かくれんぼの“本当の怖さ”が表現できそうだと思った
去る2014年2月16日に行われた、『メタルギア ソリッド V グラウンド・ゼロズ』のメディア向け体験会を受け、日本のメディア合同で小島秀夫監督にインタビューを実施。その模様をお届けする。
メディア向け体験会の模様や、『メタルギア ソリッド V グラウンド・ゼロズ』の試遊リポートについては、関連記事を参照してほしい。
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──『メタルギア ソリッド V グラウンド・ゼロズ』は、本篇である『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』のプロローグにあたるわけですが、『V』の序章として表現したかったことはどんなことでしょうか?
小島秀夫氏(以下、小島) 背景や世界観は、MSX2の『メタルギア2』に近いです。崖を上ってきて、その後ダクトに入ったりだとか、あれが基本ですね。ヘリポートも、『メタルギア ソリッド』のときと表現のレベルこそ違いますが、イメージそのものは変わっていません。最初に『メタルギア』を作った25年前は、頭の中にイメージがあっても、ハードのテクノロジー的にできないことが多かったわけです。たとえば、サーチライトが壁に当たって光が屈折したり、反射したり。テクノロジーが進化して、物理的な計算で本当の陰影が生み出せるようになったので、かくれんぼの“本当の怖さ”が表現できそうだと思ったんです。自社のゲームエンジンであるFOX ENGINEを作るときに、まずはそれに挑戦してみようと、テスト的に作っていたのが『グラウンド・ゼロズ』ですね。
──ジャンルもオープンワールドを採用していますね。
小島 『グラウンド・ゼロズ』のフィールドは、オープンワールドと言うほど大きくはありません。ただ、リニア(一本道)なゲームではないので、自分の採った戦略によって展開が変わります。つまり、何度でも遊べるわけです。ゲームがもともと持っていたインタラクティビティーを、もう一度『メタルギア』で見つめ直そうと思ったんですね。先ほどの光の演出も含めて、ビジュアル的にもいままでできなかったことが、そろそろできそうかなと。
──本当の意味でのオープンワールドは、本篇の『ファントムペイン』ということになりますか?
小島 『グラウンド・ゼロズ』のフィールドは島なので、閉鎖空間です。そこは、これまでの『メタルギア ソリッド』シリーズに近いですね。それが本篇の『ファントムペイン』になると、『グラウンド・ゼロズ』ぐらいの規模の拠点が点々とあって、だいたい200倍ほどの広さになります。かなりゲーム感は違うと思います。いきなりそこに放り込まれると、プレイヤーも何が何だかわからなくなってしまうので、メインミッションであれば、時間も夜間で固定、天候も雨で固定というように、各ミッションで時間や天候を固定したうえで簡単なミッションをやっていただくということで、『グラウンド・ゼロズ』があるわけです。
──時代設定についてですが、『グラウンド・ゼロズ』は『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』で描かれた1974年の翌年にあたる1975年。本篇の『ファントムペイン』は、そこから9年後の1984年です。その理由について教えてください。
小島 ソリッド・スネークのお話って、僕の中では完結しているんです。となると、ビッグボス(ネイキッド・スネーク)が初代『メタルギア』に至るまでのあいだを埋めるしかないと。『メタルギア ソリッド 3』の時代設定は1964年なんですけど、『3』を作ったあたりで、何となく、10年刻みでお話を作ろうと思っていました。いちばん作りたかったのが80年代。ジョージ・オーウェルの小説『1984年』みたいな世界ですね。そこに向けて、『ピースウォーカー』を作ったといってもいいです。
──『グラウンド・ゼロズ』では、『ピースウォーカー』に登場したチコとパスの救出がメインミッションですね。
小島 海外の方はあまり『ピースウォーカー』をプレイしていないこともあって、チコとパスが誰だか分からない人もいます。でも、僕は分からなくていいと思っています。シンプルに、チコは男の子、パスは女の子。彼らは捕まっていて、拷問されている。ミッションは、彼らを助けに行くことが目的で、背景はべつに知らなくていいんです。ミッションの途中の会話や、カセットテープなどで聴ける情報から、感情移入できるようにはしていますが、それで感動するかどうかはその人の過去のゲーム経験によります。これまでのゲームであれば、主人公と彼らとの関係を説明するために15分ぐらいのカットシーンを入れるわけですが、今回はオープンワールドなので、情報量は人によって異なるというのを前提に創っています。
──これまでの『メタルギア』シリーズは、テーマが反戦や反核でした。『V』全体のテーマとして、“報復”というキーワードが出ていますが、小島監督が作品に投影する報復とは?
小島 確かに、これまでは反戦、反核をキーワードにやってきました。それはビジネスとしてではなく、伝えたいテーマとしてです。20数年このテーマでゲームを創ってきましたが、なかなか世の中は変わらないわけです。世界中で紛争やテロが起こっていると。それに、いまの十代の子にとっても、反戦や反核はあまり興味を引くテーマではないんです。たとえば、映画の手法を借りて、戦争の悲惨なシーンを見せることで反戦の意味を伝えることもできますが、それは映画でもできる以上、ゲームで採る手法としては得策ではありません。
──ゲームならではの体験が必要であると?
小島 そうですね。そういう意味では、『ピースウォーカー』からも手法を変えています。『ピースウォーカー』は、言ってみれば国を作るようなゲームで、いろいろな人を自分のマザーベースに引き入れて、基地を大きくしていきましたよね。最終的に、自分たちが襲われる可能性が出てくるので、軍備を増強するというのが基本の考えかた。そこから発展して、究極は核を持つことになると。結果、スネークたちが核を持ったことでゲームは終わるわけですけど、これまで「核兵器がいちばんダメ」と言ってきたゲームが、“核を持ってしまうということ”について考えてもらうゲームに変わったんです。ただ「核はダメだ」と言っても伝わらないので、自分たちでゲームをやりながら、間違ってはいるんだけれど、銃や核が必要になってしまうことについて、ゲームで感じてもらうと。さらにその先に踏み込むとすれば、恨みですよね。
──なるほど。もっと人の根源の部分に迫るわけですね。
小島 争いが絶えないのは、報復の連鎖があるからです。国レベルの戦いとかではなく、ごくごく個人的な、ミクロな戦いも含めてです。やられたらやり返す。そういう恨みが僕らのDNAには刻まれていて、その結果が戦争です。『グラウンド・ゼロズ』では、人の憎悪というものを感じてもらおうと。
──その恨みは、本篇の『ファントムペイン』できっちり晴らせるのでしょうか?
小島 どうでしょう。晴らせないかもしれません(笑)。けっきょく、相手がどうこうではなく、世界に対して復讐したくなると思うはずです。ゲーム的にはノーキル・ノーアラートはできますが、どうするかはプレイヤーが決めていいです。ゲームをしながら、いろいろ感じ取ってもらうと。そんなお話なので、ちょっと暗い方向に進んでいたのですが、最近は明るい要素も必要かなあと思ったりもして。ちなみに、ダンボールは登場しますよ(笑)。
──ゲームデザインについてお伺いしますが、今回はいわゆる“お使い”的な要素が排除されています。たとえば、牢屋やドアを開けるのにカギが必要になることはないですし、とある目的のためにアイテムを集めてこいとかも言われません。
小島 カギについては、スネークはプロですから、カギを探したりはせず、自分で開けることができます。ここで感じてほしいことは、敵が来るかもしれないというシチュエーションで、ピッキングしているあいだの“そわそわ感”です。そういう、一連の臨場感ですね。あと、お使いの要素は、最初から入れる気はありませんでした。どこどこに行ってアイテムを探してこいというのは、それはそれでおもしろいですけど、けっきょくはゲームデザイナーが敷いたレールの上を走るだけです。それでは古いゲームのままなんです。
──少し気が早いのですが、本篇『ファントムペイン』では、これまでの作品のような中ボス的存在は登場するのでしょうか?
小島 登場します。本来、ボス敵って“通せんぼ”するためにいるわけですが、今回はオープンワールドなので、もしかすると逢わない中ボスもいるかもしれません(笑)。せっかく用意しているのに、ルートによっては逢わないと。もちろん、昔ながらの、特定のエリアに閉じ込められて戦うというシーンもありますが。振り返ると、『メタルギア ソリッド』では特殊部隊、『メタルギア ソリッド 2』ではソリダスのようなアメコミ風のキャラクター。続く『メタルギア ソリッド 3』では怪人。『メタルギア ソリッド 4』ではビューティ&ビースト。『ピースウォーカー』はAI兵器が登場しました。『V』では、その上のものが登場します(笑)。