GDC 2017から少し時間が経ってしまいましたが……最終日に行われたクリエイティブに関するセッションをお送りします。スピーカーは、レアで18年にわたってゲーム開発を手掛けてきた、ルイス・オコナーさん。

●“変わり者”はいかにしてクリエイターになったか

 2017年2月27日~3月3日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコにてゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2017が開催。ここでは、会期最終日の3月3日に行われた、レアのルイス・オコナー氏による“The Creative Spectrum: One Weirdos creative Journey”の模様をお届けしようかと思う。

 ひときわハードな取材内容で知られるGDCのこと、会期最終日ともなると、相当ヘロヘロになり、足元もおぼつかなくなるのも人の子というものだが、そんなふらふら状態でもつい講演が行われる部屋まで足を運んでしまったのは、ひとえに講演タイトルが気になったから。“クリエイティブの領域:ある変わり者のクリエイティブの旅路”とでも、とりあえず意訳させていただくこちらの講演で、記者がことさら心惹かれたのはもちろんのこと“Weirdos”という言葉。みずからを“変わり者”とは、なかなかにおもしろそうではありませんか。まあ、この業界、変わり者のたぐいは多そうではありますが……(記者を含め)。

 さて、このルイス・オコナーさん。レア歴18年というベテランデザイナーさん。子どものころに、ディズニーのお姫様やマーベルのワンダーウーマン、そして修道女に憧れていた(カトリックの学校に通っていたため)というルイスさんは、「夢中になると話かけても返事をしないくらい没頭する性格だった」というから相当熱中するタイプだったようだ。そんなルイスさんは、絵を描くようになるとすぐさま夢中に。アニメーターになりたいと思うようになったという。「これが旅の始まりだった」とルイスさんは言うが、まさに持ち前の没頭する性格を発揮してアニメーターへの道を邁進。20歳のときにはビデオ作品を作っていたようだ。その映像が流されるや会場からは大きな拍手が湧き上がったのも、むべなるかな。記者の20歳のころと照らし合わせてみても、到底これだけのクリエイティブは発揮することができておらず、やはり才能の違いなのであろうなあ……と思わされてみたり。

▲ディズニーとワンダーウーマンはなんとなくわかるが、修道女というのが、いかにも西洋風。もしくはこれも“変わり者”だから?
▲子どものころは妖精に夢中になっていたというルイスさん。ダンボールに入っての撮影も、なんとなく微笑ましい。でも、やっぱりちょっと変わっている?
▲アニメーションを目指して10代のころから鍛錬に励んだというルイスさん。

 21歳でレアに入社し、アニメーターという肩書を得て、夢がかなったというルイスさん。それまでコンピューターには触ったことがなく、「電源を入れることからの出発だった」とのことだが、レア社に入社して以降は、着々とキャリアを積み重ねていったようだ。「アニメーターとしてスキルを上げ、素晴らしいキャラクターを手掛けることができたことは、すばらしい経験だった」とルイスさん。一方で、アニメーターとして上達する以外に、他分野から集まったチームでどのように仕事をするかも学んでいったという。何といってもゲーム制作は共同作業だからだ。チーム間での“ビジョンの共有”というのは、自分の目標とするクリエイティブを実現する上で欠かせないポイントなのかもしれない。

▲レアに入社後の仕事も紹介された。共同作業の大切さを学んだとのこと。

 ルイスさんは、その後アニメーションディレクターやアートディレクターなどを務め、幅広い仕事をする機会に恵まれる。“クリエイティブリード”という立場に立ったうえでの、ルイスさんが掲げる重要なポイントはふたつ。“あなたの心の中にしっかりとした物語を作ること”と“自分が本当にやりたいことを理解すること”。スタッフのあいだで目標をしっかりと共有して、イメージするクリエイティブを実現するには、明確なビジョンと動機づけが必要ということなのかもしれない。

 ここでルイスさんは、若かりしころのスティーブン・スピルバーク監督がクリエイティブについてコメントしている映像を紹介する。少し長いが、以下に引用しよう。「監督に共通しているのは、自分が何をやりたいのかを知っているということです。“どうやるのか”ではなくて、“何をやりたいか”。映画を作る人は、みんな“これがやりたい”と言える。それがわかっていれば、実際にやることはそれほど難しいことではないんです。私がディズニーアニメを好きなのはそこです。アニメーションはシネマの父だと思っています。心の中に明確な絵が描かれていなければいけません。チップマンクス(アニメのキャラクター)が雪の上を転がるときは、チップマンクスの見えないところがどうなっているか、毛がどうなっていて、どういうふうに吹いているかもしらなければなりません。想像力が必要なんですね。すべての監督は、一度アニメーターになるべきです。想像力を実際に存在するものに変えることができるのですから」。

 「自分だけでなく、ほかの人の可能性を広げたいと思った」というルイスさんは、インキュベーション(事業の創出などをサポートする)の部署に異動。そこでは、アーティストだけではなく、デザイヤーやエンジニアなどといっしょに仕事をするようになり、すべてが変わったという。

 ルイスさんは、「クリエイティビティとは何か?」を自分に問いかけてみたという。アインシュタインいわく「クリエイティビティとは遊び心を持った知性である」。続けて、「よく考えてみると、クリエイティビティの核は問題を解決することなんです」とのルイスさんの言葉のあとで紹介されたのは、檻などに閉じ込められた動物が、何度でもあきらめずに脱出しようとする様子を写したビデオ。ここでルイス氏が言いたかったのは、“クリエイティビティがあれば、動物が檻を脱出できるように、課題を克服できる”ということだったのだろう。

 さらにルイスさんは、“恐れ”を話題にする。「クリエイティブな人が失敗や批判を恐れるのはよいことだ」としたルイスさんは、「クリエイティブな人が成功するのは、恐れを感じやすく、その恐れを回避するための努力を惜しまないからだ」という。ルイスさんは、これを理解し始めて恐れを利用することができるようになり、それで恐怖感が和らいだという。あまりクリエイティビティが豊かではない記者にとって、クリエイティブと“恐れ”についての関係はいまひとつピンと来ていないが、クリエイティビティが豊かな人は感受性も豊かで傷つきやすい。そのためいろいろな恐れないためにさらに努力をする……ということなのだろうか。

 その後、「クリエイティブな人の脳は情報が交錯していて力を発揮できないときがある」と説明したうえで、そんなときに使えるテクニックを紹介してくれた。以下に紹介していこう。

1.クリエイティブになれる空間を作る。どんな場所でもよいが別空間を設けることで想像力が働く。
2.プロトタイプを作る。ペータープロトタイプはとても効果的。これを元にあれこれ考えられる。
3.ブレインストーミングのルールを作る(変でもよいので恐れずに発言できるようにする。上下関係はなく全員が同じ台の上で)
4.マインドマップを作って思考を整理する。考えをビジュアル化して、いくつかの考えの関係も記載する。ほかの人にも理解されやすくなるし、記憶に留めておくためにも役だち、見た目もかわいい。
5.ゲームジャムを行う。インスピレーションを与えたりもらったりしてパートナーシップを組む。スタジオに隠れている才能を発見できる絶好の機会。

▲ゲームジャムの模様から。レアでは、5日間にわたって6人ひと組でゲームジャムを行うが、43プロジェクトの発表があったという。
▲ゲームジャムでは1枚のシートにまとめていくらしい。映像では『Pirates Ahoy!』の例が紹介されたが、これが『Sea of Thieves』になった。

 最後に、ルイスさんは18年間ゲーム業界で仕事をしてきて、重要だと思うポイントをまとめてくれた。そのポイントは以下の通り。

1.何かクリエイティブな問題に直面したら声に出して話す。
2.いつアイディアが浮かぶかわからないので、つねにペンとノートを持ってメモを取る。
3.詰まったときは無理をしない。歩いたり、コーヒーを飲んだり、おしゃべりしよう。クルマやシャワーの中でもアイディアは浮かぶ。
4.自由があり過ぎるのはかえってバリアーを作ることになる。目的は明確にしておくが、時間制限を設けたり、思考範囲を決める。
5.参考資料やほかの人から学ぶ。ゲーム、テレビ、コミック……。
6.すべての人は想像力を持っている。リスクを恐れず共有し、人の話を聞こう。

 そのあとで、「そしていちばん大事なことは……」として、ルイスさんは以下の通り語ってくれた。

7.自分の中にあるスーパーヒーローを見つけよう。インスパイアーされることを恐れずに、遊ぶことを忘れずに、自分が変だと思っても、もっと変な人たちがいることを忘れないでほしい。あなたはひとりではない。

▲「妖精から離れても大丈夫!」。たとえ妖精がいなくてもクリエイティビティはなくならないのだ。

 と、ここでふと思ったのが、冒頭で触れた講演名だ。“The Creative Spectrum: One Weirdos creative Journey”の“Weirdos”は複数形で、おそらくは“とある変わり者たちのクリエイティブの旅路”。つまり本セッションは、ルイスさんのみのクリエイティブの旅路を語ったのではなくて、ルイスさんの旅路をサンプルケースとして、同じような経験をしているであろう“変わり者”たちをなぞった講演でもあったのだ。クリエイティブの旅路はおそらく平坦ではなく、講演中では一切言及されなかったが“変わり者”とみずから言ってしまうくらいなのだから、世間との軋轢がけっこうあったであろうことは容易に推察できる。ある意味で、茨の道であろう“クリエイティブの旅路”は、孤独な道ではないということを、ルイスさんは言いたかったのではないか……と。なんにぜよ、ゲームや映画、アニメ、ドラマ、小説など、さまざまなコンテンツに接している記者は思う。クリエイティビティは人生になくてはならないものだと。