すべてのゲームは、ネットワークに溶け込みサービスになっていく

カドカワ 浜村弘一ファミ通グループ代表の講演“ゲーム産業の現状と展望<2015年秋季>”が開催 スマホゲームと家庭用ゲームが融合する未来を語る_09

 2015年10月16日、カドカワ株式会社 浜村弘一ファミ通グループ代表(以下、浜村代表)による講演“ゲーム産業の現状と展望<2015年秋季>”が、東京・中央区の自社 セミナールームにて実施された。

 業界アナリスト及びマスコミ関係者を対象に、年二度行われている本講演。ファミ通調べのマーケティングデータをもとに、ゲーム業界の状況を浜村代表が分析するもので、今回は“融合するゲームの未来 ~ハイブリッドシフトへ~”というテーマのもと、刻々と変化するゲーム市場の現状と展望を解説した。

ゲームアプリ市場は日本で好調、欧米ではこれから伸びていく

 最初に提示されたのは、世界のパッケージゲームの市場規模。2014年上半期と2015年上半期の規模は、ほぼ横ばいになっている。日本の市場はやや縮小しているが、北米・欧州の伸びがそれを補っている状況だ。

 続いて、2014年末の段階の、家庭用ゲーム・ゲームアプリを合わせた市場規模が示された。世界全体では推定4兆5537億円(北米、南米、西欧、日本、中国、韓国)で、日本ではゲームアプリの市場が突出して大きく、北米と欧州では家庭用ゲームの市場が大きい。

 日本のゲームアプリが大きく盛り上がっているのは、『モンスターストライク』で知られるミクシィや、『パズル&ドラゴンズ』で革命を起こしたガンホー・オンライン・エンターテイメントなどがヒット作を投入してきたためだ。

 そして、スマホゲーム会社は、いま、つぎの時代への準備を始めている。ゲームアプリ市場がレッドオーシャン化し、差別化を図るために開発費が高騰。グラフィックを向上させる必要が出てきたため、ハイエンドに対応する準備を、各社が進めているという。たとえば、東京ゲームショウ2015に最大規模のブースを出展したことで話題となったCygamesは、PS4でゲームを開発中であることを明らかにしている。ハイエンドのグラフィックが必要とされるスマホや、家庭用ゲーム機にも対応できる開発力を備えているということだ。

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 なお、先ほど、“北米と欧州では家庭用ゲームの市場が大きい”と書いたが、欧米でもゲームアプリ市場は成長してきている。英国では、好きなゲームを問うアンケートで『Candy Crush』が1位を獲得。北米では、ゲームアプリに広告費が大量に投下されるようになった。欧米のゲームアプリ市場は、これからも伸びていくと考えられる。

家庭用ゲーム機は欧米で好調、日本では据え置き機が伸びつつある

 では、家庭用ゲーム機についてはどうか。冒頭で、2015年上半期における日本の家庭用ゲーム市場はやや縮小した、と書いたものの、じつはハードの市場規模は、2014年上半期より拡大している(2014年上半期は455.8億円、2015年上半期は475.2億円)。ゲームハード市場において、PS4とWii Uは、2014年上半期に比べて販売台数を伸ばしている(PS4は前年比191.5%、Wii Uは前年比146.6%)。

 PS4は、先日の値下げ効果によって、さらに伸びてきている。注目作が多数発売される来年は、もっと販売台数を伸ばすだろう、と浜村代表は予測する。『Splatoon(スプラトゥーン)』、『スーパーマリオメーカー』が動画配信などで盛り上がり、Wii Uが活性化したことも、トピックスとして挙げられた。

 家庭用ゲーム機のメーカーは、好調な欧米の家庭用ゲーム機市場と、日本での今後の市場拡大の可能性を見据えて、ハイエンドに注力している。また、ここ数年は、スマホゲームやオンラインゲームの運営でノウハウを貯めて、次世代のネットワークサービスに対応できるように準備を進めているとのことだ。

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スマホゲームと家庭用ゲーム機の未来の形とは

 浜村代表は、セミナー内で、勢いを増すSteamについても言及した。ミリオンタイトルが続々登場しており、その多くが、ゲーム実況やeスポーツによって盛り上がりを見せている。

 パッケージ販売が中心だった従来のゲームでは、これまでは、開発会社がユーザーにコンテンツを提供し、ユーザーたちは、ユーザーどうしで盛り上がっていた。しかしいま、販売がダウンロードに特化しているSteamでは、“コミュニティマネージャー”が開発会社とユーザーのあいだに入り、ユーザーの声を開発に届けたり、ユーザーに長く遊んでもらうための施策を考えていたりしているという。コミュニティなしでのヒットはありえない状態になっているのだ。

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 コミュニティ運営の重要性は、前回の2015年春季のセミナーでも語られたこと。コミュニティは、ゲーム実況動画や、リアルイベントなどで活性化される。リアルイベントの最たるものがeスポーツであり、eスポーツの盛り上がりと、実況動画の視聴者数は影響し合う関係にあるという。

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▲ユーザー主導のeスポーツ大会は、開発会社が大幅な開発リソースを割くことなく実施できる。ユーザーとしても、対戦の仕組みがゲーム内にしっかり用意されていれば、専門的な知識なしに大会を開催できるので、やりやすい。eスポーツは、効率的にコミュニティを運営するために、必然的に生まれたのではないか、とのこと。

 ハイエンドに対応していて、コミュニティ運営がしっかりできている――Steamのヒットタイトルの姿は、スマホゲームと家庭用ゲームが目指していることを、ひと足早く体現しているのではないか、と浜村代表は語る。

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 現状、スマホゲームはハイエンドに対応しきれておらず、家庭用ゲームはコミュニティ運営に対応しきれていない。だが近いうちに、スマホゲームと家庭用ゲーム機の差はなくなる。浜村代表は、「すべてのゲームがハイエンド化され、コミュニティを運営するようになる。そしてゲームは、ネットワークの中に溶け込み、サービスとしてますます大きくなっていくのではないか」と総括し、講演を締めくくった。


 いまは、日々変わりゆくゲームの形に対応できるのか、各メーカーが問われている時代だ。それと同時に、我々ゲームメディアも問われている時代だと感じる。各ゲームの最新情報を追うばかりではなく、コミュニティの活動にも目を向けなければならない。メディアが“コミュニティマネージャー”となり、ゲーム業界を盛り上げていくことも必要だと感じる。ゲームがすべて融合してサービスになるのなら、ゲームメディアもまた、さまざまな他業種と融合し、サービスの担い手のひとつになるのだろう。