スマートフォンの普及を下地に、ゲームは新たなステージへ
2016年4月15日、カドカワ株式会社 浜村弘一ファミ通グループ代表(以下、浜村代表)による講演“ゲーム産業の現状と展望<2016年春季>”が実施された。
毎年、春と秋の二度にわたり、業界アナリスト及びマスコミ関係者向けに行われている本講演。今回は“リアルとバーチャルの消えゆく境界”をテーマに、国内外のゲーム業界の状況と、今後の展望が語られた。
巨大市場への成長が期待されるVRシステム
“リアルとバーチャルの消えゆく境界”という言葉を聞いて、VR(バーチャルリアルティ 仮想現実)システムを思い浮かべる人は多いことだろう。今回の講演でも、VRを巡る各メーカーの動向などが語られた。
“ハコスコ”や“Gear VR”のような、スマートフォンを持っていれば利用できるお手軽なVRシステムが登場したのは、2014年~2015年のころ。そして2016年、“Oculus Rift”と“HTC Vive”という、一定以上のスペックのPCを必要とするVRシステムが相次いで発売された。2016年10月には、ソニー・インタラクティブエンタテインメントから、いよいよ“PlayStation VR”が発売されるほか、コロプラやサムスンが出資しているVRシステム“FOVE”も、2016年秋に発売を控えている。
なおマイクロソフトは、少し路線が違い、VRシステムではなく、Windows 10ベースのAR(Augmented Reality 拡張現実)ヘッドセット“HoloLens”を開発している(昨年のE3で、HoloLensのデモが公開され、話題を呼んだことは記憶に新しい)。このHoloLensは、開発者キットが先月出荷されたばかりだ。
日本国内のメーカーは、押し寄せるVRの波にどのように対応するのか。PlayStation VRには、国内の家庭用大手メーカーが、ほぼ参入を表明している。また、バンダイナムコエンターテインメントは、エンターテインメント研究施設“VR ZONE Project i Can”を、2016年4月15日にオープン(Project i Canのメディア体験会リポートはこちら)。2016年10月中旬までの期間限定で運営予定で、VRを体験したユーザーの意見を活かしながら、VRの可能性を追求していくという。
また、アプリ系メーカーでは、コロプラ、グリー、gumiが、VRに積極的な姿勢を見せている。コロプラは、先ほど述べた通り、FOVEに出資しているほか、Oculus Rift向けのコンテンツの配信をスタートさせている。グリーは2015年に“GREE VR Studio”を設立し、VRコンテンツを開発しているほか、出資にも積極的。gumiは、VRのスタートアップを支援する“Tokyo VR Startups”を設立し、5社への投資を開始した。これらのメーカーは、いち早くVRに注力することで、先行者メリットを得ようという考えのようだ。
VRへの熱の高まりは、日本ではまだあまり感じられないが、欧米の期待度は高い。SuperDataによれば、VR市場は、2020年には400億ドルの巨大市場に成長すると見込まれており、ゲーム以外のジャンル……健康、教育、スポーツ、音楽などのコンテンツも数多く登場すると見られている。日本でも、ももいろクローバーZのライブを360度の視点で眺められるアプリ『桃神祭2015 VR Special Live』など、リアルのエンターテインメントと融合しているVRコンテンツが出始めている。
VR市場が生まれることで、予測されることは何か。浜村代表は、これまでゲーム業界では、プラットフォームの更新にともない、新しいIP(知的財産)が生まれてきたと語る。1980年代には、ファミコンの隆盛とともに、『マリオ』、『ドラゴンクエスト』、『ファイナルファンタジー』といった、いまも高い人気を誇るIPが誕生。続いて1990年代、さまざまな据え置きゲーム機の普及とともに『バイオハザード』などのIPが生まれた。2000年代には、携帯ゲーム機向けのIP――『モンスターハンター』や『どうぶつの森』が人気を集め、そしてスマートフォン市場が発展すると、『パズル&ドラゴンズ』や『モンスターストライク』などが流行した。今後、VRシステムが広まっていけば、新しいIPが出てくるはずだ、と浜村代表は展望を述べた。
SNSの拡散力向上、技術の進化によって、新IP、ニューカマーにチャンスが
VRのほかに、ゲーム業界を賑わせているものと言えば、eスポーツだ。VR同様、欧米ほどの高まりはまだ日本では感じられないが、eスポーツ大会は着実に増えてきている。今年1月に行われた闘会議 2016では、『Splatoon(スプラトゥーン)』の大会“スプラトゥーン甲子園”や、賞金総額5000万円の『モンスターストライク』の大会“モンストグランプリ2016 闘会議CUP”が注目を集めた。
また、ゲーム大会に限らず、リアルで行われるゲーム関連イベントも増えてきている。闘会議では、『Splatoon(スプラトゥーン)』に登場するキャラクター、シオカラーズによるライブ“シオカライブ”に、多くのファンが参加した。
多くの動員を見込んでいるリアルのイベントとしては、日本テレビが企画・制作している“ドラゴンクエスト ライブスペクタクルツアー”が挙げられる。全国5都市で40万人を動員予定で、世界で活躍している演出家の金谷かほり氏と、ステージデザインを手掛けるレイ・ウィンクラー氏が参加していることでも話題を呼んでいる。
Nianticが手掛ける『Ingress』や、Nianticとポケモンが共同で手掛けている『Pokemon GO』のように、リアルとバーチャルを行き来して楽しむコンテンツも登場し始めている。ガンホーは、GPSを利用する探索アプリ『パズドラレーダー』を2016年3月に配信開始し、2日間で100万ダウンロードを突破した。
VRシステム、eスポーツ、リアルでのイベント、現実世界を舞台にするゲーム……これらの発展は、ゲームとリアルの境界線がなくなってきたことを示している。
では、なぜゲームはリアルに飛び出したのか。それは、新たなゲーム性の創出を模索した結果であることはもちろん、SNSによるプロモーション効果が大きくなったからだという。SNSが普及し、個人の拡散力が高まったことにより、eスポーツの大会や、リアルのイベントの盛り上がりが大きなものとなった。その背景には、スマートフォンが普及し、誰でもSNSに触れられるようになったことがある、と浜村代表は分析する。
また、VRやARのシステムの開発は、なぜ進められたのか。それもまた、新たなゲーム性の創出を模索した結果であり、技術……とりわけ、モニター/ディスプレイが進化したからだという。そして、モニター/ディスプレイの発展の裏には、やはりスマートフォンの普及がある、と浜村代表。
昨年秋の講演では、スマートフォンの進化・普及によって、スマートフォンゲームと家庭用ゲームが融合する未来が語られたが、今後はさらに、リアルとバーチャルも融合していくという。そしてそこに、新しいIP、新しい業界参入者がヒットを生み出すチャンスがある。フジテレビがゲーム事業会社フジゲームスを設立したり、AmazonがTwitchを買収したり、ゲームエンジン“Lumberyard”を提供したりしているのも、そこにチャンスがあると考えているからだろう。
国内においても、世界全体においても、家庭用ゲーム機の市場は縮小傾向にある(据え置き機は前年より好調ではあるが)。だが、SNSの拡散力、技術の進化をともなって、ゲームが新しいステージに進んだならば、ゲーム市場が再び盛り上がる可能性もある。我々メディアも、移りゆくゲームの姿から目を逸らさず、新しいゲームメディアの形を模索していきたい。