架空のバンド、アイドルを想定して作るBGM。シオカラーズ、インクの音のこだわりも訊く、『Splatoon(スプラトゥーン)』開発スタッフインタビュー【サウンド編】

『Splatoon(スプラトゥーン)』3本立てロングインタビュー! その3は、人気の高いBGMや、こだわって作られたインクの音といった効果音について聞いた“サウンド編”。

●3本立て開発者インタビュー その3 サウンド編

 2015年5月28日の発売から、全世界で“イカ旋風”を巻き起こしている、任天堂のWii U用ソフト『Splatoon(スプラトゥーン)』。ファミ通.comでは、週刊ファミ通2015年8月6日号(2015年7月23日発売)『スプラトゥーン』大型特集の開発者インタビューで掲載しきれなかった分を増補改訂した、3本立てロングインタビューを掲載している。今回は、その3本目となるサウンド編。本作のサウンドは、いわゆるゲームサウンドとは異なるロック、パンクなど、多彩なジャンルのBGMになっており、そのクオリティーの高さで話題になっている。また、先日発表されたサントラ発売決定のニュース(詳細は→コチラ)も、非常に大きな反響を呼んだ。今回のサウンドインタビューでは、そういったBGMはもちろん、効果音や、ゲーム内に登場するアイドル、シオカラーズについての話題も直撃! なお、インタビューは2015年6月に実施したもののため、一部、古い話も混じっているが、その点はご了承いただきたい。ほかの、システム編、デザイン編同様に、かなりのロングインタビューになるため、じっくり読んでいただければ幸いだ。

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■プロフィール
写真左:プロデューサー 野上 恒氏(文中は野上)
写真中央:サウンドディレクター 峰岸 透氏(文中は峰岸)
写真右:サウンド 辻 勇旗氏(文中は辻)


●4人編成の架空のバンドを想定したナワバリバトルのサウンド

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――まずは、峰岸さんから今回担当された部分と、これまでのお仕事を教えていただけますか。
峰岸 今回は、サウンドディレクターとしてサウンド全体の方向性をまとめつつ、BGMも担当しました。これまで関わってきたものでは、『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』や『ゼルダの伝説 大地の汽笛』などでサウンドディレクターとBGMを担当しています。比較的最近では、『スーパーマリオ 3Dワールド』で一部のBGMを担当しました。

――続いて、辻さんも教えていただけますか。
 『スプラトゥーン』では効果音とサウンドプログラム、音響や“イカラジオ”などサウンド全般を担当させていただきました。これまでは、『スーパーマリオ』シリーズや『スーパーマリオ3D』シリーズ、『ゼルダの伝説』シリーズ、『ピクミン3』など、情報開発本部(『スーパーマリオ』や『ゼルダの伝説』といったゲーム開発を担当する部署)が作っているゲームの効果音やプログラム、サウンド演出を広く担当しています。

――サウンドが非常に特徴的なゲームになっていますが、どういったきっかけでこういったサウンドになったのでしょうか?
峰岸 私がBGM担当としてこのプロジェクトに入る前の段階から、まだBGMがないからということで、ディレクターの天野が自分でギターを弾いたりして打ち込みで作った曲が2曲ほど、仮で入っていたんですね。その曲が、ギターの荒々しさを中心としたパンクらしいもので、それを聴いたときに「このゲームの雰囲気に合っているかもしれないな」と感じて。ほかの方向性も試したのですが、最終的には天野の仮の曲をベースにイメージしていきました。

――その仮の曲というのは、ゲーム内にも入っているんですか?
峰岸 いえ、いまは使われていないですね。

――こういったジャンルの曲を作ってみて、感想はいかがでしたか?
峰岸 去年のE3のときにPVといっしょに公開した『Splattack!』という曲ができるまでは、心の重荷と言いますか、「自分はこのプロジェクトをやりきれるのだろうか」と思っていた時期もあったんです。でも、『Splattack!』ができてからは、転がり出すようにどんどん曲ができて。私はこの仕事に就いて十数年になりますが、まだこんなにおもしろいことができるのかという新鮮な驚きと、自分の中にない新しいジャンルを勉強しながら挑戦できるおもしろさで、とても楽しみながらやれました。

――『Splattack!』以後に、うまくいったきっかけは何だったのでしょうか?
峰岸 『Splattack!』には、巷で「二枚貝~♪」とも歌われているメロディーがあるのですが、あの部分は最初はなかったんですね。それで、この曲はもう完成かなと思っていたところに、ディレクターの阪口が「この曲に、さらにキャッチーな要素を入れられませんか?」と言ってきて。正直、私としては「もうこれでいいじゃん」と思っていたのですが、そう言うんだったらしかたない、わかりやすいイントロでもつけるかと。イカらしい軟体動物のウニョウニョしたイメージを出したいとも言われていたので、上下に往復するように動くメロディーを入れたんです。でも、結果的に入れてよかったと思いますね。いま振り返ってみると、阪口に感謝しています(笑)。


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――(笑)。それ以降の作る曲は、『Splattack!』が基準になったのでしょうか?
峰岸 そうですね。それが基準となって、この曲を演奏しているバンドにほかにも持ち曲があったらこんな感じだろう、という風にナワバリバトルの曲を作っていきました。
野上 じつはゲーム内に架空のバンドがありまして。彼らのCDのジャケットもあって、そのポスターが街に貼られていたりするんです。
峰岸 “Squid Squad”と言うバンドです。ヒーローモードで手に入るミステリーファイルには、バンド名とともに、彼らが紹介されているんですが、あれはアートディレクターの井上が、『Splattack!』を聴いて描いたイラストで、いつの間にかゲームに入っていました。


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▲Squid Squadのイラスト。

――では、作る曲もバンド編成を意識して?
峰岸 そうですね。ギター兼ボーカル、シンセの女の子、年長のベース、やんちゃなドラムといった4人編成で、もしそんなバンドが何曲か演奏して、その世界でヒットしていたらという仮定で考えていきました。

――そういったロックの曲は、任天堂のゲーム音楽としては、あまりなかったものだと思いますが……。
峰岸 皆無ではないですが、確かにうちの会社のゲームには、こういうハードなものはほとんど出てこなかったかなと思います。

――本作の曲を作る際に参考にした曲やアーティストはありましたか?
峰岸 古今東西の、パンク色の強いロックを参考に聴きました。私自身、そういったジャンルに親しんで聴いていたわけではなかったのですが、音楽フェスのテレビ放送をひたすら観たり、実際に夏フェスに行ってもみくちゃにされたりしながらその空気を感じたりと、どっぷりつかってみました(笑)。

――(笑)。では、峰岸さんが趣味でそういったジャンルの曲を聴いたりしていたわけではないんですね。
峰岸 昔、学生だったころに、そういったテンポの速いロックバンドを友だちと組んでいて、当時のギターロックなどは聴いたり演奏したりしていたんですが、いまのパンクやロックはまた違うので……。それもあって、長いこと遠ざかっていたジャンルをまた勉強しようと聴いたんですが、仕事を抜きにしてもカッコいいと思える曲に出会えたりもしたのでよかったです。

――『スプラトゥーン』の曲のジャンルとしては、パンクやメロコアが多いと思いますが、それは仮で入っていた天野さんの曲がそういった方向性だったのでしょうか?
峰岸 天野の曲はそこまでイケイケではなくて、もうちょっとだるい感じでテンポも速くはなかったんですが、こじんまりとまとまっていない“粗さ”があったんですね。その粗さが、そつのない演奏でキレイにまとまるよりもゲームに合っていたので、活かそうとは思っていました。

――以前、開発スタッフにインタビューをさせていただいたとき(記事は→コチラ)、「くねくねしたサウンドにしたい」といったオーダーを多く出されて、「サウンドチームから注文が多いと思われている」というお話があったのですが……。
峰岸 注文が多かったのは事実ですね(笑)。ただ、『スプラトゥーン』は新規IPで、イメージがまだ確立されていませんでしたので、あれくらいの注文の多さは妥当かなと。しかも、「このジャンルで」とか「この楽器で」といったガチガチの指定ではなく、「イカっぽく」、「夏っぽく」、「疾走感のある」といったリクエストだったので、それをどう噛み砕いて具現化するか、そして、リクエストに応えるだけではなく、さらに予想の上をいく曲を返せるか、という気持ちで作っていたので、むしろ取り組み甲斐がありましたね。


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――なるほど。注文は多かったけども、いい相乗効果にもなったと。
峰岸 ほかのゲームでは、わりと放任主義で任せてくれることもありますが。『スプラトゥーン』はディレクター陣が音楽好きで耳が肥えているせいなのか、指摘が的確なんですよね。私が、「こんな感じでどう?」と作ってみた曲に対して、「ちょっとこれは子どもっぽすぎる」とか、また別の曲については「これは大人っぽすぎる」といった指摘がありました。
野上 少し背伸びしたい若者たちが聴いている音楽という設定だったので、そういった細かい指定があったんでしょうね。
峰岸 最初は、その子どもっぽすぎず、大人っぽすぎでもないバランスを取るのが難しくて、何度もダメ出しを食らってしまったんですが、制作が進んできてからはほとんどダメ出しもなく、サウンドスタッフ間でいいと思えるものは、ディレクター陣からも「大丈夫です」とオーケーをもらえるようになりました。

――任天堂の場合、サウンドスタッフの方々も実際にゲームをプレイされて、それからゲームに合ったサウンドを作っていくというお話を以前おうかがいしたのですが、今回もプレイをされたうえで作られたのでしょうか?
峰岸 そうですね。私たちの場合、それは特別なことではなく、いつも通りなんです。
野上 プレイと合わせてみないと、イメージが違うということもよくありますし。
峰岸 最新バージョンのゲームにはいつでも触れられるので、新しいシーンができたらまずBGMがない状態でじっくり遊んでみて、そこから曲を考えるというのが、我々の通常の作りかたなんですね。