『バットマン:アーカム』シリーズに懸ける想いとは?
最新ニュースを追いかける“記者”という立場上、海外取材は多い。海外のイベントを取材して、AAA(トリプルエー)タイトルに接する機会も多く、「海外スタジオの技術力ってすごいなあ」と感嘆することしきりだったりする。そんな記者が、昨年(2014年)もっとも驚かされたタイトルのひとつが、ロックステディ スタジオ開発による『バットマン:アーカム・ナイト』。イギリスにオフィスを構えるロックステディ スタジオのプレスツアーに参加したのは、ちょうど1年前のこと。1年前はまだまだ新世代機も普及しきってはおらず、現行機+新世代機という、いわゆる“縦マルチ”タイトルが多かったなか、「新世代機のみでいく!」というロックステディ スタジオの姿勢に潔さを感じつつも、実際に目にした『バットマン:アーカム・ナイト』の映像に、“次世代機のクオリティー”を見て驚愕したものだ。「これは、2014年は『バットマン:アーカム・ナイト』の年になるかも!」と思いつつ、けっきょくは発売が2015年に延びて少しがっかりしつつも、同作に対する期待はますます高まるばかりだった。
そんな『バットマン:アーカム・ナイト』だが、国内における発売日も2015年7月16日に決定。いよいよ本格始動! とばかりに、“ワーナーゲーム 2015ラインナップ発表会”にて同作が大々的にお披露目されたのは、2015年3月10日のこと。その映像たるやさすがのクオリティーで、「これは、すごい!」と唸らせるものだった。この2月~3月にかけて、プレイステーション4用ソフトのラインアップはとても充実しており、ハードにますます勢いがついてきたのはご存じの通りだが、「この盛り上がりをさらに牽引してくれるのが『アーカム・ナイト』では?」と期待させてくれるほどの“凄み”を感じさせてくれたのだ。
というわけで、この夏期待の『バットマン:アーカム・ナイト』。 “ワーナーゲーム 2015ラインナップ発表会”では、ロックステディ スタジオのマーケティング・ゲーム・マネージャーのガイ・パーキンス氏が来日し、同作の魅力をアピール。ファミ通.comでは単独取材をする機会を得た。ゲーム内容に関しては、合同取材でけっこう聞いてしまったりしたので、ここでは、三部作の完結を迎える『バットマン:アーカム』シリーズへの思いや、スタジオのゲーム作りに対する姿勢などを聞いてみた。
『バットマン:アーカム』シリーズはスタジオのDNAの一部
――まずは、日本のゲームファンに向けて、ロックステディ スタジオがどんな会社がお教えください。
ガイ ロンドンの北部にオフィスを構える開発スタジオですね。2014年12月に設立10周年を迎えました。スタッフは160人くらいいます。最初に開発したソフトは『アーバン カオス』(2006年)というプレイステーション2用のFPSです。その後、『バットマン』シリーズを手掛けるようになりまして、『バットマン アーカム・アサイラム』(2009年)、『マットマン:アーカム・シティ』(2011年)ときて、いまは『バットマン:アーカム・ナイト』に全力で取り組んでいます。
※ソフトの発売年はすべて北米
――どんな方針をもったスタジオなのですか?
ガイ そうですねえ……。スタッフ全員がひとつのプロジェクトに集中する、というのはあるかもしれませんね。いまは『バットマン:アーカム・ナイト』に注力していまして、サイドビジネスのたぐいはありません。後は、前作もそうでしたが、私たちは最終調整や品質管理に関してはかなり自信を持っています。皆さんの期待に沿うものをご提供できているのではないかと思っています。私たちはできるだけ“バグフリー”、バグのないプロダクトを心がけているんです。
――開発の方針としては、やはりハイエンドのハードに最新のテクノロジーを駆使して取り組む感じですか?
ガイ おっしゃる通りです。私たちは今後もトリプルAのコンソールゲームを作っていきたいと考えています。ゲーム業界はかなり変化してきており、スマートフォン向けなどのモバイルゲームも多数出てきてはいますが、私たちはコンソールゲームを開発するということに特化していますし、それはスタジオの多くのスタッフが考えていることでもありますね。
――クオリティーについて、とくにこだわっている部分は?
ガイ もはや当たり前で、使い古された言いかたになってしまいますが、“できる限りいいものを提供する”、というところでしょうか。最新作の『バットマン:アーカム・ナイト』に関しては、ゲームをプレイする方々がバットマンになり切れるようなゲームを目指しています。ですので、本作は、ゲーム内容そのものはもちろん、物語、声、音声といった要素も、すべてが最高のものに仕上がっていると自負しているんです。
――新世代機に振り切ったのも、“最高のもの”を目指したがゆえですね? 本作は、国内ではプレイステーション4専売となりますが、プレイステーション4に対する感想を聞かせてください。
ガイ 非常にすばらしいハードです。いままで私たちが作りたくても実現できなかったことがプレイステーション4の登場によってできるようになりました。マシンパワーが大幅にアップしているのがいいですね。マップの広さを前作の5倍にまで広げられたり、バットモービルを登場させられたり……というのは、すべてプレイステーション4だからこそ実現できたことです。ゴッサム・シティという街は、プレイステーション4によって“生命”を吹きこまれたんです。リードディレクターを務めるセフトン(セフトン・ヒル氏)は、とにかくバットマンが大好きで、食事の最中も本作のことをずっと考えているほどですし、私自身もこのゲームに触れられることを毎日うれしく思っています。
――もしかして、『バットマン:アーカム・ナイト』の“バットマンになれる”というには、セフトンさんの願望をかなえたものなのかしら?
ガイ (笑)。たぶん。あるいはセフトンは、アーカム・ナイトかもしれないですね(笑)。
――さきほど、「スタッフ全員でひとつのプロダクトに集中する」とおっしゃっていましたが、それは一体感を出すためですか?
ガイ そうですね。プロジェクト全体の規模から考えると、私たちは小さなチームになりますので、ひとつのプロダクトに注力したいというのはあります。小さなチームがさらに細分化されてしまうと、あまりよくない影響のほうが多いとの判断から、ひとつのチームとして動いていますね。あとは、みんなが一生懸命仕事をしているのが、お互いに見られる状況にあるということころは、とてもいい点だと思います。いずれにせよ、全員でひとつの目標に向かっていくことが全員のモチベーションを高めることにつながります。それで、ひとつのプロジェクトに集中しているんですね。
――家族的というか、“運命共同体”といった感じですね。
ガイ そうですね。オフィスもパーテーションなどで区切られていなくて、和気あいあいとした雰囲気ですよ。オフィスの片隅には休憩室もあって、みんな休み時間はそこでくつろいだり、コーヒーを飲みながら談笑したりとリラックスしています。スタジオの設立者であるジェイミー(ジェイミー・ウォーカー氏)が、そういった雰囲気でやっていきたいという考えの持ち主だったので、非常にフレンドリーな環境になっていますね。もちろん、スタッフ全員が一生懸命働かないといけないことはわかっています。“よく働き、よく楽しむ”といったところでしょうか。そういった意味では、非常にバランスの取れたチームですね。ああ! 先ほどオフィスはパーテーションで区切られてないと言いましたが、ちょっと嘘をついてしまいました(笑)。一部サウンドチームなどは、個室が設けられていますね。
――欧米の開発スタジオは、ひとりずつパーテーションで区切られているところが多いので、先日ロックステディ スタジオさんのオフィスを見させていただいたときは、日本風だったので少し驚きました。欧米の開発者の方は、そういった環境で不満はないのかしら?
ガイ 不満の声は上がってないですね(笑)。私自身もセパレートされていないほうが好きですし。フロア全体を見渡して、「ああ、あそこにデザイン担当がいるなあ、話しにいかなくっちゃ」ってすぐに行動に移せますし、パブリックな空間にいながらも、プライベート性を保つというような訓練もできると思います。音楽をかけないとか、大きな声で話をしないとか……。みんなが配慮して、他人が働きやすい環境を自分たちで作り上げながらも、必要な快適さは提供する。ギスギスした空気が生まれないような工夫をこらしているというわけです。
――そういった点が、ロックステディ スタジオの開発力の高さにつながっているのかもしれませんね。ロックステディ スタジオの開発力の高さは万人が認めるところですが、その秘訣はどこにあると自己分析されていますか?
ガイ なんでしょうね(笑)。まあ、ありきたりの答えになってしまいますが、才能溢れる人材がいることかなあ。あと、『バットマン:アーカム・ナイト』に特化して言えば、エンジニアが新世代機向けにカスタマイズしたUnreal Engine 3の存在が大きいかもしれないですね。グラフィックチームが「こういうものを作りたい」と要望を出してきたら、それに対して「ノー」ということはなく、つぎつぎと叶えていきましたから。『バットマン:アーカム・ナイト』では、イメージしたものがちゃんと形になったところは大きいですね。
――ちょっと無茶ぶりになりますが、ロックステディ スタジオをあえてひと言で表すと?
ガイ “情熱”というのが、ひとつのキーワードになるかな。私たちはとても情熱的な開発会社で、ファンの皆さんには、私たちが情熱を注ぎ込んだ作品を楽しんでいただきたいと思っています。もちろん、“クオリティー”も大切にしています。“クオリティー”がなければ、“情熱”も意味がありませんからね。私たちのスタジオは、30人から始まり、成長を重ねて現在の規模になりましたが、“情熱”や“信念”を胸に、設立当初の ハングリー精神はいまだに保ち続けています。
――ハングリー精神ですか?
ガイ はい。スタッフ全員が情熱を持って、スタジオの能力を最大限に駆使して「すばらしい体験を作り出そう」と、真剣に取り組んでいますよ。
――成功体験があると、人はハングリー精神を失いがちだったりしますが、そのへんはロックステディ スタジオさんは変わらず?
ガイ はい! 「前作よりもいいものを作ろう!」というのが、強力なモチベーションになっています。とくに本作は、『バットマン:アーカム』シリーズ三部作の最終章ということで、ロックステディ スタジオが関わる最後の作品になります。「最高のものを提供したい!」ということで、それ自体がスタッフを駆り立てるに十分な推進力になっていますよ。
――改めての質問になりますが、ロックステディ スタジオにとって、『バットマン』というゲームはどのような存在だったのでしょうか?
ガイ 「『バットマン』のゲームを開発してみないか?」とワーナー エンターテインメントさんから声をかけていただいたときは、本当に名誉なことだとうれしかったです。ゲーム開発を手掛けていく時を重ねていく中で、『バットマン:アーカム』シリーズは、私たちのDNAの一部になっていったと言っても過言ではありません。『バットマン:アーカム』シリーズを通して、ロックステディ スタジオの何たるかも理解していただけましたし、この物語を作り上げる過程で、私たちも大いに成長し、成功しました。この物語が終わりに近づくにつれて、ロックステディ スタジオにとってのひとつの章が終わっていくということで、感慨深いです。
――これだけ成功していながら、『バットマン:アーカム』シリーズは三部作で幕を引いてしまわれるのですね。
ガイ はい。「ちょうどよい時がきた」と考えています。バットマンの強さもピークにあり、ヴィランたちと戦う能力も最高潮に達しています。このタイミングで三部作が終了するということで、1冊の本が終わるような感覚ですね。もちろん、『バットマン』シリーズとしては続いていくかと思いますが、ロックステディ スタジオが提供する『バットマン:アーカム』シリーズは、これで終了します。ここで終了するのが、とても適切なことですね。
――シリーズが終了してしまうということで、スタッフで悲しがる人もいたのでは?
ガイ 「物語が終わってしまう」ということで、寂しく感じているスタッフは多いですね。一方で、それと同時に「新しい何かがすぐ目の前まで来ている」という感覚もあるようです。それが何なのかはまだわかりませんが、新しいものは確実にやってくるわけで、それに対してワクワクするような楽しい気持ちはあります。9年間、スタッフみんなでこのシリーズに携わってきましたが、リセットと再充電をして、新しい“何か”に向かう、いい時期だと思っています。
――最高のシリーズ最終章を楽しみにしています。
ガイ 『バットマン』という作品に関わることができて、とても光栄に思います。ファンの皆さんが、私たちの“情熱”の成果を満喫していただけることを期待しています。この長い旅路をごいっしょしてくださって、本当にありがとうございました。最後の作品も、ぜひ楽しんでください。