“仮説”が実現できるのがゲームの大きな魅力
2015年9月17日(木)から9月20日(日)まで、千葉・幕張メッセにて東京ゲームショウ2015(17日・18日はビジネスデー)が開催。会期中の注目タイトルの1本としてピックアップされるのが、エレクトロニック・アーツの『スター・ウォーズ バトルフロント』だろう。今回東京ゲームショウの会期に合わせて、開発元であるDICEのシニア・プロデューサー、ジェイミー・キーン氏が来日。ここではキーン氏へのインタビューの模様をお届けしよう。キーン氏は、ヒーローデザインを統括する立場にあるとのことで、“ヒーローモード”の話題を中心にお話を聞いた。
――ずばり聞きますが、“ヒーローモード”では、現状ルーク・スカイウォーカー、ダース・ベーダー、ボバヘッドの存在が明らかにされています。そのほかにはどのようなヒーローが登場するのですか?
キーン いきなり直球ですね(笑)。現時点ではお答えできません。とはいえ、誰とは言えませんが、当然プレイできるヒーローは増やしていく予定でいます。
――年末に公開される、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』からのキャラクターも登場する?
キーン 社外秘となっております(笑)。
――では、“ヒーローモード”そのものについて聞かせてください。実装するうえで心掛けたことは?
キーン 映画のキャラクターを忠実にということで、キャラクターの本質的な部分をきちんと取り込まないといけないのはもちろんですが、ゲームだとそれだけ、というわけにもいきません。映画だとキャラクターは台本どおりに動いているものですが、ゲームになった途端に、プレイヤーがいかようにも行動させることが可能になってしまいますから。そのあたりが難しかったですね。
――具体的にはどのような形でバランスを取ったのですか?
キーン いろいろな方法論があります。たとえば映画のワンカットをそのまま持ってきたりもしています。あるキャラクターがこういう行動をとった、こういったセリフをしゃべったというところで、「ああ、これはあのシーンから持ってきたんだな」と喜んでいただける。一方で、映画には実際にそういうシーンはないのですが、「この場面だったら、こういう行動を取るだろうな」というのを想像して作り上げたりもします。
――ああ、キャラクターを把握して補完するのですね。
キーン はい。もう少し具体的なお話をしますと、キャラクターは、特定のボタンを押すと、特定のアクションをするんです。たとえば、ダース・ベーダーだったら、「暗黒面の真の力を思い知るがいい」といったセリフを口にしたりします。一方で、「おまえは私のライトセーバーによって死ぬのだ」というセリフがあるのですが、これはゲームだけです。映画には出てこないのですが、実際にあってもおかしくないようなセリフを使っています。
――ああ、そのへんは、シナリオライターさんがしっかりとキャラクターを把握したのですね。
キーン そうですね。当社のシナリオライターも相当がんばりましたが、ルーカスフィルムさんと協業したところでもあります。当社のシナリオライターが、「こんなセリフをしゃべらせたい」というのをルーカスフィルムに提案して、最終的に両社のあいだでやり取りをして、作り上げていきました。
――その作業はけっこうスムーズに進んだのですか?
キーン はい。とてもスムーズに進んだと思っています。『スター・ウォーズ』というコンテンツでベストなものを作りたいという思いは両社とも共通していましたので。私たちも『スター・ウォーズ』に愛と情熱を注いでやってきました。ゲームとして楽しい、かつ『スター・ウォーズ』であるものを作らなければいけないというところで、共通のゴールがありましたね。
――“ヒーローモード”ですが、そもそも、マルチプレイに個別のヒーローが登場するということで、けっこう調整がたいへんだったのでは?
キーン たしかにそこは難しいところです。マルチプレイヤーモードでは、マップ中に出たアイテムを入手することで、ある一定の段階を踏んでヒーローになれるのですが、ヒーローになった場合、プレイヤーにある程度ヒーローになったことを実感できる“力”を与えないといけない。一方で、それをやりすぎるとゲーム全体のバランスが崩れてしまうんです。そのへんのさじ加減が難しいところです。
――ゲームバランスが崩れかねないですものね。
キーン 誰かがヒーローになったときに、「これはかなわない」ということで逃げてしまったらゲームにならないので、当然戦いにいってほしい(たぶん、それでも倒される確率が高いのですが……)。強いヒーローが出てきたので、「グループで対抗しよう!」といった感じでプレイしてもらいたいんです。
――そのへんはプレイヤーも悩みそうですね。
キーン バランスを取るために、一方のサイドにヒーローが出たときに、もう一方のサイドに同時期にヒーローが出るようには工夫しています。ある程度確率論の話にはなってしまうのですが、アイテムを同時期に出して……ということをしているんですよ。それもマップの中でバランスよく配置することで、両サイドにヒーローが出現するようにしています。そうすることによって、一方のチームにヒーローが出たら諦めてしまうのではなくて、対抗するくらいのキャラクターができれば、ヒーローどうしの対決に向けて作戦を練るといったことも選択肢に入るわけです。
――いまの“ヒーローモード”に至るまでにけっこう試行錯誤したのですか?
キーン 相当(笑)。何回もユーザーテストをこなして、たくさんの方にプレイしていただきました。“ヒーローモード”というのは、ふたりの圧倒的な力を持つ者が世界に現出するので、言ってみればそれまでの流れが完全に途切れて、世界がそのふたりを中心に周り始めるんです。ゲームの流れが大きくかわってしまう。それはふたりのヒーローがいなくなるまで続くわけです。そのへんの作りかたは難しかったですね。
――ヒーローの影響力は絶大ということですね。
キーン とはいえ、“ヒーローモード”というのはとてもエキサイティングなようで、とある開発者のグループに“ヒーローモード”のことは何も告げずにゲームをプレイしてもらったことがあるのですが、ルーク・スカイウォーカーが出現した途端、大騒ぎになりました。
――わかるような気がします(笑)。では、“ヒーローモード”の話はこれくらいにして……。『スター・ウォーズ』という巨大なIPをゲーム化するにあたって、注力したポイントを教えてください。
キーン そこは、私たちの開発の理念につながる部分とも共通するのですが、「ファンの皆様の夢の『スター・ウォーズ』のバトルを実現しましょう」ということです。『スター・ウォーズ』のファンの方は、別々のフィーチャーに愛着があると思うんです。スピーダーバイクが好きな人、スノースピーダーが好きな人、Xウィング ファイターが好きな人、あるいはキャラクターそれぞれに感情移入する人、それぞれいらっしゃるわけですが、そういった方すべての“思い”を実現させるような要素をゲームに盛り込みたいと思ったんです。
――ああ、すべての『スター・ウォーズ』ファンの期待に応えるということですね。
キーン もう一方で、これがゲームのいいところだと思うのですが“What if(仮説)”の世界を構築できる。たとえば、“スピーダーバイクが更地でAT-ATと戦ったらどうなるか”とか、“TIEファイターがスノースピーダーと空中戦になったらどうなるか”とか、あるいは、“ルーク・スカイウォーカーとボバヘッドが1対1で戦ったらどうなるか”とか。映画だったら状況が決まっていて不可能なシチュエーションが、ゲームなら実現できるわけです。白いキャンパスに描くように自由に実現できるのがゲームの魅力ですね。
――ああ、なるほど。ファンの期待に応えるほかに、思いもよらない“仮説”の魅力を提供するということですね。
キーン そうですね。そこがゲームの持っている醍醐味ですし、“力”だと思います。映画のワンシーンを切り取ってきて、その中に自分が入り込める。gamescomでは“ファイター・スコードロン”というモードを披露したのですが、映画がなつかしくなるようなXウイングの編隊が映像で流されて、つぎの瞬間には自分が操縦している。そういった楽しさがあるのかなと。
――ファンの期待に応えるのには、大いなる苦労が伴いそうですね。
キーン はい。さきほどもお話しましたが“ヒーローモード”で、ヒーローにどういった力を持たせるか……というので、適切な感じでゲームに実装させるのかは難しかったです。自分がヒーローになった場合は、当然大きな力を持ってそれが楽しいわけですが、その力があまりに絶大になりすぎると、ゲームとしてつまらないものになってしまう。そのへんのバランスです。乗り物によっては、ゲームの中で実現するのが難しいものもありました。たとえば、スピーダーバイクを戦場でどう動かすかというのは難しかった。最終的にそこをきちんと仕上げられたのは、我々としても誇りに思っています。
――となると、AT-ATもたいへんだったのでは?
キーン それはもう(笑)。「AT-ATをなぜ操縦できないんだ?」「それをやったらおしまいでしょう?」というようなやり取りは、スタッフのあいだでありました。ちなみに、AT-ATの操作では、乗り込んで砲台を動かして敵を撃つことはできるのですが、自分で歩く方向をコントロールすることはできません。あまりにも巨大で強力過ぎるのでそこまでコントロールを効かすとゲームのバランスが壊れてしまうので。一方で、映画ではAT-ATは強力過ぎる存在として描かれていて、ホスの戦いでは反乱軍が完全に負けていましたよね。そのへんのバランス調整は、本当に難しい。
――最後に、難度の質問を。DICEさんの作品は『バトルフィールド』シリーズに代表されるように、コアゲーマーから熱心な支持を集めていますが、『スター・ウォーズ バトルフロント』に関しては、ある程度敷居を下げているとのことですが、どちら寄りに?
キーン そこは欲張って、両方を実現しようと思っています。コアゲーマーの方にもプレイし甲斐のあるような作りにしたいですし、『スター・ウォーズ』ファンの方で、FPSに初めて入ってきたような方がある程度プレイしやすいような敷居の低さも実現したいです。とはいえ、全員が全員マルチプレイヤーモードで遊びたいという方ばかりでもないと思うので、そういった方たちのために、『スター・ウォーズ』の夢の世界というものをシングルプレイでも実現したいと思っています。初心者のためには、“ミッション”というモードがありまして、映画のワンシーンをもう少し簡単なモードで体験できるモードも用意されています。そういったところで慣れていただくというのはありかもしれませんね。