主要スタッフ3人に聞く

『アサシン クリード4 ブラック フラッグ』開発者インタビュー3連打! トリプルAタイトルの裏側に迫る【プレスツアーリポート】_01

 2013年9月にイタリアのジェノヴァで開催された、『アサシン クリード4 ブラック フラッグ』(以下、『AC4』)のプレスツアー。前回のリポート(→【コチラ】)でツアーの概要をお届けしたが、ここからは、『AC4』開発チームの主要スタッフへのインタビューを掲載するので、お見逃しなく!

シリーズ最大規模のオープンワールド

 『AC4』では、ストーリーの舞台となるカリブ海を、陸と海を含む巨大なオープンワールドで再現している。プレイヤーは、海賊のエドワードとなってジャックドー号に乗り、気の向くままに世界を冒険することができる。海上で海賊との戦いに明け暮れるもよし、ハバナ、ナッソー、キングストンといった市街地をくまなく探索するもよし。この自由なゲームプレイこそが『アサシン クリード』シリーズの醍醐味だ。今回のマップは、シリーズ最大の広さを誇り、さらにエリアの多様性も随一だという。

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 『AC4』オープンワールドは、どのようにして作られているのだろうか。『AC4』のゲームプレイを統括する開発チームの責任者、ゲームディレクターのアシュラフ・イズマエル氏を直撃した。

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『アサシン クリード4 ブラック フラッグ』
ゲームディレクター
アシュラフ・イズマエル氏

――まずは、『AC4』の開発におけるアシュラフさんの役割を教えてください。

アシュラフ・イズマエル氏(以下、アシュラフ) 私は『AC4』のゲームディレクターを担当しています。ゲームプレイのデザインはもちろん、ゲーム全体のビジョンをまとめています。開発では、おもにゲームデザイナーとプログラマーとコミュニケーションを取りつつ、プロジェクトを進めました。

――開発は順調でしたか?

アシュラフ 『AC4』は、数百人以上のスタッフが開発に携わる、非常に規模が大きいゲームです。だからもちろんいろいろなことがありましたよ(笑)。今回は、海が舞台のオープンワールドを自由に航海して海戦を楽しむ要素など、新しいチャレンジをたくさん盛り込みました。そのために、リサーチに1年ほど費やし、全体で2年半かけて作ってきたわけです。それと今回はミッションを従来のものから進化させることにこだわっています。こうして開発を振り返ると、いろいろなことを学習してきて楽しかったし、わりとスムーズに開発を進められたほうだと思います。『AC4』は、自信と誇りをもっていいゲームだとオススメしますよ。

――『AC4』は、シリーズ初のプレイステーション4版/Xbox One版がリリースされます。新世代ハードに対応し、ゲーム内容が変わった部分はありますか?

アシュラフ 今回は企画の立ち上げ段階で、新世代機でリリースすること、海賊をテーマにすること、海を舞台としたオープンワールドにすることを決めていました。新世代ハードのローンチタイトルということで、大きなサプライズが必要なので、これまでにないゲームを提供したいと思っていました。技術的な面で言えば、ビジュアルが劇的に進化していて、没入感が高まっています。また、物理エンジンをアップグレードしたため、プレイヤーのひとつひとつのアクションに、オブジェクトが細かく反応するようになったのも大きな特徴ですね。さらに、プレイステーション4版では、コントローラーのタッチパッドを使った操作や、PS Vitaとのリモートプレイなどに対応しています。今回は、開発当初からソニー・コンピュータエンタテインメントやマイクロソフトに新ハードのスペックを詳しく教えてもらい、できるだけハードの機能を最大限に活かすためにお互いに何度も意見交換を行っています。

――ミッションの内容やマップの広さなど、メインとなるコンテンツは、現世代機と新世代機で変わりませんよね?

アシュラフ はい。ストーリーやミッション、世界のサイズといったゲームのコアとなる部分は全部いっしょです。大きな違いはビジュアルの部分くらいですね。ちなみに、プレイステーション4版には、アヴリーンが主人公のコンテンツが収録されているので、1時間ほど多く遊ぶことができますよ。

――先ほど試遊機で『AC4』の序盤シーンをプレイしました。このパートは海戦がメインとなりますが、今回は船の挙動を始め、海戦のテンポが上がっているように感じました。その意図について教えてください。

アシュラフ 我々はプレイヤーが遊ぶ“ペース”を重要視しています。どんなペースで遊んでもらうのがベストなのか、つねに考えながら開発を進めていました。私としては、ゲーム全体のアクション性を高めたいと思っていて、どんなバランスでアクションを盛り込めばテンポよく遊べるか、試行錯誤を重ねました。『AC4』のコアな要素のひとつとして海戦がありますが、よりよいゲーム体験を提供するために、開発の初期段階から海戦パートのテストをし続けて、そのテストの結果をもとに微調整を加えていったのです。この作業は、開発の最初から最後まで続けています。結果的に、海戦のペースがアップすることになりましたが、スローダウンすれば、美しい景色を楽しんでもらうこともできるでしょう。すべてはプレイヤーのコントロール次第です。

――『AC4』のオープンワールドは、シリーズ史上最大の広さだと聞きました。オープンワールドには、ある程度の“密度”がないとプレイヤーが飽きてしまうことがあると思います。航海中のプレイヤーを飽きさせないために、どんな工夫を盛り込みましたか?

アシュラフ 今回は“30秒”という数字を重視しています。これは、プレイヤーの待ち時間の目安です。本作で海を進んでいると、海賊船が現れたり、救難者が漂っていたり、嵐が発生したりと、必ず30秒以内に何かが起きるようにしています。30秒という数字を導き出したのは、テストプレイを重ねてきた結果です。オープンワールドをどんな密度にすればゲームとして楽しめるのか、研究を重ねて作ってきたわけです。ですので、『AC4』はきっとスムーズに遊べると思いますよ。

――『AC』のオープンワールドは、視界に入るほとんどの場所にいくことができ、さらに建物や木に上ることができます。今回は海が加わって、より多様性がアップしていますね。

アシュラフ 今回は船に乗っていろいろな島を訪れることができますし、船を降りて水の中に飛び込んだり、ビーチでゆっくりしたり、街を探索したりと、ゲームプレイの多様性はシリーズ作品でいちばんだと思います。豊富なミッションを用意していて、それを遂行するための方法はプレイヤー次第で、船を使うか、ステルスで潜入するかは、自由です。『AC4』は、とにかくいろいろなことができる作品です。

――マップが広大だと、建物や木々などのオブジェクトを配置するだけでたいへんな作業だと思います。マップの作成はどのように進めてのですか?

アシュラフ 開発機には、ある程度形が決まったオブジェのプールみたいなものがあります。これらはレゴのピースのようなものですね。何百もあるピースをレベルデザイナーがひとつひとつ組み合わせて地形を作っていくわけです。そしてできあがったものをさらに調整していきます。たとえば、キングストンとナッソーの街では、同じピースを使って部分もありますが、工夫して配置したので、プレイヤーは同じピースだと感じないはずです。マップの多様性をぜひ楽しんでほしいですね。

――『AC4』の開発スタッフは、これまでさまざまな場所で「プレイ感覚を、シリーズの1作目と2作目に戻す。つまり、ステルス要素を強調する」と語っていますが、具体的にどんなゲーム内容を目指したのでしょうか?

アシュラフ 試遊機をプレイしてもらうとよくわかるのですが、最初に船の操船やアップグレードなどのチュートリアルがあって、最後にアサシンのミッションがあります。ターゲットをどうやって倒すかは、すべてプレイヤー次第です。ステルスで進んでもいいし、正面突破してもいい。そのパートをプレイしてもらえば、『I』と『II』に戻っていることがよくわかってもらえると思います。ほかにも“コントラクト”というサイドミッションがありまして、それらの内容はシリーズの原点に立ち返るような作りにしました。

――なるほど。メインミッション以外の部分で気になるところと言えば、野生動物の狩猟のシステムです。今回はサメやクジラが登場するんですよね?

アシュラフ 『III』から引き続き、野生動物のハンティングが楽しめますが、海の生物は初登場になります。なかでもサメの狩猟がおもしろいですよ。小さい小舟にエドワードが乗り、ロープがついたモリを投げて仕留めるのです。18世紀の海賊たちは、実際に金儲けのためにサメ漁をやっていたのですが、それを取り入れました。ロープつきのモリをサメに突き刺して相手の疲労を誘い、仕留めるわけです。見事に撃退すれば、皮などの素材が手に入り、それを使ってエドワードの鎧や銃のホルスターといった装備品をアップグレードすることができます。

――野生動物の狩猟とアップグレードのシステムは、モントリオールスタジオが作った『ファークライ3』と似ていますね。

アシュラフ そうですね。『AC4』と『ファークライ3』は違うゲームですが、開発チームの人員の交流は盛んに行っていたので、ゲームの仕組みが似てくることもありますね(笑)。『ファークライ3』の狩猟システムはとても多くの人に受け入れられたので、『AC4』でもそのエッセンスを取り入れています。ちなみに、ほかに影響を受けたゲームと言えば、『『The Elder Scrolls V: Skyrim(ザ エルダースクロールズ V: スカイリム)』の巨大で多様性のある世界や、『ゼルダの伝説 風のタクト』の海でのゲームプレイのシステムなど、それらを参考にさせてもらいました。

――海賊と言えば、“お宝”がつきものだと思います。エドワードは手に入れた宝を使って何ができますか?

アシュラフ エドワードが見つけた財宝は、愛船ジャックドー号のアップグレードに使えます。エドワード自身をパワーアップさせたいときは野生動物の狩猟、船を強化したいときは財宝探しに励むことになります。アップグレード可能な船の要素は、大砲や外殻、船員たちも含まれます。サイドミッションをすべてやろうとすると、強力な敵船が多数登場します。ですので、積極的にアップグレードする必要があるというわけです。ゲーム中に“ツインズ”というボス格の敵が出てくるのですが、ものすごく強いです。その敵と対峙すれば、船のアップグレードが必要な理由がわかると思いますよ。

新ハードで生まれ変わる『アサシン クリード』

 前作『III』は、全世界での累計販売本数1200万本を越えるセールスを記録しとなり、『AC』シリーズでもっともヒットした作品となった。果たして、最新作『AC4』では、その記録を塗り替えられるのか、多くのゲームファンの関心の的となっている。

 さらに、今回は『AC4』はWii U、PS4、PS3、Xbox One、Xbox 360、PCと、シリーズ初の6機種でリリース予定。とくにPS4とXbox Oneはまだ未発売のハードとあって、どんなゲーム内容になるのか気になるところだ。

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 本作のプロデューサーを務めるマーティン・シェリング氏に、『AC4』開発チームの規模や、ファンのフィードバックをどのように扱っているか、うかがってみた。

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『アサシン クリード4 ブラック フラッグ』
プロデューサー
マーティン・シェリング氏

――新しくなった海戦について教えてください。

マーティン・シェリング氏(以下、マーティン) 海戦は、前作『III』で初登場した要素です。我々は、それのシステムをできるだけ先に進めてよりよいものにしようと務めました。ゲームに登場する場面の割合で言うと、陸のシーンが全体の2/3、海が1/3程度なのですが、船での移動シーンがあるので、感覚的には陸と海が同じ割合に感じると思います。海でのシーンがゲームプレイで重要な位置付けとなるので、『AC4』の海戦はよりアクションゲームらしさを感じさせる作りとなっています。

――『III』は全世界で1200万本以上の販売本数を記録し、シリーズ最大のヒットとなりました。それを受けてプレッシャーを感じたりしませんでしたか?

マーティン もちろん『III』のヒットでハードルが上がり、プレッシャーを感じることもありました。しかし、我々は『AC』シリーズでつねに新鮮かつユニークなゲーム体験を提供できるように作り続けていて、結果的に今回もすばらしいストーリーとゲームに仕上げることができたと思います。『AC4』の醍醐味は、新しいオープンワールドでの探検です。私は最新版のサンプルROMを50時間以上プレイしていますが、まだまだゲームは終わっておらず、サイドミッションや世界の探索など、やるべきことは山積みです。このように、非常に充実したゲームとなっているので、新しい記録を打ち立てられるとうれしいです。

――『AC』シリーズはファンの意見を取り入れるためにどんな工夫をしていますか?

マーティン コミュニティーマネージャーという立場のスタッフがシリーズのファンと連絡を取り合い、フィードバックをもらっています。また、PRチームも独自のルートを使ってファンの声を取り入れています。『AC』シリーズのファンというのが、どんな人たちで構成されているのか、彼らが何を期待しているか、つねに探っているわけです。つねにオープンな精神でいることが重要です。『AC4』では、2013年の4月ごろから毎週テストプレイをして、テスターたちの動向やプレイの仕方を分析し、どんな部分に問題があるかを洗い出しました。それとゲームが発売になってから、ユーザーのプレイをネットワークを介して追跡する方法があります。ゲームを買った人の何%がクリアーしたとか、どの武器を購入したのかなど、多岐にわたるデータが調べられます。それらは重要な情報として扱っています。そういった方法でファンのフィードバックを集めた結果、多くの人が1作目と2作目のようなステルス要素を望んでいることがわかりました。だから、『AC4』ではそれらの要素をより楽しめるようにしています。アクションゲームとしては難度が少しだけ上がっている感じですね。でも、いろいろなプレイヤーが楽しめるように調整しているのでご安心ください。

――『AC4』の開発は、新世代ハードが含まれるので、たいへんだったと思います。開発チームの規模はどのくらいでしたか?

マーティン 『III』のチームが新エンジン“Anvil next”を構築し、新しいハードに向けてさまざまな準備をしてくれていたので、我々は大いに助けられましたね。今回の開発チームの規模がシリーズ最大かどうかはわかりませんが、モントリオールスタジオを主軸に、世界中にある6つのスタジオと協力して作ってきたので、関わったスタッフの人数は把握しきれないほどです。ソニー・コンピュータエンタテインメントとマイクロソフトから新しい情報をもらいつつ、うまく開発を進められましたので、新ハードの機能を活用したすばらしいゲームに仕上がったと思います。

――最後の質問です。『AC』シリーズは、壮大な規模のストーリーが展開していくプロジェクトです。このストーリーの結末は見えているのでしょうか?

マーティン 『AC』シリーズの開発チームには“ブランドチーム”という部署があり、『AC』の壮大なストーリーのロードマップを構築しています。『III』を最後まで遊んだ人はおわかりだと思いますが、現代パートはひと区切りついていますよね。とは言え、メインのストーリーの題材としてふさわしい、歴史的なキーポイントはいろいろ残っていると思います。だから、歴史的な舞台がある限り、可能性はたくさんある、と言っておきます。また、コミックや書籍など、並行して進んでいるストーリーもたくさんあるので、シリーズの終末はすぐにはやってこないと思いますね。

“歴史”ではなく“人物”に焦点を当てた物語を

 『AC』シリーズに登場する歴代の主人公たちは、それぞれ自身に与えられた重要な使命をまっとうするために戦う男たちだった。しかし、『AC4』の主人公であるエドワード・ケンウェイは、根っからの海賊である。彼は己れの欲を満たすためにアサシンの力を利用しようとするのだ。彼は、明らかにこれまでの主人公たちとは異なるタイプの主人公だ。

 また、物語の舞台となるロケーションにも大きな変化が見られる。過去作では、エルサレムの十字軍遠征やアメリカ独立戦争など、多くの人が知っている歴史的事件が勃発した場所が選ばれてきたが、『AC4』は海賊たちが横行した18世紀のカリブ海が舞台となっている。ここでは、誰もが知るような歴史的事件はあまり起きていない。このエリアで有名なのは、歴史よりも黒ひげやチャールズ・ヴェインといった世間を震え上がらせた海賊たちだ。

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 『AC4』のストーリーの指針を考案し、実際にゲームの脚本を執筆しているリードスクリプトライターのダービー・マクダビッド氏に、本作のストーリーのポイントについて聞いてみた。

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『アサシン クリード4 ブラック フラッグ』
リードスクリプトライター
ダービー・マクダビット氏

――ダービーさんは2011年11月にリリースされた『AC リベレーション』でもリードスクリプトライターを担当していましたよね? 『AC4』の開発にはいつごろから携わっているのでしょうか?

ダービー・マクダビット氏(以下、ダービー) 2011年の10月から『AC4』に関するリサーチを本格的に始めました。ファミ通.comの記者であるあなたとは、2011年9月に開催された『AC リベレーション』のプレスツアーでお会いしましたが、あのときすでに『AC4』の開発に取りかかっていたんですよ。

――そうだったのですね。だとすると、いまも『AC4』の裏で別のプロジェクトを……!?

ダービー ノー!(笑)。それは言えません。

――それは残念です(笑)。では、『AC4』のストーリーは、どんなプロセスで作られたのかお聞きしたいです。

ダービー まず最初にストーリーの舞台となる歴史的な時間帯を決めます。そこからさまざまなリサーチを行って、場所やストーリーの概要を考え始めるのです。その期間が5ヵ月くらいかと。そのあとリサーチを行いながらストーリーを実際に練り始めて、半年後くらいにアウトラインを決定します。どういうキャラクターが登場し、どういう場所でストーリーが展開するということをはっきりと決めて、それをスタジオのスタッフや関係者たちにプレゼンをします。それを2012年の3月にシンガポールで行い、そこから脚本の詳細を詰めていく、という流れです。

――『AC』シリーズのストーリーを構築するにあたって、まずはゲームの舞台となる時代と場所が重要になると思います。過去作では歴史的に有名な事件が起きる地域が選ばれていましたが、今回はカリブ海ということでこれまでとは少し毛色が違うように感じました。脚本のポイントについて教えてください。

ダービー おっしゃる通り、18世紀の“海賊の黄金時代”では、ボストン茶会事件やバンカーヒルの戦いのように、誰もが名前を聞いたことくらいはあるような歴史的事件がほとんどありませんでした。ですので、今回は歴史ではなく、実在した海賊たちに焦点を当て、キャラクターの魅力を前面に押し出したストーリーを構築しました。あとは、『ゼルダの伝説 風のタクト』のように、島から島へと渡り歩く感覚が楽しめるように、ハバナやキングストン、ナッソーといった島をつなげていく脚本を用意したのです

――これまでのシリーズと言えば、歴史的事件の裏側にあるグレーな部分(事実が曖昧な部分)をベースにストーリーを構築していましたが、今回は実在した海賊たちの魅力が軸になっているのですね。

ダービー そうです。18世紀には世界中に海賊がいました。それをひとつのストーリーにまとめる手段について考えたとき、カリブ海を来た海賊たちのつながりを中心に描けばいいと気づいたのです。ただ、だからといって史実を軽視しているのではなく、今回もちゃんと史実をもとにストーリーを作っていますよ。『AC4』では、おもに8つほど実際にあった実際の事件を採用しています。史実で1715年にスペインの船が嵐に巻き込まれて座礁し、大きな宝を失うという事件があったのですが、ゲームではそこからスタートします。

――新しい主人公のエドワード・ケンウェイは、いったいどんな人物なのでしょうか?

ダービー エドワードという人物は、いままでのアサシンとはタイプが違います。ウェールズのかなり貧しい家庭に生まれ、そこで一旗あげようと海に出るわけです。最初は私掠船といって、戦争状態の国家に雇われて略奪行為を行う船に乗っていたのですが、突然スペインと英国のあいだで平和条約が結ばれてしまい、それができなくなる。そしてみずから海賊となるのです。あるとき、偶然にもアサシンの輪に加わっていくことになります。

――これまでのシリーズ作品に登場したアサシンは大きな使命を果たすために戦っていることが多い印象ですが、エドワードはまったく逆ですよね。スクリプトライターとしては、新鮮味があって脚本を書きやすかったのでは?

ダービー 確かに。エドワードは初めのうちはすごく利己的な男です。いままでのアサシンというのは、『I』の主人公アルタイルもアサシン教団のために戦っていますし、『II』のエツィオ、『III』のコナーは悲劇的な過去を持っていて、問題解決のためにアサシンの力を使うことになります。エドワードの場合は、ひとりのアサシンに会い、彼の外見などに惹き付けられます。そして、それを利用して自分の力にしようとする。海賊というのは、いろいろなものを奪っていく輩ですから。『AC4』では、自分本位な男がさまざまな経験をするうちに、人生には大きな目的があるということに気づくストーリーを描いています。

――海賊とアサシンを結びつけることに苦労しましたか?

ダービー いえ、海賊とアサシンには、ある共通点があります。たとえば、アサシンは自由と平等を尊重する信条を持っています。海賊にも決まりがありまして、それは自由と平等であることです。歴史的資料によると、実際の海賊は見つけた宝を均等に分けたり、キャプテンを投票で民主的に決めたり、船が気に入らない場合はすぐに降りたりしていました。両者ともに自由を大事にするところがオーバーラップしました。私たちは海賊だった人がアサシンになることで、自分たちが抱えている問題をどうやって解決するかというストーリーを書いています。

――ダービーさんがリードスクリプトライターとして開発に携わった『AC リベレーション』は、誰が敵で味方かわからないミステリー風のストーリーテリングが特徴的でした。今回は海賊を描いたストーリーなので、簡潔でわかりやすい展開になるのでしょうか?

ダービー いえ、海賊がモチーフだからといって、白黒はっきりした展開にはなりません。というのも、シリーズでおなじみの要素として、過去から連綿と続くアサシン教団とテンプル騎士団の諍いが描かれるからです。自由を尊ぶアサシンと規律で人々を支配しようとするテンプル騎士団。その戦いに社会に対して反発する海賊たちが加わってきます。3勢力が入り乱れ、ストーリーはときに混沌としてぐちゃぐちゃになることもあります。エドワードが3つの勢力とどのように関わり合うのか、注目してみてください

――『AC4』は『III』の少し前の時代が描かれるので、前作とのストーリーのリンクが気になります。

ダービー 現代パートはいったん完結しているので、それは横に置いています。『AC4』は単独で完結した物語なので、直接『III』とリンクする部分はありません。ただ、小さなつながりの要素をいれて、シリーズのファンの皆さんに楽しんでもらいたいと思っています。

――最後の質問です。『III』の冒頭で、ある“サプライズ”に驚かされました、今回もサプライズに期待してもいいですか?

ダービー いえ、今回は残念ながらもうひとりの主人公はいません(笑)。エドワードでずっとプレイすることになるので、彼の生き様をしっかりと楽しんでほしいですね。

 次回更新は2013年10月22日(火)を予定!