ファミ通創刊40周年を記念してお届けする、ゲーム業界を牽引するキーパーソンへのインタビュー。今回は、バンダイナムコエンターテインメント代表取締役社長の宇田川南欧氏に話をうかがった。
ファミコン時代から数々のヒット作を生み出し、業界を牽引し続けてきたバンダイナムコエンターテインメント。グループ連携という同社の強みを活かした戦略で、グローバルでのIP展開を目指す宇田川社長に、昨年度の総括や今年度の新作ラインアップ、今後の展望などを語っていただいた。
宇田川南欧氏(うだがわ なお)
バンダイナムコエンターテインメント 代表取締役社長。1994年にバンダイ(当時)に入社し、ネットワークコンテンツ系の事業に注力。2018年にバンダイナムコエンターテインメントの常務取締役、2021年にBANDAI SPIRITS代表取締役社長に就任。2023年4月より現職。
バンダイとナムコの統合から20年。リスタートでの復活劇を振り返る
――先日、6月6日に我々ファミ通は40周年を迎えました。バンダイナムコエンターテインメントとは長年のお付き合いになりますが、宇田川さんがこれまでの歩みを振り返って、とくに思い出に残っている出来事はありますか?
宇田川
ファミ通様、40周年おめでとうございます。毎週雑誌を作る情熱には本当に敬意を表しますし、開発者の思いや情熱まで丁寧に記事にして届けていただけることにいつも感謝しています。
私自身の歩みで言うと、やはり2005年のバンダイとナムコの経営統合がいちばん大きな出来事でした。当時はまだ入社10年目ほどで、想定外の合流にとても驚いたのを覚えています。その後、2010年には会社が大きな赤字を出してしまう苦境に直面しました。そこからのリスタートプランによる経営の立て直しは、会社がお客様のために何ができるかを徹底的に考え抜いた、忘れられない経験です。
――当時はふたつの異なる企業の文化が混ざり合うたいへんさもあったかと思いますが、とてもいい形で融合できたのではないですか?
宇田川
組織形態を複数回変更し、IP別や事業別で区切るなどしたこと、またバンダイナムコとして入社した若手も増えたことにより、社内でかつての違いを意識している人はいないように思います。統合から20年が経ち、両者のいいところが自然に融合した組織になれたと実感しています。
――もう20年ですね。ファミ通との取り組みで印象的なものはありましたか?
宇田川
経営者視点としては、ファミ通様の記事を通じてクリエイターたちの熱い思いを知ることも多く、「現場はそんなことを考えていたのか」と新しい一面を発見させてもらうきっかけにもなっています。
――そう言っていただけると光栄です。以前の『アイドルマスター』如月千早の武道館単独公演特集なども、担当者が非常にこだわりを持って作らせていただきました。
宇田川
あの特集も非常に印象深いですね。ゲームのキャラクターを“実在するひとりのアイドル”として扱っていただき、こだわりの強さが伝わってきました。
――ここからは2025年度の振り返りについてお聞きします。昨年も多彩なタイトルがリリースされましたが、手応えはいかがでしたか?
宇田川
当社はモバイルと家庭用ゲームの両軸展開が特徴ですが、昨年度は双方で大きなヒットが生まれました。モバイルでは、アニメ展開と最適なタイミングで連動できた『SDガンダム ジージェネレーション エターナル』が非常に好調です。
『機動戦士ガンダム』からの歴史を網羅できる図鑑的なコンセプトがハマり、1周年を迎えた現在もすばらしい推移を見せています。これまでのガンダムゲームでの課題でもあった、幅広い年代のガンダムファンにゲームを届ける、ということを達成できたと感じています。
――家庭用ゲームでも、『デジモンストーリー タイムストレンジャー』が、世界100万本を達成するというヒットになりました。
宇田川
『デジモンストーリー タイムストレンジャー』は日本ゲーム大賞2025のフューチャー部門を受賞し、世界的にヒットとなりました。デジタルゲームとカードゲームの双方の好調が噛み合い、2000年のアニメ放送当時を超え、デジモンIPがバンダイナムコグループとして最高益を記録しています。

『デジモンストーリー タイムストレンジャー』
『デジモンストーリー タイムストレンジャー』はNintendo Switch版とSwitch 2版が7月に発売され、さらに2027年には大型DLCが配信予定で、まだまだ伸びしろがあると感じています。ちなみに、先日スマートフォン向けゲーム『デジモンUP』もスタートしました。
『ガンダム』や『デジモン』などが、2世代、3世代にわたって楽しんでもらえるIPに成長していることは本当にうれしいですね。また、フロム・ソフトウェア様との共同開発タイトル『ELDEN RING(エルデンリング)』も引き続き世界中で販売数を伸ばしており、非常に大きな成果を上げられました。
――昨年度は、『FREEDOM WARS Remastered』や『パタポン1+2 リプレイ』など、他社IPのリマスター版を発売し、大きな話題を呼びました。過去作品の活用についてはどうお考えですか?
宇田川
他社様のすばらしいIPを当社から発売するというのは、非常にバンダイナムコらしい取り組みだと自負しています。根強いファンがいるタイトルだからこそ、現世代機で再びお届けしたいという思いがあります。

『FREEDOM WARS Remastered』
自社IPでも『テイルズ オブ』シリーズが30周年を盛り上げるため積極的にリマスターを展開していますが、現世代機で遊べなくなっている名作をいまのファンの皆様に知っていただく機会として大切にしていきます。
――多彩なジャンルの作品を手掛けられているバンダイナムコスタジオや協力会社との連携も大きいですよね。自社スタジオの強化として、内製ゲームエンジンの本格活用についても進められているとお聞きしました。
宇田川
バンダイナムコスタジオが開発を進めている内製ゲームエンジン“SOL-AVES(ソルアヴェス)”の活用を本格化しています。格闘、アクション、RPGといった当社の得意ジャンルへの対応を見据えた柔軟性の高いエンジンで、開発者のアイデアを即座にゲームに反映できるという強みがあります。
そこで生まれた工夫がまたつぎのタイトルへと生かされるような、理想的な開発サイクルを確立していきたいと考えています。

「2世代、3世代にわたって楽しんでもらえるIPに成長していることは本当にうれしいですね」
地域別のマーケティング手法と、IP起点によるファンの獲得
――海外市場へ向けたアプローチについてはいかがでしょうか?
宇田川
現在、当社の家庭用ゲームの売上の約90パーセントは海外が占めています。バンダイナムコエンターテインメントとしては18の国と地域に合計30の拠点を構えて、それぞれの地域で戦略を立てるようにしています。
具体的には、地域ごとに浸透しているプラットフォームでの遊ばれかた、IPに対する受け止められかたの違いを細かく確認しながらマーケティング方法を柔軟に変化させたり、プロモーションを推進したりできる体制作りで、それが当社の強みです。
たとえば、『パックマン(PAC-MAN)』の人気は北米で圧倒的なものです。現在YouTubeで公開しているショートアニメ『パックマン スナック・ブレイクス』も非常に好評で、今後はパックマン誕生46周年、そして50周年に向けて全社的にいっそう推していきたいな、と。グッズなど多方面での展開をさらに強化していく予定です。

『パックマン スナック・ブレイクス』
――先ほど、一部IPが海外でも人気というお話がありましたが、注目している地域や新興市場はありますか?
宇田川
東南アジア、とくにインドネシア市場には注力しています。現地で当社主催のゲーム体験イベントを開催し、認知と接点を増やす取り組みを行いました。潜在的なゲームファン、アニメファン人口がとても多く、いかに私たちのゲームを届けられるかが課題ですね。
とくに東南アジアでは『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』は人気だと感じています。ゲーム起点だけではなく、バンダイナムコグループの強みであるグッズやショップ(バンダイナムコ Cross Store)の展開と連動させ、IP起点で柔軟に市場を開拓しようと考えています。
IPの展開や盛り上がりに応じて、ゲームや商品をどう出していくか、ということですね。昨年度、グループ全体で過去最高益を達成できたのも、こうした各部門の連携がうまく機能した結果だと捉えています。
――海外での大会実施を含め、看板IPである『鉄拳』をはじめとした、eスポーツ関連の取り組みも増えているかと思います。
宇田川
『鉄拳』に関しては、長い時間をかけてコミュニティーと一体となった大会運営を続けていきたいと考えています。サウジアラビアで開催されたEsports World Cupを視察した際は、その規模感と賞金額の大きさに圧倒されましたが、同時に自分たちが主宰する“鉄拳ワールドツアー(TEKKEN WORLD TOUR)”をはじめとする大会も、非常に大切にしています。
格闘ゲームは勝敗が早く、見た目にもわかりやすくて大逆転のおもしろさがあるのが魅力です。今後はその高い競技性を維持しつつも、どうやって新規ユーザーを増やしていくかが課題です。
少し話が逸れますが、当社が経営権を取得したB.LEAGUE所属プロバスケットボールチーム“島根スサノオマジック”の試合を会場で見るのは本当におもしろくて、ファンの声や応援がチームを押し上げていく感覚は、エンターテインメントのひとつとして、eスポーツにも近いものを感じています。新たな運営方法や技術的なアプローチを考え、配信やリアルで体感できる大会をさらに増やしていきたいですね。
オフラインイベントやライブにも引き続き注力
――2026年度に発売を控える新作についても教えてください。
宇田川
長らく仕込んできたタイトルが、いよいよ花開く年になります。直近では『ソードアート・オンライン』シリーズの最新作となる『Echoes of Aincrad』や『デジモン』シリーズの新作スマートフォン向けアプリゲーム『デジモンUP』をリリースしました。
根強い人気を誇るIPの『キャプテン翼2 WORLD FIGHTERS』や、海外作品のパブリッシングタイトル『The Blood of Dawnwalker』といった多彩なジャンルのゲームに今年度も注目してほしいですね。
そして、ファンの皆様を長らくお待たせしてしまいましたが、『エースコンバット』シリーズの最新作『ACE COMBAT 8: WINGS OF THEVE』が10月に控えておりますので、ぜひご期待いただければと思います。
また、これまでとは違うテイストに挑戦した新規の『ガンダム』ゲームとして、『GUNDAM ROGUE ORBIT』も控えており、グループ連動も含めた展開を考えています。
さらに『ドラゴンボール ゼノバース3』は、プレイヤー自身がアバターとなってドラゴンボールのまったく新しい世界“AGE1000”を体験できる作品で、IPを牽引する戦略的タイトルとして裾野を広げていきます。
――非常に楽しみです! オフラインイベントについてはいかがでしょうか?
宇田川
ゲーム外でもライブやイベントの展開を積極化しており、とくに『アイドルマスター』シリーズでは、キャラクターがその場に実在しているかのようなxR技術を活用したライブに力を入れていきます。
『アイドルマスター』は日本のみならず海外でも人気で、海外公演の際には現地のプロデューサーの皆様が、日本独自のファン文化や名刺交換などの振る舞いまで深く理解して盛り上がってくださり、その熱量に驚かされました。先ほどのeスポーツの例もそうですが、リアルのイベントで実際にお客様が喜んでいる姿を見るのは、大きなモチベーションにつながりますね。

『アイドルマスター』MRプロジェクト
グループ間連携を強化し、つぎなるステップを目指す
――40年、50年と続くIPをつぎの世代へつないでいくために、次世代のリーダー育成についてどう考えていますか?
宇田川
私がいちばん気をつけているのは、“古い考えかたを押し付けない”ということです。リスクの回避は先輩のほうが得意ですが、先回りして指示しすぎると若手の成長を止めてしまいます。失敗したときは叱ることも必要ですが、それを単なる失敗で終わらせず、成長の糧にできる範囲のさじ加減を意識しています。
また、当社はIPの担当替えや異動が比較的頻繁にあります。だからこそ、特定のルーティンしかできない人ではなく「どうすればこのIPの魅力がお客様に届き、喜んでもらえるか」を仕事に落とし込める力を求めたいですね。
――宇田川さんご自身も、グループ会社を何社か経験されていますよね。
宇田川
いろいろな会社や事業を経験したからこそ、ひとつのことだけにこだわることに停滞感を感じてしまうタイプですね。
ポッとアイデアが出ることもありますが、組み合わせやなにかの連想から出ることもあるじゃないですか。経験が多いほうがプラスになると個人的に思いますね。ありがたいことに、弊社はIP愛に溢れている社員が多く、世界観を大事にしつつも、いろいろな方法で自分の考えを実現してくれています。
やりかただけを教えるのではなく、戦略や目標に沿った考えかたそのものを社内に浸透させることが、クリエイティビティーやおもしろさを仕事に出すことにつながると信じています。ゲーム業界はつねに変化し続けていますが、だからこそ新しい驚きがあり、飽きずに挑戦できる楽しさがありますよね。
――対応プラットフォームや、グローバル展開、インディー支援、マルチメディア展開など、グループ間連携も強化しながらさまざまな変化に対応できるところも、バンダイナムコエンターテインメントの強みだと感じています。電撃的な会社統合から20年、その強みが長く続けられる秘訣なのですね。
宇田川
そうかもしれませんね(笑)。自分の目標としては、中期計画の“ゲームポートフォリオ推進”、“開発力の強化”、“IP軸ビジネス拡大・挑戦”の重点戦略の実現です。社員に向けて発信するメッセージも、すべてこの3つに紐づけるようにしています。
これらをしっかりとやり遂げ、会社の地盤をもう一段強固なものに進化させて、つぎのステップへ進みたいですね。そして、バンダイナムコエンターテインメントとしては、今後も注目タイトルをはじめとしたさまざまな発表を調整中ですので、ぜひこれからの展開にも期待していただきたいです。

「ゲーム業界はつねに変化し続けていますが果敢に挑戦しながら、わくわくが溢れる時間をお届けしたいです」
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