、その点に関しては一定の成果を上げられたと思っています。ただ、同じ日に試遊もあれば講演もありと、盛りだくさんの内容が溢れ過ぎてしまったかなという反省はありました。今回東京サンドボックスという形で、講演系と展示を分けたのは、その反省を見据えてのことです。
――今回の東京インディーゲームフェスは、出展に特化するのですね?
ケヴィン そうです。そもそも東京インディーゲームフェスには、“開発スタジオをサポートする”というのがコンセプトとしてあるので、今回はタイトルの訴求に特化しています。さらに言えば、今回はTwitchと連携していまして、会場に来られない方でも、Twitchの映像を見ることで楽しめるようになっています。そこで気になったタイトルは即座にダウンロードして楽しんでいただくという感じですね。
――BitSummitと会期が近いですが、どちらか一方だけに出展するといった、いわゆる“食い合い”を懸念されたりしておりませんでしょうか?
ケヴィン とくに心配はしていないです。海外から来る方の中には、近いスパンで開催されるので、両方行けるということで喜んでいらっしゃる方もいますよ。両方ともエントリーされたという方もいらっしゃると聞いています。
――今回、BitSummitとの連携などはご予定されていますか?
ケヴィン 今回はとくには予定していません。BitSummitと東京ゲームインディーフェスとでは、イベントとしての方向性も違いますし、それぞれのスタンスがありますので。それぞれの個性を出したほうが、開発者の皆さんにとっても参加しやすいのではないかと思っています。
――BitSummitと東京インディーゲームフェスでは方向性に明確に違いがあるということですね?
ケヴィン 東京インディーゲームフェスは、“開発者の支援”が主眼に置かれていて、ビジネスマッチングなども含めたサポートを前提にしています。その点、これは私の主観的な分析になりますが、BitSummitでは、“おもしろいゲームの紹介”に、より重点が置かれているのではないかという認識でいます。そのため、東京インディーゲームフェスでは、“ゲームで食べていく”という意思のある方にとって、より有益なイベントになると思っています。よりビジネスヘルプがもらえるわけです。
――ちなみに、東京サンドボックスという名称の由来は?
ケヴィン ご存じのとおり、サンドボックスは“砂場”という意味で、ネーミングにはいろいろな意味合いがあります。大きくは、“砂場のように自由にものを作れる”というというものですが、私個人としては、開発スタジオさんに“出資してもらえる企業を自由に選べる”という側面を強調したいです。日本のデベロッパーを見ていると、タイトルをリリースしようと思ったときに、パブリッシャーを選択するオプションがとにかく少ない。もっとも想定される選択肢は、前の会社のボスにお願いしにいくことだったりします。
――ああ、たしかに。
ケヴィン 選択肢がひとつしかないというのは、少し健全ではありません。東京サンドボックスでは、“選択肢はいくらでもあるんだ”ということに気づいていただきたかったんです。
――最後に、来場を考えているファンの皆さんに向けてのメッセージをお願いします。
ケヴィン ぜひともたくさんのスタジオに参加していただきたいです。ビジネスチャンスをご提供できるかと思います。東京インディーゲームフェス自体は、一般のファンの方でも楽しめるイベントとなっていますので、新しいゲームを遊びにぜひいらっしゃってください。
東京サンドボックスと東京インディーゲームフェスは、まさにユーザーと開発者、企業家が交差する場と言えるだろう。その成果に期待したい。
【東京サンドボックス開催概要】
5月10日※関係者のみ
プッシュ ゲーム開発者サミット(投資家向け)
会場:JINNAN CAFE 渋谷
5月11日※関係者のみ
プッシュ ゲーム開発者サミット(AR/VRイベント)
会場:TKPガーデンシティ渋谷
5月12日※関係者のみ
プッシュ ゲーム開発者サミット(開発者イベント)
会場:TKPガーデンシティ渋谷
5月13日(ビジネスデイ)
VRラウンジ
東京インディーゲームフェス2017
コーディング・フォー・ライフ
会場:UDX アキバスクエア
5月14日(一般公開)
VRラウンジ
東京インディーゲームフェス2017
コーディング・フォー・ライフ
会場:UDX アキバスクエア
入場料
一般 2500円[税込]
学生 1000円[税込]
プッシュ ゲーム開発者サミットの概要が明らかに 角川ゲームスの安田善巳氏が基調講演を行う
Kulabo CEOケヴィン・リム氏へのインタビュー後に、東京サンドボックスからリリースが発信。東京サンドボック2017の4つのパートのひとつである“プッシュ”で、5月10日に行われる“ゲーム開発者サミット(投資家向け)”の概要が明らかにされた。リリースによると、同イベントには、15名以上の投資家や100名以上の起業家、上級管理者が参加予定で、「おもにシードラウンド~シリーズBラウンドの投資を検討」しているとのこと。ちなみに、シードラウンドとは創業前後のことで、シリーズBラウンドとは、第二段階の投資のことを指す。
東京サンドボックスの基調講演を担当するのは、角川ゲームスの代表取締役社長 安田善巳氏で、「安田社長は金融業界にもゲーム業界にも豊富な経験を持ち合わせているため、当イベント開幕にもっともふさわしい方です」(リリースより)とのこと。さらに討論会のあとには投資家やゲーム業界の専門家による討論会も行われる。参加が発表されたのは、以下の5名。
●ネクソン 経営企画室長 熊谷峻平氏
●インターラクト 代表取締役社長 平林久和氏
● Immersv, Inc 代表取締役社長 エリック・チョン氏
● Stugan Game Accelerator ゼネラルマネージャー ヤーナー・パーム氏
● 東京証券取引所 調査役 上場推進部
さらには、海外で注目を集める、ゲームクラウドファンディング会社Figのジョナサン・チャン氏も講演予定とのことだ。チャン氏は、Figの特徴と日本の開発者にとってのメリットについて説明する予定だ。
5月10日プッシュ ゲーム開発者サミットは渋谷のJINNAN CAFEにて午後6時~午後10時まで開催予定で、ただいま専用サイトで入場チケットが販売中だ。