3本立て開発者インタビュー その2 デザイン編

 2015年5月28日の発売から、全世界で“イカ旋風”を巻き起こしている、任天堂のWii U用ソフト『Splatoon(スプラトゥーン)』。ファミ通.comでは、週刊ファミ通2015年8月6日号(2015年7月23日発売)『スプラトゥーン』大型特集の開発者インタビューで掲載しきれなかった分を増補改訂した、3本立てロングインタビューを掲載している。今回は、その2本目となるデザイン編。発表のあった通り、本作の設定資料集も発売が決定したが(詳細は→コチラ)、設定資料集は300ページオーバーと、新規IP(知的財産)としては異例のボリュームになっている。というのも、本作用に描かれた設定画がそれだけ豊富に用意されていたからだ。今回のインタビューでは、そんな設定やデザインに迫る。なお、インタビューは2015年6月に実施したもののため、一部、古い話も混じっているが、その点はご了承いただきたい。システム編、サウンド編同様に、かなりのロングインタビューになるため、じっくり読んでいただければ幸いだ。

『スプラトゥーン』機能を表現するデザイン手法。キャラクター、ブキ、ギアのデザインに迫る、開発スタッフインタビュー【デザイン編】_20
▲発売が決定した設定資料集のカバーイラスト。中身は、本記事のインタビューに載っていること以上のネタが満載!(画像をクリックすると、詳細記事に移動します)

[2015年9月9日14時5分修正]一部、キャラクターやブキの名称について誤りがあったため、該当の文章などを修正いたしました。読者並びに関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。

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『スプラトゥーン』機能を表現するデザイン手法。キャラクター、ブキ、ギアのデザインに迫る、開発スタッフインタビュー【デザイン編】_01

■プロフィール
写真左:プロデューサー 野上 恒氏(文中は野上)
写真中央:アートディレクター 井上精太氏(文中は井上)
写真右:デザイナー 西森啓介氏(文中は西森)

イカたちはちょっと生意気な“リア充”イメージ!?

『スプラトゥーン』機能を表現するデザイン手法。キャラクター、ブキ、ギアのデザインに迫る、開発スタッフインタビュー【デザイン編】_02

――まずは、皆さんが今回担当された部分と、これまで担当されたお仕事からお聞きできますか?
井上 全体のアートディレクションと、いろいろとイラストを描いています。これまでの仕事は、Wii Uの本体機能のアートディレクションをしていました。その前は、ニンテンドーDSの『ゼルダの伝説 大地の汽笛』のUI(ユーザーインターフェース)や汽車のデザインをしたり、『街へいこうよ どうぶつの森』に関わったりしていました。

――今回、たくさんのイラストを描かれていますが、これだけの量を描かれるのは初めてですか?
井上 最初は世に出るものではなく、設定画として描いていました。
野上 ちなみに、ネットなどで井上や阪口が、『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』のミドナをデザインした人物と書かれていたりするんですが、それは違いますので……。阪口が『トワイライトプリンセス』の一部のキャラクターデザインをしていたことからそういう話になっているようなんですが、ミドナのデザインは社内の別のデザイナーたちで行っています。どこかで誤解を解かないと……と思っていました(笑)。

――確かに話題になっていました! 続いて、西森さんのお仕事をお教えください。
西森 『スプラトゥーン』では、デザイナーのマネージメントをやりつつ、街中やステージ内にある看板や落書き、プレイヤーが身につけているフクやクツなどのギアのデザインディレクションをしていました。これまでの仕事は、最近では『ピクミン3』のアートディレクターをやっていまして、その前だと『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』のプレイヤーデザインなどを担当していました。

――改めて本作の特徴的なデザインコンセプトをお教えください。
野上 コンセプトと言いますか、デザインはゲームに触れるときの最初の導入になりますので、そのための機能と、それに対して、どういうデザインをするかという話から、スタートしています。
井上 最初の企画書段階では、白と黒で洗う人と汚す人が戦い合うというレベルの話だったんですが、第1弾のデザインではウサギを擬人化したような、人型のウサギが主人公だったんです。なんというか、個人的にオシャレにしようというよりも、シンプルなものにゴチャッとしたガジェットがついているのが好きで、ボンバーマンやミニ四駆といったものなど、子どものころに受けたうれしいイメージを大事にしています。ですから、本作に出てくるガジェットも、ハイテクな時計やネオンカラーのスニーカーなど、物に憧れていた時代のイメージを出そうとしています。
西森 限定カラーが出たりとか、そのアイテムを持っていると街中でうらやましがられるような時代の感覚ですね。

――ウサギのころから、キャラクターの頭身などは決まっていたのでしょうか?
井上 そんなには変えていません。アクションゲームなので、ある程度、アクションを見やすくしないと手触りがなかったりするので、足や手を大きくするのは決まっていました。
野上 等身が低いのにも理由があって、頭が大きいから攻撃されたときに塗られているのがわかるんですね。必ずしも、かわいらしいからという理由だけではないです。

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▲主人公がウサギ型だった時代のイメージボード。

――イメージボードなども数多く描かれているようですが、そのころからフェスをイメージしたものもあったんですね。
井上 これは制作開始から1、2ヵ月くらいの段階で描いたものですね。
野上 いまのように、ゲームの中で定期的にイベントをやろうということは最初から構想としてありました。
西森 新しいゲームなので、まずはたくさんの人に知ってもらいたいという事もあって、Twitterなどでゲームを遊んでいない人も巻き込んで話題になるような仕掛けをどんどん提供していこうと考えていました。

――キャラクターのデザインのポイントをおうかがいしていきたいのですが、イラストのタッチも印象的ですね。
井上 もともと3Dモデルにすると輪郭線がなくなるので、こういった描きかたのほうが、コンセプトと3Dモデルでズレが少なくなるんですよ。イラストで見たらかわいいけど、3Dで見たらかわいくないということがゲームだとよくあることなので。ギャップが少ないようにと言いますか、そもそもイラストとして仕上げていたわけではなく、コンセプトワークとして描いていくなかで、これを使おうということになったんです。

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――ボーイ、ガールのデザインのこだわったポイントは?
井上 描く要素で、目や触手などのわかりやすい部分はあるのですが、フォルムやシルエットを大事にしています。肩幅より骨盤が広いとか、アスリート体型と言いますか、スポーツしそうな感じというのと、リア充なイメージになっていますね(笑)。デザインしていたころは、ボーイやガールが17歳という設定で描いていたんですが、“自分はイケてる”といったイメージを持っているようにしています。17歳の女の子って、自分のこと最強の生き物だと思っていそうだし、実際そうなんだろうと思っていたんですよね。
野上 世の中に怖いものはないって感じですね(笑)。
井上 そのテイストが、インクリングたちがイタズラをする、インクをぶつけるという設定にも相性がいいですし。そういうインクを塗るといったイタズラがカッコよく見えたりするギリギリの年代と言いますか、もうちょっと大人になると、子どもっぽいとなってしまうという。イタズラをスポーツとしてうまく見せてくれるものとしてデザインしていますね。あとは、インクリングは口角が上がると下まぶたが上がるんですが、それをすると、あんまりかわいくなくなるものの、ちょっと生意気な雰囲気が出るんですね。そういうイメージは大事にしています。
野上 キャラクターの下の歯が尖っていたりするのも、見えかたによってはかわいさが薄れてしまうんですが、そういうところもフックとしてあえて入れています。
井上 それはそれで、自分たちで“若いし強い”と思っている人たちというイメージですね。

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――なるほど。
井上 ガールもボーイもイメージとしては同じように描いていますが、ボーイはガールに比べると、若干おとなしいイメージにしていますね。年齢としては、同年代なんですけど。
野上 設定的には14歳なんですが、デザインとしては16歳から17歳くらいの雰囲気にしています。

――インクリングは目のまわりの黒い部分がポイントだと思うのですが、これはイカのデザインとして最初から決まっていたんですか? 『マリオ』シリーズのゲッソーなどを彷彿させますが。
井上 ゲッソーではないですね。これはパンクロックのミュージシャンなどがする、目元を黒くするメイクをイメージしています。

――イカはあまり関係ないんですね(笑)。
井上 多くの人から「ゲッソーっぽい」と言われて、あぁそうかと気づいたんですが、デビューしたてのロック歌手が持つちょっと荒っぽい感じのかっこよさがこのゲームには合うと思いました。それで、その雰囲気をイメージしたというのが経緯です。
野上 デザインについては、かわいいとか気持ち悪いとか、人それぞれの感想が出るものですが、もっともよくないのは“興味がない”ことだと思うんです。たとえ嫌われているものでも、何かをきっかけに反転することはありえますので、まずは興味を持ってもらえるように、当り障りのないデザインではなく、フックのあるデザインを狙っています。

――デザインを拝見していると、最初はガールを中心に考えていたのでしょうか?
井上 ボーイは最初はなくてもいいかというくらいで、メインがガールでしたね。
西森 新しいキャラクターをデザインするにあたって、女の子がメインのタイトルが任天堂作品では珍しいということや、「強くて活発な女性が海外でも受け入れられやすいのでは?」と考えたこともあって、まずガールを中心にデザインして、それに対するボーイのデザインとして考えていきましたね。

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▲ガールの初期デザイン。

――ボーイはちょんまげのような髪型が印象的です。
井上 もっとふつうっぽいものもあったんですが、それだと何か引っかかりが少ないというのと、そもそもスポーツをやらなそうなイメージに見えたんですね。スポーツをやりそうかどうかというイメージもけっこう大事で、単純なかっこよさよりも、エクストリームスポーツなどをかっこよくやりそうというイメージでまとめました。

――以前、Twitterで髪型などで、イカの足と同じ10本の割り当てがあるという設定がありましたが、当初から意識されていたんですか?
井上 はい、考えていましたね。イカのキャラクターなので、足が10本というのはすごく大事といいますか、大人が嘘をつかないようにしたいというのがありました。子どもたちに「イカの足は10本だよ」と伝えたときに、このキャラクターも10本になっているのは大事なことかなと思うんですよね。一応、タコゾネスも手足が4つずつあって8本になっているんですよ。そこで、8本や10本ないと、がっかりすると思うんですよね。
野上 デザインのおかげで説得力が出るイメージですね。
井上 でも、襟足の数でちょっと調整しているんですけど(笑)。

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――細かく設定されていることに驚きます。イカになったときの姿はデフォルメされていて、足は大きな2本になっていますね。
井上 ヒトとイカを切り換える遊びですので、それぞれパッと見たときにアイコンとしてわかりやすく、素直にイカのようにデザインしました。
野上 イカのヒラヒラした部分がついているのは、主人公たちがウサギだったころにもヒラヒラしたものがついていて。こういう部分は、キャラクターを動かしているとフワフワと動いたりするので、アクションとして気持ちよく動かせるようなデザインにしています。
井上 イカは見た目的にもイカらしく要素がだいたい決まっていたので、あとはカーデザインのように、身体のラインをS字にしてといった形でフォルムを決めていきました。あと、頭の部分は純粋な三角ではなく、下の角度をちょっと上げているんですね。そのほうがイカらしくなります。こういうフォルムはこだわっていて、ガールやボーイのフォルムも、指の部分はイカソーメンの形になっているんですよ。

――イカソーメンですか!?
野上 指先をじっくり見るとわかるんですが、断面が四角なんですよ。
井上 なので、爪とかもありません。ガールの髪型も前髪はイカの刺身っぽくなっています。