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『Fallout』シリーズ、2万字超のボリュームで聞く世界の裏側。『3』にまとまった脚本がなかった理由、エルダースクロールズとの違いなど。いまだから語れる内容をゲームコアスタッフに聞く

『Fallout』シリーズ、2万字超のボリュームで聞く世界の裏側。『3』にまとまった脚本がなかった理由、エルダースクロールズとの違いなど。いまだから語れる内容をゲームコアスタッフに聞く
 Amazon プライム・ビデオでシーズン2が順次放送中のドラマ『フォールアウト』。シーズン2放送開始を記念し、ベセスダ・ソフトワークスによる原作ゲーム『フォールアウト』シリーズの特別インタビューをお届けしよう。

 オンラインインタビューに応えてくれたのは、オープンワールドRPG『
フォールアウト3』および『フォールアウト4』のリードデザイナー兼ライターでありドラマ版の共同プロデューサーでもあるエミル・パグリアルーロ氏と、シリーズでプロデューサーを務めてきたアンジェラ・ブラウダー氏。

 普段の新作についてのインタビューではなかなか聞けない昔の開発の様子や、いまだから語れる失敗談、開発チームに受け継がれているこだわりなどのディープな内容を聞いてきたぞ。過去の取材のレアな写真や昔の素材も引っ張り出してきたので、じっくり読んで欲しい。
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エミル・パグリアルーロ

Bethesda Game Studios 『Fallout 3』『Fallout 4』リードデザイナー兼ライター / 『フォールアウト』ドラマシリーズ共同プロデューサー。

アンジェラ・ブラウダー

Bethesda Game Studios『Fallout 3』アソシエイトプロデューサー / 『Fallout 4』プロデューサー / 『Fallout 76』シニアプロデューサー兼スタジオ&プロダクションディレクター

エミル・パグリアルーロ(リードデザイナー/ライター)

――初代『フォールアウト』と『フォールアウト2』は見下ろし型のクラシックなコンピューターRPGでした。それを一人称視点オープンワールドの『ザ エルダースクロールズ IV: オブリビオン』のスタイルにするのはかなり大掛かりな変更だったと思います。どのように始まったんでしょうか?
エミル
 最初からのコアチームは、当然トッド・ハワード(※)、そして私と、アート側からイストヴァン・ペイレイ(※※)。『フォールアウト3』と『フォールアウト4』はそういう形でしたね。

 それで『フォールアウト3』の始まりですが……トッドがある日「フォールアウトの権利が取れそうなんだけど、これやるべきだと思う? 僕らがやりたいものになるかな?」と聞いてきたんです。「わぁ、もちろん!」という感じでした。

(※『フォールアウト』シリーズディレクターであり、『
エルダースクロールズ』シリーズなども手掛けるBethesda Game Studiosを代表するクリエイター)
(※※『フォールアウト3』『フォールアウト4』リードアーティスト。『
フォールアウト76』『Starfield』ではアートディレクター)
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初代『フォールアウト』『フォールアウト2』はインタープレイの作品。『フォールアウト3』から権利を取得したベセスダ・ソフトワークスのゲームとなっている。
エミル
 そして「フォールアウトを自分たちのスタイルの延長でやりたいんだ」という事がすぐにわかりました。昔のベセスダのターミネーターゲーム(※)のファンだったんですけど、一人称視点のターミネーターゲームで、SF設定の一人称視点RPGっていうあの感じがずっと頭にあったんですよね。これはフォールアウトに合うし、他にそういうものはあまりなかった。

 そうやって始まり、イストヴァンが『フォールアウト』1と2のアート部分を精査して、どうやったら自分たちのものに変換できるかを研究していきました。一方で自分は両者をプレイし直して、キャラクターたちの感じを掴み直しつつ、どうやったら(旧作とのスタイルの)ギャップを真に埋めていけるか考えていったんです。

(※『
The Terminator: Future Shock』(1995)や『SkyNET』(1996)などがあり、若き日のトッド・ハワード氏も参加している)

『フォールアウト3』のまとまった脚本なんてなかった

――Bethesda Game Studiosのユニークなやり方として、ゲームデザイナーとライター役が兼任されているということがあると思います。実際どうやって作っているんでしょうか?

エミル
 これは今でも笑っちゃうんですが、『フォールアウト3』の発売後に全米脚本家組合賞(Writers Guild of America Awards)にノミネートされた時、選考を受けるために脚本を提出しなければならないんですけど、脚本なんてなかったんですよ。

 つまり、全部書き出してまとめたりしてなかったんです。デザイナーがテキストの執筆まで行うので、私たちの手元にあったのは(脚本という形で整理されていない)開発用エディター内に断片的に記録されているセリフだけでした。どうやるかは担当者によって違って、Wordドキュメントに書き出す人もいたけど、大半はエディターで直書きしてました。

 でもそうすることで、ゲームプレイとストーリーを結婚させて結びつけることができます。私たちのゲームにはカットシーンがありませんから、すべてのストーリーは一人称視点なり三人称視点のゲームプレイを通じて語られる。
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『フォールアウト3』での会話シーン。軽いカメラ演出は入ったりするが、カットシーンなどが挟まったりはしない。
エミル
 (シナリオ)ライターとしての質はさまざまです。ライティングが非常に得意なデザイナーもいれば、そうでない人もいる。だけど彼らがライターもやることで、常にまずゲームプレイから作り込んでいくことができる。

 これはストーリーを重視してないということではありません。実際ものすごく重視してますし、自分たちの物語を愛してます。でもインタラクティブな表現媒体として、プレイヤーはコントローラーなりマウスを手にストーリーをただ見るのではなく、ゲームプレイを通じて“体験”するわけですよね。デザイナーがライターを兼ねていることで、そこに向けて作っていけるというわけです。

――あなた自身が幅広い部分の作業をやられているわけですが、開発の中で好きな作業はなんですか? ライティングでしょうか、世界の構築でしょうか、コンセプト作りでしょうか、それともシステムの設計でしょうか?

エミル
 いまあなたが言ったことがそのまま答えみたいなもんです。全部を少しずつやれることですね。ベセスダでの自分の仕事では、いろんなことをちょっとずつやれるのが好きなんです。

 世界を設計するのが好きですし、キャラクターとか場所の名前を考えるのも好きです。そしてシステムの設計をするのも。射撃システムのV.A.T.S.の最初のデザインドキュメント(仕様設計書)を書いた時の事なんかもまだ覚えてます。

 解錠ミニゲームとかハッキングミニゲームの初期のコンセプト作成とかもやりました。
MSペイントでコンピュータースクリーンとか錠と手の絵を描いてね。描いてみるのは自分の思考作業のやり方なんですよ。

 そしてもちろんストーリーの執筆ですよね。メインストーリーを書いたり、リーアム・ニーソンが演じる『フォールアウト3』の父親のセリフを書いたり。そういったことを全部できるのがここでの自分の仕事の一番好きな部分なんです。
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Vault 101から来たアイツのお父ちゃんの英語版声優はハリウッド俳優のリーアム・ニーソンだったのだ。

ゲームデザイナーとしてのこだわり、ニューベガスの印象

――RPGという点で、アメリカのコンピューターRPGは日本のRPGとは違う文脈や意味合いがありますね。あなたの関わった作品ではイマーシブシムなどの影響も感じられますが、実際どうでしょうか?

エミル
 はい、まぁ私の最初のゲームデザインの仕事はLooking Glass Studios(※)の『Thief Gold』や『Thief II: The Metal Age』で、イマーシブシムをやってきましたから。

 私たちのゲームは一人称視点でも三人称視点でも遊べますが、早くから一人称視点でそのキャラクターになりきるというのが好きでした。だからLooking Glassで働いている時も『
Thief』とか『System Shock』みたいなイマーシブシムが好きでしたし、ベセスダに来てからも「少しこれを取り入れられるかも」と感じていました。ちょっとステルスっぽい要素入れられるかなとか。
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イマーシブシムとは、プレイヤーが創発的に問題解決できるようシステムが構築された没入型シミュレーションゲームのこと。例えば敵が道を塞いでいる場面でも、単に戦うだけでなく、ステルスで迂回する、カギを盗む、入手した情報で説得する……といった多彩な解法を選択できる。(画像は『ディスオナード2』)
エミル
 『ザ エルダースクロールズ V: スカイリム』で手掛けた“闇の一党”関連のコンテンツなどもそうですけど、ドアの向こうで誰かが話してることがキーになるような、ラジオとか音を使って見えないところまで演出するのが好きなんですね。

 そういったことを通じてとにかく、プレイヤーが本当にその世界にいると感じられるような没入感を与えたいんです。そういうやり方を好んでいます。

(※Looking Glass Studiosはイマーシブシム系ゲームの代表的開発スタジオで、エミル・パグリアルーロ氏は2012年に『
ディスオナード』のハーヴェイ・スミス氏らと同スタジオを振り返るトークパネルに出演している。詳細は当時の記事を参照のこと
――『フォールアウト: ニューベガス』はちょっと変わった作品です。フォールアウトの旧作を手掛けた人たちによる外部開発作品であり、アプローチもちょっと違いました。ゲームデザイナーとして、あなたたちが『フォールアウト3』で築いたものを土台に彼らが異なるものを作り出したことはどう感じていたのでしょうか?

エミル
 ニューベガスが好きなのは、まず自分が関わっていないフォールアウト作品を遊べるというのもあるし、(ニューベガスの開発の)Obsidian Entertainmentの人たちが作ってきたゲームがそもそも好きなんですよね。オリジナルの『フォールアウト』(1/2)を作ってきた人たちがいて、そこからの広がりがあって。彼らのゲームを全部楽しんできました。

 それでニューベガスですけども、はい、結構違います。あまり構造化されてないし、作品のトーンもかなり違いますよね。私たちのゲームはもうちょっとダークだったりシリアス寄りのトーンですけど、それは意図的なものです。あれぐらいの感じが好きなんです。

 それに対してニューベガスはもう少し『
フォールアウト2』っぽいトーンがあります。ちょっと下世話で楽しいというような。わかるでしょう? そしてニューベガスにはそれが合っていた。これってやっぱり、それぞれのスタジオが持つスタイルの違いが活きているということだと思うんですよね。そこが楽しいんですよ。どちらかを選ぶっていうんじゃなく、どっちも楽しさがある。
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『フォールアウト: ニューベガス』はドラマ版シーズン2と同じラスベガスが舞台。ノバックのディンキー・ザ・ダイナソーからの狙撃はエピソード1で早速登場。

『フォールアウト』のサウンドができるまで

――フォールアウトはサウンドも重要な要素です。こちらについてはどう始まったんでしょうか?
エミル
 サウンドには効果音と音楽のふたつの要素がありますね。当時の私たちにとって前者をどうやるかは簡単でした。サウンドチームのリードのマーク・ランパートがいて、どんな音でも出すワンマンサウンドマシーンのような男だったので、彼がオーディオディレクターになりました。

 これもちょっとLooking Glassの流れがあって面白いんですよ。Looking Glassにはエリック・ブロシウスがいて、エリックも全部やってました。それからあそこにはマークもいて、彼ら(Looking Glass)がもっと人を雇うまでしばらくそんな感じでした。

 マークは外に出て環境音とかもよく録ってましたね。私が収集している剣をオフィスに持ってきて、彼が鞘から剣を抜いたり納めたりする音を録ったこともあります。ヌカランチャーを使うと「チーン」って音が鳴るけど、あれは彼がちっちゃなベルをいじくり回して作ったものです。いろんな音で遊びながらあっという間に効果音を作り出すさまは魔術師を見ているようでした。
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『フォールアウト4』のヌカランチャー。記者はラストエリクサー的に使わずに終わりがちである
エミル
 そして音楽です。いいパートナーとなる作曲家を必要としていて、イノン・ザーを見つけました。『Starfield』に至るまで仕事してますけど、めちゃくちゃこちらのことを考えてコラボしてくれるんです。『フォールアウト』のテーマの「ドゥーンダーン、ダーン♪」っていうあの旋律を彼が出してきたとき、すぐに「これだ」と心に響いて、骨の髄まで感じられました。

 それと手がめちゃくちゃ早いんですよ。「うーん、ちょっと違うかな」っていう時も、1時間もすると完全に新しい曲が届いているような、そんな具合に進んでいきましたね。
――音楽という点では『フォールアウト3』からのラジオで流れるオールディーズのサウンドが欠かせません。あの選曲って誰がどうやってたんですか?

エミル
 あれは楽しかったですね! あれは私たちでやってました。トッド、私、それとマークが集まって、「どんな曲やアーティストがいい?」って思いついた曲を選んでいったんです。共通したある種の雰囲気を求めていて、1940年代と50年代を基本に、ときどき1960年代もアリにするような。『Fallout 76』ではもうちょっと時代の幅を広げましたね。

 エラ・フィッツジェラルドとかインク・スポッツとか……インク・スポッツの
『I Don't Want To Set The World On Fire』はフォールアウトのメインテーマのようなもので、『フォールアウト3』のローンチパーティーでも演奏してもらいました(※)。ともかくあの雰囲気が私たちの舞台の雰囲気をカチッと決めてくれて、そこから素晴らしい音楽を選んでいったという感じです。

(※オリジナルのバンドは1954年に解散しているため、恐らく派生バンドか一種のトリビュートバンド)

『フォールアウト』のダークなユーモア観について

――『フォールアウト3』のアンデールとか、ダークなユーモアはフォールアウトの特徴的な部分ですよね。面白そうな場所があって入っていくと段々ヤバいのがわかってきて、どう脱出するか考え始めるような。ドラマ版もその感じをうまく取り込んでいました。

エミル
 はい、私自身ダークなユーモアを好んでいて、それでトラブルになったこともあります(苦笑)。

 『フォールアウト3』のリードデザイナーをやることになって、(研究のために)レンタルビデオ屋に行って片っ端からポストアポカリプス映画を借りようとしたらレジの女性に
「アンタこれ全部観るなら太陽灯(※)がいるわよ」って言われたんですけど、ぶっ通しで没入したら本当に憂鬱だったんですよ。(※北欧で季節性うつ病の解消などに使われる)

 
『ザ・デイ・アフター』とか『テスタメント』とか(※)、本当に憂鬱です。それから広島についての素晴らしい小説を読み直したりしました。どれも重々しくて、ユーモアのセンスがどこかになければただ涙を流すしかない。

(※ともに1983年公開の映画。全面核戦争の恐怖を描いたテレビ映画『ザ・デイ・アフター』は非常に高い視聴率を記録し、レーガン政権の対外政策にも影響を与えたとされる)
エミル
 なのでああいった感じのユーモアを入れているのはそういった経験からも来ています。ドラマ版でも、臓器摘出をしたがるクレイジーな医者のMr.Handyが“チョキチョキ”って呼ばれてるとか。

 『フォールアウト3』にも同じような血にまみれたクレイジーなMr.Handy(※)がいた。そういったことがこの非常にダークで混乱した世界をうまく表せていると思うんです。ユーモアがなければ正気を失って誰も生き延びられないような世界なんだと。(※捻挫の治療として足を切断したアンディ?)

 それでドラマ版ですが、脚本家たちが素晴らしかったので、やったのは「あ、こっちのダークユーモアが好きですね」というような感じにちょっと方向性を修正するぐらいでした。脚本を読んだり各話をひと足先に観たりしましたけど、すごくいいので実際に調整しなきゃいけないことはほとんどありませんでしたね。

――フランチャイズによっては“ロアキーパー”と呼ばれる人たちがいますね。そのゲームのロア(世界設定や作品内の歴史)を管理していて、村の長老みたいに教えてくれるスタッフのことです。フォールアウトシリーズの場合ではどうでしょうか? 

エミル
 基本的に私がその担当者ですね(笑)。ドラマ版に関してはカノン(正史)として扱うことを決めたので、ドラマ版での物語はフォールアウト世界の実際のロアになっていきます。これはチャレンジでした。

 
ときどき夜遅くに「明日これを撮影するんですけど、これ整合性はとれてますかね?」とか問い合わせが来たりしたんですよ。たまにギリギリになって知らされる内容もあったりして「あーそれはマズいマズい」となったり。

 私たちにとってもっとも重要なことは、ロアとすでに存在するカノンを尊重することです。設定の後付けの変更とか、すでに起こったとしていることを変えるのは好みません。一方で、ロアに何かを追加するというやり方は取りますね。

 『フォールアウト76』は前日譚という形なので、この部分でのチャレンジがありました。核戦争後が起きた比較的すぐ後の時代を描くものなので、ロアを拡張する必要がありました。「よし、これが起こったとは言ってないけど、それが起こらなかったのではなく、まだ言ってないだけだね」とか考えていきます。

 たとえばエンクレイヴのパワーアーマーを出したいなら“軍のプロトタイプ”という形じゃないと駄目だね、とか。それでも注意してやっていかないといけません。フォールアウトファンは非常に優秀でなんでも細かい所を見つけますから。
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『フォールアウト76』に登場するドラマ版のザ・グール。76とドラマ版もまた作中の年代が大きく異なる。
エミル
 インターネットは時折すぐに非難が広がりますから、なかなか大変です。私たちも人間ですからね、デザイナーが間違いを犯すこともあります。でもまぁそうなったら大変です。そもそもロアは私たち自身にとっても神聖なものですからね。

 だからそれが本当の歴史、場所のように、物事が本当に起こったように、ファンたちが私たちに望むような形で沿っていかないといけないんです。

――ロアの管理のために社内用のWikiとかあるんでしょうか?

エミル
 ええ、内部Wikiはあります。でも実は(一般の)Fallout Wikiに行ってみることもあるんです。エルダースクロールズもそうですが、ファンたちは本当に多くのものをまとめてくれていて、相互参照なども行っている。

 それに対して内部的なデータベースは、まだ一般に明かしていなかったりもする細かいディテールまであります。これはこうなんだと私たちが内部的に議論して決めてあるけど、まだ言っていないようなことがね。

『フォールアウト』とは何か、エルダースクロールズとの違いは

――あなたにとってフォールアウトの特徴は? エルダースクロールズの仕事からフォールアウトの仕事に移る時に、多分モードのスイッチを切り替えると思うんです。それはなんでしょう?

エミル
 フォールアウトは私にとって……アメリカの土地を見て考える機会なんです。新しいフォールアウトの設計を始める時、最初に話すのは「どこが舞台で、それは何を意味するのか」です。3ではワシントンDC、4ではボストンを選びましたね。私はボストン出身なので個人的にも特別なゲームです。

 私たちのフォールアウト作品は“アメリカーナ”(アメリカ流の精神や文化)が非常に重要なテーマであり、だからアメリカの中のさまざまな場所を舞台としています。それで、候補となる場所を見て考えるわけです。第二次世界大戦後に時間軸が分岐して、何がうまくいったのか、何がとても間違ってしまったのか。

 これは楽しい作業なんですよ。たとえばフォールアウト3でワシントンDCを選んだとき、あそこを舞台にした大作ゲームはあまりありませんでした。『
ディビジョン2』とかのずっと前ですからね。

 でも現地にある記念碑とか史跡とかを見ていくと、「これはおもしろいことをやれる場所があっちにもこっちにもあるぞ」となる。ワシントン記念塔は巨大なラジオ塔だなとか。メインクエストをどうしようか考えていたとき、ワシントンDCの空撮地図を眺めていて、ジェファーソン記念館とその前のタイダルベイスンのあたりで目が止まって
「これだ! 全部水で繋がるんだ」と閃いたのをいまでも覚えています。

 そういった感じに、まずはその土地を見ていくんです。そこでどんなストーリーを語りたいか。希望についての、サバイバルについての、そして死に物狂いの物語です。さらに“戦前”はその場所はどうだったのか?
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『フォールアウト3』のコンセプトアート。
エミル
 戦前の歴史をどうするかはこれもまた楽しい部分です。『フォールアウト3』ではグログナック・ザ・バーバリアンという(作中コミックの)キャラがいましたが、『フォールアウト4』では“アンストッパブル”に拡張しました。フォールアウト世界のアベンジャーズみたいなものですね。

 これは楽しい戦前のバックストーリーですけども、それさえも独自の命を持つようになりました。私たちはつまり、フォールアウト世界がどんなだったかという文化をゆっくりと形作っていくんです。そしてそういった要素の多くは場所と結びついています。

 私たちには「フォールアウトではなんでもできる」というモットーがあります。スーパーヒーロークエストも、ヴァンパイアものも、ラヴクラフト風ホラーもありました。中国の原子力潜水艦の艦長(4のザオ艦長)もね。クレイジーになりすぎなければなんでもできるし、たまにはクレイジーになりすぎてもいいぐらいです。
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作中世界のコミック『グログナック・ザ・バーバリアン』。
――ではそれに対してエルダースクロールズはどういうものなんでしょうか?
エミル
 私たちのファンタジーゲームを、私たちは“ロー・ファンタジー”と呼んでいます。魔法の街灯がいっぱいついてる空飛ぶ城とかは目にしないような、もっと中世的だったりバーバリアン的で、もっと歴史に即しつつ、そこに魔法の要素が入ってくるような地に足がついたファンタジーの感じです。

 『
ゲーム・オブ・スローンズ』との類似点は意図したものではありませんでしたが、ファンタジーとしての雰囲気は実際スカイリムと近いところがありますよね。「彼らが僕らのドラゴンをコピーしたんだ、彼らのドラゴンをコピーしたんじゃないぞ」と言ってましたが。(※冗談。両者はともに2011年放送/発売)

 私たちにとってエルダースクロールズは、独自の勢力たちを軸にしたストーリーを語る素晴らしい時間です。
戦士のギルドはどうなっていくのか? 私がエルダースクロールズでやっていることなら、闇の一党とはなんだろうか? 盗賊ギルドはどうだろう? そしてそれらが世界にどう関わってくるのか? エルダースクロールズでのファンタジーとはそういうものになっています。

『フォールアウト4』でミスったと思っていること

――『フォールアウト3』のVault 101からメガトンまでのオープニングは最高でした。マップの中央あたりから始まって、どこにでも行ける放浪の感覚がありながら、気がつくとメガトンに着いていた。ニューベガスはObsidianらしくちょっと違っていて、デスクローがいる砂漠地帯とかを避けてミッションをやりつつ大体はぐるっと迂回していくような作りになっていた。『フォールアウト4』は北の端から始まり、南へわりと直線的に進みます。この設計の理由について教えてください。

エミル
 その視点は面白いですね! まずはボストンということがあると思います。南東にある市中心部に向かって旅していく形にして、ボストン到着が記憶に残るものにしたかったんです。独立戦争が始まったレキシントン・コンコードのあたりからボストンへ進んでいくという、歴史的な意味合いも込めてですね。

 でもですね、開発初期に犯したミスがひとつあると思っていて、自由博物館に行くとそこに生存者がいて、彼らが「サンクチュアリに連れてってよ」という感じなのでサンクチュアリに行ってサンクチュアリを建設しますよね。問題はそれがメインクエストではないということです。
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自由博物館で出会うプレストン・ガービー。悪い人じゃないんだよ、悪い人じゃ……。
エミル
 メインクエストはそこから進んでボストンを目指すことになっています。でも構造上、プレイヤーはそれ(サンクチュアリ整備を頑張る)をメインクエストだと思ってしまいます。だからゲームを始めてサンクチュアリに行って、ワークショップを頑張ったりしてからまた旅を続ける……という奇妙な回り道になっていて、序盤のリズムがちょっとおかしくなるんですよね。

 話を戻すと、マップを見て「なんでこんな上から始まるんだ?」と感じたんだと思いますが、それは本当に地理的な事情とボストンにどう到達してほしいかというのが理由です。そして地形を見てそこから“輝きの海”とかのあたりがキツそうなのとかを察したりしながら――実際難しいエリアなわけですが――通過するといったような体験をして欲しいとか、さまざまな意図の結果ですね。

“子から親への物語”と、“親から子への物語”

――『フォールアウト3』と『ギアーズ・オブ・ウォー』はどちらも子どもが父を探す物語でした。それが『フォールアウト4』の2015年前後になると『ゴッド・オブ・ウォー』とか『ラスト・オブ・アス』とか、親世代が子供を探したり守ったりするようになりましたね。一般的には「開発者たちが親になったから」と解釈されていますが、『フォールアウト』の場合は実際どうだったんでしょうか?

エミル
 それは本当に興味深い質問です。いくつかのことが起こっていたと思います。そのころトッド・ハワードと私はどちらも子を持つ父親になっていたので、それも間違いなく理由の一部でしょう。父親になることの個人的な体験、その上での私たちの親とのつながり、そういったものを探求したかったんです。

 そして当時、ゲームで臨場感のある表現が可能になってきて、ストーリーで感情の深い部分からつき動かせるようなことが可能になってきていました。トレンドとは呼びたくないですが、そういった技術革新による新たな機会を見出していたのも事実です。

 楽しいビデオゲームを作るというだけでなく、
いい本やドラマや映画ストーリーが可能なようなレベルで人を動かす物語を語りたかったんです。フィクションの世界には夫と妻とかパートナー関係とかのロマンティックな関係性の物語はたくさんあるので、ロマンティックではない意味のある関係性の物語にフォーカスしたかったんです。
エミル
 『フォールアウト4』ではそういった経緯があったんですが、『Starfield』を作るころには「次は誰を探すの? おばあちゃん?」みたいな感じになったので、それはやめようと(笑)。仲間や友達についての物語にしようということになったんです。

 それでも『Starfield』では“特徴”を選ぶという形で親の要素を入れましたが、それは“仕事中にでてきてちょっとうざい”といったような面白さのためのものですね。そのころには単に楽しむための要素になったというわけです。

――その点、ドラマ版はまたルーシーが子供として親を追う話になっていたり、グールも親子関係が関わっていたりするのは面白いですね。

エミル
 素晴らしいと思います。それらの家族の物語を並行して語っていくやり方はちょっと天才的ですね。グールとしてのクーパー・ハワードがいて、戦前のクーパーも登場する。彼の失われた娘との物語があり、そしてルーシーとの関係性もある。

 彼がどう思っているかはともかく、ルーシーにとってちょっと機能不全な父親的存在っぽくなっていくわけですよね。実際の父親が嫌なヤツというのが判明するなかで。それが物語を突き動かす原動力になっているのが面白い。

 でもそれだけではなく他の関係性にも焦点があてられていて、Vaultに残してきた友人たちとか、監督官と彼女の下で働く人々の関係とか、弟のノームとの関係がある。ポストアポカリプス(黙示録的)な世界のなかであらゆる種類の人間関係が見られます。とんでもなくひどい世界のなかでも、さまざまな愛の形がどう続いていくのかを。
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ルーシーの父であるハンク・マクレーン。Vault 33の監督官として尊敬できる父かと思ったら、シーズン2でも早速ヤバい人。演じるのは『ツイン・ピークス』のカイル・マクラクラン。

業界のトレンドに対する考え

――昨今では『バルダーズ・ゲート3』がクラシックなコンピューターRPGのスタイルをリバイバルさせたり、『Clair Obscur: Expedition 33』がターンベースの戦闘でヒットさせたりしています。一方でオープンワールドゲームは特に移動アクションを強化してもっとアクション化していく傾向があります。オープンワールドRPGのゲームデザイナーとしてこれらの傾向をどう見ていますか?

エミル
 本当に興味深いですね。実際、私はそれについてよく考えます。私自身がゲームファンなので、やれる限り片っ端から遊びます。『Clair Obscur』もやりましたし、『Arc Raiders』とかも遊んで、同時に『Kingdom Come: Deliverance 2』もやって、『Disco Elysium』に戻りました。

 これらは4つの非常に異なるRPGです(※)。そしてそれらすべてに居場所があると思います。そういったなかで『
The Elder Scrolls IV: Oblivion Remastered』が出たのは非常に興味深かったです。私たちはあるスタイルのゲームを作ってきましたから。(※一般的には『Arc Raiders』はRPGとは捉えられないが、ここでは恐らくRPG的な要素を指している)

 業界がある方向に進み始めると、開発者がトレンドに従うのを目にしますよね。過去6年ぐらいにどれだけソウルズライクなゲームをプレイできたか。でもそうするとほかのタイプのゲームが恋しくなってくるものですよね。そういった意味で、すべてのジャンルに居場所があると思います。
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『フォールアウト3』と同じくGamebryoエンジンを使った『TES IV: Oblivion』をリマスターした『The Elder Scrolls IV: Oblivion Remastered』。
エミル
 私たちのゲームは開発に何年もかかりますが、そのなかで巨大な一人称視点と三人称視点のアクションアドベンチャーが得意分野になってきました。そのなかにはすでに多くのアクション要素があると思いますし、アクションRPGとしてどういうバランスにするのが正しいか考えてきました。

 『Starfield』を見てみると、戦闘とかコアのRPG要素は好まれましたが、エルダースクロールズにあった探索を恋しがっていました。私たちのゲームでのその種の探索要素を持っているゲームはそう多くありません。

 
私は私たちのゲームを「AAA(超大作)のシミュレーションの最後の砦」と形容することがあります。単なるゲームではなく、人々が彼らのスケジュールで動いて、仕事に行ったり食事をしたり犯罪を犯したりといった、ライフシムゲームのようなシミュレーションをベースとしているからです。そういった世界でとても長い時間過ごすことができる。

 そういうゲームを作るところは今や多くありません。10年前と比べると減っています。だからこそ、私たちが作るゲームは一定のレベルで人々の心に響くと思います。まぁ、私たちは他の人がすでにやっているようなことはやりたくないんです。

 だから『Starfield』は“宇宙船を作っていろんなところを飛び回って行ける、スキルやセリフがあるRPG”というものになっています。AAA、特にコンソール(家庭用ゲーム機)ではこういったものはあまりありません。いつもちょっと違うものをやりたいという欲求も満たしながらそれをやれる、いいポジションを掴めていると思います。

――『Starfield』ではシューティング体験がすごくよくなって、スムーズかつ正確に撃てます。高度な技術を持つスペースSFの設定に合っています。一方で『フォールアウト』は崩壊した世界のジャンクな銃が特徴であり、なので改造やV.A.T.S.が必要なのは自然です。『フォールアウト』が『Starfield』の銃のシステムを取り入れることは可能だと思いますか?

エミル
 いまおっしゃったことにはふたつの異なる要素があると思います。まず『Starfield』の武器のスムーズさとゲームプレイ体験の話をしていますね。『Starfield』ではスムーズな銃戦闘がありえますが、『フォールアウト』ではそれぞれの武器に固有の(変な)クセがあるものです。

 私たちが『フォールアウト3』でV.A.T.S.を考えだした大きな理由は、ターミネーターのゲームについて先ほど触れましたけども、
それ以降のベセスダは剣と弓のゲームが主で銃の戦闘システムを持っていなかった。イチから作らなければいけなかったので、そこで用意したのがV.A.T.S.だったというわけです。フォールアウト3にはアイアンサイト(いわゆるADS。照準の覗き込み動作)すらないですからね。

 『フォールアウト4』では確実にシューティング要素そのものを改善しました。『
コール オブ デューティ』レベルとまでは言いませんが、シューターとしてプレイすることができます。

 そして『Starfield』ではV.A.T.S.がないので、本当に向上させないといけないとわかっていました。そういった経緯を踏まえて、『Starfield』の戦闘要素を取り込んだ『フォールアウト』を作るとしたら、それは素晴らしいものになると思います。
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V.A.T.S.は部位を指定して攻撃できるシステム。ちなみに『フォールアウト』1/2ではAimed Shotという部位攻撃システムがあり、V.A.T.S.はそれを原型に3Dリアルタイムのゲームに拡張したものとなっている。

好きなキャラはニック、場所はメガトン

――あなたが好きなキャラクターやロケーションはなんですか? 手掛けたなかで「これは自分の最高の仕事になったな」と思ったものは?

エミル
 『フォールアウト4』のニック・バレンタインが大好きですね。『Theif』シリーズで主人公ギャレットの声を演じたスティーブン・ラッセルがニックの声をやっているんですが、彼は素晴らしいです。ニックはあの作品のために最初に作ったNPCで、彼にはずっと特別な愛着がありますね。
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渋おじ人造人間探偵、ニック。
エミル
 お気に入りの場所は……難しいですね。でもメガトンが大好きです。メガトンは最初に作った街だし、とてもフォールアウト的です。あの街を壊すか否か、興味深い変で邪悪な男Mr.バークと組むか……ボタンを押して吹き飛ぶのを見るのかどうかという選択が印象に残っています。

 そしてボストン出身なので、フェンウェイ・パークにあるダイアモンドシティは特別です。フェンウェイ・パークそのものではありませんけども。ダウンタウンにフリーダムトレイルがあるのとかも好きです。でもやっぱりメガトンですかね。フォールアウトらしいので。

――日本ではメガトンまわりのクエストには制限があったので、海外版を入手したりしたのもいい思い出です。
エミル
 ああ、昔そういったさまざまな問題に対処しなければいけなかったのを覚えています。ははは、あなたは迂回するチートを見つけたんですね。
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『フォールアウト3』でVault 101を出て最初に訪れるだろう町、メガトン。不発核爆弾を中心に発達したヤバい所。
――さて今週『フォールアウト』ドラマ版のシーズン2が始まり、日本ではコラボカフェもスタートしています。私もあなたも17年前には想像もしていなかった事態だと思います。

エミル
 ええ、まったく想像もしなかったですね。『フォールアウト』が日本でプレイされていてたくさんのファンがいるということは本当に驚きで素晴らしいことです。

 なのですべての日本のファンの皆さんに感謝したいですね。このシリーズをサポートしてくれて、ここまで連れてきてくれて本当にありがとうございます。店に入ったらVault Boyのぬいぐるみが売られてるとか、自分が関わったものがドラマに出ているのを見るなんて、完全にまったく思ってもみませんでした。奇妙な気分です。私はあまり深く考えないようにしています。

 ありがたいなぁと思っているのは、私は別に権利を持っていないし、ベセスダの従業員として作ってきましたが、それがひとを楽しませているということです。今やAmazonがドラマを作っていて、そこに自分が貢献できていて、それが将来的にも楽しまれていく。私抜きでも続いていくだろうものの一部として重要な局面を担えたことは、本当にかけがえのないことです。
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おまけ写真。ベセスダのローンチパーティーはセレブが集まり豪華なヘッドライナーが登場するのが特徴。『フォールアウト3』ではなんとフー・ファイターズが演奏したのだ。

アンジェラ・ブラウダー(プロデューサー)

――ドラマ版の成功がもたらした影響について教えてください。第三者データベースなどを見ると、シーズン1に合わせて『フォールアウト76』が過去最高のアクセスを記録したり、『フォールアウト4』も大きな伸びを見せたようですが、実際どうだったんでしょうか?

アンジェラ
 素晴らしかったですね。でも最初は予想外でした。シーズン1がスタートした時、期待したり夢を抱いたりはできましたけど、ドラマ版が新しいマーケットを開拓してエンターテインメントのメインストリームに躍り出るというのは未体験の領域でした。

 シーズン1でそれを学んだので、今回はシーズン2に備えた準備もできました。『
フォールアウトシェルター』をアップデートしたばかりなんですが、ファンを驚かせられたようです。

 旧作でもドラマ版のおかげで復活して新しい命を得たりするのを見るのは素晴らしいです。もちろんそれはドラマ版のクオリティーが高いだけでなく、フォールアウトというIPに忠実に作っていただいたからだと信じています。幸運なことです。ドラマ版でやってきた人々がゲームのために留まってくれた。ありがたいことですね。
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『フォールアウトシェルター』ではドラマ版に合わせたアップデートでシーズン制第1弾となる“ビバ・ニューベガス”がスタートした。
――ドラマ版の成功で開発がやりたかったことを前進させやすくなったりしましたか? それともプレッシャーが増したりしましたか?

アンジェラ
 ドラマ版の成功は、ほかのやってきたことすべての上にくっついてきたボーナスに過ぎません。Bethesda Game Studiosとしての計画はありますが、私たちが何者であり、どのようにゲームを作るのかというプランに忠実であり続けています。

 なので私たちの観点からすると、ドラマ版の成功は端的に“今やもっとファンがいる”ということに集約できます。そこにたくさんのフォールアウトコンテンツを出せているので、非常にラッキーと言えます。『フォールアウト3』も『フォールアウト4』も遊べて、『フォールアウト76』も定期的にアップデートできていますし、『フォールアウトシェルター』もアップデートしたばかりです。

 遊べるゲームがこれだけあって、それを楽しんでいただけているようですので、あわててやり方を変えるというようなことはしたくありません。自分たちを見失わないようにしたいんです。

フォールアウトとは“最悪な世界で描く希望の物語”

――あなたはシリーズに『フォールアウト3』から関わっているわけですが、当時はどんな感じに始まったのでしょうか? エミル・パグリアルーロさんの話も聞いたので、ぜひあなたの視点の話も聞いてみたいんです。

アンジェラ
 私の事情はかなり異なりますね。当時はアート部門担当の下の方のプロデューサーに過ぎませんでしたから。まだ前線に放り込まれたひとりという感じで、多くのことは私のはるか頭上で起こっていましたが、ひとりの開発スタッフとしては興奮しかありませんでしたね。

 チームにとってまったく新しいことをする機会を得られたんです。『フォールアウト』の権利を取った時、チームの多くの人はすでに『フォールアウト』1と2をプレイして愛していましたし、それまでプレイしていなかった人も遊びました。

 でもそれだけでなく、“愛されている作品に自分たちなりのひねりをかけて新しい世代に持ち込む”という機会が得られた興奮がありました。新しいことをやっている、試している、こういうゲームプレイのメカニクスを追加しよう、そういうことのすべてです。

 
会議がいつも、興奮と無数のアイデアと可能性でいっぱいだったことを覚えています。だからその時を振り返ると、とてもクリエイティブで本当に楽しかった記憶ですね。

――あなたの観点から、『フォールアウト』を特別なものにしているコアの柱ってなんでしょう? 単に「エルダースクロールズのポストアポカリプス版」ということではないと思うのですが。

アンジェラ
 私が思うに『フォールアウト』の核は、荒涼とした世界に一定のユーモアを加えるようなやり方で希望を与えてくれることだと思います。私たち全員、なにかがおかしくなったらどうなってしまうんだろうと密かに考えますよね?

 『フォールアウト』をプレイすると、最悪の時、たとえ核戦争後の荒野を歩いている時でさえも人生にはまだ楽しく享受できるものがあるのだと安心させてくれると思います。
『フォールアウト』のユーモアと黙示録的な世界とともに歩んでいくさまは、希望についての奇妙な物語だと思うんです。

 それに対してエルダースクロールズはどうなのかということですけども、エルダースクロールズは(自分たちとの)自然な類似性を見出すのが少し難しいですよね。みんなドラゴンと戦ったり魔法使いになったりしたいけど、そうなることは恐らくありません。

 でも私たちはどこかで物事がおかしくなったらフォールアウトになり得ると感じている。現実の生活と並行する類似点を見いだせるかどうかが違いだと思います。でも私たちはそれを希望を与えるような方法で行います。もしそこに至ってしまったとしても、私たちはまだ大丈夫なんだと。
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脳天気なレベルで超絶ポジティブなドラマ版のルーシー。彼女も希望の象徴と言えるかも。

トッド・ハワードは今でもあらゆることに関わっている

――過去にはニューベガスなどもありましたが、ほかのスタジオからのスピンオフの提案にはオープンなんでしょうか? もしそうだとしたらゴーサインを出す条件は?

アンジェラ
 それはトッド・ハワードだけが判断できることのひとつですね。彼は御存知のとおり、私たちがやることすべてに関わっているクリエイティブの天才です。私たちがどこに行くか、フォールアウトで何をするかはすべて彼の頭から来ています。

 ですから、フォールアウトの世界で展開されるストーリーやロア(世界設定や作品世界の歴史)の何がカノン(正史)となるのか、そのすべてを決定づける中心人物は今後もトッド・ハワードであり続けるということです。

――今でもあらゆることに関わっているとなるとめちゃくちゃ忙しいのでは? プロデューサーとして開発作業に引き戻すのは大変なんじゃないですか?

アンジェラ
 ははは、彼は常に顔を出してますね。彼と働いて20年になりますが、その間にさまざまなことが変わったものの、彼は今でもゲーム開発にすごく関わっています。芯からゲームメーカーなんですよ。Bethesda Game Studiosで私たちが手掛けるすべての製品で大きな役割を果たしています。

――「War Never Changes」(※)だしトッド・ハワードも変わらないと。
アンジェラ
 ええ、私たちはみんな少しずつ年を取っただけです。それだけです(笑)。

※シリーズの象徴的なイントロのセリフ「人は過ちを繰り返す」の原文。直訳は「戦争はけして変わらない」

――『The Elder Scrolls IV: Oblivion Remastered』はゲームの仕組みをGamebryoエンジンで動かしてグラフィックはUnreal Engine 5で動かすという方式でした。同じGamebryoを使っている『フォールアウト3』で技術的に同じことが可能か聞いてみたいのですが。

アンジェラ
 これはイエスかノーで(『フォールアウト3』リマスターの可能性を)答えさせるトリックのように感じます(笑)。技術的には十分頑張ればなんでも可能ですから。技術的にはね。

プロデューサーとして「コレで行ける」と感じる時

――プロデューサーとして開発していて、「コレで行ける」と思うのはどんな時ですか? オープンワールドゲームは非常に大きなシステムで幅広いコンテンツを動かすものなので、確信を得るのは難しいのではと思うのですが。

アンジェラ
 世界中のすべての開発者が開発のかなりの部分を、「これは誰もが作った中で最悪のゲームで、発売したらすぐに失敗する」と思いながら過ごしているんじゃないかと思います。まぁそれがクリエイティブ作品の性ですよね。

 でも間違いなく「ああ、これは何かあるな」と思う瞬間もあります。部屋を見回して人々がなにかに反応する様子を見て、そういう手応えを感じるんです。

 『フォールアウト3』でBloody Mess(倒した敵が爆発して飛び散るようになるPerk)を作って入れてみた時のことを覚えています。部屋にいる人が全員爆笑していたんです。あちこちで脳が飛び散っていて、みんながただ笑い転げている。それを見回した時に「これは何かあるな」と感じるでしょう。

 V.A.T.S.の時もそうです。みんながプレイしているのを見て「あ、これは何かあるかも」と。現実的にいきなりすべてが変わるというよりも、毎日の中にそういった一瞬の小さな輝きだけがあって、「これは行けるかも」、「成功するかも」、「プレイヤーに刺さるものになるかも」となっていく。
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まぁこういうやり過ぎ感な所も楽しいんですよね。
アンジェラ
 トッドには「偉大なゲームはプレイしていってこそ生まれるものであって、ただ作ったらそうなるものではない」(Great games are played, not made)というモットーがあります。これは本当にベセスダでの私たちのやり方です。なぜなら本当にそういうものだからです。部屋に座ってプレイしていて突然「これだ、これはうまく行く」、「この部分は行けるな」と感じる時が来る。

 さまざまな部分を集めて全体が成功するように懸命に働くわけですけども、単にずっと「きっとすべてが成功する」と盲信して進んでいたら、それはしばしば間違った方向に行くことがあると思います。

 「ここは惹きつけるものがある、プレイヤーが楽しんでくれるんじゃないか」、「こういうタイプのプレイヤーは好むだろう」とか具体的に言えなければなりません。自分たちのゲームをプレイしていると、そういう具体的な実感が得られる瞬間があります。

巨大化するゲーム開発、変化する市場の中で、どうアイデンティティを維持するか

――プロデューサーとして最新技術や真実味のあるグラフィックの追求へのプレッシャーもあるでしょうが、一方で『フォールアウト』のいいところはちょっとジャンクに感じられる部分だったりもします。どうやってその雰囲気と技術的進歩のバランスを取っていますか?

アンジェラ
 そうですね、プレイヤーに「ノー」と言わないよう心がけているということに尽きると思います。ある特定の限られた状況下でのみ起こるバグとかを避けるためにプレイヤーに「ノー」と言い始めると、そのためにプレイヤーの創造性を削っているんです。なので私たちがやることすべてにおいて、どうやって「ノー」と言わないでやっていけるかを常に話しています。

 一方で超高解像度のグラフィックとかは、一種のアートスタジオとしてそれを実現できるよう日々努力しています。美しいアートを作り出したいですから。テクスチャーとかも高解像度なもので出したい。私たちのアーティストは自分たちの仕事に誇りを持っています。

 でも時が経つに連れてプレイヤーが求めるものも変わっていくなかで、私たちがスタジオとして目指すものと、プレイヤーが期待するもののバランスを取っていかなくてはなりません。それが私たちのものも含めたゲームの多くが切り替えのオプションを持つようになってきている理由です。

 パフォーマンスモードとグラフィック優先のモードとか、私たちにとっては大事なものですが遠景の木の描写を気にしないならLOD(描画密度)を下げられるとか。市場の好みを知っていて、それに合わせる能力も持ちつつ、自分たちがなんであるかに忠実でいたいんです。

 そういったなかで、プレイヤーに「ノー」と言わないようにするには懸命に努力しなければなりません。しばしばそれはネガティブに見られることもあります。こういったことに忠実であるためには犠牲にしなければならないものもありますから。

 プレイヤーに決して「ノー」と言わないことに忠実であり続けるか、それとも最もバグのない美しく敷かれたレール上を走るようなゲームを目指すのか? 難しい線引きだと思います。そして常に変化していると思います。

――あなたのキャリアを通じてオープンワールドゲーム開発はとんでもなく大きくなってきたわけですが、どうやってフランチャイズやスタジオのDNAを失わないように巨大なチームと長い開発サイクルを管理していますか? 誰もまだ正解を知らない問題かもしれませんが。

アンジェラ
 ええ、決して解決したフリをしたくない難しい問題です。いくつかの事が関わっていると思います。

 ひとつには、何十年もここで働いている人がたくさんいるということです。私はベセスダに20年いますし、私のチームメンバーのひとりは35年ここにいます。なのでコアとなるグループは本当に長いあいだ一緒に働いてきていて、DNAがまだここにあります。

 一方でBethesda Game Studiosのゲームで育った若い開発者たちのまったく新しいグループもいます。彼らは私たちを変えようというのではなく、ベセスダのゲームづくりの一部になろうとしてやってきている。

 だから私たちが成長するに連れて、この種の仕事に情熱がある人を雇うよう、採用を注意深くやるようにしています。私たちのゲームで育ってきた彼らはすでにDNAを持っているわけですが、
『メン・イン・ブラック』でエージェントJが言ったようにそこに「新しくてイケてる」要素(New Hotness)を持ち込んでくれる。

 なので、
そういったことの組み合わせでなんとかやっているという所です。長期間の開発サイクルは誰にとっても大変なものですが、まぁそういうものです。私たちが何者でありなにをしているのかの一部なんです。私たちは時間がかかるゲームを作りますから。

 本当に長い間一緒に働いてきたチームがいることのボーナスとして、私たちは長い開発サイクルをやっていく方法を知っています。それが私たちが私たちであり続けられるよう助けていると思います。

フォールアウトのイッちゃってるロケーションの作り方

――『フォールアウト』の環境ストーリーテリングが好きです。骸骨とアイテムの配置だけでストーリーを語っちゃうような。でもああいうクリエイティブなノリって、開発が巨大化すると難しいんじゃないでしょうか。ジョークをシステマチックに作るわけにもいかないでしょうし。どうやってるんですか?

アンジェラ
 私たちの環境ストーリーテリングについてはとても誇りに思っています。あれ(恐らく『フォールアウト3』)は私たちのスタジオのふたりのアーティストがやったことなんですよ。

 どうやっているかというと、“クラッターパス”(小物を配置する工程)というのをやっていて、
アーティストがモノを散らかして置くことでストーリーを語るという作業があるんです。

 でも「骸骨を置いてストーリーを作ってね」と指定するわけじゃないんです。フォールアウトとはこういうもので、ユーモアのテイストはこうで、こういうのが目指しているところだという枠組みを共有できたら、あとはクリエイティブにやってくれるよう任せます。そしてその担当たちがそれを真剣に受け止めてやってくれた。チームが巨大になった今でも続けられているのは、この工程を開発プロセスの一部として組み込んでいるからですね。
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既存オブジェクトを組み合わせてストーリーを感じさせるのがベセスダ芸。
アンジェラ
 そして私たちはアーティストを制限したり強制したりしません。もちろん、誰かがクレイジーにやりすぎないようダブルチェックはしますが、基本的には「ここが担当の区画です、小物でアーティスティックに表現してください」という感じです。その空間を担当するゲームデザイン側のチームと連携してやっていくので、その場所にあったものを作ることができます。

 彼らはこの作業が大好きなんですよ。アーティスト側から自分たちで物語を語れる手段のひとつですからね。なのでネットの反応を見て興奮して「もっとやろう」となっています。なので、ゲームやチームが大きくなってもそれを続けられているのは、それをプロセスの一部にしているからなんです。

――じゃあ朝の会議で「あなたは今日は5つジョークコンテンツを作ってください」とか伝えられるわけじゃないんですね。

アンジェラ
 ははは、もちろん! ジョークを強制したらどんなひどいことになるかはみんなわかってますから。

 プロデュース側でどうやっているかというと、区画のリストをそこの担当ゲームデザイナーとアーティストに渡して、「担当ゲームデザイナーとココでどんなストーリーをやるか話して、あとはクリエイティブにやってください」と伝えるんです。そうすると、ときどき面白いものや誰も思いつかなかったようなネタが出てくるという感じですね。

――せっかくロケーションの作り方の話が出たので、ひとつのロケーションをゲームデザイナーとアーティストがどうやって作っていくのか教えてください。

アンジェラ
 それは作る場所の性質によって変わってきますね。たとえばクエスト用のロケーションだと、シンプルなダンジョン用とかPOI(ちょっとした目印になる程度の場所)とはプロセスが異なるわけです。

 POIだと通常はアーティストに自由にやらせますね。彼らがそこを使って好きなことをやります。シンプルなダンジョン用ロケーションだと、まずレベルデザイナーがレイアウトします。それができたらアーティストが入って、スペースの内容を固めるために一緒に作業し、そこに必要な素材などがでてきたらそれを作る。そしてライティングとか先ほどのクラッターパスとかをやっていきます。

 クエスト用の場所はそれらと異なります。まずはクエストデザイナーがそこで何をしたいかを書き上げることから始まります。そこから街のような場所の場合は街担当のアーティストと組んで組み上げていき、ダンジョン型だとレベルデザイナーがレイアウトをやる。それぞれの工程が終わったらアーティストがチームに入るという形ですね。

 クエスト用の場所の制作はそのように非常に協力的にやっていきます。すべての部分が一体となってストーリーを語る必要があるからです。3人チームのこともあれば、大きな街だとかなり大きなチームになったりもします。『フォールアウト3』のテンペニータワーのような場所をふたりで担当したりはしません。

 このように、作業の流れ自体は場所によりけりという形ですが、アーティストとデザイナー陣のあいだで本当に協力的に作っていきます。
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『フォールアウト3』のピットのカッコいい像。
――ところで、あなたが『フォールアウト』で好きなロケーションはどこですか? 僕はやっぱりメガトンが忘れられないんですが。

アンジェラ
 私の子供を選ばせるようなことをさせないでください(笑)。そうですね、正直に言うと私にとってはトランキル・レーンですかね。あそこに関われたのは本当に楽しかったんです。ちょっとほかとは異なるタイプのクエストで、仕掛けもほかとは全然違っていて。“綺麗な”世界にガラッと変えたり。

 なので選ばなければならないとしたらトランキル・レーンですね。次点がテンペニータワー。あれも楽しかったので。

――Vault Boyの絵文字とかアニメーションGIFとかを使ってTwitter(X)とかに投稿できる『Fallout C.H.A.T.』アプリが好きだったんです。ちょっと早すぎた気もしますけど、ああいった非ゲームのものをまたやる可能性は?

アンジェラ
 正直に言うと『Fallout C.H.A.T.』のことは完璧に忘れてました(苦笑)。私は『Fallout Pip-Boy』のプロデューサーとしてあの製品に結構な時間を費やしましたから、好きだったし、もしあれを戻せたら嬉しいですね。

 でもすべてにおいてそうですが、トッドがよく言うように私たちはなんでもできるけどすべてをやることはできないので、なにをするか集中しなければなりません。
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『Fallout Pip-Boy』は、『フォールアウト4』ゲーム内のPip-boyと連動するスマートフォン用アプリ(残念ながら日本語非対応&すでに配信停止)。『フォールアウト4』Pip-Boyエディション付属のレプリカと組み合わせることでシンクロ感を高められた。
――『フォールアウト3』から15年以上が経ちました。ドラマ版が放送されて日本でフォールアウトカフェを楽しめるようになるなんて考えもしなかったんじゃないかと思います。

アンジェラ
 ええ、本当にクレイジーですよ。感謝してます。『フォールアウト3』でアソシエイトアートプロデューサーだったころ、こんなことになるとはまったく想像できませんでした。私たちの努力のみならず、ファンの皆さんが私たちと一緒にいてくれて、私たちのやってきた仕事を誇りに思い、周囲に広めてくれたおかげだと思います。

 ドラマ版についても「どうせゲーム原作だからひどいんだろ?」なんて片付けずに受け入れてくれたから、それがまったく新しい層につながるドアを開くことを許してくれました。いまや私の義母が私が何をやって食べているか知ってるんですよ。どうかしてますよね? それはドラマ版のおかげです。

 私がファンの皆さんに伝えたいのは、「本当にありがとうございます」ということです。皆さんが私たちとともにいて、私たちの作品をつねに向上させるよう応援してくれていなければ私たちの今日はありません。この道のりの一部になれたことに非常に感謝しています。クレイジーな時間でした。

 そしてこれからの未来にワクワクしています。次の10年間がどうなるのかほとんど想像できません。『フォールアウト』はとても大きくなって、もうちょっと理解が追いつかないレベルなので。

 ビデオゲームを作ることは本当に素晴らしいことです。でも多くの人が気にかけてくれるようなビデオゲームを作れるのは、もう言葉で表すのが難しいほどです。物事をやることはできますけど、誰も気にかけなかったらそれは虚空に叫んでいるも同然ですからね。だからその一部になれたのは私にとって素晴らしいんです。長年にわたって多くのファンにお会いし、たくさんのイベントを共有できて幸運でした。カッコ悪いかもしれませんが、本当に感謝しているんです。

 正直に、日本に行ってカフェを見たいと思ってます。すごく最高なことですからね。「仕事として現地に行かなきゃ」と言って誰かを説得できるか試してみましょう!
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