ミストウォーカーよりApple Arcadeで配信中のRPG、『FANTASIAN』(ファンタジアン)。『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)の産みの親としてもしられる坂口博信氏がプロデューサーを担当する本作は、まさに昔ながらの王道RPGといった作品だ。
本作は前編・後編に分かれており、2021年8月13日のアップデートでついに後編が配信され、いよいよ『FANTASIAN』は完成を迎えた。
本記事では、担当ライター・西川くん(筆者)による全編プレイレビューをお届け。物語のネタバレはほぼないが、要素のネタバレはあるので気になる人はご注意を。なお、前編の時点で1度レビューをしているので、おもな特徴はさっくり紹介。メインは後編の魅力について、レビューをお届けしていく。また、併せてファミ通グループ代表・林 克彦によるレビューもチェックしてみてほしい。
ゲームの基本要素について
まずは前編を……というより、ゲーム全体の魅力を紹介しよう。後編にもつながる、基本的なシステムや特徴を解説していく。
記憶を失くしたレオアの旅路
主人公・レオアは、記憶を失くした青年。ある目的のために冒険をしていたようだが、その理由がわからない。追手に追われるなか、別次元の世界にある辺境の街・エンに移動したところで、少女・キーナと出会う。
キーナは以前にレオアと出会ったことがあるようで、レオアの記憶探しの旅に付き合うことに。その道中で、レオアはシャルルやジニクルなど、すでにレオアと会ったことがあるという者たちと出会う。
自身の目的とは何なのか、自分はいったい誰なのか? 記憶を辿りながら、仲間たちと冒険を続けるレオア。しかしそれは、仲間たちの運命と世界の破滅に関わる重大な陰謀へとつながっていく……。
ストーリーは王道ながらも、笑いありシリアスありのちょうどいい塩梅。『FFV』や『FFVI』に通じる雰囲気があると筆者は思う。これがなんだか懐かしくて、テキストを読み進めるたびに「ああ、僕はいま坂口さんのゲームをやっているんだな……」と節々から感じられたので、往年の『FF』ファンにこそオススメしたくなった。
隅々まで見ちゃうジオラマワールド
本作最大の特徴とも言えるのが、ジオラマで作られたフィールドだ。実際に模型で作られたジオラマを撮影し、ゲーム内のフィールドに採用していることで独特の世界観になっている。建物はもちろん、部屋の小物など、隅々まで精巧な模型で作られており、ついつい細かなところまで見入ってしまう。
また、実物だからこそのあたたかみだけでなく、鉄の冷たさなども不思議と感じられ、フィールドごとに印象が大きく異なるのも特徴だ。キャラクターやエフェクトなど、一部は3Dグラフィックで処理されているが、これがジオラマに溶け込んでいることでゲーム画面が非常に贅沢になっている印象を受けた。
ザコはサクサク、ボスは骨太!
バトルは行動速度順のターン制バトルで、行動順がまわってきたキャラクターが、プレイヤーの選択した行動を取る。非リアルタイムのコマンド選択式なので、行動ごとにじっくりと戦略を練られるのがいい。フィールドで敵とエンカウントするとバトルがスタート。通常の敵(いわゆるザコ敵)は比較的やさしい難度で、サクサクとバトルを進められる。
攻撃には攻撃範囲があり、“エイミング”というシステムで攻撃する場所を選ぶ。これがバトルのポイント。たとえば貫通する直線攻撃、カーブする魔法貫通攻撃、円型の広範囲攻撃など、それぞれの攻撃範囲に合わせることでなるべく多くの敵にダメージを与えることが攻略の基本であり、一網打尽にできたときは非常に気持ちがイイ。
また、1度倒したことのある敵は“ディメンジョン・バトル”システムにより、エンカウントした敵を異次元に溜め込むことが可能で、後でまとめて(最大30体)同時にバトルができる。これがディメンジョン・バトルだ(最大30体が溜まると強制発生する)。
30体が同時に出現するわけではなく、ウェーブという形で何回かに分けて出現するほか、ディメンジョン・バトル限定のバフアイテム“ギミック”も登場したり、行動順もプレイヤー側にボーナスがあったりするので、そこまでバトルがたいへんになることはない。
半面、ボスバトルは骨太。ボスごとに多彩な行動パターンを持っており、弱点を突いたり、特定の行動タイミングを狙ったりと、プレイヤーは幅広い戦略を求められる。ボスの数も非常に多く、毎回どのように戦えばいいのか頭を使うのが、まさに昔ながらのRPGという感じ。
今風のシステムであるディメンジョン・バトルでザコ敵はサクサク倒し、ボスバトルはじっくりと腰を据えて……というサイクルが、本作の醍醐味となっているのだ。
フィールド探索がとにかく楽しい!
ジオラマで作られたフィールドには、いたる所に宝箱やアイテムが隠されており、「ここは入れそうだな」と思ったところに行くと、そこには何かしらのアイテムが落ちているため、探索が楽しくなるのも魅力だ。
探索ではジオラマの精巧さを眺められるほかに、奥まった場所に行くとカメラがグルリと移動する感覚がなんだか気持ちよく、ついつい細部まで探索してしまう。また、冒険にはあまり関係のないメッセージが隠されていることもあり、物語を深堀りしてくれるものやクスッと笑えるものなど、その内容はさまざま。ここもなんだか「あぁ、坂口さんの『FF』っぽいなぁ」と思ってしまうし、懐かしさを感じるポイントでもあるのだろう。
また、ディメンジョン・バトルをオンにすれば、探索中に「うわっ、宝箱の目の前まで来たのにエンカウントしたよ……」みたいな、エンカウント式RPGのジレンマ的な部分が解消されているのもポイント。バトルも探索もディメンジョン・バトルのおかげでサクサク進むのは、数多のRPGを手掛けてきたからこそのアイデアだ。
前編はチュートリアルと言っていい!
前編にあたるパートでは、最後に“大ボス”と戦ってエンドとなる。そこから後編がスタートするのだが、ここまでは、いわゆる1本道のストーリーを体験する流れになっていて、パーティーメンバーの変更などもできないので、物語はリニアに進んでいく。
いわゆるファストトラベルが可能なワープ機能もあるが、後戻りすることがほとんどないので、前編ではあまり使用する機会がない。また、終盤に“成長マップ”こそ開放はされるが、ほとんど育成はできなかった。
難度もボスは比較的高めではあったが、全滅必至というほどではなく、そこまで高くはなかった印象だ。そのため、前編は“世界観とキャラクター、バトルと探索の仕組みを教えてくれるチュートリアル”のようなものだと感じた。それほどに、後編からやり応えがグンと増すのが『FANTASIAN』なのだ。
後編は多次元世界を自由に冒険できる!
後編は、死械球(人のエネルギーを吸う機械)がより降り積もった、死械化が進んだ世界が舞台になる。ヴァムとの戦いの後、レオアはチクッタ&ハクッタ、バウリカとともに辺境の街・エンに戻るが、ほかの仲間は世界のいろいろな場所に飛ばされ、散り散りになってしまう。
そのため、レオアははぐれた仲間たちを捜しながら、新たに表れた脅威へと立ち向かう旅が始まることになる。前編とは打って変わり、この時点でゲームはいわばオープンワールド化。すべてのストーリークエストやサブクエストを自分の好きな順番で攻略できるゲームスタイルに変化する。
また、序盤のストーリークエストを達成すると飛空艇・ウズラ号を操作してワールドマップの空や海を渡れるようになり、さらに行動範囲がアップする。なお、用意されたクエストはすべてクリアーしなくても先へ進める(一部は必ず必要になるが)。
『FFVI』を遊んだことがある人ならば、本作の後編は『FFVI』の世界崩壊後の冒険がモチーフとなっているイメージと言えばわかりやすいだろう。ウズラ号=ファルコン号という感じ(ファルコン号と違ってすぐ手に入るけどね)。
クエストごとに適正レベルを示す“推奨レベル”が設定されているので、基本は推奨レベルの低い順にクリアーしていけばいい。ただ、必ずしもその順番にこだわる必要はない。実際、筆者はタン救出ダンジョンを、ジニクル救出ダンジョンを見つける前に発見したため、推奨レベルの高いタンのダンジョンをクリアーしてから、ジニクルのダンジョンを攻略した。
仲間の成長マップがついに全開放
クエストを進めていくことで、仲間の成長マップが開放される。これにより、レオア以外の仲間たちを、SPを使用して自由に成長させられるようになるのだ。
成長マップはいわゆるスキルツリーで、取得することでパッシブスキルやステータスなどが上昇。SPはレベルアップやアイテムの使用などで取得していく。ツリーは多彩に分かれており、プレイヤーがどれを先に取得するかで仲間の個性が大きく変わるのがポイント。
仲間をバトル中に変更する“チェンジ”
前編パートのパーティーメンバーは固定だったが、後編パートでは最大8人の仲間を自由に組み替えながら戦うパーティーバトルに変化。バトル中にチェンジコマンドを押すと、ターンを消費せずに、待機中の仲間に変更できるようになった。
チェンジのおかげで“この敵にはこの属性を持つ仲間を当てる”、“瀕死なのでチェンジで下げて、体制を立て直す”、はたまた“1度下げて、攻撃範囲的に貫通が狙いやすい場所に移動させる”など、多彩な戦術が楽しめる。半面、これらを駆使しないと倒すのが難しい敵も多くなったので、“好きなメンバーだけで戦う”というプレイスタイルは上級者向けと言えるだろう。
必殺の“テンション技”で状況は一変する!
攻撃したりダメージを食らうと、パーティーのテンションゲージが上昇。成長マップでテンション技を開放して習得していれば、テンション技がくり出せるようになる。テンション技の性能はキャラクターごとに異なり、レオアなら全体大ダメージ、エズならターン連続行動など、その効果もさまざま。
システム自体は非常にシンプルで、ゲージが溜まったら使いどころを見極めて放つだけ。おもにボス戦の「ここぞ」という場面で使う機会が多く、攻略の大きな手助けになる要素と言えるだろう。
探索要素はさらに深くなる!
ウズラ号による探索範囲の拡大だけでなく、後編では世界各地に“死械銀”という収集アイテムが落ちており、集めることで強力な装備アイテムと交換できる。死械銀のために、これまで辿った街なども再度探索することになるだろう。
さらに、ダンジョンの宝箱には成長マップのルート解放用アイテムなど、より重要なアイテムが眠っている。そのため、宝箱をスルーせずに探索する必要が、とにかく非常に大きくなっている。
ちなみに、再度訪れた街では環境だけでなく、人々との会話の内容も変化している。たとえば、前編では恋仲になりそうだった一般市民が、後編ではその距離を縮めていたりと、時間経過を感じさせる演出がユニーク。前編ではただのワインだった瓶が、『FANTASIAN』完成記念シャンパン、『FF』30周年記念ワインになっていたりと、坂口氏らしいお遊び要素も見られた。
ボスバトルはより濃厚なものに!
前編とは比較にならないほどに後編パートのボスはパワーアップしており、そのギミックやパターンも複雑になっている。1度は全滅してもいいという覚悟があったほうがよく、攻略方法を発見するのも簡単ではない。
どのボスも与ダメージ値が高く、全体攻撃も多い。チェンジが可能になるので、ふたりが回復やバフなどのサポートに徹底して適宜チェンジでメンバーを変えつつ、隙間を見て攻撃役が攻撃する……という展開が多かった印象だ。中にはテクニカルなことを求められる場面もあった。
レベル上げや装備・スキルで対処できる部分もあるが、最大の攻撃は戦略を練ること。筆者としてはボスバトルの骨太さは非常に楽しめたが、初心者には難しく感じることもあるだろう。筆者のようにさまざまなRPGをプレイしてきた人でも歯応えがあると感じるのだから、それは当然かも。
しっかりと装備やスキルを吟味して、探索でアイテム集めやレベルアップに勤しむ、ほかのクエストに手を出してみるなど、回り道をするのもいい。そこはじっくりと遊んでみよう。
ここはちょっと気になりました……
前編から後編を通して新しい王道RPGとして仕上がっており、プレイボリュームもかなり多く、完成度は非常に高い本作。が、個人的に「ここはちょっと……」と気になった部分は正直、ある。
前編でも感じたのだが、同じマップを何度も行き来して探索するシーンが少なくないのは気になった。行く先々で新たなジオラマフィールドを見るのは毎回新鮮で楽しいが、新たなクエストで同じ場所へ行く必要があったりする。先述の“死械銀”を入手するには再度、街を探検して隠されたアイテムを見つけ出す必要がある。ジオラマを見てほしいという意図はよくわかるし、実際にジオラマはすばらしいのだけど……。
また、ゲームが進むにつれてボス戦で攻略パターンを構築するのが難しくなる。やり甲斐もあって、手に汗握るバトルが楽しめるのは先述の通り。ただ、後編は各ボスのHPが非常に高く、長期戦となる場面が多かった。“基本は回復にターンを費やし、ここぞというときに攻撃を通す”という場面になることが多く、ダメージを与えにくい。糸口を見出して各ターンのパターンを構築できたのでパーティーは安定しているのが、ダメージが与えられなくて「まだ倒せないか」と思うくらいボス戦が長くなる……というシーンが多かった。すべて推奨レベル前後の成長度で戦っていたことが要因のひとつだったのかもしれない。
それでもいろいろな人に遊んでほしい!
と、ちょこっと不満点を述べたが、大満足だったのは間違いない。あまり触れなかったがキャラクターの持つ個性や物語も非常に好みで、レオア、キーナ、シャルルの関係性や各キャラクターの過去・真相など、冒険を進めていくなかで登場人物がじっくりと深堀りされていくのが、なんとも楽しかった。真正面からファンタジーを描く物語、個性的なキャラクターたちがくり広げる群像劇、バトルと探索で深まる育成要素など、まさに“いま”の王道RPGを遊びたいなら真っ先にオススメできる1本だ。
最後に個人的な想いをもうひとつ。本作はApple Arcade専用であり、かつサブスクリプションサービスに加入しないと遊べないのは正直、入口が狭い。Apple TVも安価ではないので「『FANTASIAN』を遊ぶだけでも買うべき!」とは言い難い(そのために買ってもいいくらいのゲームだとは思うけれど)。いちゲームファンとしてもっと多くの人に『FANTASIAN』を遊んでもらいたいので、将来的にはいろいろなハードで遊べるようになってほしい、と願うのはワガママ……なのだろうか。
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