日本のインディーズはまだまだこれから

 2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。ここでは、最終日の28日に行われたレギュラーセッション“世界に羽ばたく!PlayStationインディーゲーム”の模様をリポートする。

伸びしろ満載のインディーズ 新たなプラットフォームにプレイステーションを!【CEDEC 2015】_01
▲ソニー・コンピュータエンタテインメント
SCEJA ソフトウェアビジネス部
次長 開発サポート責任者
秋山賢成氏

 このセッションでは、インディークリエイターがプレイステーションフォーマットにおいてソフトをリリースするまでの過程やその際の疑問点、メリットなどをわかりやすく説明。講師は、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(以下、SCEJA)で、ゲームタイトル制作に関するサポート全般を担当している秋山賢成氏と、同じくSCEJAで国内インディーズを担当している“イトゥ”こと伊東章成氏のふたり。とはいうものの、伊東氏が諸事情で開始時間に間に合わず、冒頭は秋山氏による説明でスタートした。

 SCEJAが“PS love Indies”のロゴを掲げて約2年、秋山氏は「海外市場に比べると、日本での盛り上がりはまだまだ少ない」と感じている。しかし、最近はやっとインディーズからもヒットの兆しが出てきたといい、インディークリエイターからもさまざまな問い合わせがあるそうだ。
 最初は「PlayStationはインディーズをどう思ってる?」という、ストレートな質問。直接聞かれたことはないそうだが(笑)、それに対するSCEJAの回答は明確で、“ハートマーク”。つまり“Love”。このことは、声を大にして伝えたいことだという。

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 現在、インディータイトルを発売・配信する場合、PC(Steam)とスマートフォン(App Store/Google Store)が主流だ。SCEJAは、ここに“プレイステーション”という第3のプラットフォームを確立したいと考えている。PSフォーマットのメリットは、ビジネス面でのノウハウがあり、プロモーションを含め、有利に展開できること。一方で、コンシューマービジネスでは、おもに表現に関する規制がかかることがある。これに対して不安、不満に思うクリエイターに対しては、「より安全で、より楽しめるものがコンシューマービジネスの基本」と説明する。そうした規制と、インディーズならではの自由な表現や発想をどうかみ合わせていくのか。安全性を担保にしながら、自由な開発環境を提供することが理想とのこと。

◆Q.開発に必要な準備やお金は?
 プレイステーションフォーマットでインディーゲームを開発する際、さまざまな準備が必要となる。まずは、ライセンス契約。これにより、開発機材(開発用PC、専用開発機、SDKなど)が提供されることになるのだが、現在日本では法人契約のみとなっているとのこと。そして、実際に開発にかかる費用は、制作費、開発機材費(※ツールサポートあり)、CERO申請費用、SCE登録経費といった諸経費がかかることになるが、とくに制作費は、タイトルの規模や開発期間に大きく影響されるので、一概にどのくらいとは言えないようだ。SCEJAでは、機材に関するレンタルやリースといった制度もある。それらをうまく活用すれば、資金面での苦労は抑えられるだろう。これらは、ライセンス契約時に説明があるとのこと。
 ちなみにPS4でゲームを開発する場合、Steamで開発実績があれば、それほど違和感なく開発できるそうだ。現在では、Unityやアンリアルエンジンといったミドルウェアが充実しており(受講者の多くもUnityなどの使用経験あり)、プロジェクトにあったミドルウェアを選択すれば、クオリティーの高いものを作ることも十分可能だ。SCEJAにはその知見があるので、アドバイスももらえる。と、ここで伊東氏が到着し、バトンタッチ(笑)。

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▲ソニー・コンピュータエンタテインメント
SCEJA ソフトウェアビジネス部 ビジネス推進課
伊東章成氏

◆Q.どれくらいの期間が必要?
 前述のとおり、タイトルの規模によって差が生じるが、それ以外の工程についての流れについての説明。Format QAチェック、いわゆるマスターチェックのようなもので、「コンシューマーハードメーカーとしてきっちりやる」(伊東氏)とのこと。レーティングの取得も必要となり、その後配信申請から約1ヵ月で配信開始となるケースが多いそうだ。また、プレイステーションフォーマットなので、プレイステーションストア経由で配信することが規約となっている。

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◆Q.個人開発者はPSでタイトルを出せるの?
 よくある質問だが、現状日本ではライセンス契約が法人契約のみとなっている。現在個人で開発しているインディークリエイターは法人化するしかなさそうだが、じつは別の手段として、配信の仲介をしてくれるパートナーメーカーを見つけるという方法がある。具体的には、“インディーズセレクション”を展開しているスパイク・チュンソフト、PS Mobileの配信ソフトをPS Vitaで配信させているピグミースタジオ、PCプラットフォームを持ち、海外展開への期待もできるPLAYISM、そして同人展開を協力、サポートする“Play,Doujin!”のメディアスケープなどが上げられる。

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◆Q.PSでインディーズはどのくらい出た?
 日本のPSストアでは、日本のインディーズが10本、海外インディーズが60本。海外のPSストアでは、日本のインディーズがわずか3本に対し、海外インディーズは190本にも達する。日本のインディーズは海外ではまだまだなのは数字上も明らかなので、逆にチャレンジしどころではないかと伊東氏は分析した。

◆Q.海外配信はできるの?
 結論から言うと可能。インディーパブリッシャーがたいへん頼りになるが、日本のパブリッシャーが海外のパブリッシャーと連携しつつある例もあるという。また、セルフパブリッシングは英語必須となり、いばらの道……。アメリカ、ヨーロッパなど、リージョンごとに対応する必要があり、もちろんマスターにあたるFormat QAもリージョンごとだ。

◆Q.インディーズの売上は?
 数字は言えないが、とくに目立つ事例では、PLAYISMが海外パブリッシングを担当したPS4版『アスタブリード』は数万で、日本よりも好調。PC版は、海外のほうがはるかに売れているそうだ。また、PS Vita版『不思議の幻想郷』は、PSストアでランキング1位も獲得しており、通常のパブリッシャーと遜色ない売上を記録している。「海外での反応が楽しみなタイトル」と伊東氏は語る。

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◆Q.今後のインディーズ展開は?
 ここで紹介されたのが、本日発表されたSpirit of Indies with PlayStation ~アイデア一発で、ゲームの歴史に名を残せ。~

コンセプトビデオ「Spirits of Indies with PlayStation® ~アイデア一発で、ゲームの歴史に名を残せ。~」

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 強力なラインアップと、“インディーズの反対語はメジャーじゃない。「退屈」だ”という強烈なキャッチコピーが印象に残る。いわゆる、インディーズやクリエイターを応援するプロジェクトのようなもので、これまでストアでインディーズをキレイに展示できなかったが、カテゴリとしてわかりやすく陳列していくことになる。
 続いて秋山氏が「SCEもインディースピリッツを持ち、展開しているものがあります」と、“Project Morpheus”を紹介。「インディークリエイター向けに開発機をたくさん用意して待っています」(秋山氏)
 昨年のBitSummitで大賞を受賞した「『MODERN ZOMBIE TAXI DRIVER』のようなタイトルに大注目している」という伊東氏。こういったインディーズならではのタイトルをどんどん紹介したい、紹介してほしいと語った。SCEの本気度は、SCE ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏が、“吉Pのインディーズタイトル紹介コーナー”を担当していたり、BitSummit 2015でも講演を行っていることなどからも明らか。トップみずからインディーズ推し!
 最後に伊東氏は、「(インディーズは)いま、まさにこれからチャレンジできる機会」だと語り、やはり“Indies=Creativity,Freedom&Ownership”の精神でがんばってほしいと講演を締めくくった。

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 ちなみに、講演後には受講者との簡単な質疑応答コーナーがあった。マネタイズについての認識についての質問に、伊東氏は「まずは場所作り」と言う。それは、まさに今日発表された“Spirit of Indies with PlayStation ~アイデア一発で、ゲームの歴史に名を残せ。~”につながるものだろう。また秋山氏は、「(PSストアには)お金をキチンと払ってくれるユーザーがいます。だから、ちゃんとしたゲームを作らないといけないということにもなります」と語った。