『Ultima Underworld』、『System Shock』、『Thief』……。
アメリカのテキサス州ダラスで行われた、id Softwareのファンイベント“QuakeCon 2012”。その開催中には、id Softwareや同グループに属するベセスダ・ソフトワークスのクリエイターたちが登場する各種講演も行われた。
あなたはLooking Glass Studiosをご存知だろうか? 『Ultima Underworld』や『System Shock』、『Thief』といった、さまざまなゲームプレイ要素が複雑に絡み合い、いまでも名作として語られるタイトル群を開発した伝説的なスタジオだ。その偉大な遺伝子は数多くのタイトルに影響を与えている。QuakeConでは、同スタジオに在籍していたクリエイターが集まってスタジオを振り返る“Looking Back at Looking Glass Studios”という講演が行われた。
『エルダースクロールズ』シリーズ、『Fallout』シリーズなどの脚本を手掛けているライター。
『Thief』のAIプログラミングなどで知られるプログラマー。
『System Shock』のゲームデザイナーのひとりであり、『Deus Ex』のセリフも書いている。現在はフリーランスのライターであり、小説家。
『Dishonored(ディスオナード)』の共同クリエイティブディレクター。
司会を務めたのはハーベイ・スミス氏。同氏は、スタジオがあったマサチューセッツ州にあるMITからの影響を、その独特な文化、技術とデザイン面の進歩性の源泉に挙げる。事実として、その偉大な遺伝子は現在も数多くのタイトルに影響を与えている。
たとえば『バイオショック』のIrrational Gamesを率いるケン・レビン氏は、ゲーム業界でも数少ない卓越したビジョンを持っていることで知られるが、彼もまたLooking Glassの卒業生だ。ほかにも、Junction Pointを率いて昨今は『Epic Mickey』などを手掛けたウォーレン・スペクター氏(Looking Glassの閉鎖後、多くのスタッフを引き連れて、大傑作『Deus Ex』を生んでいる)、Tyger Style Gamesを設立してスマートフォンゲーム『Waking Mars』を世に出したランディ・スミス氏ら、ゲーム業界の有名人には事欠かない。トム・レオナルド氏いわく、音楽ゲーム『Rock Band』を生んだHarmonixすら、元Looking Glassのスタッフが多く在籍しているという。
では、短い活動期間にどうやって幾つもの優れたゲームを出せたのか? トム・レオナルド氏は長時間労働と社員の情熱の賜物だと語る。そしてスタッフのクリエイティビティについて、エミル・パグリアルーロ氏とハーベイ・スミス氏は“脅威を感じるほど”だったという。ちなみにハーベイ・スミス氏は面接に行った際に部屋の鍵が閉まっており、とあるゲームに出てくる番号を入力してみたら見事に正解だったというエピソードも披露した。
お次は『System Shock』や『Thief』といったゲームに見られる、ストーリーやセリフの面での巧みさについて。ハーベイ・スミス氏は、単にセリフや文章を読ませるのではなく、雰囲気などもうまく使って、言外に感情や世界の空気感を伝えているのが素晴らしかったという。こういった手法が取られていることで、「世界がいきいきとしていて、キャラクターが本当にしゃべっているように感じられる」(パグリアルーロ氏)ようになるのだ。パグリアルーロ氏はこの経験から、ついつい書き過ぎないように注意しているとのこと。
またエミル・パグリアルーロ氏は、プレイヤーに「自分はこの世界のキャラクター」と思わせることを学んだという。オースティン・グロスマン氏は、そのようにゲーム体験を自分のものとできるゲームは何年も記憶されると語っていた。ハーベイ・スミス氏も『Dishonored(ディスオナード)』で、多様なプレイの可能性を用意し、AIによって違いを出していくことで、プレイヤーによって異なる体験、それぞれが持つ小さなストーリーを生み出すようにしていることを明かした。
ゲームの質にはかなりこだわっていたようで、トム・レオナルド氏がある日AIの根本的な作り直しを宣言した際も、上司が信用して承認してくれたという。同氏は「正しいことをやるための勇気」があったと振り返る。ハーベイ・スミス氏も、リードテスターを務めていた『System Shock』で、ある箇所の音がおかしいことに気が付き、大きな問題ではなく、出荷が近づいていたものの、スタジオの哲学に沿って修正を進言したそう。
最後に「Looking Glassのタイトルから1本新作を作るとしたら」という質問に、トム・レオナルド氏は『Thief』、オースティン・グロスマン氏は『System Shock』、エミル・パグリアルーロ氏は『Terra Nova』、ハーベイ・スミス氏は「『System Shock』の前日譚を作りたい」とそれぞれの望みを明かし、講演を締めくくった。