『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』に楽曲を提供しているアーティストのインタビュー連載企画第3回。巡音ルカの楽曲「Hello, Worker」を手掛けたKEIさんがゲストとして登場。

●これからのチャレンジは、“音楽を続けること”

 ついに明日、2014年3月27日に発売される人気シリーズ最新作『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』。本作に楽曲を提供しているアーティストのインタビュー企画の第4弾をお届けする。

 今回は、“働く”ということに思い悩む人々へルカが贈る応援ソング「Hello, Worker」を手掛けたKEIさんに、楽曲にまつわるエピソードや、KEIさん自身の“これまで”と“これから”などをうかがった。

KEI(ハヤシケイ)

ロックバンド“NO LEAF CLOVER”で、“ハヤシケイ”としてギター・ボーカル・作詞・作曲を担当しているかたわら、“KEI”名義でVOCALOID(ボーカロイド)楽曲の公開を行っている。ライブ活動も積極的に行っており、昨年は自転車で全国各地を巡り、路上ライブをするツアーを実施した。

■熱気バサラへの憧れがきっかけ

――VOCALOIDでの曲作りや、バンド活動など、積極的に音楽に取り組まれているKEIさんが、最初に音楽に目覚めたきっかけは何だったのでしょうか?
KEI 『マクロス7』というアニメの主人公、熱気バサラに憧れを抱いたことがきっかけです。確か当時は小学生くらいで、そのときにロックバンドへの憧憬が芽生え始めたんだと思います。明確に“音楽”を意識して聴き始めたアーティストは、Mr.Childrenですね。姉が借りてきたCDをカセットテープにダビングして聴いて「ああ、すごい。音楽っていいな」って思ったりして。

――では、ご自身で曲を作り始めたきっかけは?
KEI たまたま家に父親のフォークギターがあったので、それを借りて練習してみたのが、自分の音楽のスタートだったかもしれません。

――もし、ギターではなくピアノがあったとしたら……?
KEI ピアノは昔習っていたんですけど、長続きせず、すぐ辞めてしまいましたね(笑)。いま振り返れば、キチンと続けていればよかったな、と思いますけど。ギターが長続きできているのは、やはり熱気バサラへの憧れがあったからじゃないかな。

――熱気バサラの存在は、かなり大きいですね! KEIさんは、2008年からニコニコ動画への楽曲の投稿を開始されましたが、VOCALOIDの存在は、いつごろ知ったのですか?
KEI もともとネットカルチャーやサブカルチャーに興味があったので、ニコニコ動画のことは、サービスが始まってまもない時期からチェックしていました。『初音ミク』が登場したときも、「こういうものがあるんだな」と認識はしていましたが、最初のころはテクノポップやアイドル系、アキバ系のような曲がトレンドだったので、自分には関係ないかな、と思っていたんです。

――KEIさんはそのころ、すでにバンド活動をなさっていたんですよね。
KEI そうですね。自分がバンドサウンドの人だったので、関係ない話なのかなぁ、と静観していたのですが、bakerさんの「サウンド」という曲を聴いて、考えを改めました。「サウンド」は、バンドサウンドとして本当にカッコいい曲なのですが、それが初音ミクのボーカルと合っていて、驚いたのを覚えています。バンドサウンドの曲でも初音ミクと合うことを認識して、「だったら自分でもできるのではないか」と思い直して投稿を始めた、という流れです。もっとも最初は、「バンドで使えなかった曲を供養してあげよう」くらいのつもりで、バンド用に作った曲をVOCALOIDで作って発表していました。

――最初にニコニコ動画で曲を投稿したときのことは覚えていますか?
KEI 「すごくいい曲だね」って言ってもらえて、うれしかったですね。動画をアップした当時、自分は大学生で、バンド系のサークルに入っていたのですが、自分の曲はサークル内ではあまり認めてもらえない音楽性だったので、自信を持てないでいたんです。でも、VOCALOIDで曲を発表したことで「いい曲じゃん」って言ってもらえて。自分でも「ちゃんといい音楽ができているんだな」と思えて、自信につながっていきましたね。

■『初音ミク』はいろいろな巡り合わせをはらんでいる

――VOCALOIDでの曲作りは、当初はバンドで使えなかった曲の供養だったとのことですが、現在は、VOCALOIDのための曲と、NO LEAF CLOVERのための曲は、それぞれ違う意識を持って作っているのですか?
KEI 曲を作る手順が完全に違いますね。バンドの曲は、メロディーや歌詞などをまったく決めずにスタジオに集まって、「こういう感じの曲を作ろうぜー!」と話し合って案を出します。それを家に持ち帰って組み立てて、またスタジオに持ち寄って……というようなことをくり返して、メンバーといっしょに曲を作っています。一方、VOCALOIDの曲は完全に個人作業で、自分が作りたい曲を作る、という感じですね。曲調なども、バンドの場合は「お客さんにこういう気持ちになってほしい」、「こういう盛り上がりかたをしてほしい」ということを考えながら作るんですけど、VOCALOIDの場合はそういったことは考えません。いま書きたいメロディーを書く、自分がやりたいことをやる。

――作りかたも、考えかたも違うわけですね。いまKEIさんは、VOCALOIDとバンド、ふたつの活動をされていますが、それぞれの活動が互いに影響を与えたことはありますか?
KEI VOCALOIDの曲を作りながら勉強したことや学んだテクニックは、当然バンドに活かせますよね。一方で、アレンジのおもしろさとか、どうしたらお客さんの気持ちが高まってくれるか? と考える想像力は、バンド経験がなければ身についていなかったと思います。DTM(デスクトップミュージック)1本で作業している方が多い中、自分はバンド活動もしていて、だからこそ見えたものがあるんじゃないでしょうか。あとはやっぱり、ライブのお客さんが増えましたね(笑)。

――(笑)。
KEI バンド以外のアウトプットでも、聴いてほしい人に届く、ということが、VOCALOIDの曲作りが教えてくれた発見だったと思います。たとえば、ひとつの曲があったとして、それを初音ミクの声で発表することで伝わる人もいるだろうし、NO LEAF CLOVERという、自分が歌うバンドの形式で発表することで伝わる人もいます。あるいは、初音ミクの声で発表したものを歌い手さんが歌うことで伝わる人もいる。VOCALOIDとバンドの両方をやっていることで、いろいろな人に聴いてもらえる機会が増えたと思います。

――では、いまKEIさんが改めて考える『初音ミク』の魅力とは、どんなところですか?
KEI すごくいろいろな巡り合わせをはらんでいるところです。自分にとっての『初音ミク』って、歌手やアイドル、楽器などというよりは、ひとつの“シーン”だと思うんですよね。VOCALOIDを使って曲をアップすれば、“ボカロ曲”というカテゴリになる。その曲のジャンルがテクノでもロックでも、わけのわからない現代音楽でも、それは全部“ボカロ曲”というところに集約される。「ボカロ曲だから聴く」という人が数多く存在しているということがすごく大きい。VOCALOIDを通じて、いままで触れたことのないジャンルの音楽を聴いたというリスナーさんも多いと思います。

――確かに、“ボカロ曲”とひと口に言っても、多様なジャンルを含んでいますよね。
KEI 自分自身、バンドだけで活動していたら、絶対に出会わなかったという方々が大勢いて。たとえば絵師と呼ばれるようなイラストレーターの方と出会うことはなかっただろうと思います。動画を作っている方、歌い手の方、それだけではなく写真を撮影する方、デザイナーの方、いろいろな人種がVOCALOIDを軸に集まって、そこではすごく楽しい出会いが待っている。そのことこそが、大きな魅力じゃないでしょうか。

――ミクの存在が、素敵な出会いをたくさん生み出しているんですね。では、さまざまなめぐり合わせを経て、KEIさんが今後チャレンジしたいと思っていることはありますか?
KEI 答えるのが難しいですね……現状維持でいいです、みたいな(笑)。「シーンのてっぺんに立とう!」というような、高い志はないんです。音楽を作りながら、何とか生活できればいい。でも、強いて挙げるとすれば、“音楽をやめないこと”ですね。バンド仲間ですとか、音楽をやめていく人を見ていると「何で!?」と思ってしまうんです。楽しいから始めたことなのに、やめてしまうのはカッコ悪いんじゃないかなと。もしVOCALOIDのシーンがいまほど人気がなくなったとしても、自分のアウトプットのひとつとして、VOCALOIDが存在していればうれしいなという気持ちでいます。自分のすべきチャレンジは、“音楽を続けること”ですね。

■実際にハローワークに通っていました

――今回、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』に収録されている「Hello, Worker」は、KEIさんにとってどのような曲ですか?
KEI じつは、この曲を書く少し前くらいに、実際にハローワークに通っていたんですよね。昔働いていた会社が潰れてしまって、つぎの仕事を探している時期だったんです。

――では、この曲は実体験から生まれた曲なのですね。
KEI そうですね。ハローワークに何回か通って、そこでいろいろな人間模様を目撃して、インスピレーションを得た感じです。大学時代も、周囲には就活で悩んでいる人がいたり、ブラック企業が問題になったりしていましたが、そういった世の中の不条理に苛立つ部分なども全部ひっくるめた思いを曲にしていますね。

――この曲は巡音ルカが歌っていますが、VOCALOIDの曲のボーカルは、どのように決めているのですか?
KEI 自分の場合は、歌詞次第だったりします。自分の中では、巡音ルカには生々しさが似合うというイメージがあるんです。もちろん、感じかたは人によって違うと思うのですが。ファンタジックな曲であれば初音ミクのほうが似合うと思うのですが、「Hello, Worker」という曲を初音ミクが歌っても、あまり現実感が感じられないのかなと。ですから生々しい歌は、生々しく歌える子に歌わせようという感じで選んでいますね。

――「Hello, Worker」が反響を呼んだことについてはどう感じられましたか?
KEI 有り体に言えば、(再生数が)伸びるとは思っていなかった(笑)。

――(笑)。
KEI もちろん自信を持って作ってはいるのですが、VOCALOIDを聴いているのは、中高生が中心じゃないですか。テーマがテーマなので、中高生のリスナーさんには受け入れてもらえないだろうと思っていたのですが、結果としてたくさんの方に聴いていただけて、とても驚きました。ただ、ティーンエイジャーには、もっと明るい曲や元気になれる曲を聴いてほしい気持ちもあります(苦笑)。

――きっと、中高生も大人も、ルカの言葉に励まされたのだと思います。では、この曲が『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』に収録が決まったときは、どんなお気持ちでしたか?
KEI 単純にうれしかったです。VOCALOIDをぜんぜん知らなかったという人が、ゲームを通じて曲を知って、その作曲者のほかの曲を聴いてみるということもあるそうで、「これでまた、いろいろな場所に自分の曲を届けられる」と思ったら、それもうれしくなりましたね。これは昔の話なのですが、秋葉原のゲームセンター(クラブセガ)で『初音ミク Project DIVA Arcade』が稼働し始めたころ、交流ノートに「僕の曲も入れてください」ってこっそり書いたことがあるんですよ(笑)。

――なんと! では、そのときの希望が実現したんですね(笑)。リズムゲームPVやモジュールについて、KEIさんからリクエストされたことはありますか?
KEI いえ、イラストや映像については自分は門外漢ですので、すべてお任せしています。餅は餅屋だと思いますので。PVもモジュールも、自分の書いた曲をモチーフにして表現が膨らんでいくのがスゴイなぁ、と感じましたね。それこそ最初にニコニコ動画で曲を発表したときには、再生数が伸びたり、派生作品が生まれたりするとは思っていませんでしたから。

――ルカのスーツの衣装“リクルーター”は、林誠司プロデューサーのこだわりで男物になっているそうです。
KEI 僕はスーツを着るような仕事をしたことがないので、ルカがスーツを着ていて、ちょっと新鮮でしたね。バリバリ仕事ができる女性のように見えますが、もう少しくたびれている姿も見たかったかな(笑)。

――(笑)。それでは最後に、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』を楽しみにしているファンへのメッセージをお願いします。
KEI いいゲームライフを! 僕が言えることはそのくらいです(笑)。ゲームは楽しいので、楽しくゲームをしましょう! あと、僕のほかの曲も聴いてください!!

▲PVの一部は、こちらの動画から視聴可能! 「Hello, Worker」は5曲目に登場。

▲アーティストインタビュー特設サイトもチェック! 次回(2014年4月2日更新予定)は、うたたPさんが登場予定です!!

(画像をクリックすると特設サイトに飛べます)

初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd
メーカー セガ
対応機種 PS3プレイステーション3 / PSVPlayStation Vita
発売日 2014年3月27日発売予定
価格 各7000円[税抜](7350円[税込])
ジャンル リズムゲーム / 音楽
備考 ダウンロード版は各6286円[税抜](6600円[税込]) プレイステーション Vita版はPS Vita TV対応(リズムゲームのみ) ※オプション設定が必要です。