2016年にエレクトロニック・アーツから発売され、赤い毛糸の主人公・ヤーニーが注目を集めた『Unravel(アンラベル)』のセッションをお届けする。

●壊れやすいからこそ、“共感”を得る

 2017年2月27日~3月3日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2017が開催。開催4日目の3月2日に行われたのが、“'Unravel': Using Empathy as a Game Mechanic”だ。こちら、2016年にエレクトロニック・アーツから発売され、赤い毛糸の主人公・ヤーニーが注目を集めたアクションゲーム『Unravel(アンラベル)』をモチーフにしたセッションで、開発元であるColdwood Interactiveのクリエイティブ・ディレクター、マーティン・サーリンズ氏が登壇した。講演名にある“empathy”とは、共感の意味で、ゲームメカニズムと共感の関係を語るという、サーリンズ氏の人柄がにじみ出るような講演だった。

▲マーティン・サーリンズ氏

 サーリンズ氏はまずは、本作の概要を「本作は、愛、そして人と人とのつながりを描いたゲームです。赤い糸がつながりを表現しているんです。愛するひととのつながりを失うほど、糸はほどけていきます。逆に糸がほころびを縫い合わせていく。本作の目的はたいへんな状況にある人を助けることです」と説明。本作は“世界を救うゲーム”ではなくて、「孤独な人たちが救いを求め、共感すること」(サーリンズ氏)がテーマだとした。「私も意味のないゲームをいくつも作ってきて、嫌気がさしていました。人々の気持ちを豊かにして、ポジティブに、やさしくなれるゲームを作りたいと思ったんです」というサーリンズ氏にとって、『Unravel』の開発は必然の道だったのだろう。

 ただし、「私たちは、強いメッセージには反発しがち」ということで、『Unravel』では“愛”と“共感”を言葉ではなく、感覚で表現できるようなゲームメカニズムにしたという。つまり“共感”を喚起させることが、『Unravel』の目的となる。“共感”を最重要ポイントに、ヤーニーというキャラクターが造型されていった。

 ヤーニーは壊れやすくデリケートな存在だが、「ヤーニーがリアルに生きていて、まさに“呼吸している”と感じられるようにしたかったんです。ヤーニーの糸が解けて壊れていくという感覚を肌で感じとってほしかった」とサーリンズ氏。だからこそ、プレイヤーにとって心惹かれる存在となる。ヤーニーは疲れてへとへとになれば転んでしまう。“スーパーヒーロー”ではなくて、壊れやすい存在だ。さらに、言葉を使わないことによって、ヤーニーは表現豊かな存在になっていると、サーリンズ氏は言う。「ヤーニーは、ボディランゲージをつねに“オン”の状態にして、何かを“語って”います」(サーリンズ氏)とのことだ。そのためには、ヤーニーの動きを生き生きとしたものにするための“アニメーション(動き)”が重要になるが、「開発チームはすばらしい仕事をしてくれた」(サーリンズ氏)という。

 さて、見ているだけでやさしい気分になれる『Unravel』だが、平安が“共感”に直接つながっているわけではないようだ。やはり人生には“スパイス”も必要なようで、本作では、ただのハッピーではなくて、“ものすごくハッピー”になってほしいので、“恐怖”を感じてもらうことも必要でした」とのサーリンズ氏の言葉に象徴されるように、本作には“乗り越えなければならない壁”やストレスが存在する。フラストレーションは、“共感”を養ううえで大いに役に立つ。本作には蚊が登場するが、プレイヤーは「蚊に襲われてイライラとし、素敵なこと簡単には手に入らないことを学びます。フラストレーションが物語にコントラストを与えてくれるんです」とサーリンズ氏。

 “スパイス”は、ゲーム性を語るときでも大切で、「ゲームプレイに“チャレンジ”がないとプレイヤーを惹き付けておくことができないので、いろいろと工夫しました」とサーリンズ氏。ニアミスや危機一髪といった状況を効果的に使って、“死の重さ”を感じてもらったようだ。ただ、何事も過剰なのはいけないようで、過度にやり過ぎるとプレイヤーは離れていってしまう。「プレイヤーの反応を考えて、ゲーム内でリワード(報酬)を出していく。ときにはゆっくりと楽しめる時間も提供して、メリハリを効かせることも必要です」(サーリンズ氏)とのことだ。

 世界中のファンから賞賛を集めた本作だが、講演では素直に“反省点”も吐露。それは、「テストをもっとやるべきだった」というもので、サーリンズ氏は、「『Unravel』では、ゲームバランスが取れていないところがありました。つねにテストをすることをオススメします」とのことで、その点は、(きっと取り組んでいるであろう)次回作に活かされることだろう。

 そしてサーリンズ氏は、最後に以下のように講演を締めくくった。「このゲームを通じて、とても多くのハート(心)に触れる機会があり、素敵なことがたくさん起こりました。プレイしてくれた人たちが“とても有意義なゲームだった”と言ってくれて、謙虚な気持ちになりました。ゲームは、しっかりとした思いを持って作れば、大きなインパクトを与えるものができます。ゲームでファシストは倒せませんが、何百人という人たちに、自分の声を届けることができます。ゲームをプレイする人は、コントロールできる夢(明晰夢)をよく見ると言われています。夢を変えられるなら、人々の行動も変えることができるかもしれません」。そう、共感という力を持って。