往年の名作はプレイステーション Vitaでどう進化したか?

 アガツマ・エンタテインメントから2015年4月23日にリリースされたプレイステーションVita用ソフト『さよなら 海腹川背 ちらり』。そのプレイインプレッションをお届けする。


1.ゴムは伸びれど、操作技術の伸びしろはナシ

 序盤にコツを掴んでスイスイ進める反面、やり込み要素は苦手──そんなプレイヤー・スタイルで30年以上ゲームを遊んできた私にとって、スーパーファミコン全盛時代に触れた『海腹川背』は、数少ない“お手上げタイトル”のひとつでした。本作のおもしろさの大部分を占めている、いわゆる、ラバーリング・アクションの制御感覚が、一向に身につかなかったのです。「ここに引っ掛けると一気にショートカットできるんですよ!」という、友人の軽快なプレイをぼんやり眺めながら、「俺はこのゲームを楽しむためのライセンス取得に失敗したのだ……」との思いを噛みしめたものです。

2.ニンテンドー3DS版に、ちらりと手が加えられたリファイン作

 『さよなら 海腹川背 ちらり』は、2013年にリリースされたニンテンドー3DS用タイトル『さよなら 海腹川背』のリファイン作品です。 基本的な構成は、ほぼ同じ。プレイヤーキャラの女の子・海腹川背を操作して、各フィールドのゴールを目指す……というステージクリアー型のアクションゲームです。アートワークやBGMによって独特の透明感が表現されているゲーム世界は、PS Vitaの高解像度画面で再現されることで、その特色がより鮮明に。ニンテンドー3DS版を気に入った人は、新たな感動があるでしょう。

 メインモードは、開放済みのフィールド(ステージ)を任意に選択して、自由にプレイできます。特定ステージをクリアーすると、自機ストック制で複数フィールドを通しプレイできるアーケードライクなゲームモード”シーケンシャルチャレンジ”がアンロックされます。

 各フィールドには、推奨ルートらしきものは用意されているですが、いざその通りに進もうとしても、正確かつスピーディーなアクション操作が要求されます。また、川背が持つ、端にフック(ルアー)のついたゴム状ロープによる、一連のアクロバティックな動き──ラバーリング・アクションを駆使することで、大胆な近道が可能だったりと、高度な操作テクニックを前提条件としたパズル要素も充実しています。アクション操作の救済措置として、ゲーム進行を数秒間止め、再開後の操作を先行入力しておける”モーションストップ”などが用意されていますが、実際には、それらを有効に使えるようになるまでにも、相応の基礎訓練が必要だったりします。

かつての“ラバーリング・アクション落第者”に花束を……/『さよなら 海腹川背 ちらり』インプレッション_03
かつての“ラバーリング・アクション落第者”に花束を……/『さよなら 海腹川背 ちらり』インプレッション_04

3.キメ細やかに再現されたラバーリング・アクションに活路が!

 初代シリーズ作のラバーリング・アクションに躓いた私にとっての『ちらり』は……相変わらず難しいゲームでした! ただ、難しくてまったく手に負えない印象は後退し、高度なアクションにも対応できる可能性を十分に感じました。

 実際、ニンテンドー3DS版の時点でシリーズ初心者向けの調整がされていて、以前、プレイする機会があった時には、最短ルートでのエンディングは何とか見ることができました。『ちらり』ではさらに、フックを引っ掛けながら切り立った壁面を上っていくテクニック、通称“垂直のぼり”をモノにすることができ、念願の新ルート突入(複数のゴールがあるフィールドで、たどり着き方がわかりにくい場所にあるゴールに入って、より難度の高いフィールドへとつながるルートを開放すること)を体験できました。

 開発者インタビューによれば、ゲームの挙動は、ニンテンドー3DS版で不評だった点を改善したとのこと。ラバーリング・アクションの基礎となる、ゴムロープの伸縮のタイミングがつかみやすくなったのは、そういったことに加え、秒間60フレーム処理用に最適化されたことによる恩恵が大きい気がしました。物理演算は使用していないとのことですが、本作で再現されているゴムロープの動きは、「たしかに、こんな感じだよなぁ」と腑に落ちる、きめ細やかさを感じました。

かつての“ラバーリング・アクション落第者”に花束を……/『さよなら 海腹川背 ちらり』インプレッション_05
かつての“ラバーリング・アクション落第者”に花束を……/『さよなら 海腹川背 ちらり』インプレッション_06

4. これ1本で“温故知新”の真髄に触れられます

 初代の『海腹川背』が、オリジナルとほぼ同じ状態でプレイできるのも、『ちらり』の特徴のひとつ。約20年前の苦い思い出をよみがえらせつつ恐る恐るプレイしてみると……これが思いのほかスイスイと操作でき、拍子抜けやら嬉しいやら、不思議な気持ちになりました(とはいえ、スイスイ進めたのはフィールド10くらいまでですが)。当時の自分と比べてより多くのゲームをプレイしてきたぶん、ゲーマーとしての基礎レベルが上がったから、という側面もあるでしょうが、『ちらり』のメインモードのプレイによって初めて触れることができた、ラバーリング・アクションの“勘どころ”をごく自然に応用できたことが、何よりも大きいです。

かつての“ラバーリング・アクション落第者”に花束を……/『さよなら 海腹川背 ちらり』インプレッション_01
かつての“ラバーリング・アクション落第者”に花束を……/『さよなら 海腹川背 ちらり』インプレッション_02
▲こちらスーパーファミコン版。『さよなら 海腹川背 ちらり』に同梱されているので、お試しあれ。

 歯ごたえのあるアクションゲームを遊びたい新規ユーザー、追加フィールドや世界規模のスコアランキングにチャレンジしたいシリーズファンはもちろんですが、過去に『海腹川背』シリーズ作に触れ、挫折感を大なり小なり味わったことがある人も、本作はプレイする価値があります。言うなれば『ちらり』は、かつて一部のユーザーが象徴的に獲得していた、“ラバーリング・アクションを目一杯楽しむためのライセンス“そのものになりうる作品。PS Vita仕様に再調整されたメインモードを根気よくプレイすることで、『海腹川背』が1作目の時点でいかに”極まっているゲーム“だったか、実感できるはずです。


さよなら 海腹川背 ちらり
メーカー アガツマ・エンタテインメント
対応機種 PSVPlayStation Vita
発売日 2015年4月23日発売
価格 パッケージ版:4800円[税抜](5184円[税込]) ダウンロード版:4200円[税抜](4536円[税込])
ジャンル アクション