シリーズを1作目から手がけてきた開発者の皆さんに聞く

 2015年4月23日にアガツマ・エンタテインメントからリリース予定のプレイステーションVita用ソフト『さよなら 海腹川背 ちらり』。リファイン元となる3DS用ゲーム『さよなら 海腹川背』からどこか変わり、どういった部分にこだわりをもって開発したかを、『海腹川背』シリーズを第1作目から直接手掛けてきた中核スタッフに聞いてきた。

『さよなら 海腹川背 ちらり』の開発者に聞く シリーズのひと区切りとしての作品に_01

■スタッフ紹介
酒井 潔氏(中央)
『海腹川背』の生みの親のゲームクリエイター。本作ではプログラマー、ディレクターを担当。

近藤敏信氏(左)
ゲーム企画開発会社・スタジオ最前線の代表。歴代の『海腹川背』シリーズのグラフィック、キャラクターデザインを手掛ける。

中島康雄氏(右)
アガツマ・エンタテインメントのプロデューサー。『さよなら 海腹川背』に続き、本作でもプロデュースを務める。

秒間60フレーム描画で生まれ変わった『さよなら 海腹川背』

『さよなら 海腹川背 ちらり』の開発者に聞く シリーズのひと区切りとしての作品に_08

──まずはニンテンドー3DS用ソフト『さよなら海腹川背』のリファインという形で本作を開発した経緯をお聞かせください。

中島 最初に近藤さんとお話したのが、昨年の5月くらいだったと思います。弊社として新しいプラットフォームの企画をやりたいと検討していたところに、『さよなら 海腹川背』のPS Vita移植にチャレンジてみてもいいんじゃないかと、飲みの席で話しました。

──昨年5月からということは、開発は急ピッチだったんですね。

中島 いろいろと酒井さんにはご迷惑をおかけしました。こっちの準備不足もありまして。

──ニンテンドー3DS版をプレイしたのですが、シリーズの原点回帰という感じで、従来のファンの方も納得の内容だったと思います。PS Vita用ソフトとしてリファインするにあたって、近藤さん、酒井さんのほうで、何か期するとことがあったのでしょうか?

近藤 私はグラフィック担当なので、やはり大きい画面できれいな絵を出したいな、という思いがありました。原点回帰をテーマにしたニンテンドー3DS版は、幅広いユーザーさんに触ってもらいたいという意図で制作し、その意味では、満足のいく内容でした。PS Vita版は、同じゲームですけど、自分の中では位置づけがちょっと違って長年のファン向けを意識しています。

酒井 私は「振られたから、やるかな」というくらいで、PS Vitaだからとくにどうというのはありませんでした。

──そういうものですか(笑)。『ちらり』は、秒間60フレーム制御がセールスポイントのひとつだと思いますが、そこはやはり最低限ということで。

中島 オファーを出す際に、秒間60フレームと、ステージの追加をご提案させていただきました。アクションゲームとしての手ざわりを大事にしたいということと、これまでのシリーズ作で『さよなら 海腹川背』のみ秒間30フレームで、それ以外は60フレームだったので、PS Vitaでリファインするに際のテーマのひとつにしました。

酒井 単純にニンテンドー3DS版を秒間60フレームにしたと思われがちなんですけど、じつはぜんぜん違うんです。PS Vitaはリッチな3Dゲームを動かすのにちょうどいい調整がされているハードだと思いますが、映像表現がリッチではない『さよなら 海腹川背』の場合は、そのまま持ってくるだけでは逆に処理落ちしてしまう。そもそもPS Vitaは解像度が非常に高いので、表示しなければならないピクセルの数が増えるんです。ニンテンドー3DS版と比べると、面積比で5倍くらい。それを60フレームで動かそうとしたら単純に10倍の処理速度が必要になるのですが、それは無理なので、見た目が変わらない範囲でライティングを省略したりとか、だいぶ作り替えてちゃんと動くようにしています。

──プレイ感覚としては、どのような調整がされているのでしょうか。

酒井 ラバーリングなどの挙動は、ちゃんとした計算によるシミュレーターではないので、フレームレートを変えると全然挙動が変わってしまうんです。そこをまったく同じ動きにしようとすると面倒くさいので、PS Vita版ならではの挙動になるように再調整しつつ、ニンテンドー3DS版で不評だった部分を修正しています。

──グラフィック面では、川背さんのアクションが増えたりといったことは?

近藤 潰れるモーションとか、地味に増えています。秒間30フレームから60フレームになったことで、キャラクターに関してはだいぶぬるぬる動くなという印象です。パターン数は、単純に倍になりますからね。

──リファインとはいえ、相応の労力がかかったと。

近藤 想像していた以上にたいへんでした(笑)。

『ちらり』ならではの新要素

──追加ステージの内訳を教えてください。

酒井 中盤から終盤にかけて10ステージぶん追加しています。新しい敵を出したいとのことだったので、その敵を出すステージを、既存のステージの途中途中に挟んである感じです。

──既存ステージのフィールド構成は、ニンテンドー3DS版とまったく変わらない?

酒井 多少、何か所か修正している箇所があります。

──オリジナル版の反省を踏まえて?

酒井 ニンテンドー3DS版がリリースされた時、序盤ステージで「100回死んだけどクリアーできない」という方がいたとのことで、最初のほうのステージを何か所か修正しています。

──シリーズ初心者にとっては、ニンテンドー3DS版の調整でも、まだまだ難しかったんですね。

酒井 単純に難易度の問題というよりは、フィールド内のルート誘導が、うまく伝わっていなかったのかなと。『海腹川背』は、指先のテクニックで華麗な操作をするゲームと思われがちですが、私の中では頭を使ってパズル的に解いていくゲームとして作っています。よく考えれば安全に進めるけど、ガーッと進もうとするとすぐ死んじゃうのかなと。

──プレイ感覚としていちばん調整が必要だった部分は?

酒井 ちゃんとした計算によるシミュレーターじゃないので、フレームレートを変えると全然挙動が変わってしまうんです。単純に数値を半分にしていけばいいというものではありませんでした。そこをきっちりまったく同じ動きにしようとすると面倒くさいので、そうするよりはPS Vita版ならではの挙動になるように再調整しつつ、ニンテンドー3DS版で不評だった部分を修正しつつ……。だいたい同じ感覚で遊べるんですけど、ちょこちょこと修正が入っています。

──いまさらながらですが、タイトルの由来を教えていただけないでしょうか。なぜ、『ちらり』?

『さよなら 海腹川背 ちらり』の開発者に聞く シリーズのひと区切りとしての作品に_27

酒井 ロゴに表れている通りです。ニンテンドー3DS版の時からこれで終わりだとは言ってないんですけど、『さよなら』と銘打っておきながら戻ってきたので、ちょっと恥ずかしそうに、ちらりと。

中島 『さよなら 海腹川背』の時点でネーミングに遊び心があって、気に入っていました。今回の『ちらり』は、いろいろ想像が広がる言葉でもあって、酒井さんのセンスがいい感じで表れているなと。ファンの皆さんが、『さよなら』というキーワードに、思った以上に大きな意味を感じられていたようですが、そこも含めて話題になればいいんじゃないかなと思っています。

──ちなみに、川背さんの“ちらり”には期待してもよいのでしょうか?

近藤 PS Vitaということで、大きなお友だち向けを意識したデザインにはしていますが、そこまではないですね(笑)。

『さよなら 海腹川背 ちらり』の開発者に聞く シリーズのひと区切りとしての作品に_09
『さよなら 海腹川背 ちらり』の開発者に聞く シリーズのひと区切りとしての作品に_10
『さよなら 海腹川背 ちらり』の開発者に聞く シリーズのひと区切りとしての作品に_11
『さよなら 海腹川背 ちらり』の開発者に聞く シリーズのひと区切りとしての作品に_12
『さよなら 海腹川背 ちらり』の開発者に聞く シリーズのひと区切りとしての作品に_13
『さよなら 海腹川背 ちらり』の開発者に聞く シリーズのひと区切りとしての作品に_14
『さよなら 海腹川背 ちらり』の開発者に聞く シリーズのひと区切りとしての作品に_15
『さよなら 海腹川背 ちらり』の開発者に聞く シリーズのひと区切りとしての作品に_16